特殊任務 1

長い任務だった。

半年にも渡る、フォーマンセルでの諜報任務。

しかし全員が里でも評判の美人くの一で。唯一の男性であるカカシには、

それなり『美味しい』モノになる…筈だった、任務。 だが…

一人、里への帰路に着きながらカカシはらしくもない溜息をついていた。

 

 

 

普段ならばカカシが携わる性質では無いこの任務が、

しかしカカシの元へと割り振られたのは『写輪眼』故だ

くの一の一人が家の使用人として奉公に上がり、残りのくの一2名は

一人が馴染みの遊郭へ一人は同じく気に入りの料亭へと入り込んで。

…とどのつまりは『標的』の周囲を木の葉の忍達が囲い込み…

長年に渡る『背信』の全てを明らかにする、任務。

くの一達はカカシよりも遥か前から『潜入』を済ませていて。

カカシは『写輪眼』によって彼女達が調べ出した証拠を写し…

或いは気続かれぬままに偽者とすり替えて、証拠を固めて行く役だった。

半年のも間の敵地へ潜入。唯一気を許せる『同じ里の男』。

その状況にイチャパラ的盛り上がりを期待していたカカシは、

しかしあっさりと彼女達に裏切られた。  

何故なら
全員表向きとは言え『標的』のお手付きで。

つまり何時『標的』と裸の付き合いが起きるかもしれない

緊張感のある状況での任務だった訳で。

…長年、諜報に付いて来た腕利きのくの一達は敢えてリスクを負う様な

愚行は犯さなかったのだ。

他の『男』と不用意に接する様な、失敗を。

よってカカシは長きに渡って空閨を抱える事と相成った。

しかも、『任務』の性質上必要以上の他人との接触は禁じられて居り。

その為普通にナンパする事もその為の施設を利用する事も許されはしなかった。

いや、任務当初に一度施設の方は利用させて貰ったのだが…

『ワザワザ其処から離れた地に行って変化して』まで処理したと言うのに

他の仲間から凄まじい反発を食らったのだ。

繊細な諜報活動中である、何処に耳目が在るかも判らない、

男の『最中』の口の軽さは我々の方が良く知っている等挙って罵声を浴びせて来た上に

『上忍の癖に自分自身の肉欲も管理出来無いとは』 と嗤われた。

忍としての誇り。それはカカシと言う人間のかなりの部分を形成しているモノであり。

畑違いの任務だったからと言って笑い者にされて諾として受け入れられるものではなかった。

もし此処が戦地であったなら彼女達は死の恐怖を間近に感じる事となっただろう。

だが、此処は結構な都会で。カカシは彼女達の『部下』の立場にあった。

写輪眼と言う便利な道具の『器』として…彼はこの任務を割り振られたのだから。

其処に『戦忍』としての価値は必要、無い。

だからカカシは彼女達の基準に合わせるべく…

思春期以降初めてとも言える『綺麗な』生活を送る事となった。

呼ばれれば『写し』或いは『操作』して、得られた情報は遠く離れた

木の葉へと忍犬達によって届ける。

それ以外何も求められぬ、任務。

当然カカシの精神は疲労し、荒廃して行ったが…

共に任務に就いて居るくの一達の方が何倍も精神的に抑圧されていた。

その殺伐とした心は当然の如く『唯一の同里の男』であるカカシへと向かう訳で。

カカシが夢想した様に触れ合って慰め合い温め合うのではなく、

『唯一内心を吐露出来る相手』として八当たりの吐け口とされたのだ。

勿論暴力に訴える程愚かでは無い彼女達は…そうなればカカシに反撃されるだろうし、

力でカカシに勝てる訳が無い…専ら舌鋒と態度でカカシを追い詰めて行った。

純粋にカカシを罵るのなら反論もある程度出来よう。

だが、彼女達が嫌悪するのは『男』と言う生物の…

それも権力者達に共通する『悪癖』の事が中心で。

それはカカシにも間違い無く耳に痛い事ばかりだった。

色欲、権力欲、嗜虐心…其処を突く事で任務を執り行いながら、

だからこそ唾棄する部分を殊更に喚き立てられて。

口で勝てない分溜まる精神疲労を晴らす場所さえ与えられず。

だからと言って『力』で黙らせる程、カカシは愚かになれなかった。

任務の重要性から言っても『彼女達』に必要以上の抑圧を掛ける訳には行かなかったので。

 

