ケセラセラ 5
そして。
『あ…アンタ…』
途中から喰い入る様に男の戦う様子を見ていた銀色だったが。
最後の方…相棒が本来の「動き」に戻った辺りからはそれこそ眼を見開いて
愕然としていた。
その表情が余りに間抜けで、上忍は結界の中で大笑いさせて貰っていたのだが…
『アンタ、暗部の…っっ』
其処から言葉が続かない。パクパクと空転する口が玩具の様で更なる笑いを誘う。
だが、例え支離滅裂の言葉でも。子供達に訊かれるには些か拙い発言が混じっていた。
案の定、耳聡い黒髪が『暗部…?!』と唇を動かしている。
と。
腕を伸ばし。すっと人差し指を相手の唇に当て、黒髪の言葉を封じた上で
『守秘義務ってモノがあるんですけどね、はたけ上忍。』
脅すでもなく、男が呟いた。
反対に銀色は、あぁとかうぅっとか訳の判らない唸り声を発し始める。
『だって…何で…まさか騙されてるなんて…』
『騙しては居ませんよ、黙っていただけです。』
断言する、男。…その通りだ。
『幾らアナタがOBでも、規則は規則ですから』
と言い切られ
『で…でもっっ』
更に詰め寄って来る銀色。その両手がわたわたと理由の無い動きをしている辺に
錯乱状態が見て取れた。
『あ、そう言えば』
まだ「報告」してませんでしたよね
「だって」と「でも」ばかりで会話にならない銀色を暫くジッと眺めていた男だったが
やがてポンと手を叩いた。
『「好い人」でしたよ、流石は火影様の仲介です。』
にっこり 笑い掛ける。
そしてまだ混乱から抜け切れず、本格的に頭が回っていない…
何の事だか「理解していない」相手に対し、男は
『お言葉通り、俺あの人と『幸せに』なりますねv』
可愛らしく…止めを刺した。
『さて、行こうか。昇格祝いに、ちょっと良い店を予約してあるんだ。』
お前等もそろそろ大人の仲間入りだしな
「受付」の顔に戻って誘う男に、子供達から漸く強張りが消える。
『『『先生』』』
『話は後で。其処はちょっと凝った料理が多いんだが、これがまた美味くてな〜』
お前等、戦地任務が多くて手間の掛かった飯、喰ってないだろう
そう言われてしまえば、まだまだ食べ盛りの子供達が逆らう訳が無い。
魂を抜かれた様に立ち尽くす元「上忍師」にちらりと気の毒そうな視線を投げながら
…一部『ウスラトンカチ』とか『先生、駄目々々』とか言った温かい声も聞こえたが
皆、連れられて行ってしまった。
これから何処かの料理屋で新米上忍達と和やかな(?)腹の探り合いに突入するのだろう。
ま、相棒が必要以上の情報を漏らす筈が無いのでそっちは気にしていない上忍である。
そして皆が行ってしまって。
特に見るモノも無くなったので…銀色は先刻から凍結したままだし…と。
彼もまた結界を解いて帰る事にした。
そろりと木陰の穏れ場から立ち去ろうとし…
「待てっっ髭熊っっ!!」
突然、背後から跳び蹴りを喰らう。気配の無い行動に、
注意していなかった上忍は目の前の樹へと激突しかけた。
どうにかそれだけは回避し。その場に転がってしまった上忍に。
「おいっっ吐けっ全て吐けっっ皆吐けっっ!!お前知ってたんだろっ」
…鬼気迫る形相で首を締めに掛かる銀髪が、居た。
「言えっ」「…っっ…」
首根っこを押さえられてギュウギュウ締め上げながら喚く銀髪に、
ガン…と頭突きを喰らわせて、黙らせる髭の上忍である。
そのままゼーゼーと荒い呼吸を繰り返す。
「痛い〜何すんだよ。」「ソレはこっちの台詞だっ」
危なく締め落とされる処だったのだ。上忍の怒りは深い。
「お前、態と黙ってたんだろうがっあの人の事っ」
俺が捜してるの知ってた癖に
責める様に泣き言を言う銀色の同僚に。
「それがどうした。」
平然と言い切る髭である。
「そんな…だから、何でっっ」
と、喚かれて
「『規則』だ。」
きっぱりと、相棒の言葉の真似をする。
「だからってヒント位…」
「一杯仄めかしていた筈だがな。」
アイツが。と言いつつ煙草を取り出す。
「お前、『付き合って』居た頃、どれだけ鍛錬や手合わせに誘われた?」
お前なら一度でもやり合えば気付いただろうに
