ケセラセラ 6

「ね、アレ何よ。」

傍らに立つ髭の上忍に訪ねるのは、艶やかな黒髪の女性である。

「さぁな、漸く自分の気持ちに気付いたんだろうさ。」

それに、髭の上忍が紫煙を吐きながら応えた。


彼等の目の前、数mの処では。彼等の仲間であり、里の誇る上忍である男が。
顔から出る物を全部出しながら地面に顔を摺り寄せて、伏して願い奉っていた。

…復縁、を。

「あら、でもアイツがイルカちゃんの事捨てたのって結構前よね?」

何だか、戦場で見た相手が忘れられないとかで。
確か顔も判らない、生死不明の相手に純愛してたんじゃなかったっけ?
思い出しながら語るくの一に、

「ああ。この間までまだちゃんと捜してたぞ。」

としっかり教えてやる。

「それがどうして?アイツ結構見栄っ張りだし、第一『階級差』絶対型のおバカじゃない。」

さらりと。 実は良く『観て』いるくの一に、
軽く首を傾げた状態で上目遣いに覗き込まれて
乗せられていると判ってはいても
つい甘やかしてしまう髭である。

「あ〜。それだが…」

お前。イルカの実力、どう思う? 髭上忍が、反対に訊ると。

「イルカちゃんの実力って…」

ふむ、と考える振りをするくの一。

「何で昇格試験受けないのか不思議、って処かしら。
大方火影様辺りに止め置かれて居るんじゃないの。」

良い『先生』ですものね あぁ言う貴重な人材はアカデミーから逃がさない様にしないと。

「ヒナタ達や他の子を見ても、イルカ先生が送り出して来た子は一味違うものね。」

うんうんと。頷いて見せる彼女はあの後も後進を育てている。

「…だろ。それをあの阿呆、『外に出るだけの実力が無いから』『子供の相手』をしてるんだと思ってやがったんだ。」

「バ…」

っかじゃない!と言う悲鳴は、彼女の口の中に消えた。

「中忍師って言ったら限りなく上忍に近い相手でしょう。
人格を加味されて昇格かアカデミーか決めるって言われてる位なのに。」

と。些か過激な性格故に、

『一般人』に近い子供達を扱う中忍師では無く『ある程度基礎の固まった』相手を扱く上忍師に
配属された事を、自覚しているくの一が呻く。

「でも、それが何?」

話が見えず、更ににじり寄ってくる彼女。

「この前、アイツん処の餓鬼共が昇格しただろう。」
「ええ。」

少し悔しそうに、応えるくの一である。
彼女のあの頃の元部下は、まだ『全員が』同僚に昇り詰めているでは無い。

「その祝いに全員で手合わせしたらしくてな。金髪坊主がその場にイルカを招待したらしいんだよ。」

「餓鬼の成長が見たいからって、アイツの前で手合わせしたイルカの実力に『初めて』『本気で』惚れたらしい。」

餓鬼共の目撃証言とイルカの話を聞いた限りは、な。
そう結論付ける…髭の、上忍。

「…それって…」 

一息置いて。深〜く、溜息と共にくの一が呟いた。

「つまり『一緒に居た』間はそんな事も知らなかった訳ね。」

それで今更の一目惚れですって 冷ややかな声に篭められた物は、重い。
…彼女も、『女性』だと言うだけで上忍になってでさえ侮られる事がある人生を送って来たのだ。
無論、実力でそう言う輩は廃して来たけれど。
『中忍』だって言うだけで実際の能力を見ない様な輩は唾棄すべき相手であった。


「其処まで馬鹿だったの、アイツ。」

氷の言葉。

「ああ。ただ、『階級下』相手にゃあんまりにも見縊り過ぎてて、却って表にゃ出さねぇ性質だしな。」

取るに足らねぇって思ってやがるから却って威張りくさったりしないし、鷹揚にもなる。
だから、あんまり気付かれて無いだろう?

