腸管出血性大腸菌
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ベロ毒素産生性大腸菌(VTEC)は、出血性大腸炎を起こすので、腸管出血性大腸菌(EHEC)とも呼ばれる。
腸管出血性大腸菌(EHEC)による急性胃腸炎では、粘液成分が少ない、頻回の水様性の下痢の後、出血大腸炎になると、血便や、非常に激しい腹痛が、出現する。
腸管出血性大腸菌(EHEC)による出血性大腸炎では、約10%の症例が、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの重症合併症を発症するおそれがある。
血便と激しい腹痛を認める症例の方が、重症合併症が起こることが多いが、血便などが著明でなくても、重症合併症起こることがある。
1.腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic E.coli:EHEC)感染症の症状
腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic E.coli:EHEC、注1)に感染して、3〜8日の潜伏期間後に出血性大腸炎が見られ(注2)、さらに、その3〜7日後に、溶血性尿毒症症候群(HUS)が発症する。
EHEC感染では、約半数が出血性大腸炎を起こす。出血性大腸炎を起こした人の10〜30%が、HUSを合併し、急性腎不全を起こす。HUSを起こした人の20〜30%は、脳症を併発する。脳症を起こした人の約10〜20%は、死亡する。
脳症は、HUSとほぼ同時期に発症することが多い。
脳症の予兆としては、頭痛、傾眠、不穏、多弁、幻覚などの症状が見られる。これらの症状が見られた場合には、数時間から12時間位の後に、痙攣、昏睡などの重症脳神経系合併症に移行する可能性がある。
吐き気や嘔吐は見られるが、程度は、軽い。
下痢は、粘液成分が少ないのが特徴。下痢の回数が時間とともに増加し、1〜2日後に、下痢便に新鮮血液が混じるようになる。典型的な症例では、やがて下痢便に便成分がほとんど認められなくなり、血便になり、腹痛が激しくなる。
血便は、ほとんど水のようで、「赤ワインのよう」とも表現される。
発熱が見られるが、持続することは、少ない。
HUSを合併しないか、乏尿と浮腫に注意する。HUSでは、これらの症状に引き続き、赤血球数減少、ヘモグロビン値低下、ヘマトクリット値低下、破砕状赤血球の出現、血清BUN値・クレアチニン値・GOT値・GPT値の上昇が見られる。
HUSの経過中に、溶血を示す、赤血球数減少、ヘモグロビン値低下、ヘマトクリット値低下、破砕状赤血球の出現や、腎機能障害を示す、血清BUN値、クレアチニン値の上昇や、肝機能障害を示す、AST(GOT)、ALT(GPT)の上昇が見られることもある。
発症後(下痢が治まった後)2週間以上経過して、EHECが、便の細菌培養で陰性であれば、それ以降に、HUSや脳症を発症するおそれは、概ね、ない。
2.ベロ毒素
EHECが産生するベロ毒素(Vero Toxin)は、VT1、VT2の2種類が存在する。
赤痢菌は、志賀毒素(Shiga toxin:Stx、又は、ST)を作る。
VT1は、志賀毒素(Stx)と全く同一の分子構造をしており、VT2は、Stxと約55%相同している。
ベロ毒素には、以下のような生物活性がある。
1.下痢や血便を起こす:腸管粘膜上皮細胞や、腸管血管内皮細胞を傷害する。
2.溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症させる:腎臓の糸球体血管内皮細胞が傷害され、微小血栓形成が起き、血栓性微小血管症のため、溶血性貧血、血小板減少、急性腎不全が、起こる。なお、腎臓の小動脈、細動脈の血管内皮細胞や、尿細管上皮細胞も傷害される。)
3.ベロ細胞(注3)を殺す。
4.神経毒性で動物を殺す。
