サバイバーその後 2

「…――だから、ええ、ごめんなさい。じゃあ……」

 

疲れたように受話器を元の場所に戻すと、祥子は誰が見ている訳でもないというのに、

大げさなほどの深い溜息を付いた。

電話を掛けてきたのは飯島司。付き合い始めてもう二年以上になる祥子の恋人だが、

三ヶ月前にアパートを引っ越してからはまだ数えるほどしか会っていない。

殆ど破局寸前の相手である。

当初あれだけ眩しく思えた、センスやその華やかな交友関係の数々も、

付き合いが長くなるに連れて徐々にメッキが剥げ始め、

今では殆ど中身の無い言葉だけの男である事が分かっていた。

そして先日。

 

「や、やぁ、久しぶりだねぇ」「……?」

 

彼が顔見知りだと吹いていた有名人に、雑誌に載っていたある店でばったりと出くわし、

何アンタ? といった顔で見事に無視される場面を目撃した時、

祥子はもう完全に飯島に対し愛想が尽きたのを感じた。

それなのにまだ付き合いが続いているのは、他にこれという新しい出会いがなかったからに過ぎない。

それに祥子自身は意識していなかったが、

自分に未練のある男を振り回し後を追いかけられているという今の立場に、

ちょっとした優越感を覚えていた所為もあったろう。

それもあの鼻につく鉤鼻と、頻繁に顔をつき合わせたいと思うほどではなかったが……。

 

「イルカ」

 

一人きりの夜。

その寂しさに浸りながら、ちょっとした行き違いで別れる事となった、かつての恋人の事を思い浮かべる。

彼は飯島とは比べ物にならぬほど真摯で優しく、自分との将来の事をいつも真剣に考えてくれていた。

平凡な人――付き合っていた頃はそれが不満だったのだが、離れてからはその平凡な優しさが、

どれだけ貴重なものであったのかを感じぬ日はない……と、祥子の中ではそういう事になっている。

 

「会いたい……」

 

ほろりと涙をこぼしながら、手近にあった広告の紙をハンカチの代わりにクシャクシャにする。

イルカとは何度か連絡を取ろうともしてみたのだが、既に引越し、

またそのせいで電話番号も変わってしまったらしく、それは叶わないままだった。

有給を取ってイルカの勤めていた小学校へ訪れた時も運悪く移動があった後で、

新しい学校と連絡先を他の職員から聞きだそうとしたが、

規則でそれは出来ませんとすげなく断られてしまったのだった。

「彼の恋人です」と名乗ったことで、恋人が連絡先を知らぬなどという事は有り得ないと、

不審に思われたのだという事にも祥子は気付いていない。その代わりに祥子の中では、

自分達はまるで運命に引き裂かれた恋人同士のようだと、勝手な薄幸ストーリーが出来上がり始めていた。

 

「あら……?」

 

ふと祥子は握りつぶした広告紙の中に、少し厚手の手紙のような物が混ざっているのに気が付いた。

ダイレクトメールと不動産などの広告の中に混ざっていたその手紙。

それを見て、祥子の目がキラリと光を放つ。

 

『○○大学サッカー同好会&○○大テニス同好会OB・OG会のお知らせ』

 

そこに記されていたのは、大学時代よく合同で旅行や飲み会を企画した、

近場の大学の二つの同好会の名前。イルカの入っていたサッカー同好会も、

祥子の入っていたテニスの同好会も、友人同士の極めてアットホームな集まりだった。

そして二つの同好会は代表同士が幼馴染みという事もあって合同で何かをする事が多く、

祥子とイルカのようにその交流が切っ掛けで付き合い始めたという者も多い。

恐らく今も付き合いのある者達が、懐かしい仲間と旧交を温めようと、

同窓会めいた会合を企画したのだろう。

そういえばそういったお祭り事が好きなメンバーが何人かいたと、祥子は懐かしい顔を思い出す。

そして当時の穏やかで幸せだった日々を。

封を切り中の手紙を確認してから、祥子は薄く微笑んだ。

 

「この連絡はきっとイルカにもいってる筈だわ……」

 