「どうせアイツが就く任務は上忍ばかりの高位任務ばかりで。」

中忍の実力なんぞ知らなくても何の問題も起こらなかったって訳だ。

「精々餓鬼が受けた中忍試験の『中忍予備軍』しか知らねぇからな〜」

ぼやく言葉に、

「あの試験って、『中忍』の底辺が見れるだけじゃない。」

あそこから上忍へと精進して行くのだから、とくの一が呟けば

「…『昇格』しない中忍は皆、あのレベルで止まってるって思ってたみたいだぞ。」

真顔で語る髭の上忍。
…それにくの一は、今度こそ絶句した。


「で。『思ってたよりもずっっとデキた中忍』に『捨てて数年してから』本気で惚れた、と。」

冷たいを通り越し、絶対零度の視線が人前で土下座を続ける男に注がれる。

「顔も名も知らない相手の、戦闘力に惚れる様な馬鹿だからな。」

顔も性格も良く知った相手が、結構な実力者だって知って。
手放したくなくなったんだろ

こちらも、凍った口調で呟く髭である。

「でもそれだけにしちゃ、派手ね〜」

本当にそれだけ?と視線で問われ

「イルカに縁談が持ち上がったらしくてな。」

髭の上忍が追加事項を述べた。

「あ、成る程。」

有り勝ちだわね うんうんと。頷いて見せるくの一は、そう言う事の理解は早い。

「欲しいと本気で思った時は他人の物って訳ね。」

嬉しそうな言葉。

「イルカちゃんの為にはその方が幸せよねv」

 と呟く辺り本気である。

「それはイルカにも言われたらしくてな。」

『幸せになります』って宣言されちまったらしくて。

「で、却って退けなくなっちゃったんだ。」 

結構バカね。 先刻までとは違った意味で馬鹿と言ってのけるくの一である。

「変な処で執拗な奴だからな。惚れた、と思った時点で離れられなくなっちまったんだろうさ。」

ぷかり 何時の間にか灰になっていた一本目は捨てて、新しい煙草を口にしながら上忍が呟いた。


「…気の毒ね、イルカちゃん。」
「あぁ、気の毒だ。」

目の前ではその足に縋る様にして『謝罪』と『愛』を語る…
流石に人前で突っ込まれそうな言葉は
発していない。
ソレをやらかしたら今度こそ縁を切られるとわかっているのだろう…上忍と。

それを振り払…いたいのに無駄に強い上忍の腕力で捕らえられてしまい、
場から逃げ出せなくなっている中忍が居る。

「こんな場所でアレやられたら、断れ無いじゃない。」
「少なくとも見合い相手は逃げ出すな。」

くれぐれも言うが、『里の誇る』上忍なのである。下手に関わったら命が危ない。

「それが狙い…かしら?」
「多分な。」

2人して、溜息をつく。イルカの未来は最早決定だった。

「…せめて、何かあったらイルカちゃんの味方してあげましょうね。」
「おう。勿論だ。…あんなモン押し付けちまったんだからな。」



実は、その一言を彼女から引き出したくて。
延々と虚実入り混じった会話に興じていた上忍は、大きく頷いた。


…女性を、それも彼女を味方に付けると言う事は
これからも『困難』が続くだろうイルカにとって

大きなプラスとなる筈だ。

男の彼では思わぬ様な場所をしっかり『見て』いるのが彼女達だから。

 

自分の成果に満足しながら、再び修羅場に目をやれば。

騒ぎを聞きつけて来た三代目に、銀色がキセルの一撃を喰らった処だった。

そして。

五十歩百歩の『嘘本当』話をイルカから聞かされた、新米上忍とその仲間達…
未だ仲が良いのだ、
同期卒業生達は。
ましてや中にくの一が居たのだから色話なんてアッと言う間に広がってしまう…に。

矢張り針の筵に置かれる事となった銀髪上忍であった。



そして今、銀色の下僕への道が始まる…




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