ベロ毒素は、Bサブユニットで、細胞膜の糖脂質(グロボトリオシルセラミド、globotrioyl ceramide:Gb3)に結合し、細胞内に取り込まれて分解され、Aサブユニットが、リボゾームRNA(60Sリボゾーム)と結合して、蛋白合成を阻害し、細胞骨格の機能不全を起こさせ、細胞を死滅させる(アポトーシス)と考えられている。
Gb3は、志賀毒素レセプターとなる。
Gb3の量は、組織によって異なり、Gb3の多い組織が、ベロ毒素で障害を受けやすい。
志賀毒素レセプター(ベロ毒素レセプター)であるGb3は、大脳、小脳、脊髄、大腸の細胞にも存在する。
ベロ毒素(VT)と結合するGb3を、培養された糸球体血管内皮細胞は、他の器官の血管内皮細胞より、多く有している。しかし、ベロ毒素(Stx1)との結合は、小児では、糸球体でも尿細管でも認められたが、成人では、遠位尿細管上皮細胞と集合管で認められたが、糸球体では認められなかったと言う。
HUS発症には、ベロ毒素(VT)でも、特に、VT2(Stx2)の産生が関与している。
VT2(Stx2)は、VT1(Stx1)に比べて、培養された糸球体血管内皮細胞では、Gb3への結合能は、10分の1以下だが、1,000倍強く細胞を障害する。
なお、O157:H7のようなベロ毒素産生性大腸菌(VTEC)は、VT1のみを産生する株、VT2のみを産生する株、及び、両毒素を産生する株の、3種類が存在する。
ベロ毒素は、腎臓(尿細管細胞)においてTNF-αを産生させ、TNF-αは、糸球体血管内皮細胞にGb3を発現させ、ベロ毒素に対する感受性を高める。
ベロ毒素は、大腸の腸管上皮を破壊する(下痢が起こる)ので、エンドトキシン(LPS)も血液中へ流入する。また、ベロ毒素は、腸管血管内皮細胞を障害し、腸管粘膜のびらんと腸管出血を起こす。
腸管から血液中に流入したベロ毒素により、血管内皮細胞が障害を受けると、血管内皮の透過性が亢進し、血漿が血管外に漏出し、血液が濃縮し、微小循環が停滞し、微小循環障害が起こる。微小循環の停滞は、組織の虚血を起こし、臓器の機能不全を起こす。
障害された血管内皮細胞からは、TNF-αが産生される。TNF-αにより、血管内皮細胞での組織因子の発現が促され、高分子von Willebrand factor (vWF)が、血中に遊離され、抗凝固因子の発現が低下し、線溶系因子の活性が低下し、微小血栓形成が起き、フィブリン血栓により血管内腔が閉塞したり狭小化する、と考えられる。
血栓性微小血管症のため、溶血性貧血、血小板減少、急性腎不全などの症状を来たすHUSを発症させる。
腎臓では、糸球体血管内皮細胞が膨化し、血管内腔が狭小化し、血管内皮細胞下腔が拡大し、メサンギウム細胞が膨化し、血管内皮下組織に浮腫性の病変が起こる。血管内は、血栓で閉塞し、血管内皮細胞下腔に、フィブリンや脂質が沈着する。尿細管上皮細胞は、壊死を起こす。
血管内皮細胞からのPGI2産生不全が起こる。
3.O157
ベロ毒素を産生する、ベロ毒素産生性大腸菌としては、O157:H7(注4)が、良く知られている。
ベロ毒素産生性大腸菌(VTEC)は、出血性大腸炎を起こす典型的な腸管出血性大腸菌(EHEC)であり、HUSを発症させるおそれがある。
Oは、「オー」と読む。
O157は、ベロ毒素産生株が、多い。
O抗原(オーコウゲン)は、大腸菌の表面(細胞壁)の糖脂質の抗原性のことで、約180種類の違いが知られている(注5)。
H抗原は、大腸菌の菌体表面に存在する鞭毛の抗原のことで、約70種類が知られている(注5)。
O157は、ベロ毒素以外にも、細胞障害的に働くインティミンという蛋白を産生する。インティミンは、腸管上皮細胞のアクチン様物質を細胞内に蓄積させ、病巣を形成させるという。
本邦で確認された、ベロ毒素を産生する大腸菌のO血清型は、O1、O2、O18、O26、O103、O111、O114、O115、O118、O119、O121、O128、O143、O145、O157、O165、がある。
O26としては、O26:H11、O26:H-がある。
O157は、典型的な、腸管出血性大腸菌である。
