経口補水塩(ORS)

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 1.ORS
 小児は、急性胃腸炎を起こすと、脱水に陥り易い。
 特に、2歳未満の乳幼児は、尿細管の濃縮力が未熟で、腎臓で尿を濃縮しにくいため、脱水に陥り易い。

 脱水の予防・治療のためには、Naなどの電解質を含む液を、補給することが大切。

 WHO(世界保健機関)の経口補水療法(Oral Rehydration Therapy:ORT)は、点滴を行えない開発国で、コレラなどの下痢による脱水症の改善のために開発された。
 最近は、先進国でも、小児の急性胃腸炎に、経口による補液が推奨されている。

 経口補水療法に用いられる、経口補水塩(Oral Rehydration Salt:ORS)の研究から、Naや水を効率良く消化管から吸収させるためには、血液よりも浸透圧が低い液の方が、望ましいことが判明した:正常な血液浸透圧は、280mOsm/kgだが、血液よりやや低い浸透圧(200〜250mOsm/kg)の飲み物の方が、胃腸からの吸収が良い。

 小腸では、Na-糖共輸送担体SGLT1:sodium-dependent glucose transporter 1)により、Naは、ブドウ糖グルコース)と共に吸収されるので、経口補水塩には、ブドウ糖が含まれていた方が、Naと水の吸収が良くなる(ブドウ糖とNaは、1対1の比率が、もっとも吸収されやすい)。

 組成   Na
 (mEq/L)
  K
 (mEq/L)
  Cl
 (mEq/L)
 炭水化物
 (g/dl)
 市販ORS(注1  50  20  50  2.5
 スポーツドリンク(注2  9〜23  3〜5  5〜18  6〜10
 アミノ酸含有飲料(注3  21  5  16  4
 乳児用イオン飲料  25〜32  20  20〜30  4〜6
 ソリタ-T顆粒2号(注4  60  20  50  2.2
 ソリタ-T顆粒3号(注4  35  20  30  2.3
 アクアサーナORS  32  20  25  4.0
 アクアライト  30  20  25  5.0
 アクアバランス  25  20  20  4.0
 WHO-ORS(1975:注5  90  20  80  2.0
 WHO-ORS(2002:注5  75  20  65  1.35
 APP推奨処方(注6  40〜60  20  40〜60  2.0〜2.5
 ESPGHAN注7  60  20  60  1.6

 2.嘔吐と下痢による電解質の喪失
 嘔吐によって、胃液に含まれる、水分(体液)、電解質(Na+、K+、Cl-、及び、H+)が喪失する。
 胃液は、Na+よりCl-の方が、濃度が高い:胃液中には、Na+が60mEq/L、Cl-が85mEq/L、K+が10mEq/L、H+が85mEq/L、含まれている。

 下痢によって、水分(体液)、電解質(Na+、Cl-、及び、HCO3-)が喪失する(注8)。

 3.その他
 ・急性胃腸炎の幼若小児に食べさせる食品としては、複合糖質(ライス、小麦粉、イモ、パン、シリアル)、ヨーグルト、野菜などが適切。

 ・欧米では、アミノ酸(グルタミン、アラニン、グリシン)、オリゴ糖(注9)、可溶性の線維成分、核酸などを入れたORSも、臨床で使用されていると言う。
 小腸の絨毛突起(じゅう毛突起)には、栄養を吸収する際に、腸内の細菌が、体の中(血液中Iに入り込まないように、生体中の免疫細胞の約半分が、集合している。点滴を長期間行い、経口摂取さないで絶食させると、絨毛の高さが短くなり、全身の免疫力も低下してします。経口摂取で投与されたグルタミンは、小腸上皮細胞や腸管付属リンパ節細胞に、エネルギーを供給して、急性胃腸炎からの回復を、促進すると考えられる(注10)。
 なお、グルタミンとアラニンを経口投与すると、アルコールの代謝(分解)が促進されるという。

 ・BT(Bacterial Translocation)と言って、腸内細菌などが、腸管壁から、腸間膜リンパ節や門脈などに、侵入することがある。
 3日間以上の絶食は、BTを生じることもあるので、BTの予防のためには、早期に、食事を再開し、腸管を動かした方が良いとする意見もある。
 なお、小腸で吸収されなかった食物線維は、大腸で腸内細菌叢によって、種々の有機酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸)が、生成される。これらの有機酸は、大腸粘膜から吸収され、大腸粘膜の熱源として利用される。腸内細菌叢によって生成される乳酸は、門脈を経て肝臓に運ばれて、熱源として利用される。

 ・2000年に発表されたESPGHAN(European society of Pediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition)の「急性胃腸炎のよい治療の9つの柱」によると、「急性胃腸炎では、食事の再開を早く行い、固形食を含む正常食とする」と書かれてある。これは、「絶食期間が短期でも、腸管粘膜を萎縮させ、回復が遅れる」と言う知見が背景にあって、出された勧告と思われる。しかし、軽症なウイルス性胃腸炎では、妥当と思われるが、下痢の回数が多い場合は、ORSなどの水分摂取のみにして、絶食させるのが妥当ではないかと思われる。
 母乳には、腸の粘膜を修理する作用があるので、母乳栄養児では、母乳を続ける。