イルカは男友達が多かった。こういった集まりに彼が誘われぬ筈がない。

 

「ああ、やっと――…」

 

やっと鬱陶しい男と別れ、あるべき関係を取り戻せると祥子の顔は輝いた。

イルカと元の鞘に収まり、三十前には結婚する。

飯島に対してはあまり良い顔をしなかった両親も、イルカの事はとても気に入っていた。

それにイルカと共にあれば、いつか出会ったあの華やかな二人とも交流を持てるだろう。

祥子の心は安定した未来とちょっとした刺激への期待で踊り、その記憶からは自分のした事や、

かつてその二人からぶつけられた言葉など、既に欠片も残っていなかった。

 

 

 

そしてOB・OGの集い――当日。

その日祥子は忙しい時期に無理を言って一日有給を取り、朝から来ていく服などを吟味して

準備万端整えてから会場であるレストランへと向かった。

五反田の駅から徒歩数分の所にあるそのレストランは、

内輪での結婚式にも対応してくれるというお洒落な造りのもので、

仲間内の再会を彩るには十分な豪華さだった。

集まっているのは今のところ予定の半分の二十人程。

久しぶりとはいってもせいぜい四年程の空白だ。中には驚くほど面変わりした者もいたが、

少なくとも皆この場では明るく微笑み、まだまだ若さを失っていない事を周囲へとアピールしていた。

何人かから遅れると連絡があったという事で、では先に始めていようと幹事が乾杯の音頭をとる。

繊細なグラスの立てる耳をくすぐるような響き。立食形式のパーティだ。

壁際には椅子も置いてあったが、乾杯が終わると皆早速思い思いに集まって、

あちこちで過去を懐かしみ近況を交換する会話が始まった。

 

「久しぶり祥子! あなたったら見違えちゃったわ、なんだか綺麗になったんじゃないの?

随分垢抜けちゃってどうしたのよ。海野君とは相変わらず?」

 

祥子とイルカの事は大抵の者が知っている。来るかと思っていた話題を早速ぶつけられ、

祥子は(来た!)とばかりに伏し目になって言葉を濁らせた。

 

「え〜〜嘘!?」

「別れちゃったの? 何で!」

 

祥子は自分がイルカを振った事実は一切口にせず、ちょっとした行き違いで別れることになった事、

お互いに意地を張ってしまった事などを切々と説明する。

そして今では別れた事をとても後悔しており、出来ればよりを戻したいと考えている事も。

祥子には別に嘘をついているつもりもなければ、

同情を誘おうという意図すらも自分では意識してはいなかった。

大切なのは再びイルカと付き合う事。

それで二人が幸せになれるのだから、祥子が罪悪感を感じる必要など何もない。

(別に私、咎められるような事は何もしてないわ)

周囲の協力があればイルカとよりを戻すのも容易い、そういう計算も意識外での事。

自分達がやり直すのは、お互いにとって良いことなのだという勝手な思いが、

嘘を口にする祥子の心を随分と軽くしていた。

だがそんな祥子の都合のいい思い込みに、鋭い声が待ったをかける。

 

「――祥子、あんた、それって随分都合のいい話じゃない?」

 

冷たくそう口を挟んだのは、祥子のかつての親友。

ここ二年程……丁度飯島と付き合い始めた頃から交流の途絶えていたその友人は、

長かった髪をショートにし以前よりもはっきりと大人びていたが、

その説得力のある口調や頭のよさそうな強い瞳だけは昔と全く変わっていなかった。

彼女の存在をすっかり忘れていた祥子は、動転して思わず持っていたグラスを揺らす。

 

「さ、さやか……」

「二年前に電話で言ってた事と、随分話が違うんじゃない? イルカ君じゃ自分には物足りない。

このまま結婚して子供を生んで、平凡な毎日を送るのは耐えられないとかって言ってたわよね。

すれ違ったっていうより、あなたが自分の都合で振ったっていうのが事実じゃないの?」

 

「そ、それは……だからっ」

 

イルカと別れる前に相談を持ちかけ、肯定を得られなかった事でそのままずっと疎遠になっていた親友は、

異議を申し立てる弁護士の口調で、力強く淡々と言葉を続けた。

 

「確か気になる人が出来たんだったわよね。その彼とはどうなったの? 

