特殊任務 2

事実を目の当たりにして尚、信じきれず。

カカシは彼が居ると思われる受付所へと向かった。

…ウッキー君を引き取りに行くのだ、と自分自身に言い訳をしながら。

受付所に踏み込むより先に、イルカの気配を感じる。

案の上、其処には彼が机に着いて居て。

他に人が居ない事もあってか前に立つくの一と楽しそうに雑談をしていた。

その様子にカカシは訳も無く不快になって、わざとらしく気配を垂れ流したまま

くの一の真後ろへと態と並んで見せる。 

「あ、はたけ上忍。お帰りなさい。」

にっこり。嘗て見慣れた穏やかな笑顔がカカシに向けられた。

少しも変わらない笑顔に、一瞬安堵し。次に変わっていない事、

『はたけ上忍』と呼ばれた事に妙な不満を…感じて。

カカシは、殊更に不機嫌な声を出した。

 

「俺の鉢植えを引き取りに来たんだけど。」

無愛想に切り出すのに

「はい、こちらですね。」

と、明るい声が返される。そしてイルカはカウンターから出て来ると、

多数ある鉢植えの中から一つを…勿論カカシのウッキー君だ…取り上げた。

「肥料は今月の10日に観葉植物用の物を与えましたから。

他にお知りになりたい事があったらそちらの『植物管理ノート』を御覧下さい。」

そう、澱み無く説明されて。

その真っ直ぐに向けられる瞳も、張りのある声も全く平静で。

…別れた、否自分を捨てた恋人に対するものとは思えなかった。

それが何だか無性に気に入らなくて。

カカシは黙って鉢を受け取ったまま、目を眇める様にしてイルカの顔を凝視した。が

「あ、そうだ。カカシ先生にはまだ紹介してませんでしたね。」

そんなカカシの様子には一切頓着せず、イルカは傍らにまだ立って居た

くの一の方を振り向いた。

「俺の婚約者です。」

名を呼びながら軽く肩に手を回し、二人で寄り添うようにする。

「初めまして、はたけ上忍。」

にこっ と笑って頭を下げるくの一。黒髪を肩より上で切り揃え、

優しそうに笑う顔は美人と言うよりは愛らしいと形容すべきだろう。

着ているのは無骨な標準服だが、ベスト越しでもスタイルの良さを伺う事が出来た。

「…婚約、者?」

つい、問い返す。

「はい、先日婚約致しました。」

秋には式を挙げようかと思ってます

にこにこ笑う男の言葉に、ほんのり頬を染めながらもそっと身を寄せるくの一。

似合いの一対と言うべき…なのかもしれない。

だが

「ねぇ、アンタ。この人がこの前まで俺と付き合ってたって知ってるの?」

女の方に向き直って訊ねると

「…はい。イルカから聞きましたし…」

お二人の事は有名でしたから。

楚々たる雰囲気なのに、カカシの眼を見てはっきり答える辺り流石はくの一だった。

「…ふぅん。」

その様に少し鼻白んで、しかし

「アンタ、男に突っ込まれてあんあん言ってた淫乱が夫でも良いんだ。」

その顔を見下ろしたまま、蔑む様に続けると

「あら。」

軽く小首を傾げ。くの一はふわりと柔らかく微笑んだ。

「…嫉妬しているんですか?私に。」

ふふっ 随分と楽しそうな優しい笑顔。

「もしかしてまだ、未練があったりして。」

そう言いながらギュッとイルカの腕にしがみ付いて見せる女性に、

一瞬カカシから凄まじい殺気が放たれる。

だが

「馬鹿。そんな訳無いだろう。」

カカシさんから別れようって言い出したんだぞ 

第一それまでだって随分色んな美女と遊んでらしたし

言い聞かせるイルカの言葉に、カカシから毒気が抜けた。

「結局、カカシさん『も』女性と付き合う方が良かったって事ですよね。」

にっこり 裏を感じさせない笑みが、

自分達の関係は所詮一過性の物だったのだと告げている。

もう過ぎ去った昔の事なのだ、と。

「あ、良かったら式に、カカシ先生も参加して戴けますか?」

ナルト達は呼ぼうと思っているんですけどね

何事も無かったかの如く…照れた様に鼻の傷を掻きながら訊いてくる、男に。

「あ、そ…」

自分でも良く判らない返事を投げて。…カカシはその場から掻き消えた。

 

 

 

「婚約、ね…」

あの、妙に堅い中忍がこの半年の間に婚約。思ったより手が早かったのか

「それとも二股掛けられてたのかね〜」

そう何気無く口にした途端、急に胃を締め付けられる様な感覚に襲われた。

唇を噛んでグッと耐えつつ、頭を整理する。

 

あの時、妙に素直に頷いたとは思ったのだ。女の元に行く為だったとしたら充分納得出来る。

…あの、中忍は。如何にも愛しそうに自分の世話をしながら、

裏ではあの女とヨロシクやっていたのだ…

反射的に力の入った掌が、掴んでいた鉢を握り潰し

…中に入っていた土ごとウッキー君が地に落ちる。

なのにカカシはその事に気付きもせず握った拳に益々力を篭めていった。

…手に、残された破片が突き刺さる事すら意識せずに。

 

