たとえばカカシ先生と飲みに行って、粗品にタオルをもらったとする。
 青いのと黄色いの。
 するとさりげなく、オレの欲しい方の色をくれたり。
 居酒屋で注文品がくると、いくつも来る皿の中からその日食べたいなーと思って
 いたものをイルカの前に差し出したり。
 それで思った。
 ひょっとしたらこの人はオレ以上にオレの感情に敏感なのではないかと。

 「あ!!イルカ先生、こっち、こっち!」
 
 居酒屋ののれんをくぐると、カカシが手を上げて合図した。
 イルカも手を上げかけて、バッと下げた。
 カカシの背後に般若のような顔をした女が立っていた。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・またか?
 思ったとたんにそれは始まった。
 
 「ちょっと!カカシ!聞いてんの!?」
 
 女がキンキン声を張り上げても、カカシは眠そうな目をしたままだった。
 
 「ん−−−?」
 「カカシ!アタシはこんなんじゃ、別れるって言ってんの。アタシと食事するより、
  その中忍との約束を優先させるってどうゆうつもりよっ!?」
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり・・・。
 イルカは思わずため息をついた。
 女はそれを聞き逃さず、イルカをギンッと睨み付けた。
 カカシはそれを知ってか知らずか、のんびりとした声を出した。
 
 「べつにアンタと約束なんてしてないでショ?するつもりもなかったケド。
  俺最初っからイルカ先生と飲むつもりだったもん」
 「なっ・・・!?」
 
 女の顔が真っ赤になった。まるで赤鬼だった。
 きっと普通にしてれば皆が振り返るぐらいの美人だろうに。
 
 「恋人が一緒に食事しようって言うの断って、男と飲むってどういう神経なの?」
 「恋人・・・?誰が・・・?」
 
 カカシが平然と言い放ったとたん、女の平手が閃いた。
 バッチーン!!
 派手な平手打ちの音と、イルカの吐息が重なった。
 
 「も、もーお、アンタなんかと別れてやるー!!」
 
 頬を二三度撫でて、赤い痕を消しながら、カカシは悠然と微笑んだ。
 
 「最初っから、付き合ってもいないけどね」
 
 女はくしゃっと顔を歪めて、ドンとわざとイルカにぶつかって出て行った。
 店内全員でそれを見送る中、一人カカシは上機嫌でニコニコ笑っていた。
 
 「お待たせしました、イルカ先生。こちらへどうぞ」
 
 イルカは再びハアーとため息をついて、カカシの隣に腰をおろした。
 
 「カカシ先生、オレをだしにして女と別れるの、止めてもらえませんか」
 
 カカシは心外だというように、目を丸くした。
 
 「えーっ!?別にだしになんてしてませんよ。イルカ先生と飲みたいのは本当だし、
  アナタに逢いたいし」
 「・・・はあ、でもですね。女の人にあの言い方は・・・」
 
 注文を取りにきた店員に、ビールをと言ってお手拭を受け取った。
 
 「だってねー、だいたい向うから迫ってきたんですよ。何度も何度も。
  いい加減うんざりしてるとこに一度だけでもって言うから
 、これで離れてくれるかと思って寝たらそのとたん恋人面されてもねえ・・・」
 
 ・・・・・・・こいつ・・・最低だ・・・。
 時々この人と友達やってるのが嫌になる。
 女性に優しくをモットーにしているイルカには眩暈がしそうな言い草だ。
 しかもこれで5回目。
 イルカとカカシが下忍を通じて親しくなってから半年。その間でだ。
 ほぼひと月に一度の割合でこういう騒ぎを起こしていることになる。
 
  「あ、怒った?怒らないでよね、イルカ先生」
 
 イルカ自身が思うより早くイルカの気持ちを汲む。
 ああ、確かに怒ったようだ、と思った。それでいながらイルカはカカシとの
 付き合は止められない。
 つまり魅力のある人なんだろうなーと思う。
 