まさか駄目になったからまたイルカ君に……なんて、考えてんじゃないでしょうね」

「ち、違うわ! そんなんじゃないっ。一度離れて身にしみたのよ、自分がどんなに馬鹿だったか!

 やっぱり私にはイルカしかいないって!」

 

必死でそう訴えても周囲の白けた視線はもう変わらない。

言葉で責めるというのではなく、ただ無言の沈黙が皆の思いを正直に表していた。

暫くして、気まずい空気を嫌った誰かが別の話題を持ち出すが。

 

「篠原と滝君……今は結婚して滝夫婦だけど、なんか彼らも離婚が近いらしいわよ」

 

何故かまた話題はそんな深刻な方向へ……。

 

「ええ!? でもあの二人って、確か子供がいたじゃないの、 それで学生結婚したんだったわよね」

「その子供の事もあって大変みたい、どっちも引き取りたくないとかって言ってるんですって」

「酷い話よね。まあまだ若いし、コブ付きなるのに抵抗感じるのも分からないでもないけど、

子供にとってはホント、たまったもんじゃないわ。まだ小さいんでしょうにねえ……」

「ちょっとちょっと、どうしたのよ皆っ。せっかくの集まりなんだし、もっと景気のいい話をしましょうよ!」

 

重くなった空気の中、誰かが盛り上げようとそう叫んだ、丁度その時だった。

カランと扉が音を立て、新たなメンバーがまた一人店へと足を踏み入れる。

現れたその背の高い人物を見て、女性陣のほぼ全員がそれまでの話題を忘れ色めきたった。

 

「サスケ君!」

「キャー、久しぶり!」

「相変わらずステキなんだから――!」

 

内波サスケ――有名芸能プロダクションの御曹司にして、

現在裏方ながらテレビや雑誌にも異例の露出を見せている有名人。

学生時代は男性モデルもしており、二足のわらじで忙しかった為滅多に飲み会などには顔を出さなかったが、

彼を目当てにサッカーの見学に来ていた者もかなりいる。

 

「嘘でしょ、まさかサスケ君が来てくれるなんて!」

「MATURIのサインとか貰えるかな」

「ちょっとっ、仕事の話は今は無しでしょ! あ、サスケ君こっちで飲み物でも――」

 

年間収入恐らく数千万。勝ち組の筆頭にして、女性達の憧れの的。

ちょっとした芸能人並みの容姿と有名度を誇る彼が、

まさか大して交流も無かった同好会のOB会に、顔を出してくれるとは思わなかった面々だ。

女性陣の勢いはいうまでも無かったが、

男達も抜け目がない。話の種に、上手くいけば何かいい話のおこぼれに預かけるのでは……と、

レストランの中の熱気は一気に沸き上がった。

その後すぐにやって来た例の離婚間際だという夫婦の片割れまでもが、

驚いて歓声を上げた後、連れてきた子供を放って騒ぎに加わっていく。

まだせいぜい五歳かそこらのその子供は、

母親に取り残され、入り口付近で所在なげに独り立ち尽くしていた。

 

イルカが姿を現したのは、ちょうどそんな状況の中。

 

少年サッカークラブの練習を終え、ほぼ着のみ着のままで会合に顔を出したイルカだったが、

服を選んだ人物のセンスのおかげもあって、お洒落なパーティの雰囲気の中にも

特に浮き立つ事もなく自然に溶け込んでいた。

けれど子供は違う。その賑やかな空気に混ざれずただ異物としてそこに在ったその子供。

彼に最初に気付き声を掛けたのは、そのやって来たばかりのイルカだった。

 

「どうしたんだ?」

 

自分に気付いてしゃがみ込み、目線を合わせてきたイルカに、

子供は少しホッとした様子を見せてから、慌ててキッと胸を張り言った。

 

