サバイバーその後 5
休む日と書いて休日。
その日の朝はまさにその言葉に忠実に、ひどくのんびりとしたものだった。
少年サッカー大会が終わったばかりという事もあって、イルカも珍しく完全な休みとなっている。
なので朝とは言い難い時間になってもまだ、イルカとカカシの部屋のドアは開かれる気配すらもなく。
ピンポーン
「ん……」
何か気になる音を聞いたような気がして、イルカの意識はぼんやりと浮上し始めた。
薄く開いた目に見えるのは白いシーツ、クリーム色の壁、そして机に崩れ落ちそうな程に積まれた本の山。
見慣れた自分の部屋の自分のベットである。
ただしイルカだけの……ではなかったが。
肩に自分の物ではない息遣いを感じる。腰に回された手もやはりイルカのものではない。
ピッタリとイルカに張り付いて気持ちよさそうな寝息を立てているのは、ハンサムで無口なイルカの恋人だ。
そして目を覚ましても中々頭がはっきりしないのは、昨夜も遅くまでしつこく、
この恋人が腰を押し付けて寝かせてくれなかった所為だろう。要はまだまだ寝足りないのである。
――明日は休みだし、ほら……イルカ先生だってその気になってるし……
――その格好……凄く興奮する
未だ耳に残っている、熱のこもった低い声。
(まったく……ああいう時だけ妙に饒舌になるんだからな……)
普段は必要な事も喋らないような男のくせに、 夜二人きりになりイルカをその支配下に収めたとみると、
途端に恥ずかしい台詞を連発する。繋がる事ばかり考えて、その思考回路はまるで獣だ。
年中発情期か何かのように乱暴に情け容赦なくイルカを暴くが、
なだめるように降ってくるキスは正直イルカも嫌いじゃない。
くっつきたがる癖も、重なり合った時のその確かな重さも。
休みで何時まで寝ていても大丈夫との安心感があった為だろうか
、カカシの寝息を聞いているうちに再び眠気がイルカを襲う。
(あと……ちょっとだけ……だから)
誰かに言い訳でもするようにそう考えると、イルカはまどろみから再び就寝状態へ。
しかし眠りの中に完全に意識が沈むのを、慌しい音と声が遮った。
――タタタ……ガチャ
突然のはっきりとした物音に、半眠り状態のまま頭を上げたイルカ。
その目に映ったのは……。
「イッルカ先生! 寝坊だってば!」
「イ、イルカ……?」
扉を開け呆然とイルカを見つめているサスケと、何も分かっていない無邪気な笑みのナルト。
二人の目には寝ぼけ顔のイルカと、イルカを抱き込むように覆い被さっているカカシが映っている。
つまり一つベットでピッタリくっついて眠る男二人の姿が。
はっきりと目が覚め状況を理解するに連れ、イルカの頭は真っ白に、そして顔色は青く染まっていく。
「あ……これは、だから……」
冷静に考えれば、ここまでならまだ取り敢えず、カカシの寝相の悪さで誤魔化す事も出来たろう。
男二人と少女一人の三人暮らし、部屋数の問題もあって男同士で同じベットを使う事になったと。
少々無理もあるが、使えなくもない言い訳だ。
しかしイルカの頭はほぼ真っ白。
そしてカカシはどんなに騒がしくても簡単には目を覚まさない男だった。
そして寝汚い上に、本能に忠実である。
いつものように自分の腕の中から逃げようとする温もりを、逃さんとばかりに抱き締めなおし
眠ったままその存在を確かめ始めた。つまり両手と唇を這わせて。
「や……っ、バッ……放し――」
動揺して暴れたことで布団がベットから半分ずり落ち、二人が裸である事まで明らかになってしまうと、
もう言い訳は不可能である。何よりもイルカの裸体に散る紅いキスマークが、全てを物語っていた。
「……! ……っ」
サスケは衝撃を受け過ぎてもはや声も無く。
分かっていないナルトの方は、「プロレスだってばよ!」と大喜びで二人に飛び掛っていく。
重なり合った裸体の男二人の上に、無邪気に飛び乗るナルト。
部屋の入り口でそれを止める事も出来ずに、呆然と固まっているサスケ。
大切な、殆ど唯一の友人で、昔から真面目すぎる程真面目だったイルカが、
引き締まった裸体を持つ男に組み敷かれ、あられもない姿を晒している。
その光景はサスケの常識の範囲を遥かに越え、もはや未知の世界。刺激があまりにも強過ぎた。
衝撃に固まってしまったサスケのすぐ後ろのダイニングでは、
サクラがそんな新しい友人達の反応を尻目に、楽しそうにお茶の準備を進めていた。
鼻歌まじりでサスケがお土産に買ってきてくれたロイヤルチーズケーキをテーブルに並べ、
最近集め始めたナルミの梅の花のシリーズのティーカップに、マスカットの紅茶を注いでいく。
「あー…いい香り」
甘酸っぱい紅茶の香りと、イルカの悲鳴に近い怒鳴り声が、幸せな日常の光景を鮮やかに彩っていた。