喀痰のグラム染色

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 痰の性状、特に、痰の色調を確認することは、重要で、錆色の膿性痰は、肺炎球菌による肺炎で、認められる。

 1.病原体による、喀痰の色の違い
 痰は、下気道から喀出される。扁平上皮細胞を多く含む場合は、唾液の混入した不良痰と考えられる。

 痰の採取時には、口腔内常在菌を含む唾液の混入を防ぐ為に、予め、水道水などで、嗽をする。
 喀出された痰は、舌先などを使って、口腔内の外に、出させ、滅菌容器に採取する。
 採取した痰は、滅菌容器の蓋を閉めて、すみやかに検査室に運ぶか、冷所に保存する:凍結保存だと、菌数が減少してしまう。室温保存だと、口腔内常在菌の方が、呼吸器病原細菌より、速く増殖して、培養した際に、呼吸器病原細菌が検出されにくくなる。

 1).透明な白色痰
 透明な白色痰は、非細菌性の呼吸器感染症(多くは、ウイルス性感染症)を意味する。

 2).透明な黄食痰
 黄色痰は、痰の中に、細胞が増加していることを意味する。
 透明な黄色痰は、細菌が存在するとしても、106/ml以下とされる。
 ウイルス、マイコプラズマ、クラミジアなどの感染症でも、透明な黄色痰になる。
 気管支喘息でも、好酸球増加により、透明な黄色痰になる。

 3).膿性痰
 膿性痰は、色調が、黄色、緑色、錆色の違いがある。
 黄色の膿性痰や、緑色の膿性痰は、病原細菌が増加(107/ml以上)して、好中球などの炎症細胞が増加したり、慢性下気道感染症により細胞残渣(注1)や繊維成分が増加している。
 錆色の膿性痰や、血液の混じった黄色や緑色の膿性痰は、組織侵襲性の強い莢膜保有病原細菌(肺炎球菌、肺炎桿菌、黄色ブドウ球菌など)が、原因のおそれがある。

 2.グラム染色による原因菌の推定
 グラム染色は、細菌を染色性から、青く染まるグラム陽性菌と、赤く染まるグラム陰性菌に分ける。
 喀痰のグラム染色の際には、菌の染色性、菌の形状、細胞残渣(注1)、繊維成分を確認する。
 大型の扁平上皮細胞が混入している場合には、唾液が混入していることを意味する。
 唾液が混入した痰は、培養時に、増殖力の強い常在細菌により、病原細菌が、検出されにくくなる。

 1).肺炎球菌
 肺炎球菌は、グラム染色では、青く染まるグラム陽性菌で、大半の菌は、双球菌として認められる(一部の菌は、連鎖状に見える)。
 肺炎球菌は、莢膜(注2)を有しているので、菌体の周囲が透明で、色が抜けて見える。肺炎球菌は、莢膜が厚い為、好中球などに貪食されている像は、少ない。
 肺炎球菌が、膿性痰から検出された場合は、肺炎球菌感染症である可能性が高い。しかし、肺炎球菌は、後鼻腔などの上気道には、常在している人もいる(注3)。

 2).インフルエンザ菌
 インフルエンザ菌は、グラム染色では、赤く染まるグラム陰性菌で、短い桿菌として認められる。
 インフルエンザ菌は、莢膜を持つ株が多く、Hib(Haemophilus influenzae type b)と呼ばれている。Hibは、組織侵襲性が強いので、病原性も高く、小児の髄膜炎、敗血症、重症肺炎の原因となる。莢膜を持たない株、Hin(nontypable Haemophilus influenzae:NTHi)は、組織侵襲性はないが、気道粘膜への親和性が高い為、小児や高齢者の、気道炎や肺炎の原因菌となる。

 3).黄色ブドウ球菌
 黄色ブドウ球菌は、グラム染色では、青く染まるグラム陽性菌。
 黄色ブドウ球菌には、毒素産生株があり、好中球が破壊された像を認める場合には、白血球毒素産生株と推定する。 
 黄色ブドウ球菌は、MRSA(methicillin-resisitant Staphylococcus aureus)など、薬剤耐性菌が多い。 

 4).モラクセラ・カタラーリス
 モラクセラ・カタラーリスは、グラム染色では、赤く染まるグラム陰性菌で、大半の菌は、双球菌として認められるが、口腔内常在菌のナイセリア属の菌との鑑別を要する。
 モラクセラ・カタラーリスは、以前は、ブランハメラ・カタラーリスと呼ばれていた。

 5).緑膿菌
 緑膿菌は、グラム染色では、赤く染まるグラム陰性菌。
 緑膿菌は、ムチン産生や、バイオフィルム産生によって、好中球による貪食を免れる。
 緑膿菌感染症により、発熱が見られたり、膿性痰が増加する場合には、抗生剤による除菌が必要。しかし、緑膿菌が、一定の菌量存在しても、好中球反応を伴わなければ、積極的に除菌する必要はない。