「オレってば、母ちゃんといっしょに来たんだってば」

「お、じゃあもしかしてお前滝のとこの子か? ナルトっていったっけ、随分おっきくなったなぁ」

「お、おっちゃんオレの事知ってんの?」

 

普段先生とは呼ばれても、この年代の少年におっちゃんと呼ばれた事のなかったイルカは、

微かに衝撃を受けてよろめいた。

 

「おい、おっちゃんはないだろうって。いや父ちゃんと同い年だから…おっちゃんでいいのか……?」

 

俺も随分と歳を取ったもんだと呟いてから、イルカはナルト少年にニカリと笑って見せる。

 

「とりあえず腹減ったな、何か食うか」

「お、おうってばよ!」

 

当然のように意気投合したイルカとナルト少年は、

サスケを中心とした騒ぎを避け適当なテーブルに落ち着いた。

 

「お、イルカ来たか」

「久しぶりだなーっ、おい!」

 

アイドルや芸能人には特に興味の無い男性陣が、イルカを見つけ次々と声を掛けてくる。

昔からイルカは友人が多い。

最近では教師の仕事が忙しいのともう一つの理由とですっかり疎遠になっていたが、

顔を合わせればここ数年の空白も一気に無くなったようにすぐに親しさを取り戻した。

 

「お前、ほんっと変わんねぇなぁ。学生つってもまだ通用するんじゃないのか?」

「お前らだって、スーツとか着てるものか変わっただけで、中身は殆ど変わってないだろ」

「いやいや、苦労の連続でほら、腹が二段に……」

「お前、付き合いとか言って酒ばっかり飲んでるんだろう。

たまには運動しろって、この歳で中年太りはマズイだろ」

 

わいわいと、気がつけばイルカを中心に、小さな輪が出来始めている。

その中でナルトも先程までの異物扱いが嘘のように、しきりと構い倒されていた。

 

「何だ何だ、お前のガキか?」

「違うって。滝んとこの子だよ」

「へえ、そういや似てるか滝の奴に」

「いや、やっぱりイルカの子供みたいだって。ほら、食いっぷりなんかそっくり」

 

一緒になってローストチキンの姿焼きから取り分けた骨付き肉に齧り付いている姿は、

確かに似ているとも言えなくない。というよりも実際は、

ナルトが一生懸命イルカを真似ていたというのが本当だったが。

小さなナルトはすっかり、この父親と同じ歳の、

父親よりもずっと親しみやすい笑顔を持った青年に、懐いてしまっていた。

 

 

 

一方で、大勢に囲まれ質問攻めにされていたサスケは、早くも来た事を後悔し始めていた。

OB会の知らせを見つけ、会場の場所が事務所から近い事もあって

気分転換になるかと参加を決めたのだ気分転換どころか熱気と煩さにうんざりとするばかり。

そこへ唯一懐かしいと思える顔を見つけ、サスケは「悪いが……」と

人をかき分け何とか囲みを抜けると、逃げるようにしてその人物の元へと向かった。

 

「イルカ」

「お、久しぶりだなサスケ。相変わらずもててるなー」

 

嫉妬も媚も何もない、ただ会えたのが嬉しいという自然な微笑みに、

サスケの顔にも珍しく笑みらしきものが浮かぶ。     

 

「……身ぐるみ剥がされそうだ」

「はは、よしよし匿ってやるって」

 

サスケに対しこんな風に気安く口をきいてくる男も、サスケがそれを許す相手もそうはいない。

海野イルカはサスケにとって、友人と呼べる殆ど唯一の存在だった。

元々サスケ自身にべたべたした人間関係を好まぬ所があったので、来るものは拒まず去るものは追わず、

けれど一度懐に入れた者に対してはどこまでも親身になってくれる……

そんなイルカの適度な距離の取り方が、心地よく感じられたのかもしれない。

同好会に顔を出していたのも、少し体を動かしたかったというのもあったが、

イルカがいたからという理由がかなり大部分を占める。

だからイルカが昔と全く変わっていない事が、サスケにはとても嬉しかった。

それにイルカと一緒にいる時は、うるさい外野も何故かあまり近づいてこない。

だからサスケはようやく料理に目を向ける余裕も出来、寛いだ様子を見せ始めていた。

 

