御御御付 後編

 

さて、イルカが出掛けた後。

「あ〜〜どうしよう。」

カカシは頭を抱えていた。 一口惚れして既に3ヶ月。
 
なのに恋人になるドコロか『好き』の意味すら気付いて貰えていない様子なのだ。
 
せめて甲斐性のある処を見せようと『食費』と称してお金を渡しているが、
 
本当にそれだけしか受け取って貰えない。
 
何か欲しいと強請られる事もなければ何かしてくれと頼まれた試しも無い。

日々の生活で呆れられる事はあっても尊敬された事は無いのだ。

・・・今更ながら出会った当初に言われた

『ナルトやサスケだってちゃんと一人で暮らしている』が突き刺さる。
 
自分がここ迄日常生活に不適合だとは知らなかった。
 
此れ迄の人生、只管にドタバタの戦場か上げ膳据え膳の暗部寮のみ。
 
僅かにあったアカデミー時代やスリーマンセル時代は、

幼かった事と四代目と同居だった事により世話人が居たのだ。
  


 はたけカカシ
   
 26歳にして初めて普通の『生活』の場に入ったのだった。
  

「兎に角掃除、しよう。」

これはスリーマンセル時代のDランクでやった記憶も(微かに)残っており、何とか出来る。
 
飛び散った油揚げや葱を集め、床を拭き。更に壁にも散った味噌汁を拭き・・・拭き
 
「と、とれないっっ」

既に染み込んだ茶色の液はしっかり壁紙に一体化していた。
 
カカシは前回の茹で卵と同じつもりで居たが、固体と液体の差は大きかったのだ。
 
塊はこそげ取れるが、液体は削れない。

「とっ取れない〜〜」

ガシガシ・・・必死で擦る。上忍の腕力で…力尽くで。

そして液体は削れなくとも染み付いた物は削れる訳で。

「あ・・・」

壁に、直径10p程のクレーターが出来上がっていた。

「どうしよ〜」

怒られる。絶対怒られるっ

うろうろ…何とか打開策を、と考えていたカカシはふと味噌汁を浴びて

汚れたまま置かれていたTシャツとズボンに気付いた。

「せめて洗濯位…」

しといたらあんまり怒られないかな

消極的発想だが、やらないよりマシである。

だが

「・・・コレどうやるんだ・・・?」

戦場では、洗濯してる間なんて余り無い。あっても手洗いだ。

そして暗部寮では専属のクリーニング屋が毎日洗い物を持って行ってくれた。

大体、血の染み込んだ服やサンダルは2度と使えない物が多い。

・・・つまり家電製品を扱った事が無かったのだ。

そしてこの処洗い物が増えた関係上、イルカはカカシから貰った食費を密かに

ヘソクリして先頃最新の全自動洗濯機を購入した処だった。

最新の家電。それはボタンだらけである。

そもそも家事用語の判らぬカカシに使いこなせる訳が、無い。
 
「手洗いしよう・・・」

無理に触って壊さないだけ懸命であった。

イルカが重度の汚れ物(主として返り血の付いた物)を洗う為に使っているタライに、

置いてあった洗剤を入れる。
 
水を注いで、洗濯物を放り込んで。
 
ざぶざぶざぶざぶ

「何でこんなに水、黒いんだ?」

・・・イルカのズボンはGパンで、新品だった。

そして着ていたTシャツは味噌汁染みが付いていたものの、白で。

二枚は一緒に洗われていた…

奇妙な斑柄のTシャツに、こんな模様だっただろうかと内心首を捻りながらも
 
敢えて気にしない事にして干しに行く。
 
居付いて結構たったのでイルカの洗濯物がどれか位見てわかる。
 
触って見るともう乾いている物が結構あって。

カカシは持って来た物を干すと代わりにそれらを取り入れた。

ゲシゲシと。籠に詰め込んで。

そしてそのまま部屋の隅に、置いておいた。


「うう・・・」

そろそろイルカが帰って来る。

壁の穴はそのままだ。それだけでは無く他にも何かやってしまった様な…
 
イヤな予感もしていたり、する。
 
でも『何』をやらかしたのか判らない。

「取り合えずお茶でも沸かして置こう。」

薬缶に水を入れ火に掛けて。

「あ、そうだ茶菓子!」

イルカの好きな菓子を買って置いたら少しは機嫌が良くなるかも知れない

カカシは財布を掴むと外へ駆け出した。

・・・薬缶の存在を忘れたまま。



 
「あ、イルカ先生お帰りなさい!怪我はどうですかっ」

思ったより時間の掛った買い物からカカシが戻ると部屋の真中で

イルカがへたり込んでいた。

「ど・どうしました!?そんなに怪我の具合悪かったんですかっ」

慌てるカカシに、イルカは温い笑みを見せるとおいでおいで、と手招きした。

訳の判らぬまま近付くカカシ。と

ガシッ

力強い腕がカカシを抱き締める。

「な・・・どうしたの?何かあった?イルカ先生・・・」

嬉しいながらも混乱するカカシに対し、ヒシとその身を抱き締めながら

内心イルカは滂沱の涙を流していた。

此処迄関ってしまったのだ。今更投げ出す事なんて出来ゃしない
 
俺が、この俺がこの人に『人並みの生活』の仕方を教えてやるんだ




抉れた壁。

皺くちゃの洗濯物

火事にこそならなかったものの煤けて黒くなった薬缶
 




それらに囲まれて、今更ながらの決意をするイルカだった。

だが彼はまだ、斑になったお気に入りのTシャツの存在を知らない…


  終