「アッシュベイビー」に続く作品として期待が大きすぎたせいか、退屈で凡庸な作品に思える。ストーリーがないことはないが、これといって盛り上がるものでもなく、若い女性の、世間一般とはややずれた、しかし女性特有の感性を縷々描いたものである。狂気とか、精神の不安定な状態を描く際に文章自体を混乱させる手法は、村上龍以来のはやりかもしれないが、大した効果はなく、読者にとっては読みにくい。そのような姑息な手段を用いることなく狂気を描出することに心を砕いてほしい。芥川の「歯車」のように。言葉の使い方に雑な部分も見受けられる。この作家の新作を早く出せば売れるという出版社側の事情が、編集者の新進作家への態度を甘くさせ、そのことが長期的に見れば新進作家をだめにすることにつながる危険性を指摘したい。(2005年9月12日)
芥川賞受賞作の「蛇にピアス」が、きちんとした小説を構築することに意を配り、整然としてはいるが文学的なインパクトはそれほどでもなかったように思われるのに対し、本作は、そのような桎梏から解き放たれ、スコーンと突き抜けたように自由闊達な語り口を採用している。そのことが全体の整然さや完成度を損ねている要素もないことはないものの、はるかに文学的な面白さとして凌駕している。ストーリーの動的な面白さ、登場人物たちの常軌を逸した行動、主人公の心理と狂気の描き方など、読者をひきつける。太宰治、ブコウスキー、セリーヌを想起させる。山田詠美、村上龍の影響も感じるが、それらより面白い。テーマは、恋愛と、それによって際立たされる孤独と狂気。(2004年5月5日)