 「怒らないでね。だって、俺、イルカ先生のこと大好きなんだから」
 
 子供のように微笑まれ、イルカは結局この男を許してしまうのだと思った。
 
 「あーはいはい。判ってます」
 
 やってきた料理を店員から受け取った。
 
 「あー、信じてませんね。俺本当に、イルカ先生のこと好きなんですよ。
  アナタが俺と付き合ってくれるなら女を泣かせることなんかなくなります」
 
 口布を下ろした恐ろしいほど整った顔を真剣にしてカカシは言う。
 こういう顔を女性の前でしてくれればなあと思う。
 
 「ハイハイ。オレだって好きです」
 
 おざなりに答えて、目の前の料理にはしをつけた。
 カカシは本気なのになー、とブツブツ言いながらビールのグラスに口をつけた。
 そのカカシを横目で見やる。
 綺麗な顔してるな、と思う。
 これだけ整った顔をしていてその上、上忍。モテないわけがないのだ。
 だけど、女の扱いは最低。
 女性に優しく、をモットーにしているイルカはいい人ね、と言われ続けて
 彼女いない歴25年。
 世の中、不公平だ。
 そう思わずにはいられない。
 
 「もういいかげんちゃんとお付き合いをされてはいかがですか」
 「え!?」
 
 カカシはきょとんとした顔で見返してくる。
 ああもう物分りの悪い。
 
 「ですから、好きな人っていないんですか?
  そろそろ真面目に女性と結婚を意識したお付き合いを
  なさった方がいいと申し上げたんです」
 
 そうすればカカシの女に睨まれる事もなくなる。
 カカシははしをポロリと取り落とし、口をポカンと開けていた。
 
 「だいたいあれだけモテるんだから、相手なんてよりどりみどりでしょう?
  アナタに口説かれて落ちない女なんていませんよ」
 「・・・女ならね・・・」
 
 そう言ってカカシは立ち上がり、出ましょうと言った。
 え?え!?とイルカが慌ててるうちに、カカシはさっさと勘定を済ませて出て行った。
 イルカは急いで後を追う。
 勢いで言ってしまったが、随分ずけずけと踏み込んだことを言ってしまった。
 怒ったのかなあ。
 結婚なんて凄くプライベートなことだ。こんな個人的なことに中忍風情に
 突っ込まれて嬉しいはずはない。
 人気のない河原の道を歩くカカシに、イルカは走って追いついた。
 
 「あ、あの、すいません。カカシ先生。言い過ぎました」
 「怒ってませんよ。それについては」
 
 でもカカシの声はいつになくつんけんと尖っていた。
 やっぱり、怒ってる。
 すねた口調でカカシが呟いた。
 
 「アナタがさっき言ったこと本気で思ってると判るから悲しくなったんです」
 「・・・は?」
 
 意味が判らない。そんなの本気に決まってる。
 
 「あの・・・、何がおっしゃりたいのかよく・・・」
 
 急にカカシがイルカを振り向いた。
 また、真剣なあの目。
 
 「俺は言ったはずです。アナタが好きだと」
 
 ・・・。
 ・・・・・・・・・。
 
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
 
 目の前が冗談でなく暗くなっていた。一瞬意識を失っていたのかもしれない。
 
 「俺が好きなのはアナタです。アナタだって俺のこと好きだって言ってくれたよね」
 「え・・・?」
 
 気が付いたときにはカカシの端正な顔が焦点が合わないぐらいに近くにあった。
 唇には柔らかい感触。いつの間に口布を下ろしたんだ?
 呆然として動けない身体を力強い腕が抱きしめてきた。
 息が止まるかと思うほど激しく、そして優しかった。
 
 「アナタがちっとも本気にしてないのは判ってたけど、俺は本気なんですよ。
  あなたが好きだから、他の女たちに優しくしてやろうなんて気は起きないし、
  お付き合いもしません。結婚はアナタがしてくれるって言うんならしますが、
  それには木の葉の法律を変えないとダメなんで、今のトコ考えてません」
 
