特殊任務 5

「お邪魔します。」


見えない尻尾をぱたぱたと振りながら上がって来る上忍に、

イルカは顔が綻ぶのを必死で抑えていた。

 

本当、判りやすい人だな

 

そう、忍としてどれだけのキャリアを誇ろうとも…

幼い頃から戦忍であったカカシの感情は読み易いものでしかなかったのだ。

…イルカにとって、は。

 

告白されて付き合い出して。

イルカがカカシを本心から『想う』ようになると、カカシは外に目を向け始めた。

イルカが…自分を『好いて』居る事を確信したからこその…暴挙。

だが、イルカの方もまた『気付いて』居る事も…それ処か自分自身の心さえも…

判ってはいなかった、らしい。

何故なら、イルカを『捨て』ようとしたのだから…

 

 

 

少し位ならアソんでも、文句を言うつもりはイルカにはなかった。

カカシは戦忍で、長く戦地に居る事もしばしば有ったので。

戦場で生きる忍とイルカ達の感覚が違っている事は理解していたからだ。

里で、『イルカの常識』が基準となる場所で。

普通に振舞ってくれるならば問題は無いのだから、と。

だからこそ、気付かない振りをしてカカシのしたい様にさせていたのだが。

カカシの行動は、自分が『愛されて』居る事を自覚するに従って増長していった。

イルカを蔑ろにして、他人との時間を楽しみ始めた。

まるで子供の様に、『イルカ』の愛の存在を盲信し、離れる事は無いと確信して。

だが、イルカにはカカシの『親』になるつもりは欠片もなかった。

唯、無償で愛するだけなんて…絶対に嫌だったから。

 

だから、少しだけ『お仕置き』するつもりだったのだ。

 

諜報の、任務。

カカシには苦痛でしかなかったソレは、

教師になる前の…そして今も…イルカが専任とする処だった。

カカシが半ば無理矢理行わされていたくの一達の、心の調整。

それに加えて、全体の任務の遂行。

つまり、カカシの様に部下としてでは無く…隊長として。

くの一達の状態を把握し、里と連絡を取りながら…

『忍の介入』さえ誰にも気付かせずに任務を執り行う事。

 

それこそがイルカの真骨頂だった。

だからこそ…イルカは今、内勤に『昇格』したのだ。

教師として『子供と、子供の親』を読み、受付として接する『忍の状態』を観て。

その上で、彼等を『適所』に割り振る為、に…

 

 

そんなイルカに、カカシの思考なんて筒抜けで。

…まして長期のくの一達との任務となればナニを考えるかなんて一目瞭然だった。

だから…写輪眼が必要な事もあって…あそこに『配置』したのだ。

ギリギリの状況で抑圧されたくの一達、

それも第一線で働く『職業意識の強い』者達の元で


最高のストレスを受ける様に手配して。

…カカシの忍としての誇りまで考慮した上で。

 

そしてもう一つ。

カカシには内緒だが…あの任務の『総括』はイルカ、だった。

現地での隊長はくの一の一人だったが。指示を出し、

全体を動かしていたのは…殆ど里から出ずに居るイルカ、だったのである。

だから…『華々しい浮名』を持つ『諜報の仁義を弁えていない』カカシの

素行を憂慮する
くの一達をさり気無く唆す事も出来た。

罵り拒絶するだけでは不十分だろう、と。『想い人』達を安心させたいのなら、

それなりの薬物を用いて『男』でなくしてしまう方が確実だ、と。。

任務中ずっとでは本人に気付かれるかもしれないが、

終了寸前から…里に戻って暫くの間だけ『役立たず』にして置けば。

その派手な素行故に、あっと言う間に『カカシの不能』は

里中に伝わるだろうから…と。

かくして、彼女達は自分の身の潔白の為にそれを実行し。

…カカシは精神的に止めを刺される事となった。

 

 

此処までやるつもりはなかったんだけどな

 

食事の用意をしながらイルカは、想う。

ボロボロで…日程的に途中でアソべないように調整したので

…里に戻って来た処に、火影から『鍵』を渡して貰った。

焦ったカカシがすぐに…『解って』無いにしても…

イルカの元にやって来ると思ったから。

其処でイルカに『見捨てられ』て、更にそれから向かった花街…

この辺りの行動も予測済みだった…で『失敗』したら。

幾らカカシでも自覚、するだろうと。

 

だが。カカシが発って暫くして彼女と出会った。

新しい命を宿し、それを護ろうと必死になっている彼女…と。

そして形振り構わずに足掻く彼女が、自分を利用しようとしている事に気付いた時。

 

イルカはそれに乗る事に決めた。自分と彼女、両方に都合が良いと思えたので。

彼女の恋人が『彼女との未来』の為に敢えて難易度の高い任務に就いた事は

すぐに調べが着いたし、
今イルカが手を退けば…

彼女の家族は『自分達に都合の良い』名家からの良縁を無理強いする為、

折角芽生えた命を奪いかねないと判断したから。

家族で幸せになり得る相手をもわざわざ不幸にする趣味はイルカには無い。

 

こうして、互いの思惑の上に清く正しい交際は成立し…彼女の妊娠も、

恋人が戻って来るまで敢えて気付いていない振りをイルカはし続けた。

彼女と知り合いだったのはイルカが下忍でまだ諜報に就く前だったから、

彼女はイルカの『成長』を知らなかったのだ。

 

そして。

当初の予定以上に大事になったイルカの策に。

カカシは薬物の影響が切れても…『精神的外傷』と、

それ故の一種の『自己暗示』で…
自身の欲を封印し続け。

それは現在も続いている。

 

 

 

 

 

「はい、カカシ先生。」

用意した食事を運びながら笑い掛けると、

それだけでカカシの隠された顔が赤く染まるのが判る。

でも今はまだ、必要以上に距離を縮めるつもりは無い。

ちゃんと『自覚』させるのだ。

…カカシ自身の想いも、『失う』事の意味も。

 

元々…両親共が忍の共稼ぎで、一人で居る時間は確かに長かったが…

イルカは一人っ子で、両親には全力で愛されて育って来た。

カカシは、愛され甘やかされる事を知っているイルカに

『唯一』である事を求めて置きながら
それを与えようとはしなかったのだ。


自分が与えられる事だけを望んで。


…そんなの、許せる訳が無かった。

 

苦しんで…悲しんで。そして零からもう一度やり直して。

ちゃんとした関係を育んでいくのだ…今度こそ、しっかりと。

 

 

幸せな恋人同士に『成る』為に。



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