膜ATPase

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 細胞は、細胞膜の内外を、物質の濃度勾配に逆らって、物質を能動輸送している。
 膜ATPaseは、イオンを、細胞膜の内外に、能動輸送させる輸送たんぱく質。
 膜ATPaseは、ATP分解のエネルギーを利用して、膜内外の電気化学ポテンシャル差(電気化学的勾配)に逆らって、ポンプのように、物質を能動輸送をする(ATP駆動ポンプ)。

 生体膜には、4群のATPase familyがある。
 膜ATPaseは、輸送するイオンによって、Na+,K+-ATPase、H+-ATPase、Ca2+-ATPaseなどと呼ばれる。
 H+-ATPaseには、ミトコンドリアのF型H+-ATPase(複合体V)、形質膜のP型H+-ATPase、液胞のV型H+-ATPaseの3種類がある。

 1.F型ATPase群
 ミトコンドリア内膜に存在する、F型H+-ATPaseが、ATP合成酵素(複合体V)。F0F1から構成されているため、F型と呼ばれる。
 F型ATPaseに異常があると、ATP合成を解糖で補おうとするため、高乳酸血症になる。
 F型ATPaseの異常を来たすミトコンドリア筋脳症には、KSS(Kearns-Sayre症候群)、MELAS(mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis and stroke like-episodes)、MERRF(myoclonus epilepsy with ragged red fibers)がある。

 2.V型ATPase群
 細胞内の液胞(vesicle)などの細胞内膜に存在するため、V型と呼ばれる。
 液胞内のpHの制御、物質貯蔵に重要。
 V型H+-ATPaseは、リソソーム、エンドソーム、ゴルジ体、シナプス小胞、クロマフィン顆粒などの細胞内膜に存在し、細胞液側から、内膜の内側にH+を輸送する。
 V型H+-ATPaseは、シナプス小胞に神経伝達物質を貯蔵する。
 リソソームの膜に存在するH+-ATPase(プロトンポンプ)は、リソソーム内をpH5程度の酸性に保ち、加水分解酵素活性を維持する。

 3.P型ATPase群
 形質膜(plasma membrane)に存在するため、P型と呼ばれる。
 細胞内液と細胞外液との間をカチオンを輸送する:神経細胞や筋細胞の興奮に伴い、チャネルを移動して細胞内に流入するNa+、細胞外に流出するK+を、元の濃度に維持する。
 胃液の分泌、銅代謝にも重要。
 P型ATPaseは、E型ATPaseとも呼ばれる。
 P型ATPaseには、形質膜に存在する、Na+,K+-ATPase、H+,K+-ATPase、Ca2+-ATPase、P型H+-ATPase、Cu2+-ATPaseがある。

 a.Na+,K+-ATPase
 Na+,K+-ATPase(Sodium Pump)は、3ケのNa+を細胞外に汲み出すのに伴い、2ケのK+を細胞内に取り込む。
 Na+,K+-ATPaseは、すべての細胞に存在する。
 Na+,K+-ATPaseは、細胞内のNa+を細胞外に、能動的に汲み出す、Na pump
 細胞膜は、Na+は不透過だが、水は透過させるので、 Na+を細胞外に汲み出せないと、浸透圧の関係で、水が細胞質に流入して、細胞が破壊される恐れがある。
 Na+,K+-ATPaseにより、イオン濃度の勾配が形成され、新たに、細胞の反対側から、Na+が輸送される。

 予め細胞質内に存在するNa+,K+-ATPaseは、アルドステロンcAMP、vasopressinにより、細胞膜表面にリクルートされる。
 腎皮質の集合管では、細胞内Na+濃度([Na+]i)が上昇すると、Na+,K+-ATPase活性が増加する(注1)。
 Na+,K+-ATPaseは、K+チャネルと、共役的に働く:Na+,K+-ATPaseにより、細胞内で増加するK+イオンは、K+チャネルが働いて、K+チャネルを介して、細胞外に放出される。
 Na+,K+-ATPaseは、Na+/H+交換輸送体と共役的に働く:Na+,K+-ATPaseにより、細胞内で減少するNa+イオンは、Na+/H+交換輸送体を介して、細胞外から細胞内に、受動輸送される。

 Na+,K+-ATPaseによって、細胞内と細胞外に、Na+の濃度勾配が形成され、この濃度勾配を利用して、糖やアミノ酸などが、協奏的にチャネルから、細胞内に取り込まれる。

 小腸や、腎臓の尿細管では、Na+は、グルコースブドウ糖)と共に、Na+-ブドウ糖共輸送体SGLT:sodium-dependent glucose transporter))により、細胞内に取り込まれた後、Na+,K+-ATPaseにより、細胞外(血管側)に汲み出される(グルコースは、小腸では、GLUT2により、血管側に輸送される)。