 カカシの言葉が脳に到達すると同時に、カカカーッと体温が上がった。
 カカシの腕の中でジタバタと暴れた。
 
 「ちょっ・・・ちょっと、カカシ先生!!オレ、男ですよ!アナタも男で・・・。って、
  離して下さいよー!こんなところでっ!!」
 
 頭に血が上ってクラクラする。カカシの腕をなんとか出ようとするが、
 さすが上忍、抜け出せない。
 カカシは益々強く抱きしめてくる。
 
 「カカシ先生ー!いい加減にしてください!!」
 
 カカシはぶーっと噴き出してから、笑い出した。
 
 「アナタ自分が何言ってるか判ってるの?それって俺の事好きって言ってるよ!」
 「んなこと言ってません!!」
 
 イルカは叫んだ。身体中の血液が沸騰寸前だ。
 イルカは混乱しすぎて何がなんだか判らない。
 カカシが自分のことを好きだって!?
 それでもって、イルカもカカシが好きだなんて・・・!
 
 「ねえ、イルカ先生。落ち着いて考えてみて。俺の事気持ち悪い?
  俺の事殴り倒したいと思ってる?顔も見たくない?」
 
 カカシの胸にギュウッと押し付けられた。
 トクトクトク・・・。
 カカシの心音が聞こえた。明らかに早い鼓動。
 ああ、この人は本気なんだ。
 イルカは初めてそう思った。ほんの少しだけ落ち着いた。
 カカシが気持ち悪い・・・?そんなことはない。腕が熱くて怖くはあるけど。
 殴り倒す・・・のは、絶対無理。
 顔も見たくないって・・・。そんなことになると多分、いやきっと寂しい。
 カカシの腕の中で微かに首を振った。
 
 「ほらね。他のヤローにこんなことされるとアナタ黙ってないでしょ?キスして、
  抱きしめても俺の事気持ち悪くないんでしょ?アナタも俺のこと好きなんですよ」
 「そ・・・そんなの・・・」
 
 イルカの声は情けないぐらい震えていた。
 
 「あ、今までの女のこと心配してるなら大丈夫ですよ。俺はアナタも知ってのとうり
 最低の男ですから。アトクサレのないようにしてます。
 安心して、俺のモトへ落ちてきてください」
 
 そういえばそうだった。カカシは女を使い捨てだ。
 そう思うと、泣きそうになった。
 自分が使い捨てにされない可能性もなきにしもあらずだ。
 こんなことを思うなんて、本当にカカシのことが好きだったのか?
 そして、思い出した。
 カカシはイルカの感情にイルカ以上に敏感だった。
 そのくせに、なんて鈍感。
 この猛烈に腹の底から湧いてくる感情だ。
 カカシの女たちにイルカが嫉妬しないとでも思っているのか。
 イルカは腕をそろそろ動かして、カカシの背にしがみ付いた。
 カカシが嬉しげに笑ったのが判った。
 それも、何となく負けを認めたようで腹が立つ。
 
 「アンタなんか、大っ嫌いです!!」
 
 口先でこんなこと言ったって、きっとカカシにはお見通しだろう。
 予想に違わず、カカシは喉の奥で嬉しげに笑った。
 
 「俺は大好きです」
 「嫌いです。オレは男なんですよ」
 「好きです。アナタが男か女かなんて関係ないです。アナタがイルカ先生なら
  俺は なんだって出来ちゃうよ。キスして舐め廻して触りまくって吸い付いて
  ぐちゃぐちゃにしてどろどろにして突っ込みまくっちゃうよ」
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんて、即物的な・・・。
 イルカはクラクラした。
 女に対する態度からそうだろうなとは思っていたが、これほどとは。
 
 「やっぱり、アンタなんか大嫌いだ・・・」
 
 カカシを喜ばせるだけだと判っていたが、言わずにはおれなかった。
 案の定カカシはニコニコしたままイルカを離さない。
 ・・・早まったかな・・・?
 イルカは本気で後悔しだした。
 知り合ってから半年、月の綺麗な秋の夜の事だった。


                                 終わり。



夏葉様より頂いた素敵小説・・・ 続きもあるんですよ〜
過敏なココロ
       
鈍感なキモチ