本音を聞かせて 3

はたけカカシは不思議な人だ。

 

あまりに有名な逸話とは裏腹に、彼の人柄は飄々として掴みどころがない。

どこか達観したような穏やかな姿は、かつて暗部に身を置いていたという事実を忘れさせるのに十分だ。

子供たちを託してから、カカシと知り合い、そして一緒によく飲みに行くようになった。

くだらない話もすれば、真剣な話もした。カカシの話は中忍の自分には興味深い話ばかりで。

けれど、彼と親密になればなるほど、気づいてしまった。時々、彼が自分を見て、寂しそうに笑うことに。

 

「…イルカ先生?」

自分の腕で固まってしまったイルカに苦笑して、カカシはイルカの頬に流れる一筋の涙を拭ってやった。

(思わず言っちゃった…)

長く自身の胸に隠してきた気持ちは、あっけないほど自然に零れ落ちた。

 

「言っときますが、オレの『好き』は友情の意味なんかじゃなくて、肉欲を含む『好き』なんで。」

「あ、あの…」

 

更に固まるイルカを、カカシは柔らかく抱きしめて、困ったように笑った。

 

「ごめんなさい、あなたに迷惑をかけるつもりはなかったんですけど…」

「……俺は、悲しめばいいんですか、喜べばいいんですか?」

「え?」

 

教え子を喪ったことを悲しめばいいのか、あなたに告白されたことを喜べばいいのか。

暫しの沈黙の後、ぽつりと零されたイルカの言葉に、カカシは思わず言葉を詰まらせた。

 

「…っ、喜んで、くれるんですか?」

「誰だって、人の好意は嬉しいに決まっています。」

 

カカシの腕から逃れ、カカシに向き合ったイルカは、目じりを拭いながら、

少し赤い顔ではにかんだように笑った。

 

「肉欲を含んだ『好き』でも?」

「そ、それは…努力します…。今すぐには無理ですけど…。」

「ありがとう、イルカ先生、大好きです。」

 

きっと同性と肌を重ねることなど知らない人。このような告白にとまどったのは傍目にも明らか。

けれど、嘘偽りのない答えは、真摯にカカシの心に届いた。そして、努力してくれる、とも。

その心が嬉しくて、カカシは心の中で何度も大好き、と呟いた。

 

――本当は知っている。

アンズがあの日、別れ際に叫んだ『先生大好き!』という言葉には本当の恋情が含まれていたことを。

その言葉に含まれる切なる想いに、きっとイルカは気づかなかった。

彼女の想いが届くことはないけれど、自分はこれからを生きていく。

もっと多くの時をイルカと過ごしたいと願う。

 

「いつか、イルカ先生がオレを受け入れてくれるように願ってますよ。」

肉欲の『好き』って意味でね、とカカシがいたずらっぽく言うと、イルカは呆れたように笑った。

 

――本当は知っている。

カカシと過ごす時間がとても心地よいものであることを。

この時間がずっと続けばいいのにと思っている自分がいることを。

おそらく、自分が自ら望んでカカシの手を取る日もそう遠くないなと、

酒宴へと戻るカカシに手を引かれながら、イルカは一人苦笑した。

 

 

二人の周りには、薄紅の桜の花びらが余韻に浸るかのように、ふわりふわりと舞っていた。



A←    

 

indexへ   getroomへ