細菌の表面を覆っている膜で、大部分の細菌の莢膜は、多糖体(ポリサッカライド)から構成されている。莢膜は、細菌が、宿主の好中球や、単球・マクロファージなどの貪食細胞の貪食から逃れる効果がある。

 6).肺炎桿菌
 肺炎桿菌は、グラム染色では、赤く染まるグラム陰性菌で、莢膜を保有している。
 肺炎桿菌は、腸内細菌なので、院内感染の原因菌となる。
 β-ラクタム系の抗菌薬のように、細胞壁を破壊する薬剤は、治療開始直後に、エンドトキシンショックを起こす危険性がある。

 注1:細胞残渣には、好中球などの白血球が含まれている。細菌が、下気道で増殖すると、好中球や、単球・マクロファージなど、細菌を貪食する白血球が、浸潤して来る。細菌が産生する毒素(黄色ブドウ球菌が産生するアルギニン特異的セリンプロテアーゼなど)は、ウイルスを活性化させる。また、気道から分泌されるプロテアーゼも、ウイルスを活性化させると言う。

 注2莢膜は、細菌の表面を覆っている膜で、大部分の細菌の莢膜は、多糖体(ポリサッカライド)から構成されている。莢膜は、細菌が、宿主の貪食細胞(好中球や、単球・マクロファージなど)の貪食から逃れる効果がある。莢膜は、肺炎球菌、インフルエンザ菌、肺炎桿菌などの細菌も、有している。

 注3肺炎球菌は、健康な大人であっても、5〜70%の人から、鼻咽腔から、肺炎球菌が、分離されると言う。
 肺炎球菌は、小児では、1歳までに、30〜40%の乳幼児の鼻咽腔に定着する。従って、鼻咽腔の細菌培養で、肺炎球菌が検出されても、常在していただけで、病原性が少ない肺炎球菌の可能性がある。定着した肺炎球菌の血清型は、60%以上が、6型、14型、19型、及び、23型だという。6型は、ペニシリン耐性のPRSPが多い。なお、重篤な大葉性肺炎は、3型の肺炎球菌が原因の場合が多い(3型の肺炎球菌は、莢膜が厚い)。肺炎球菌による肺炎の潜伏期は、1〜3日と短い。肺炎球菌による肺炎は、老人などでは、致死率が高い。肺炎球菌による肺炎では、25〜30%の患者は、敗血症(菌血症)を伴っている。肺炎球菌による肺血症は、髄膜炎を併発することがある。
 定着した肺炎球菌は、鼻咽腔に常在菌として潜伏し、インフルエンザウイルスなどウイルス感染などで、気道粘膜が障害されたり、体力が弱まった時などに、増殖する。2歳を過ぎて、体内で、肺炎球菌に対する抗体(IgG抗体)が作られるようになると、鼻咽腔に定着していた肺炎球菌は、消失する。キシリトールには、肺炎球菌の増殖阻害作用があり、キシリトールを摂取することには、急性中耳炎の予防効果が有ると言う。
 肺炎球菌感染症の発生は、18歳未満の小児に、9月頃から増加し、18歳以上の大人に感染させるので、冬に入って、年末に、老齢者の肺炎が増加すると言う。
 インフルエンザ桿菌(インフルエンザ菌)は、20%の健康小児の気道から検出され、5歳までには、50%以上の小児に定着する。
 モラクセラ・カタラーリスは、いずれの年齢の小児でも、50%以上の小児に定着している。
 なお、中耳貯留液の細菌培養で検出された細菌は、鼻咽腔からも検出されることが多い。しかし、中耳炎の起炎菌は、耳管を介して経耳管感染するが、鼻咽腔と中耳貯留液から、同じ細菌が検出される率(鼻咽腔から検出された細菌と同じ細菌が、中耳炎の起炎菌として、中耳貯留液から検出される率)は、インフルエンザ菌では高いが、総体的には、低いと言う。また、上気道と中耳貯留液から、同じウイルスが検出される率は、RSウイルス(Respiratory syncytial virus)で74%、パラインフルエンザウイルス(parainfluenza virus:注1)で42%、インフルエンザウイルス(influenza virus)で42%だったと言う。そして、インフルエンザウイルスが検出された中耳貯留液は、全例、肺炎球菌も検出されたと言う。

 注1パラインフルエンザウイルス感染症の咽喉の所見は、咽頭壁のリンパ濾胞の増殖、腫脹、発赤が、特徴的。
 パラインフルエンザウイルス感染症では、一般に、発熱を伴う。
 咳は、咽喉に痰がからんでいて、ゴホッ、ゴホッと、力んで痰を出そうとするような感じの咳であるのも、特徴的。

 参考文献
 ・永武毅:呼吸器感染症の診断−喀痰のグラム染色法− 日医雑誌 第132巻・第9号/平成16(2004)年11月1日 KM-93〜KM-96.
 ・山中昇:小児の発育と耳鼻咽喉科疾患−小児はなぜ中耳炎を起こしやすいのか− 日児誌108巻11号 1348〜1357(2004年).  

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