(講談社文芸文庫)割と淡々とした文章に比し、特に自然描写の濃厚さが際立っている。「向う側」における南国のじっとりとした感じ、「蛇のいた場所」における、自然の持つ動物的な存在感は顕著。内省的な、内へ内へと沈潜していくような心理描写は、じわじわと読み手の心にしみてくる。「示現」はオーストラリアを舞台にしているからか、その広々とした大地を思わせる乾いた香りがあり、ラストのエピソードが、さわやかでかつ物悲しげな良い味をかもし出している。日常(に見えるもの)を描きながら、そこにしのびこむかすかなズレ、というものを浮かび上がらせる作風と言えようか。(2005年3月14日)