宮部みゆき

火車

人格設定、ストーリー展開などすべてが緻密に構成されており、飽きさせない。主人公の家庭環境などもありきたりのものでなく工夫されている。(1997年6月3日)

理由

ドキュメントのスタイルをとったサスペンスの手法は、成功しているだろう。村上春樹の『アンダーグラウンド』の文体を小説に用いた感じだ。冒頭に大きな謎が呈示され、混迷の度を深めながらも謎解きに向かっていく展開はスリリングで、大いに引き込まれる。また、事件にかかわった、もとは何のつながりも持たない何人かの人々について、家族構成や仕事はもとより、生い立ち、考え方、までをたんねんに描くことにより、存在感を際立たせている。多面的な視点から語られるエピソードの集積は、人間の生や営みを描き出すようで、圧巻である。エンターテイメントとしても、それ以上のものとしても傑作と言えるだろう。作者の筆力、力量を感じさせる。(1998年7月23日)

模倣犯

(上)「第1部」は立場のまるっきり異なる4人の視点から物語が語られる。被害者の家族、刑事、第一発見者、ルポライター。それぞれのバックボーンが懇切丁寧に描きこまれる。「第2部」は視点が裏返り、犯人と目される二人(一人はそうではないが)の生い立ちから事件に至るまでが描かれる。全体を通じて、主要登場人物のみならず、端役の人間までについて、生い立ち、置かれた環境、思考の内容がこれ以上はないほどに詳細に書かれている。手をゆるめるということを知らない、驚くべきパワーと真摯さがある。謎解きの要素から面白く読めるが、あまりに長いので、作者のパワーについていけないと感じるときがある。文章は、純文学のそれではない。全体の筆力にかすんではいるが、言葉の選び方にやや無頓着さを感じる箇所がある。(2001年9月25日)

(下)安定した筆力と緻密な構成力には脱帽だが、一場面一場面、一人物一人物をあまりにも丁寧に描いているため、ときとして疲れてしまい、作者に置いていかれた気分になる。「第2部」の末尾で一つの盛り上がりがあった後、この先何を書くべきことが残っているのかと思うが、「第3部」にはまた新たな展開がある。サスペンス小説として、次を期待させるための言辞が適時呈示されるが、そのような言辞のあとには場面が変わり、謎解きは当分の間おあずけになる。読者をはぐらかし、先を読み進めさせる手法だが、多用されているのは読者を疲れさせる一因だろう。真犯人にテレビ上で犯行を告白させる大団円はよく描けている。(2001年10月15日)

R.P.G

取調室という限定された場所において繰り広げられる心理劇を描こうとする意図はわかるものの、ストーリー展開の面白さをエンターテイメント小説の主眼とするならば、両者は両立しなかった。インターネットのチャットや携帯メールを取り上げた構成は新しいものに着目するのが早いこの作者ならではのもの。しかし、ネットにはまり込む理由を薄い家族の絆から生じた心の隙間であるとする登場人物の言辞はありきたりすぎ、それに対置する登場人物の言葉も併置されているものの、もっと突っ込んだ、深い心の闇を描いてほしかった。ラストでの犯人の心境の告白は三流サスペンスドラマのようであり、中本の読みも、空虚で説得力が乏しい。詩の引用も少しもはまっておらず、失敗作といわざるをえない。(2002年3月8日)

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