「やってくれるじゃないの。」

 

情の深いあの男が、捨てられたからと言ってそうそう気持ちを切り替えられる筈が無い。

…最早、カカシの中でイルカの『二股』は決定事項となっていた。

 

もし、健気に待って居る様なら少し位構ってやっても良いか、

と思ってやっていたのに…この仕打ち。

 

「許せる事じゃ無いよね。」

 

上忍を馬鹿にした礼はきちんとすべきだ。

そう、決めて。

…カカシは怒りに煮え立ったまま、イルカの元に取って返す事にした。

 

 

 

だが。戻った先にイルカは居なかった。

勤務時間を終え、早々に婚約者と帰宅した…らしい。

だからと言って自宅へと赴いても、人の気配は全くなかった。

 

「何処行ってるんだ。」

苛立ちのままに繁華街を彷徨う。

家に居ないのならここいらで夕食を摂っている可能性があった。

婚約者の家、と言う事も考えられるが…

それは意図的に思考から排除したカカシであった。

と、其処に

「よう!帰ったのか。」「あら久し振りね。」

既に一杯入ったらしい…ご機嫌な声で髭の上忍と、うわばみなくの一が声を掛けて来る。

「お前等か。…イルカ、見かけなかった?」

不機嫌そうに。しかし一応確認するカカシに、アスマはにやりと人の悪い笑みを見せ。

…紅はけらけらと笑った。

「何、イルカちゃんを捜してるの?もうとっくに別れた癖に。」

嫌ねぇ、写輪眼のカカシともあろう者が 未練がましい 

それが耳に届いた途端、カカシの殺気が一息に膨れ上がる。

「何苛立ってやがる。…アイツはもう、婚約者だって居るんだろ。邪魔してやるなよ。」

 紅の肩を軽く叩いて黙らせながら、アスマがカカシに言い聞かせる様に言った。

「だから追ってるんだよ。」

この俺と付き合っていながら二股なんてね、良い度胸じゃん

カカシが低く呟くのに

「は?イルカが二股?ありえねぇな。」「そうよね、あのイルカちゃんに限って。」

と、二人が声を揃えて応える。

「はん、あの人にたった半年で婚約に行き着ける様な甲斐性ある訳無い…」

 二人の弁解を鼻で笑おうとしたカカシを

「あったのよ、アンタが知らなかっただけで。」

 途中で言葉を遮って、紅が言葉を被せる。

「え?」

「良いからちょっと来なさい!」

紅と、そしてアスマに両腕を抑えられて。カカシはずるずると

『上忍様御用達 完全防音』がウリの店へと引き摺られて行った。

「カカシ、まずは落ち着いて。」

さっさと注文を済ませた紅がカカシの向かいに陣取ってコップに入った水を差し出した。

因みにアスマは、カカシが話の途中で退席しない様見張る為…

カカシの傍らに座っている。

「それより、用件を言え。」

受け取ろうとせずに睨み付けるカカシに。

「手っ取り早く言うと、二股は絶対無いわ。」

紅は断言した。

「だって、ほんの3ヶ月程前まであの子別な中忍と付き合ってたんだもの。」

中々腕が良くて…近々上忍に昇格するんじゃないかって噂のあった、男と。

「それがなんかあの子の家とゴタゴタしたみたいで、

結局あの子と別れて長期任務に出ちゃったらしくて。」

暫く泣き暮らしてたみたいだったけど その内イルカと付き合いだしたのよね

「どうも置いてかれた同士で気が合ったみたい。」

届けられた酒をグイッと煽りながらそう結論着けた紅に。

「それで婚約?早過ぎるんじゃないの?」

殺気は消したものの機嫌の悪さは隠そうとしないで、カカシが呟く。

「あ、それはアッチの家への牽制らしいぞ。」

すると、今度はアスマが応えた。

「これは、イルカの同僚から聞いたんだがな。」

なんかアチラの家の方に『条件の良い』見合い話が在ったらしくてな。

前の男と別れさせられたのもそれが原因らしい。

「イルカと付き合い出してからもやっぱり圧力を掛けられて。

いっそ、公言しちまえば文句言えまいってぇ事になったそうだ。」

確かに有効だよな 火影の前で交際宣言しちまえば

カッカッカと笑うアスマに。

「…あの人、そんな事したの?」

カカシがぼそりと訊ねる。

「ああ。受付に三代目が出てる時が在るだろう。その場で『恋人』だって紹介したらしい。」

で、あっと言う間に『婚約者』として名が知れ渡ったって訳だ

「ま、確かに火影様の前で交際宣言したらまず、別れたり出来ないものねぇ」

究極の『結婚宣言』よね

何処か羨ましそうに呟く紅に、アスマの視線が微妙に宙を泳ぐ。

「だ・だから二股なんてぇのはありえん。イルカらしく無ぇ素早い行動だが、

間違い無く付き合い出したのは此処3ヶ月以内だ。」

無理に話をそらせる様に、慌てて続けられたアスマの言葉を。

…カカシは何処かぼぅっとした様子で聞いていた。






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