ケセラセラ 1
「なぁ。」
紫煙を燻らしながら大柄な上忍が口を開いた。
「あの野郎、まだ『捜して』いやがるんだが。」
場所は、控え室で。本来ならこの上忍の居るべき場ではない。
…今回は偶々『呼ばれて』いたのだが。
「そう見たいですね。意外と根性あるみたいです。」
クスクス 小さく笑う男は先刻から自身の仕事に余念が無い。
会話しながらも、手の方は休む事無く動いている。
「何故だ?お前等、付き合って居るんだろう。」
そう、問われて
「はい、お付き合いさせて戴いてます。」
はっきりとした応えがある。だから
「だったら何で今更捜してやがるんだ?
もう随分と昔の、『一目惚れの相手』なんて。」
言われて
「仕方無いですよ。あの人、まだ『諦めていない』みたいなんですから。」
少し呆れた様に、今一人が答える。
「へ?だって…」
「口には出していませんが、俺と『付き合って』居るのは
想い人と同じ黒髪で…体格も似ているからです。」
相手を忍ぶのに丁度良かったんでしょうね
「本人を見つけるか…飽きたら別れる心積りで最初から口説いて来たんですよ。」
いい加減なモンです
男の言葉に、煙を可笑しな方へと吸い込んでしまったらしい上忍は
酷く噎せ返ってしまった。
苦しむ様子を平然と流して、男は淡々と手を動かし続ける。
「それで…良いのか?」
苦しい息の下、訊ねて来るのに
「構いませんよ。…俺は、後悔する気有りませんから。」
矢張り淡々と答える男が居る。
「…そうか。」
だから上忍も小さく呟くに止める事にする。
同僚が、嘗て一目で惚れ込んだのは黒髪の戦忍であった。
流れる様に舞う姿は、歴戦の忍達であっても目を奪われるに充分な代物で。
実際彼もまた、任務中だと言うのに見惚れたモノだ。
しかし同僚の固執はそれ以上で。
戦場から戦場へ移動しながら今一度本人と遇えるのを楽しみにし続けて。
…実際、何度かは『遇った』みたいなのだが。
それは悉く激戦の最中であり、本人とは会話する事さえ侭ならなかったらしい。
顔すら知らぬ相手を、それでも恋うて。只管に恋い焦がれて。
戦場では滅多に見かけなくなった彼を求めて…あの男は、里へと戻って来た。
それでもやっと『恋人』を作って落ち着いたかに見えたのだが…
「どうする、気だ?」
「放って置きますよ。」
本人の努力に任せます。どうら『俺』は当て馬ですから。
笑う男には、言葉上にある卑屈さは全く感じられない。
「なる様になるでしょう。…あの人の事は好きですが
『身代りの道具』扱いされて喜ぶ程、俺も人生投げては居ませんから。」
きっぱりとした言葉が、本心である事が知れる。
「そう言やぁお前等、手合わせした事無いのか?鍛錬とか。
…結構長い付き合いだろうに。」
ふと思いついて問うてみれば
「頭っから『中忍風情と』なんて考えてもいませんよ。
一応何度かは誘ってみたんですけどね。」
所詮は代用品ですから と 肩を竦める。
「さ、お待たせしました。行きましょう。」
振り返った顔には白い面。
纏う装束も、特殊な任務に就く者達のみに与えられた代物で。
立ち姿であっても一種独特の気迫がある。
「で、何処の戦場だ?俺達に緊急要請して来たのは?」
煙草を押し消しながら上忍が訊ねると
「…です。結構長引いていましたからね。」
と、漸く準備を終わらせた相手が答える。
「刺激が必要だって?」
「双方に、ね。」
語り合いつつ、屋根に跳ぶ。
実は長い付き合いなのだ、この男とは。
『色恋』をする相手でこそ無いが、『背を預ける』相手ではあった。
…幾ら本気で恋うているからとて『見極めもつかぬ』同僚に、
くれてやるつもりは…無い。
「アイツ、任務出てるんだろ?向こうに居るかもしれねぇな。」
「そうだと面白いですねぇ。」
笑いながら。
戦へと赴く二人には、憂いなど欠片の持ち合わせさえなかったのである。
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「天手古舞」のちゃきっ様より「特殊任務」の他にもこんな素敵なお話を戴いてしまいました
暗部イルカ・・・ 素敵です ありがとう ちゃきっ様