ケセラセラ 2

「おい、アイツがお前を捜して走り回ってやがるぞ。」

紫煙の香を血の匂いで掻き消された上忍が、面もそのままにやってくる。


「あ、やっぱり見られてましたか。とんでもなく強い視線を感じたから、
そうかな〜とは思ったんですよね。」


それを聞いて。駐留地から少し離れた森の中、
勝手に夜営の体勢に入っていた男が笑った。


「何処に行った〜って喚きながら片っ端からテントん中覗き込んでいやがる。」

ホレ、と。どうやら炊事場から食事をくすねて来てくれたらしい相手に、
男は有難う御座いますと頭を下げる。

「それは迷惑ですねぇ。ゆっくり休みたい人や余った体力の処理のしたい人も居るでしょうに。」

いそいそと火遁で温め直し、用意に勤しみながら呟くと

「本当に、迷惑だ。お前と一緒に居たのが『俺』だって気付かれちまったみたいでな。」

肩を落とす、上忍に。はいと握り飯が渡された。
しっかり溢さずに運んで来た野菜汁も温められて、
場所柄を考えるならばそこそこ上等な夕餉である。


「煩ぇ煩ぇ。何か情報持ってないかって喰って掛って来やがる。」

ぼやきながらも面を外し。戴きますと手を合わす、意外に行儀の良い上忍に。

「それで?どうしたんですか。」

男の方も興味津々と言った様子である。

「三代目に呼び出され顔合わせただけだ、何も知らん!で、通して来たぞ。」

言って、ずずっと汁を啜ると。

大変でしたね。」

同情を篭めた声で労わられた。が、
態度から愉しんでいるのがありありと判る相手では余り嬉しくなかったりする。

因みに彼も面を傍らに置いたまま、握り飯を会話の合間合間で頬張っていた。

「おう。これから里でも詰め寄られるかと思うと気が重ぇぞ。」

むぐむぐ飯を口に入れたまま唸る上忍に対して。

そうですねぇ。」

軽く小首を傾げて男が言った。

「もし、あんまり執拗でしたら『普段は里に居るみたいな事を言ってた。』と
漏らして置いて下さいよ。」


さらりと提案された内容に。

おい、良いのか?」

つい、訊ね直してしまう。
真実だからこそ、今後を思って伝える事て良いのか躊躇すると


「良いんです。第一、これっぽっちの情報であの人が『気付く』と思いますか?」
人の悪い笑みと共に問い返された。

そりゃ

思わず納得してしまった上忍は、一つ大きく頷いた。

「じゃあ、その線で行くからな。じゃ、また明日。」

そして最後の一口を放り込むと、自分は野営地へと帰って行く。

「はい。お気を付けて。」

返される言葉の中。『気を付け』る相手が同僚なのが少々哀しい
そんな想いを抱きつつ、上忍は枝を跳んで行く。
そうして辿り着くのは結構な喧騒の、駐留地。変わらず元気に銀の同僚が走って居る。

「あ!」

飛び掛る様にして少しでも『何か』を得ようとする同僚に。上忍は、面倒臭ぇと呟いた。





「おいっっ」

資料室で明日の用意をしていた男は。
息せき切って飛び込んで来た上忍に、肩を掴まれ押さえ込まれた。

「アイツと別れたって本当か?!」


押し殺した言葉に

「はい。あの人から『別れて欲しい』と言われましたので。」

にっこり 何の動揺も見せずに男が応える。すると

「それで良いのか?」

真剣に、問い直された。幾ら馬鹿で間抜けな相手とは言え、この男の性格は良く知っている。『好いて』なければ付き合ったりなんてしない筈なのだ。
なのに、あっさり『別れ』たと言う。

「『他に好きな人が居る。貴方じゃ駄目なんだ別れて欲しい。』と宣言されまして。」

さばさばと語る男を、神妙に見詰める上忍。

「大体、貴方の事は遠目で見ても『気付いた』のに。同じ扮装の『俺』が判らない様な人、今更縋る気にもなれません。」

きっはりと言い切られれば返答のしようが無かった。

「結局、恋人と公称していても。結局は『身代りの代用品』、その程度の関心しか持って貰えなかったみたいです。」

だったら綺麗に切れた方が絶対互いの為になります
いっそ、清々しく断言されれば。所詮は第三者である上忍に、
掛けられる言葉なんて無い。


おう、そうだな。」

少しぎこちなく頷くと

「ま、後はあの人次第です。」

ところで、何時頃気付くと思います?

「俺は3年は無理と踏んでますけれど。」

急に楽しげに。ニッと笑った相棒に対し。

「お前が『気付かせ』なきゃ一生だろう。でも、まぁ。一応アイツに敬意を表して2年にして置くか。」

上忍がそう、答えて見せた。

「じゃあ、俺は『雲』の名酒を一本。」

と応じられて。

「なら俺は『岩』のにするか。」

にんまり笑って。半ば結果の見えてる賭けに乗って見る。

「じゃ、勝った方が肴を用意するって言う事で。」
「おう。」


二人、埃臭い部屋の片隅で笑いながら。




長めの賭けが始まった。



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