O157感染症では、無症状で経過する症例や、軽い腹痛や下痢のみで終わる症例もあるが、頻回の水様便、激しい腹痛、著しい血便と共に、HUSなどの重篤な合併症を起こし、死に至る症例もある。
O157に感染すると、約半数の症例は、約3〜8日の潜伏期間の後、頻回の水様便で、発病する。そして、出血性大腸炎になると、激しい腹痛と著しい血便を呈する。
発熱は、見られるとしも、多くの場合、一過性とされる。
O157感染症は、広く、5カ月から85才までの年齢の人に、発症するが、特に、小児は、発症例が多い。
O157感染症は、他の食中毒と同様に、6月〜10月の気温が高い時期に、多いが、冬場にも、見られる。
HUSを併発するのは、下痢などの初発症状が発現してから、数日〜2週間以内とされる:溶血性尿毒症症候群(HUS)を併発するのは、下痢などの初発症状が発現してから、5〜7日後のことが多い(HUSを併発するのは、O157に感染してから、10日〜2週間後のことが多い)。
激しい腹痛や血便が現れた症例は、その数日後に、HUSや脳症など、重篤な合併症を併発することがあるので、注意が必要。
HUSや脳症など、重篤な合併症を併発するのは、O157に感染して、症状が現れた症例の、約6〜7%とされる。HUSや脳症など、重篤な合併症を併発するのは、発病して2週間以内が多い。
血液の検査所見では、HUSを合併する場合、血小板が、減少する。
出血性大腸炎になると、腹部超音波検査で、結腸壁の著しい肥厚が見られる。
4.赤痢菌
志賀潔博士が発見した赤痢菌(Shigella dysenteriae)は、神経毒を作ることが知られており、志賀毒素(Shiga toxin:Stx、又は、ST)と呼ばれていた。
赤痢菌は、大腸菌とゲノムの相同性が高く、遺伝学的には、赤痢菌は、大腸菌の一部と考えられている。
赤痢菌と大腸菌の間は、ファージやプラスミドが自由にやりとりされるので、赤痢菌の病原性は、大腸菌にも保有される。
5.抗生剤(抗菌剤)の使用
O157感染症による下痢症に対しては、使用する抗生剤は、静菌的に作用するホスホマイシン(FOM)などが、推奨されている。これは、殺菌的に作用する抗生剤は、死んだ菌から、ベロ毒素が、放出(遊離)され、溶血性尿毒症症候群(HUS)等の合併症を、増加させる危険性が、考えられる為。
抗生剤(抗菌剤)は、経口投与するのが原則:ホスホマイシン(FOM)は、点滴静注では、消化管内に移行しない。
小児では、ホスホマイシン(FOM)を、成人は、1日2〜3gを、小児は、40〜120mg/kg/日を、3〜4回に分けて、内服する。
ノルフロキサシン(NFLX:注6)、カナマイシン(KM)も、推奨されている。
成人では、ニューキノロン、ホスホマイシンの内服が、推奨されている。
抗生剤を使用すると、通常3〜5日間程度で、菌は、消失する。抗生剤を使用しても、すぐに、下痢などの消化管症状が消失する訳ではない。また、抗生剤を使用後、HUS等の重症合併症が発症することがある。稀ではあるが、出血性大腸炎の症状が強くなくても、重症合併症が起こる症例がある。
抗生剤の使用期間は、3〜5日間とし、漫然として、長期投与しない。なお、国内で分離された菌には、ホスホマイシン(FOM)、カナマイシン(KM)、ナリジクス酸(NA)、テトラサイクリン(TC)、アミノベンジルペニシリン(ABPC)、ストレプトマイシン(SM)、等への耐性株が存在している。
乳酸菌製剤などの投与は、抗生剤の使用の有無にかかわらず、有効である。
6.腸管出血性大腸菌感染症と法律
・O157を含む、ベロ毒素産生大腸菌(VTEC)による腸管出血性大腸菌感染症は、平成8年8月に、伝染病予防法における指定伝染病に指定されているので、医師は、保健所長、又は、市町村長への届出が必要。
・腸管出血性大腸菌感染症は、学校保健法では、第3種の疾患で、「症状が改善し、医師により伝染のおそれがないと認められるまで」、登校や通園が、禁止される(無症状性病原体保有者は登校停止不要)。
・腸管出血性大腸菌感染症は、感染症予防法では、三類感染症に指定されているので、医師は、診断後、直ちに、その者の氏名、年齢、性別、その他厚生省令で定める事項を、最寄りの保健所長を経由して、都道府県知事に届け出なければならない。