だから、つまり。

この半年間、カカシはくの一達の本音と嘲笑にズタズタになりながら…

どうする事も出来ず任務を遂行して来たのだ。

 

 

 

確かにSランクだよ

カカシは内心、何度目かの溜息をながら呟く。

一足先の帰還、とは言え急ぎで『火影に報告』せねばならない身となれば

途中色宿で疲れと厄を落とす事も敵わず。

カカシは只管に木の葉に向かって走り続けて来たのだ。

(帰ったら、やっぱり〜楼だよねぇ)

馴染み…だった見世を思い浮かべながら僅かに口元を綻ばせる。

苦難の時間は間も無く終わるのだ。

その暁には、花街で豪遊する心積もりのカカシであった。

里の空気、里の気配…全て変わらぬままに迎えられて、ほっと息をつく。

「はたけカカシ、戻りました。」

受付ではなく火影の執務室へと直接向うと御苦労、と火影が労ってくれた。

任務報告と共に必要な『物品』の受け渡しを済ませる。

と。

「おお、そうじゃ。」

三代目からポンと鍵を渡された。

「はい?」

「お主の荷物を預けてある倉庫の鍵じゃ。」

草花は受付で面倒見ている筈じゃから引き取って来るのじゃな

平然と、言い切られ

「…!…」

思い出した。

この任務前、カカシには付き合って既に一年になる恋人が居た。

部下のアカデミー時代の教師で、忍とは思えぬ程『普通の』人。

気に入って、口説き落として。

今まで自分の周辺には居なかったタイプの彼との日々は新鮮で面白かった。

だが、長く付き合えば飽きて来る。

色々と語られる『正論』に反発し、力と言葉とで傷付けて。

何時捨てようか、と思案しだした所にこの任務が入ったのだ。

だから、告げた。

別れましょう…と。

 

 

 

幾ら諜報関係の任務に疎いカカシでも知っていた、里の…戦場以外での、不文律。

…『恋人持ち』とは任務で二人きりになってもソウイウ関係になってはいけない、と。

カカシが常に居た『戦場』では刹那の関係も結構在ったし、

それはその時だけのモノとして互いに処理していた。

だが、諜報任務は心理戦に重きが置かれる。

其処で躰の関係を持つ事は不利な側面が多過ぎた。

そう言った意味では命の遣り取りをする戦場より余程殺伐としているのだ。

『心の支え』は必要だが、仲間内での色恋のゴタゴタは致命傷になり兼ねない。

だから、『相手』が居る者への手出しは…双方…禁止されていた。

知って居たからこそカカシは身軽になって任務に赴いたのだ。

其処が如何なる場所か知りもせずに。…一人身ならばなんの支障も無い筈、と。

結果は…だったが。

 

 

倉庫、だって?

確かに別れ際、『明日にも長期任務に就くから、

俺の荷物は全て何処かにでも預けて置いて下さい。』と告げた。

共同で買った物はアンタにやるから、手切れ金代わりだよ…と言い捨てて。

共に在った一年の間に、カカシの自宅は既に引き払ってしまって居たから。だが

 

あの人、本当に俺の荷物放り出したっての

 

あの、優しい…お人好しが。しかもカカシに『惚れている』人間が。

カカシにはその確信があったから、ああは言っても『待っている』と信じていた。

カカシが長い任務から戻るのを…あの言葉を『無かった事』にする日を信じて。

あのまま『カカシの場』を抱えたまま一途に待って居る、と。

何であれ、私物を所有している限り彼はカカシと『繋がって』入ると…縋って。

 

だから何日か花街で豪遊した後は、彼の元を訪れる心積もりだったのだ。

カカシとしても、長く共に在った『彼の傍』は…とても居心地が良かったから。

何より過去全ての『関係した相手』を振り返って見ても。

最もカカシのツポを付いた『世話』をしてくれたのは…

あの、男の割りにマメに動く中忍だったのだ。

なのに

 

不信感で一杯のまま『倉庫』に向かったカカシが…其処で見たのは。

この半年の間に薄っすらと埃を被った、梱包済みの『カカシの私物』全て、だった。

 



サイト一周年記念に「天手古舞」のちゃきっ様から頂きました
黒イルカが読みたいとのリクエストに気前よく続き物です
ちゃきっ様〜 有難うございます♪



getroom   →2