辻仁成

グラスウールの城

表題作「グラスウールの城」は短編小説の基本を押さえており、作者の力量を感じさせる。仕事や男女関係の行き詰まりと幻聴という暗喩とをうまく絡めている。流氷を見に行くラストシーンはやや物足りない結末のような気もするが。「ゴーストライター」は同様に人生の停滞した一局面を描いているが、あまり完成度の高いものとは言えない。「君」という二人称が用いられていることに必然性が感じられない。一人称小説であった方がすっきりする気がする。最終行の一文も安易に思われる。(1997年6月16日)

海峡の光

「文学」、「純文学」という言葉を想起させる荘重な小説に久しぶりに接した感がある(読んでいないだけかもしれない)。青函連絡船を降りた主人公、少年時代の花井との立場の逆転、塀の内側と外側――設定のすべてがうまく行っている。さらに特筆すべきは情景描写で、一個一個のシーンが絵画のように印象付けられる。中でも海のイルカのシーン、夜明け前の函館の街など。(2000年8月4日)

アンチノイズ

音にまつわるものとしての共通性はあるものの、多くの要素を詰め込みすぎて、滑り出しは順調に流れていかない気がするが、真ん中あたりから良くなる。誰もが誰かに盗聴をされているというイメージの提示から、小説に奥行きが出てくる。「17」章は、独立した短編としての完成度を持つ章だが、夜になると都会が海の中に水没するというイメージが、効果を上げている。フミの逢引きを尾行するところ、黒沢という得体の知れない男の登場、そしてフミが不可解な宗教に入り込んでいるのではないかという疑惑の出現により、小説の緊迫感が一気に高まる。映画「ポゼッション」を思わせる。全体としてみると、最高傑作ではないが、佳作、力作と思える。(2000年9月20日)



日本文学 作家別インデックスへ