トップ・オブ・ザ・レッド

 

 不良不肖弟子大蛇丸との大喧嘩の後、青春ドラマのワンシーンのように
 地面に倒れ伏す三代目の周囲に、わらわらと忍たちが集まってきていた。

 少し遅れてカカシが着いたとき、三代目の姿は人垣のむこうにあった。

 すすり泣く忍たちの後ろから輪の中を覗き込んで、カカシはすぐに気がついた。

 なんだ、生きてるじゃないか。しかもたいして怪我もしてない。

 死んだふりなんかしやがって。このまま楽隠居と決め込むつもりだな。
 そうはさせるものか。

 ぎりぎりまでチャクラを消しているが、カカシにはわかった。
 自分もしょっちゅう使っている手だったからだ。

 アンタにはまだまだ働いてもらわないと、困るんだよ。

 敬老という気持ちなど欠片も持ち合わせていないカカシは
 手のひらにチャクラを集め出した。右手がうっすらと青く光っていく。

 心臓に一発雷切でもぶつけたら、いくら三代目とはいえ、
 死んだふりをし続けていることはできないだろう。

 傍から見たら、カカシの行為は心臓に電気ショックをかまして
 心肺蘇生をしただけに見える。不敬罪にはあたるまい。

 よし。

 チッチッと小さく音が鳴り始めたとき、三代目はカカシだけにわかるように
 モールス信号を送ってきた。

 イ・ル・カ・モ・フ・ク。

 イ・ル・カ。モ・フ・ク。

 イルカ?喪服?

 あっ!

 一瞬でカカシの右手から青い光が消えた。

 木の葉の里の喪服は先月くらいにイメージチェンジしたばかりだった。
 デザインは三代目が担当した。自他共に認めるスケベな男が作っただけあって、
 胸元が必要以上に大きく開いたなかなかセクシーなデザインだった。

 イルカ先生の喪服姿。

 胸元からちらりと覗く鎖骨を想像すると、カカシの胸は激しく高鳴った。

 ついでに腰のあたりもおかしな気配になる。

 イルカの体のことは写輪眼を使いまくって隅々までチェック済みだけれど、
 それはそれ。これはこれだ。そこはかとないチラリズムも捨てがたい。
 というかかなり萌える。

 イルカ先生に喪服を着せてみたい。そしてそれを脱がせるのはもちろん俺。

 カカシはうっとうめいて鼻を押さえた。興奮のあまり鼻血が出たのだ。
 股間もやばくて思わずしゃがみこむ。

「しっかりしろ!カカシ!めそめそするな!悲しみはみな同じだ。お前がそんなことでどうする」

 叫ぶガイ自身も涙を鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしていた。
 ガイの悲痛な大声に煽られていっそうあちこちですすり泣きの声が大きくなる。

 泣き声の集まる先で、三代目は死んだふりを続けていた。

 しかたない。見逃してやるか。

 イルカの喪服姿につられて、カカシは目を瞑ることにした。

 

 

 

 

 

 葬儀の日は雨だった。

 天気とは裏腹にカカシの心は隅々まで晴れ晴れと青く澄み渡っていた。

 イルカとは慰霊碑の前で待ち合わせをした。

 しっとりと濡れたイイ感じのイルカの姿が現れたとき、
 カカシの写輪眼は無意識のうちに超高速回転していた。

 鎖骨が、鎖骨がいい。

 カカシはふらふらとイルカに吸い寄せられて、その首筋に鼻先を埋めた。

「カカシ先生…」

 イルカに優しく抱き締められて、まさに桃源郷。
 恍惚としながら、鎖骨に唇を押し付けてみる。
 葬儀前に痕をつけるのはさすがにまずいだろうと、懸命に自制した。

 ああ。脱がせたい。いますぐ。

 押し倒してヤっちゃいたい。

 むらむらを通りこしてギンギンギラギラする気持ちを抑えるので精一杯だ。

 このままくっついているとやばい。

「すみません。イルカ先生。先に行っててくれますか?
 俺、少しだけオビトと話をしてから行きます」

 親友をダシにして、カカシはイルカから離れた。

 イルカは「待ってますから」とちゅっとカカシにキスをして行ってしまった。

 少しうなだれたせいでちらちら見えるうなじがまたカカシの腰にきた。

 危険な後ろ姿に背後から飛びかってしまいそうだった。

 想像以上に素晴らしいイルカの喪服姿に、カカシの胸も腰も大騒ぎのお祭り騒ぎだ。

 せめて葬儀が終わるまでは辛抱しなくてはと、
 慰霊碑の前で必死になって自分に言い聞かせていると、暗部の後輩が来た。

 適当に会話しながらも、頭の中はイルカのことで埋め尽くされていた。

 

 

 

 

 

 やっと葬儀が終わって、カカシはイルカの家に急いで駆けつけた。

 カシが戻るまで喪服を脱がないように、と頼み込んである。
 やっとこの手でイルカの喪服を脱がせることができると思うと、
 心臓と下半身が手に負えないほど大暴走していた。

「イルカ先生っ!」

「あ。カカシ先生。おかえりなさい」

 迎えに出てきたイルカは喪服の上にエプロンをしていた。

 それも悪くない。というか、いい。

 さらなる期待に胸ふくらませて、手をわきわきさせていると、奥に人の気配を感じた。

 このチャクラは。

「いま火影さまの幽霊が来てくれているんですよ」

 イルカは赤い目のまま、にこにこ笑った。

「俺のことが心配で様子見にきてくれたんです」

 居間に入ると、頭に三角のついた白いハチマキをまいた三代目がいた。

「三代目、いったいうちに何しに来たんですか。うろうろしてないで早く成仏してくださいよ」

 恩を仇で返すつもりかと、カカシは眉間の皺を濃くした。

「いや、イルカのことが気になってな」

 居間のテーブルの上にはイルカの特製手作り饅頭があった。
 カカシも今朝から楽しみにしていたのに、半分以上がなくなっていた。

 ちっ、目当てはこれか。

「イルカ先生には俺は張り付いていますから、ご心配なく。
 一生かけて幸せにしてみせますから」

「カカシ先生…」

 イルカの目が潤む。

「火影さま、俺、いまでも十分幸せです。カカシ先生がいてくれるから大丈夫です」

 寄り添ってきたイルカの腰に手をまわし、イルカの頬にちゅっとキスしてから、
 カカシはあからさまに迷惑そうな顔を三代目にむけた。

「そういうわけですから、お引取りください」

 しっしっと手をふってみた。

 帰れ、邪魔なんだよ。

 写輪眼をぐるぐるまわして威嚇してみたけれど、ナルトとは違って、
 さすがに火影ぐらいになると動揺しない。

 もう我慢できない早くイルカとイチャパラしたいと、下半身からうるさく訴えられて、
 カカシはしぶしぶイルカといっしょに行くつもりで購入した超高級温泉チケットを
 三代目の手に押しこんだ。

「これでひとつ成仏してくださいよ、三代目」

「まあ、イルカが幸せそうならなにより」

 三代目はチケットをいそいそとしまいこみ、
 ついでにイルカの特製饅頭もお土産用に風呂敷に包み、やっと立ち上がった。

「達者で暮らせよ、イルカ」

「もう来るな!」

 般若の形相のカカシに蹴り飛ばされそうな勢いで家を追い出されたけれど、
 もちろんこれからもイルカの饅頭やらカカシの豊富な懐を狙ってちょくちょくお邪魔する気でいた。