Debate入門 (The First Steps to Debate in English)
―― 発信型英語教育をめざして ――
大阪教育大学教育学部附属高等学校池田校舎
教諭 樋口 正次
(E-mail) higuchim@cc.osaka-kyoiku.ac.jp
(Home Page) http://www.ikeda.osaka-kyoiku.ac.jp/~higuchim/
1. はじめに
Debateは楽しい。やってみるとけっこうできる。はっきりした意見を持ち、それを堂々と主張するのは快感でさえある。これこそ今まで日本人に最も欠けていたものである。国際化が叫ばれて久しいが、日本人が国際人として活躍するためには、相手の意見も聞きこちらの意見も主張するというDebateの基本を早く身につける必要がある。何も難しく考える必要はない。簡単なところからやり始めよう。これは比較的導入しやすいと思われるDebate授業の実践報告である。
2. Debateを取り入れるきっかけ
平成6年度よりOral Communicationの授業がスタートし、言語本来の音声によってCommunicateできる能力を養う教育が本格的にはじまった。本校のカリキュラムはOC(B)(Listening中心)であるが、2単位のうち1単位はカナダ人のALTとのTeam Teachingである。しかし、せっかくNative Speakerに週に1回来てもらうのだからというので、この授業はSpeaking中心で、実質的にOC(C)の授業のようになっている。
その中で始めは毎時間生徒を4人ずつSpeechをさせていたが、自分の書いてきた原稿を読んでるだけとか、暗記してきたものを思い出しながら話すという生徒が少なくないため、これではいけないと思うようになった。
阪神淡路大震災をきっかけに、あらゆる分野で危機管理の見直しを迫られる今、英語教育も例外ではなかろう。即興で臨機応変に英語が話せる事をめざすのが、これからの英語教育の急務であると思う。
それにはDebateが最適であると思い、後期からの授業で実施することにした。
3. Debateの具体的手順
a.Proposition(論題)の設定(私の授業ではTopicと呼んだ)
意見がほぼ半々に分かれるようなもの、生徒にとって身近なものを選ぶ。簡単な内容のものから徐々に難しいものへ発展させてゆく。授業では
1回目 Dogs are better than cats.
2回目 Students of our school should wear school uniforms. (ちなみに本校は私服)
3回目 Students should have to go to high school in their neighborhood. を実施した。
b.Affirmativeと Negativeに分ける。(授業ではProと Conと呼んだ)
各クラスには7、8人ずつ6班に分かれた生活班があるので、それを利用してPro班 Con班それぞれ3班ずつに分けた。各班の班長にどちら側になりたいかを聞いて、希望と反対の側に指定したりして,教師側で自由に決めた。Debateでの論陣は自分の主張に関係なく決まるものだということを、生徒に徹底しておかなければならない。
c.Brainstorming (意見の出し合い)
論陣が決まれば、各班で自分の班がどちらの側かに関係なく肯定側、否定側、両方の論拠を考えさせた。これは自分の側の論拠を整理するためであるのはもちろん相手側の論拠を予想し反論する時の準備でもある。論拠の数は多ければ多いほどよい。この時大切な事は、どの論拠にどれくらいの正当性があるかはあまり考えずに頭に浮かんだものをどんどん列挙させるということである。これがまさにBrainstormingである。
論拠がだいたい出そろえば、有力と思われる論拠を自分の班の人数分選び出す。誰がどの論拠を使うか、発言の順番はどうするか、相手側の予想される論拠に対する反論などをしっかり考えさせた。このあたりで1時間の授業である。
さて次はいよいよDebateである。
d.Debateの実際
Debateの形式にはいろいろあるが、授業で実施したのはもっとも基本的でわかりやすい形式にした。即ち,
1) Pro側の Constructive Speech (肯定側立論) (授業ではBuildと呼んだ)
2) Con側の Rebuttal Speech(否定側反論)(授業ではAttackと呼んだ)
3) Con側の Constructive Speech (否定側立論)
4) Pro側の Rebuttal Speech(肯定側反論)
を1単位として、これを各班の人数分だけ繰り返すのだ。
この時、1単位の中の4人はすべて違う人がやるということを確認させておく。だから発言の順番ははっきり決めておかなければならない。
Speechの時間は1回目はConstructive Speechが30秒、Rebuttal Speechが15秒、2回目はそれぞれ1分と30秒、3回目は2分と1分とした。30秒でも話してみると随分長く感じられる。2分間の立論では、前もって相当しっかりした準備をしておく必要がある。それでDebate Speechの基本を説明しておかなければならない。即ち、
1) Introduction (自分の論拠)
2) Body (論拠の理由付け。自分の身近な例が望ましい)
3) Conclusion (自分の論陣の主張と関連させて再度自分の論拠を強調する)
どの班からやるかは、各班の班長に前に出てこさせてペアを作らせ、ALTから英語でALT本人に関する問題を出してもらい、それに早く正解を出したペアを、勝ち抜けとし、最後に残ったペアの班からDebateをすることにした。4月当初のALTの自己紹介をよく覚えていたかどうかが分かれ目となった。一つのペアで1時間の授業になるので、すべての班が終わるには3週間かかることになる。
ふたつの班の論戦を聞きながら、残りの班の生徒には表1のような、Debate記録用紙に、各生徒の論拠まとめさせた。しっかり聞いてもらうためである。
e.Debateの評価
Debateが終われば、聞いていた班の生徒はどちらの側がよりPersuasiveであったかを判定しDebate記録用紙に班名を書き込ませた。また授業の最後に、手をあげさせてどちらの側が優勢だったかがクラス全体がわかるようにした。
教師側も、各生徒のSpeechにたいして5段階で評価した。表2はALTのつけた採点と各生徒の発言に関するメモである。各Speechをもっと細かく評価することも可能であるが、Debateをとにかくやってみるということに主眼を置いたので、大まかな評価とした。
4. Debateに関する留意点
否定側が気をつけなければならない事は、命題が必ずしも正しくない事を指摘すればいいのであって、命題の反対を立証する必要はないという事である。例えば1回目のDebateの時、否定側は「犬も猫もともに動物であってどちらがいいとは言えない。」と言えばいいのであって、猫のほうがいいことを立証する必要はないのである。この意味では肯定側のほうがはるかに難しいといえるかもしれない。なにしろ肯定側は命題が正しい事を立証しなければならないのだから。
5. おわりに
以上のように、
a. Propositionの提示、論陣分け、Brainstormingで1時間、
b. 実際のDebateで3時間、
合計4時間でひとつのPropositionについてのDebateが完結する。
さて、Debateをやってみて実感した事は、物の見方には両面があるということである。一つの命題に対してどちら側からもそれなりの理由をつけて発言する事は可能である。自分の本当の意見に関係なく論陣が決まる事で、それが一層はっきりと認識される。そして相手を説得するためにどのように言えばよいか、相手の意見に対してどのように反論すればいいかを考えるのはまさに知的ゲームである。英語圏の人たちの物の考え方、自分の意見の主張の仕方を追体験できたように感じた。これからもどんどんDebateの授業をやっていきたいと思う。
6. 参考文献
松本 茂 「頭を鍛えるDebate入門」(講談社、1996)
神保 尚武「Hello, there! Oral Communication C」(東京書籍、1995)
文部省「高等学校学習指導要領解説」(教育出版、1993)
石井 敏 & James R. Bowers「Speak out .Oral communication C」(桐原書店、1994)
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