特殊任務 3

そのまま飲み始めたアスマと紅をその場に置き捨てて。

カカシはふらふらと夜の街に彷徨い出た。

一旦頭が冷えてみれば、確かに二股を掛けられたと思うより

『イチャパラ並の、運命の出会いを果たした』のだと考える方がまだ、

イルカらしかった。

「あの人がねぇ…」

ならば、自分は文句を言える筋合いでは無いのだ。

…自分達は当の昔に、別れているのだから。

 

ふらふらと、足の向くままに進んで行くと。花街の周辺へと辿り着いていた。

「そう言えば、此処来る気だったんだっけ。」

今更に思い出したカカシは、前に行き着けにしていた見世の一つの方へと進んで行く。

「考えてみたら何熱くなってたんだ?」

たかが中忍の、それもとっくに他人になっている相手の、『婚約』に。

「馬鹿馬鹿しい。」

呟いて、中へと入る。久し振りに、馴染みだった女の肌を味わう為…に。

 

 

 

「    」

盛んに囁かれる遊女の慰めの言葉も耳に入らない様子で、

カカシは呆然と褥に座り込んでいた。

反応しなかったので、ある。カカシが…カカシの『男』が。

嘗て贔屓の美女に添われて。なのに甘やかな脂粉の香にも艶かしい肢体にも

…それ処か彼女の得意とする手練の技にも。

カカシの躰は欠片も応えようとはしなかった。

溜まっていた、筈なのだ。否間違い無く溜まっている。

あの半年の間、一応自分で『処理』していたものの…

任務の終盤に入ってからは忙しかった事もあり、

そんな虚しい真似は避けていた。もう少しだから、と。

なのに…

疲れているのでは、とその夜は其処で休んで。

翌日『再戦』してみたのだが
…結果は、変わらなかった。

もしかしたら、と他の見世、他の遊女でと試して回って。

なのに『何も』変わらなくて。

結局…数日間が不毛な連敗記録を打ち立てただけで過ぎて行ったのだった。

 

 

何故…

幾度もの挑戦に敗退して。もはや何をする気力も無くふらふらと流離って。

我に返った時にはイルカの家の前に居た。

そしてやっと思い出したのだ。…自分には今。帰る家さえ…無いのだ、と。

 

暗い想いのまま窓を見つめ、どれ程時が過ぎたのか…

何時の間にか辺りは闇に包まれ、イルカの気配が近付いて来るのを感じ取った。

咄嗟に屋根に跳んで気を殺す。

持ち帰りの仕事が入っているのだろう、

分厚い鞄を抱えたイルカが歩いて来るのが見て取れた。

元気そうな足取りに合わせる様に、頭の上で尻尾が揺れている。

しかし彼は一人ではなかった。

その傍らにもう一人…あの、くの一が寄り添っている。

二人は楽しそうに談笑しながら家へと近付いて来る。

くの一の手にはスーパーの袋があって。

これから二人で夕食を摂るのだろうと感じさせた。

良く在る、光景。 …良く在る恋人達の、姿。

カカシもまた、毎日の様に恋人とそうしていた。

そう、半年前までは…

 

 

 

逃げる様にイルカ宅の屋根から飛び出したカカシは、走り続けて

…何時しか慰霊碑の前へと辿り着いていた。

途端身体から力が抜けて…座り込む。

妙にぼんやりとした視界に、『亡くした』大切な人達の名が映った。

「はっ…あはは…」

それを理解すると急に…乾いた笑いが喉から溢れだした。

漸く判ったのだ。…自分の『気持ち』が。

イルカが『婚約した』と知った時の、この気持ちは。

どうする事も出来無い程の、この喪失感は。

嘗て…何よりも大切だった人達を亡くした時のものと同じだ、と。

 

 

カカシは。自分で、自分自身の身勝手で

…最も大切な相手との『縁』を。亡くしてしまったのだ…

 

 

 

 

 

何処か虚ろなまま、日々は過ぎて行き。

『任務明け』の休暇は終わりを告げた。

新たな任務が回される中、カカシは敢えて…長期の、それも戦場任務を希望した。

このまま、イルカと婚約者の睦まじい様を見るのも。

…ましてや結婚式に呼ばれるのも避けたかったからである。

戦い続けて他事を考えられない処に居る間に全てが終わってくれれば。

…きっと何時かは自分もこの状況を受け入れられる様になかもしれないから。

今のこの、精神状態でその日を迎えたら…女を、殺してしまいかねない、から。

 

 

だが。カカシの腕に折り合う『任務』に手頃な長さのものは見つからず。

結局、カカシに与えられたのは2ヶ月程度の戦場任務だった。

それでも有難く古巣とも言える場に戻ったカカシだったのだが。

…打ち続く戦闘の中で。どれだけ精神が高揚しても。

或いは、血が滾ろうとも。

カカシは…『他人』と共に寝所に入る事は出来なくなっていた。

里のモラルの通じない場で、しかも『その手』の事では浮名を流していたカカシである。

女は勿論、男でも…時には無理にカカシのテントに忍び込んで来る輩さえも居たのだが。

…カカシはその全てを退けた。

その機能を失った訳ではない。

実際不都合が起きた場合は自分自身で処理はしていた。

但し。唯一人の相手にしか…その熱が高まらなくなっただけ、で。

この行為が、精神的な部分に寄り掛かっている事をカカシは初めて実感していた。

どんな美女も、嘗て『アソんだ』仲間も。

酷い戦いの後で、それなりの温もりが欲しくなる様な夜であっても。

カカシが欲しいのは、必要としていたのは…遠く離れた地で、

最早他人のモノになろうとしている人だけ、だった。

 

絶望的な気分の中。

久方振りに補給と共にやって来た、補充の忍達。

彼等が持ち込んだ新しい『里の情報』に。

「え…」

カカシは、耳を疑った。

「今、何て言った!」

思わず談笑していた男を、締め上げる。

「だから…受付のうみのが…くの一に騙されたっと…」

里から来たばかりの男は、カカシに吊り上げられながらも

苦しい息の下そう、答えた。

「…どう言う事?」

どさっ 男を放り出しながら呟くと。咳き込む男を庇う様に、

一緒に来た他の奴等が口々に『情報』を伝えてくれた。





getroomへ   2←   →4