深く吸い込んだ紫煙を吐き出しつつ訊ねれぱ。
「だって…先生、中忍だし…」
『だって』と『でも』で自分を正当化しようとする子供に
「馬鹿か。…『暗部』に階級があるかよ。」
お前は知らなかったんだろうが、下忍だって混ざってるんだぞ
プカリ また煙を吐きつつ教えてやる。
「…嘘…」
「本当だ。下忍の時に才を見出されて、どうせ影に生きるならその方が都合が良いって、
ワザと中忍試験も受けねぇ強者だって居るんだ。」
どうせ暗部の経歴は闇だしな 収入だけは良いし、生きて行くのに問題はないんだろ
ぷかりぷかり 世間話をする髭の言葉に、呆然としている銀色が居る。
もう少し人並みに周囲と交遊していれば、こんな話は幾らでも訊けただろうに…
上忍だけが暗部なら態々『階級に囚われず』なんて謳い文句は要らないのだ。
無駄に能力のあるこの男に逆らう者など居なかっただろう。
だから此処まで偏った思考の持ち主に成り下がった。
『上忍』で無い者をある意味見下して。…自業自得と言うモノである。
「で・でもっっだからってっっ」
泣きそうな顔をした銀色に珍しい物でも見る様な顔を向ける。
「大体お前、暗部姿の『俺』は判ったってのに同じ格好の『恋人』は
気付きもしなかったんだよな。」
あの時はしっかり交際中だったんだろ?
何で身体の隅々まで知ってる相手が判らねぇんだ?
敢えて怪訝そうに訊いてやれば
「だって、あの人が戦場に居るなんて考えもしなかったし…」
また、だってである。
「アイツがAランクもこなす出来た中忍だって事はお前だって知ってた筈だ。」
「…上忍のサポートにでも付いて行ったんだろうと思ったんだよっっ」
あの人応急手当とか上手いし そっち方面で と、ぐずぐず言い返してくる銀髪。
「…お前と『同棲』とている間にも何度も任務に行ってる筈だが。」
「あの人、返り血なんて浴びないじゃんかっ!少し位血の臭いが付いてたって
Cとか…精々Bランクだと思ったんだよっ」
叫ばれる
舞う様に戦う相棒は、確かにその身を汚す事は余り、無い。
移り香だけでは判らないのも当然か。
「それでもちゃんと相手の事を『知ろう』としてたなら判るんじゃねぇのか?」
お前が、本当に恋人と思って『見』ていたなら 想い人に似た外見だけじゃ無く
アイツは黙ってはいたが、然して隠そうともしていなかったし…
まして『騙して』なんかいなかったんだからな
髭の言葉に、銀色が沈黙する。
「しかもお前、アイツの事『振った』んだろ。…惚れた相手が居るからって。」
それって、『暗部』のアイツには惚れてても『日常の』アイツは要らないって
宣言したようなモンじゃねぇか
そう、言って。
「オマケに見合い相手と幸せにって言われちゃ、
幾ら長々『気付いてくれるのを待ってた』相手だったとしても」
百年の恋も冷めるってモンだよなぁ
しみじみと言い捨てれば。遂に立っている事も出来なくなったのか…
崩れ落ちる銀髪の同僚が、いた。
実際の処、アイツが『待っていた』と言うよりは…
銀色の余りの執着度に『待たざるを得なかった』のが真相なのだが。
…それはどうでも良い事だろう。
あれだけ『惚れ』られれば幾らなんでも絆される。…本当に情の深い奴だから。
なのに肝心の『人格』の方は格下だから、と切って捨てられて。
必死で捜す銀色以上に。…寂しい想いを抱えていた事を、
上忍はずっと前から気付いていた。
欠片でもヒントを与え続けていたのがその印で、
それでも『自分から』は伝えなかったのがその証。
…銀色自身に気付いて、『受け入れて』欲しかったから…
なのに愚かなあの、男は。
ほら、行け 背を押してやるから
行って、自分自身の全てを賭けて口説き落としてやれば良い。
何時の日か、例えアイツが許しても お前の中に芽生えた罪悪感は消えないだろう。
…消える様なら、何度でも掘り起こしてやるだけだ。
残りの人生、罪を抱えてたまま…精一杯アイツを大切にするが良い。
決して埋まる事の無い此れ迄の分を、少しでも埋め合わせて見せてみろ
俺の、唯一の『相棒』を。…お前は哀しませたのだから…