・24時間以上の間隔を明けて、連続2回の便培養で、菌が検出されなれば、菌陰性と見なす。なお、抗生剤(抗菌剤)を投与した場合は、服薬中と服薬中止後48時間以上経過した時点の、連続2回の便培養によって、菌が検出されなければ、菌陰性と見なす。
無症状の保菌者に関しては、1回の便培養で、菌が検出されなければ、菌陰性と見なす。
7.感染予防
1).手洗いの励行
O157は、約100個と言う少ない菌量で、感染が成立するため、人から人への二次感染もある(注7)。
人から人への二次感染を防ぐには、手洗いが最も大切である。
手洗いは、石けんで良く手を洗った後、良く流水で流す。
特に、下痢をしている乳幼児や高齢者の世話をした後には、しっかりと、手洗いをする。
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2).消毒
手の消毒は、逆性石けん(注8)、又は、消毒用アルコール(エタノール)を用いる。患者等の家のトイレと洗面所は、逆性石けん、又は、両性界面活性剤などを、規定の濃度に薄め、布に浸して絞って、拭き取る。
患者等が使用した寝衣やリネンは、家庭用漂白剤(注9)に浸漬してから洗濯する。
糞便で汚染されたリネンは、消毒用薬液(次亜塩素酸ナトリウム)に浸漬してから洗濯する。
なお、患者が入浴する際には、できるだけ浴槽に入らず、シャワーか、掛け湯を使用する。
8.その他
・EHEC(腸管出血性大腸菌)は、有機酸や乾燥に耐性が強く、堆肥中で半年以上生存できる。
・日本の乳製品(チーズなど)、牛肉は、かなり高率にEHECに汚染されている。
日本の乳牛のやく70%は、EHECを保菌しており、PCR法で調べた報告では、全ての乳牛がEHECを保有している。
肉牛も、かなり高率に保菌している。
これは、輸入穀物飼料が、EHECに汚染されていたためと考えられている。
汚染牛の牛糞を堆肥に使用すれば、野菜も汚染される。
・O157は、食中毒として、O157に汚染された飲食物を摂取すると感染する。また、O157は、O157感染患者の糞便で汚染されたものを口にすると、二次感染と起こす。
O157は、約100個感染すれば、発症すると言われている。
・O157感染症による下痢症では、適切な抗生剤(抗菌剤)を早期に投与すると、(ベロ毒素の産生が少なくなり、)HUSの発症率が低くなる。
ニューキノロン系の抗生剤(バクシダールなど)は、一過性に腸内でVT2(Stx2)の産生(殺菌されたO157からのVT2の放出)を高めるおそれがある(注10)。
・O157は、低温条件では死滅しないので、家庭の冷凍庫では、生き残ると考えられている。
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・O157:H7は、滅菌した井戸水に、25℃や30℃で保存すると、2日間で死滅するが、10℃や4℃では、7日間以上生存する。
・O157は、75℃で、1分以上加熱すれば、死滅する。
・井戸水は、感染予防の為に、煮沸してから、飲用する。
・学校用プールの水質基準では、遊離残留塩素が、0.4mg/l以上、1.0mg/l以下であることが望ましいとされている。この水質基準が遵守されているなら、プールを介して、感染することはない。
・消毒は、用便後や、食事前に、逆性石けん、又は、消毒用アルコールによる手洗いが、推奨されている。
・O157に汚染された、同じ食材(食事)を摂取しても、出血性大腸炎を発症する人と、そうでない人と、運命が別れる。
日頃から、野菜を多く摂取して、肉類の摂取を控えて、乳酸菌を摂取したりすることは、O157などの腸管出血性大腸菌に感染しても、出血性大腸炎を発症することを、予防する効果があるかも知れない。
注1:腸管出血性大腸菌は、病原性大腸菌の1種で、ベロ毒素により、出血性大腸炎を起こすので、ベロ毒素産生性大腸菌(Verotoxin producing E. coli ; VTEC)とか、志賀毒素産生性大腸菌(Shiga toxin producing E. coli:STEC )とも呼ばれている。