 遠位尿細管上皮細胞では、基底膜側(血管側:basolateral site)からNa+,K+-ATPaseで、Na+を血中に汲み出し、刷子縁膜側(尿細管腔側:apical site)のNa+チャネルENaC:epithelial sodium channel) から、尿細管腔の原尿中のNa+を、細胞内に流入させる。この際、同時に、K+は、血液中から尿細管腔へ転送される。
 アルドステロンにより、Na+再吸収が促進される:アルドステロンは、細胞質内に予め存在するNa+,K+-ATPaseを、基底膜側の細胞膜表面にリクルートさせる。その結果、アルドステロンは、尿細管細胞の刷子縁膜側(尿細管腔側:apical site)では、Na+チャネル(lENaC)を活性化させ、尿細管腔内(原尿中)のNa+を細胞内に流入させ、基底膜側(血管側:basolateral site)では、Na+/K+-ATPase(Na pump)を活性化させ、Na+を細胞内から細胞外(血管中)に汲み出すことで、Na+の再吸収を促進させる。

 インスリンには、Na+,K+-ATPaseを、細胞質から、細胞膜にトランスロケーションさせる作用があるという。
 プロスタグランジンE2(PGE2プロスタグランジンI2(PGI2)、プロスタグランジンF2(PGF2)、5-HEPETEは、結果的に(注2)、Na+,K+-ATPaseの活性を低下させる(PGD2、PGE1は、影響しない)。
 糖尿病で高血糖になると、ソルビト−ルが細胞内に増加して、Na+,K+-ATPase活性と低下させ、電気的刺激伝導を遅延さ、糖尿病性神経障害が起こる。

 強心剤のジギタリス剤は、Na+,K+-ATPaseによるNa+の汲み出しを阻害し、細胞内Na+濃度が上昇する。そして、Na+/Ca+交換輸送体が働き、Na+を細胞外へ汲み出し、交換に 細胞内へCa2+が輸送され、細胞内遊離Ca2+濃度が上昇し、心筋収縮力が増加する。

 脳血管障害などで、脳細胞が虚血状態に陥ると、ATPが枯渇し、Na+,K+-ATPaseなどが、機能しなくなり、細胞は、脱分極を起こす。その結果、電位依存性Ca2+チャネルから、Ca2+が細胞内に流入して、グルタミン酸が興奮性神経伝達物質として放出される。また、細胞内Ca2+濃度の上昇により、細胞内のCa2+依存性プロテアーゼが活性化され、細胞死(Ca2+ mediated cell death)が起きる。

 b.H+,K+-ATPase
 H+,K+-ATPaseは、胃の壁細胞から塩酸(HCl)を分泌する際に必要な、胃のプロトンポンプ
 H+,K+-ATPaseは、胃の内腔に水素イオン(H+)を分泌し(胃の内腔は、pHが1程度になる)、壁細胞内にK+を輸送する。
 壁細胞内では、水(H2O)が、H+とOH-に分解される。H+は、H+,K+-ATPaseにより、胃の内腔に分泌される。OH-はCO2と結合して、重炭酸イオンHCO3-として、壁細胞外(血管)に放出される。
 壁細胞表面に存在するH+,K+-ATPaseは、胃の内腔にH+を分泌し、交換に、壁細胞内に、K+を取り込む。
 H+,K+-ATPaseで細胞内に輸送されたK+は、K+チャネル(K+ channel)によって、細胞外(胃内腔側)に受動輸送される。その際、壁細胞内のプラスイオンとマイナスイオンの平衡を保つ為に、Cl-が細胞外(胃内腔側)に輸送される。
 なお、壁細胞のH+,K+-ATPaseは、ヒスタミンH2受容体(肥満細胞からの刺激を受け取る)、ガストリン受容体(血行性の刺激を受け取る)、ムスカリン受容体(神経からの刺激を受け取る)からの刺激で活性化される。

 c.Ca2+-ATPase
 小胞体小胞体)の内に蓄えられたCa2+(カルシウムイオン)は、細胞質内に放出された後、Ca2+-ATPaseにより、小胞内に戻される。
 このため、Ca2+濃度は、細胞内(細胞質ゾル)が10-7mMと低いのに対し、小胞体内は1〜2mMと、細胞外のCa2+濃度とほぼ同じ濃度に保たれる。

 筋肉が収縮する際には、細胞膜のCa2+チャネルが刺激されると、筋小胞体から蓄えられていたCa2+が放出され、筋肉が収縮する(注3)。

 小胞体Ca2+-ATPase(sarcoendoplasmic reticulum Ca2+-ATPase:SERCA)2b遺伝子が変異すると、ダリエー病と言う皮膚病を発症する。

 d.H+-ATPase
 P型H+-ATPaseは、形質膜にあり、細胞質内から細胞外へH+を輸送するプロトンポンプ注4)。

 e.Cu2+-ATPase
 Cu2+-ATPaseは、肝臓での銅の代謝に関与している。
 銅輸送蛋白である、Cu2+-ATPaseの異常で起こるのが、Menkes病やWilson病(注5)。