しかし突然自分とイルカの間に割り込んできたサスケに、ナルト少年の方は少し面白くない。

それにサスケは自分の母親がキャーキャー言って纏わり付いていた相手でもあるのだ、

好意を持てというのが難しかったろう。

 

「そのコロッケオレのだってばよ! そっちのお寿司もとっといたヤツ!」

 

サスケが手を伸ばす料理にいちいち所有権を主張してソスケを鼻白ませ、

そんな二人の様子をイルカは面白そうに見守っている。

ちなみにナルトがコロッケと言ったのはカマンベールチーズのフライの事で、

お寿司も普通のネタではない。創作料理めいた変わったメニューとデザートの豊富さが売りの

レストランだけあって、中々見た目にも楽しませてくれる。

 

「ナルト、このコロッケの中身ははチーズだぞ。全部一人で食べると牛になるかもな」

「う……牛!?」

「そう、モ〜〜って鳴く奴だ。でもこっちのちらし寿司みたいなのとか、

野菜も色々入ってるのをちゃんと食べとけば、中和して大丈夫かな」

 

イルカの指したちらし寿司のような物も、寿司飯を使っていない上にアボガドや

鮭のバターソテーが混ぜ込まれているという変わり種だ。

そしてそれがまた中々の味なのである。

見た事も食べた事も無い料理の数々に好奇心を刺激され、

ナルトはそれらも片っ端から自分の皿に盛り始めたが……。

 

「変な色のピーマン……」

 

子供の常でナルトもどうやらピーマンが苦手だったらしい。

もっともナルトかそう言ってイルカの皿に移そうとしていたのは、黄色と赤のパプリカだったが。

 

「イルカ……この小さいの、どこから迷い込んで来たんだ?」

「オレは小さくないっ、それにちゃんと滝ナルトって名前があるってばよ!」

 

このテーブルはもう自分の陣地だしイルカも自分の遊び相手だと、

子供らしい独占欲でもって対抗してくるナルトに、

この年代の子供に免疫のないサスケはまたつい煽るような事を言ってしまう。

 

「……生意気なところだけは一人前だな」

「お前のが生意気だってば!」

「ほらほらサスケもナルトも、これ美味いぞ、騒いでないで食ってみろって」

 

サスケとナルトがいちいち揉めては、それをイルカが取り成すという、

奇妙に微笑ましい構図がここに出来上がった。

素っ気無い態度ながらも、ナルトを相手にするとサスケがまた珍しく饒舌で、

それなりに会話が成立しているのが面白い。

 

「二人ともすっかり仲良くなったな」

「ゼンゼン良くなんかないってばよ!」

「……どう見ればそうなる」

 

そんな遣り取りを遠巻きにしながら、女性陣はひそひそと言葉を交わす。

 

「不思議よねぇあの二人って。全然違う世界の人間って感じなのに、

昔から妙に仲がいいっていうか……」

「サスケくんも、海野くんと一緒だとホントよく笑うし。

何か凄くいい感じだから邪魔したくないって思っちゃうのよねえ」

 

イルカ一人を見れば平凡だが、サスケと二ショットになると何故だか一緒になってよく目立つ。

それも引き立て役としてではなく、対等な関係の二人として周囲の目に映るのだ。

そしてそんな彼らの邪魔をするのは無粋だと、そう見る者に思わせる。

 

「………っ」

 

この状況の中で一人でイルカに近づいては、抜け駆けと責められるのは間違いない。

だから祥子もまた、遠巻きにそんな二人を見つめている事しか出来なかった。

サスケを囲む騒ぎにしっかり混ざっていた祥子は、その為イルカが来ていたのにも気付かず、

すっかり話しかけるタイミングを逃してしまったのである。

(イルカも、どうして私に声くらい掛けてくれないの……!)

そんな焦燥を露わにした視線に気付く事もなく、

イルカ達の周りは明るい会話で賑わい、楽しそうな笑みが絶えなかった。



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