大腸菌は、人間や家畜の腸内に常在する細菌で、無害な株が多い。
しかし、病原性大腸菌は、ヒトの腸管に感染して、嘔吐や下痢を伴う、急性胃腸炎を引き起こす。
病原性大腸菌は、以下のように、4種類に分類される。
・病原血清型大腸菌:Enteropathogenic E. coli(EPEC)
・組織侵入性大腸菌:Enteroinvasive E. coli(EIEC)
・毒素原性大腸菌:Enterotoxigenic E. coli(ETEC)
・ベロ毒素産生性大腸菌:Verotoxin producing E. coli(VTEC)
注2:潜伏期間は、食中毒菌によって異なり、サルモネラの潜伏期間は、8〜48時間、腸炎ビブリオの潜伏期間は、8〜24時間、黄色ブドウ球菌の潜伏期間は、30分〜6時間と言われる。
O157の潜伏期間は、4〜8日と、食中毒としては、非常に長いため、原因食品や感染経路などの特定が、困難な場合がある。
注3:ベロ細胞は、アフリカミドリザルの腎臓由来の樹立細胞で、ウイルスの培養に適している。
注4: O157は、正確には、Escherichia coli O157 : H7。
なお、O157は、O-157と言う、ハイフンを入れた書き方は、正しくないと言う。
注5: O抗原の種類が、173種類、H抗原の種類は、56種類とする人もいる。
注6:ノルフロキサシン((Norfloxacin:NFLX)は、ニューキノロン系の抗生剤。
小児用には、50mg錠(小児用バクシダール錠50mg)が、保険適用があるが、5歳未満の幼児には、錠剤が服用可能なことを確認して、慎重に投与する。乳児等には、投与しない。妊婦、又は、妊娠している可能性のある婦人には、投与しない。授乳中の婦人に投与することは、避けることが望ましいが、やむを得ず投与する場合には、授乳を避けさせる。
小児用バクシダール錠50mg(杏林製薬株式会社)の添付文書には、「本剤は他の抗菌剤が無効と判断される症例に対してのみ投与する」と、記されている。投与量は、6〜12mg/Kg/1日を、3回に分けて、経口投与する。また、投与期間はできるだけ短期間(原則として7日以内)にとどめる。なお、腸チフス、パラチフスの場合は、15〜18mg/Kg/1日を、3回に分けて、14日間、経口投与する。
ノルフロキサシン、(NFLX)は、細菌のDNAの高次構造を変換するDNA gyrase に作用し、DNA複製を阻害することにより、殺菌的に作用する。
ノルフロキサシン(NFLX)は、ニューキノロン系の抗生剤なので、好中球などの貪食細胞内でも、活性を示す。しかし、肺炎球菌、A群溶連菌には抗菌力が弱い。ノルフロキサシン(NFLX)は、テオフィリン、ワーファリン、NSAIDsとの併用は、要注意。また、水酸化アルミニウムなどの金属カチオンを含有する制酸薬と同時に内服すると、ほとんど吸収されないという。
注7:食中毒菌でも、腸炎ビブリオやサルモネラ菌は、通常10万〜100万個以上の菌を摂取しなければ、食中毒を発症しない。
注8:逆性石けん(陽イオン界面活性剤)としては、塩化ベンザルコニウム(オスバンなど)が、用いられている。
非生体向けの消毒薬であり、主に家具、床など環境消毒に用いる。
実用濃度では、皮膚粘膜に対する刺激性が少なく臭気もほとんどない。そのため、粘膜などの生体消毒に使用される場合もある。
希釈した逆性石けん液は、放置すると、微生物に汚染されやすい。
O157感染症の手指消毒としては、まず、普通の石けん(石鹸)を用いて、十分に手洗いし、石けんを、十分に洗い流した後、0.31%(3000ppm)の塩化ベンザルコニウム液に、30秒以上浸す。粘膜・皮膚消毒としては、0.01〜0.025%の濃度で、用いる。室内消毒としては、0.05〜0..2%で、室内に噴霧する。リネン類は、0.1%(100ppm)で、10分間、漬す。