 4.ABC輸送体
 ABC輸送体は、2ケのATP結合部位を有し、ATP-binding cassette transporter(ATP-結合カセット輸送蛋白)と総称される。
 生体に侵入した、毒物や薬物の排出(肝臓、腎臓、大腸)、塩素イオンの輸送、などの機能がある。
 制癌剤耐性に関与するABC輸送体には、ポンプ機能が、カルシウム拮抗剤により阻害されるものもある。
 嚢胞性繊維症(cystic fibrosis)は、気道、腸管、汗腺などで、塩素イオンを輸送する、CFTR(cystic fibrosis taransmembrane conductance regulator)と呼ばれる、ABC輸送体の、ATP結合部位の変異が原因で起こる。
 ミトコンドリアでのATP合成速度に応じて、細胞活動を制御する、KATP(ATP依存Kチャネル)も、ABC輸送体。

 注1: 細胞内Na+濃度([Na+]i)が上昇するような場合は、原尿中のNa+濃度が高い場合なので、刷子縁膜側のNa+チャネル(ENaC)を閉じて、細胞内へのNa+流入を減少させ、Na+再吸収を抑制するものと思われる。

 注2:cAMPは、PKA(Aキナーゼ)を活性化させ、PKAは、Na+/K+-ATPase、Na+チャネル(ENaC)、K+チャネル、Cl-チャネル、Na+-K+-2Cl-共輸送体、K+-Cl-共輸送体を活性化させ、Na+/H+交換輸送体を抑制する。PGE2は、アデニル酸シクラーゼを抑制し、cAMPの産生を抑制し、PKAによるNa+/K+-ATPaseの活性化を抑制する。

 注3:筋肉が収縮するには、まず、運動神経に活動電位が伝導され、神経末端の神経終末のCa2+チャネルが開き、Ca2+が、神経細胞内に流入する。そうすると、シナプス小胞と細胞膜が融合して、アセチルコリンが、シナプス間に放出され、筋細胞の終板のニコチンMレセプターに、結合する。そうすると、ニコチンMレセプターのNa+チャネルが開き、Na+が、筋細胞内に流入し、発生する終板電位が閾値に達すると、電位依存性Na+チャネルが開口し、筋細胞に活動電位が発生する。筋細胞に発生した活動電位は、筋細胞の細胞膜に沿って、伝導され、T管内を経て、筋小胞体に達する。そうすると、活動電位が、T管のジヒドロピリジン受容体から、筋細胞のライアノジン受容体に伝導され、筋小胞体のCa2遊離チャネルが開口し、Ca2が、筋小胞体から、筋細胞内に、放出される(カフェインは、筋小胞体のCa2遊離チャネルを、開口し易くし、Ca2の放出を増加させる)。放出されたCa2は、アクチン上のトロポニンCに結合し、アクチンが、ミオシンに滑り込み、筋細胞が収縮する。その後、トロポニンCから、Ca2が遊離し、筋細胞は、弛緩する。遊離したCa2は、筋小胞体のCa2+-ATPaseにより、再吸収される。
 ハロタン麻酔などで、悪性高熱が起こるのは、筋小胞体のCa2+遊離チャネルを開口させ、発熱などが、起こると言う。

 注4:植物で、 細胞内のH+が、細胞外に汲み出されると、細胞壁にH+が蓄積し、細胞壁が伸び易くなり、成長する。
 細胞内のH+を汲み出し、細胞質の酸性化を防ぐ作用は、P型H+-ATPaseより、Na+/H+交換輸送体(Na+/H+ exchanger:NHE)の方が、担っていると言う。
 Na+/H+交換輸送体(Na+/H+交換ポンプ)は、受動輸送をするだけなので、駆動力供給装置として、Na+,K+-ATPase(Naポンプ)が共役的に働くことが必要:Na+,K+-ATPaseが、細胞内のNa+濃度を低くすることにより、Na+/H+交換輸送体による、細胞内へのNa+の流入を助け、細胞外へのH+排出を、促進させる。

 注5:Menkes病は、ATP-7Aと呼ばれる、6個の銅を結合するP型ATPase(銅輸送蛋白)に欠陥があり、銅が腸管から粘膜細胞に取り込まれた後、粘膜細胞内から、門脈側に輸送されず、銅欠乏症状を示す(X連鎖性劣性遺伝)。そして、腸管粘膜細胞や、近位尿細管に、銅がメタロチオネイン-銅(MT-Cu)の形で蓄積するが、門脈側や尿細管血管側に銅が分泌されないので、健常者より、Menkes病では、肝臓や脳の銅濃度は、低値になる
 Wilison病では、ATP-7Bと呼ばれる、6個の銅を結合するP型ATPase(銅輸送蛋白)に異常があり、肝臓から、胆汁中へ銅を排泄出来ない。また、セルロプラスミンに銅を結合させ、血中に分泌出来ないため、Wilison病では、肝臓や脳の銅濃度は、高値になる(常染色体劣性遺伝)。
 ヒトでは、胃・十二指腸と小腸上部から銅を吸収している。ATP-7Aは、粘膜細胞の腸管腔側に存在し、銅を吸収している。細胞に取りこまれた銅は、細胞質内をATP-7Bに結合して、搬送され、門脈側の細胞外に分泌され、門脈血中のアルブミンや含硫アミノ酸と結合して肝臓に輸送される。 
 肝臓は、健常者でも、ATP-7Aを発現していない。

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