 ・コレラによる下痢症では、便中のNaは、70〜90mEq/Lだが、軽症から中等症のウイルス性下痢症では、便中のNa濃度は、20〜60mEq/L。

 ・高張性脱水では、興奮して、見掛け上、元気に見えることがあるが、涙が出なかったり、口腔内が乾燥していることで、脱水があることを、知ることが出来る。 

 ・飲ませるORSは、15〜22度が良い。

 ・乳幼児が、急性胃腸炎の後、2週間、水様下痢が続き、元気で、体重減少がひどくないような場合、乳糖不耐症が、考えられる。
 治療は、ラクトレスと、乳糖がない和食離乳食(御飯、煮物、味噌汁汁など)を与えるのが良い:便性が良くなっても、和食離乳食を続けたまま、ラクトレスを、もう1缶くらい続けて飲ませ、普通のミルクに、ゆっくり戻す。
 下痢の回数が減って来ても、便が固まらない時には、人参を輪切りにして、30
分茹でて、その後、ミキサーにかけて、ニンジンペーストにして、適当に味付けして、1日2回程度、小さじ8−10杯程度、食べさせると、便が固まって来る。

 注1「オーエスワンOS-1)」と言う経口補水イオン飲料が、大塚製薬株式会社から、限定販売されている。

 注2:例えば、「ポカリスエット」は、Na21、K5、Cl16.5、糖分5.0。
 スポーツドリンクは、Na濃度が低く(Na濃度は、汗は約20mEq/Lだが、下痢や吐物は約50mEq/L)、ウイルス性胃腸炎の電解質の補充には問題がないが、高濃度の電解質を喪失する細菌性胃腸炎の脱水の治療(電解質の補充)に用いるのは、好ましくないとされる。
 また、スポーツドリンクは、糖分が多く含まれるため、浸透圧が280mOsm/kg程度と、高い:体液よりやや低い浸透圧(200〜250mOsm/kg)の飲み物の方が、胃腸からの吸収が良い。 
 ちなみに、1%のグルコース液(ブドウ糖液)は、約55mOsm/Lの浸透圧を有している。そして、5%ブドウ糖水の浸透圧は、275mOsm/Lで、pH5程度の酸性になる。

 注3大塚製薬株式会社の「アミノバリュー(Amino-Value)」の値。1本のボトル500ml当たり、BCAA2,000mg(バリン500mg、ロイシン1000mg、イソロイシン500mg)と、アルギニン500mgを含有している。

 注4:1包3gを、水100mlに溶解した時の、電解質と糖分の組成。ソリタ-T顆粒は、医薬品の製剤なので、医療機関で処方される。これらの製剤は、白色で甘味と酸味を有し、特有の芳香がある(「ソリタ-T顆粒2号」は、梅干し様の芳香があり、「ソリタ-T顆粒3号」は、サイダー様の芳香)ので、カルピスなどを少し入れると、飲みやすくなる。
 2003年から、ソリタ-T顆粒2号、ソリタ-T顆粒3号ともに、1包4.0g中に、クエン酸ナトリウム(C6H5Na3O7・2H2)を、196mg含有している。

 注5:WHO-ORS(1975)の浸透圧は、311mOsm/kgと、iso-osmolar ORS。 
 WHO-ORS(2002)の浸透圧は、245mOsm/kgと、下げられた。WHO-ORS(2002)では、Na+も、グルコースも、75mEq/Lに調整されている。

 注6:APP(American Academy of Pediatrics)は、脱水症の初期にWHO-ORSを使用し、維持液としては、より、Na濃度(浸透圧)の低いhypotonic ORSのAPP推奨処方を使用するように、勧告している。浸透圧が低い方が、腸管からの吸収が良いとされる。 
 
 注7:ESPGHAN-ORSの浸透圧は、240mOsm/kg。

 注8:回腸の小腸液は、Na+121mEq/L、K+4.3mEq/L、Cl-89mEq/L、HCO3-31mEq/L。小腸液は、pH7.8〜8.0で、1日、平均、3,000ml分泌される。
 大腸液は、Na+31mEq/LK+75mEq/L、Cl-11mEq/L、HCO3-40mEq/L。
 なお、便には、Na+<10mEq/L、K+<10mEq/L、Cl-<15mEq/L、HCO3-<15mEq/L、含まれている。

 注9オリゴ糖は、小糖のことで、単糖が2ケから10ケ程度、結合している。
 ショ糖(蔗糖:スクロース)は、砂糖の成分であり、グルコースブドウ糖)とフルクトース(果糖)が結合したニ糖類。
 フラクトオリゴ糖は、ショ糖に、フルクトースが数個結合した物で、タマネギ、ゴボウ、バナナ、アスパラガスなどに含まれている。
 フラクトオリゴ糖は、最近は、砂糖を原料に、コウジカビの酵素を用いて、効率良く、生産されている:フルクトース(果糖)が、ショ糖に1分子結合したのがケトース、2分子結合したものがニストース。
 フラクトオリゴ糖は、小腸では消化されず、大腸で腸内細菌、特に、ビフィズス菌により分解され、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸に変換され、大腸菌などの悪玉菌の増殖を抑制したり、便秘の改善などの整腸作用を現す。

 注10グルタミンは、小腸粘膜グルタミナーゼ反応により、グルタミン酸とアンモニア(NH4+)になる。グルタミン酸は、小腸から吸収される。この時に生成されるアンモニアは、腸管内で産生されるアンモンニア量の約1/2を占めると言う。

 参考文献
 ・日本医師会雑誌 第132巻・第1号(2004年)

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