塩化ベンザルコニウムは、多くのグラム陽性菌、グラム陰性菌には、有効。真菌でも、酵母には、有効だが、糸状菌には、十分な効果が得られない場合がある。そして、芽胞、結核菌には、無効。また、塩化ベンザルコニウムは、B型肝炎ウイルス(HBV)、AIDSウイルス(HIV)など、ウイルスには無効。
注9: 家庭用漂白剤のミルトンなどは、次亜塩素酸ナトリウムを成分とする。
次亜塩素酸ナトリウムは、時間さえかければすべての微生物を殺滅出来る(プリオンを除く)。 一般細菌、酵母は、0.01〜0.1%(100ppm〜1000ppm)の次亜塩素酸ナトリウム液で、20秒〜10分間処理すれば、死滅する。結核菌は、.0.1〜2%(1000〜20000ppm)の次亜塩素酸ナトリウム液で、10〜30分間処理すれば、死滅する。枯草菌の芽胞は、0.01%(100ppm)の次亜塩素酸ナトリウム液で処理すれば、5分以内に、99.9%が、死滅する。
次亜塩素酸ナトリウムは、手指(125〜1000ppmの濃度で、10秒)、粘膜・皮膚(250〜500ppm)、リネン(125ppm)、便器(125ppm)などの消毒に、有効である。例えば、リネンは、0.01〜0.02%(100ppm〜200ppm)の次亜塩素酸ナトリウム液へ、5分間浸漬すると良い。ただし、次亜塩素酸ナトリウムは、漂白作用があり、リネンでも、毛、絹、ナイロン、アセテート、ポリウレタン、及び、色・柄物などには、使用出来ない。
温水を用いると、次亜塩素酸ナトリウムは、効果が短時間で現れる(82度、2分以上)。
次亜塩素酸ナトリウムは、冷所保存(15℃以下)が必要。
次亜塩素酸ナトリウムは、酸性の洗剤・洗浄剤と併用すると、大量の塩素ガスが発生するので、併用は、禁忌。
次亜塩素酸ナトリウムは、 蛋白質と接触すると、NaOCl→NaClとなるので、低残留性の消毒薬である。その為、次亜塩素酸ナトリウムは、床などにこぼれた血液の消毒にも、好ましい。しかし、有機物の影響を受けやすいので、洗浄後、消毒に使用した方が、有効。また、次亜塩素酸ナトリウムは、金属腐食性があったり(特に、0.5%=5000ppm以上の濃度)、プラスチックやゴム製品を劣化させる。
注10:抗生剤(抗菌剤)を投与した時に、菌体から放出(遊離)されるエンドトキシン(LPS)の量は、イミペネム<アミノ配糖体<キノロン系<ゲンタマイシン<ペニシリン系やセファロスポリン系の順に多いと言う。
大腸菌には、3種類のペニシリン結合タンパク(PBP)が存在する:PBP-1、PBP-2、PBP-3。
PBP-1を阻害すると、急速に殺菌が引き起こされ、菌が溶解する。
PBP-2を阻害すると、菌は、球体になり、非発育細菌が形成される。このようなスフェロプラスト(球状の非発育細菌)は、生育力は低下しているが、細胞壁は広範に崩壊していない。抗生剤のイミペネム(imipenem)は、主にPBP-2を阻害するので、スフェロプラスト(球状の非発育細菌)が形成される。PBP-2を阻害する、imipenem、及び、アミノ配糖体(アミカシン、トブラシン)は、菌体からのエンドトキシン(LPS)の放出が、最も少ない。
PBP-3を阻害すると、菌は、長いフィラメント状になる(フィラメント形成)。PBP-3を阻害する、ペニシリン系やセファロスポリン系は、菌体からのエンドトキシン(LPS)の放出が、多い。エンドトキシン(LPS)の放出は、ペニシリン系やセファロスポリン系は、イミペネム(imipenem)、及び、アミノ配糖体より、20〜40倍多い。放出されたLPSは、宿主の炎症性免疫細胞から、サイトカインを産生させ、全身性炎症反応を起こす。ニューキノロン系のシプロフロキサシン(CPFX)は、PBP-3阻害と類似した効力を呈する。シプロフロキサシンは、菌の生育力は低下させるが、菌体量は増加して、エンドトキシン産生量(LPS産生量)が著明に増加する。ゲンタマイシンは、菌数の増殖を抑制し、溶菌が無い状態のまま、細菌の生育力を減少させるが、エンドトキシン放出(LPS放出)は、シプロフロキサシンに比して、多い。これは、ゲンタマイシンによっても、LPS合成が継続するため。
なお、ニューキノロン系の抗生剤は、肺炎球菌に有効性が低いが、副作用としての下痢の頻度が少ない。