インスリン

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 インスリンが作用するのは、主に、筋肉(骨格筋、心筋)、脂肪組織、肝臓。
 インスリン(インシュリン:insulin)は、筋肉、脂肪組織で、細胞内へのグルコース取り込みを促進させ、グリコーゲンや中性脂肪として貯蔵させる。

 運動は、インスリンと無関係に、糖輸送担体(GLUT4)の発現を増加させ、筋肉細胞内へのグルコース取り込みを、増加させる。

 インスリンの作用が不足すると、Na+,K+-ATPaseの活性が低下し、細胞内Na+濃度が増加し、高K血症を来たす:インスリンの作用が不足した糖尿病昏睡では、細胞内では、NaとHは増加し、Kは減少する体内全体としては、Naは減少(腎臓からのNa再吸収の減少による)、Hは増加(アシドーシスによる)、Kは減少(腎臓からのK排泄の増加による)。
 なお、糖尿病でも、インスリン抵抗性による、高インスリン血症がある段階では、Na+,K+-ATPaseの活性が亢進し、尿細管からのNa+再吸収が増加して、体内のNa+量が増加して、高血圧を来たしやすい。

 肝臓では糖輸送担体(GLUT2)が、最初から細胞膜上に存在しているので、肝臓では、細胞内へのグルコース取り込みは、インスリンの作用に依存しない。

 インスリンは、脂肪組織や肝臓で、中性脂肪の分解を抑制する。

 肝臓は、必要時に、インスリンによって貯蔵したグリコーゲンの分解や、糖新生によって、グルコースを血液中に供給する。
 脳神経細胞は、グルコースを主なエネルギー源にしているが、細胞内へのグルコース取り込みは、インスリンに依存しない。
 血糖値(血液中のグルコース濃度)を下げる作用のあるホルモンは、インスリンだけ。

 1.インスリンの作用
 インスリンは、栄養素の同化を促進し、筋肉、脂肪組織、肝臓に取り込む。

 1).糖質代謝
 ・グルコースの細胞内への取り込みを促進させる
 インスリンは、グルコースブドウ糖)の細胞膜のGLUT4を介する、細胞内への取り込みを促進させる。
 このインスリンの作用は、筋肉(特に、骨格筋)の筋肉細胞、脂肪組織の脂肪細胞で、起こる。インスリンは、脳(視床下部を除く)、腎尿細管(注1)、胃腸の細胞には、作用しない。
 
 ・グリコーゲン合成を促進させる
 インスリンは、グリコーゲン合成酵素glycogen synthase)を活性化させ、グリコーゲン合成を促進させる。
 このインスリン作用は、肝臓で起こり、グリコーゲン分解を抑制し、アミノ酸、乳酸、グリセロールなどからの糖新生を抑制し、グルコース放出を抑制する。その結果、肝臓に、グリコーゲンが、貯蔵される

 ・解糖系を促進し、糖新生を抑制する
 インスリンは、解糖系の律速酵素(調節酵素)である、グルコキナーゼホスホフルクトキナーゼピルビン酸キナーゼピルビン酸デヒドロキナーゼを誘導、あるいは、活性化させる。
 また、PEPCK(注2)、グルコース-6-ホスファターゼ(glucose-6-phosphatase )の転写を抑制し、糖新生を抑制する。
 インスリンは、骨格筋で、ヘキソキナーゼ(hexokinase II)を活性化させ、解糖系を促進する。
 ⇒インスリンにより、グルコースは、グリコーゲンとして筋肉や肝臓に貯蔵される。また、解糖系が促進され、中性脂肪として脂肪組織に貯蔵される。糖新生は、抑制される。追加インスリン分泌が低下する糖尿病では、筋肉や肝臓へのグリコーゲン貯蔵が滞り、また、脂肪組織への中性脂肪の貯蔵が滞る。
 
 2).蛋白質代謝
 ・蛋白質合成を促進させる
 インスリンは、骨格筋に作用して、アミノ酸の細胞内への取り込みを増加させて、蛋白質合成を促進させ、蛋白質の異化を抑制する(注3)。

 3).脂質代謝
 ・脂肪分解を抑制する
 インスリンは、脂肪分解(lipolysis:中性脂肪の分解)を抑制する:インスリンは、脂肪組織、肝臓で、PDE(ホスホジエステラーゼ)を活性化させ、cAMPを5'AMPに異化させ、cAMP濃度を減少させ(注4)、ホルモン感受性リパーゼHSL)の活性を抑制する
 インスリンは、リポ蛋白リパーゼ(LPL)の合成は、促進させる。
 インスリンは、細胞膜表面のLDL受容体の活性を高める作用があると言われている。
 インスリンは、アセチル-CoAカルボキシラーゼ(acetyl-CoA carboxylase:脂肪酸合成の律速酵素)、HMG-COA還元酵素(HMG-COA reductase:肝臓におけるコレステロール生成の律速酵素)を活性化させ、脂肪酸やコレステロール合成を高める。
⇒糖尿病で、インスリンが欠乏すると、ホルモン感受性リパーゼにより脂肪分解(lipolysis)が起こり、脂肪組織で中性脂肪が分解されて、遊離脂肪酸(FFA)とグリセロールが、血中に遊離され、高FFA血症になり、体重は減少する。
 糖尿病では、リポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性が低下し、VLDLが異化されないことと、ホルモン感受性リパーゼ(HSL)の活性が促進され、血中にFFAが増加するため、肝臓でのVLDL産生が増加することが原因で、高VLDL血症(IV型高脂血症)になる。
 糖尿病では、高VLDL血症に伴い、VLDLの異化されて生じるLDLの生成が増加し、血液中のLDLが増加するとも言われるが、恐らく、LDL受容体(の活性)が減少し、高LDL血症高コレステロール血症)になる。なお、小腸細胞内のACAT(acyl coenzyme A-cholesterol acyltransferase)活性が上昇し、腸管からのコレステロール吸収も、亢進することも、高コレステロール血症にさせる原因と考えられている。
 糖尿病では、リポ蛋白リパーゼ(LPL)の酵素活性が低下し、カイロミクロンやVLDLの異化が障害され、血液中の中性脂肪(トリグリセリド)が増加し、高TG血症高中性脂肪血症、高トリグリセリド血症)になる。
 また、糖尿病で、リポ蛋白リパーゼ(LPL)の酵素活性が低下すると、VLDLが異化されて生成されるHDLも減少し、低HDL血症になる。なお、肝臓でのHDL合成が低下するのが、低HDL血症の原因とも言われている。

 インスリンで、代謝が大きく変化する組織は、筋肉(骨格筋、心筋)、脂肪組織、肝臓の3種。インスリンは、腎臓、赤血球、消化管などには、比較的作用しない。
 肝臓では、細胞内と細胞外のグルコース濃度は、ほぼ、等しい:肝臓では、糖輸送担体(GLUT2)が、最初から細胞膜上に存在している。そのため、肝臓では、細胞内へのグルコース取り込み量は、インスリンの作用に依存しない。インスリンは、肝臓で、グルコキナーゼ(glucokinase)を活性化させ、間接的にグルコースの肝臓への取り込みを増加させる。肝臓は、糖新生により、グルコースを血中に供給する。
 糖尿病では、グルコースの細胞内への取り込みは十分でなく、結果として、エネルギー源は、脂肪酸に依存している:糖尿病では、飢餓状態と同様に、脂肪酸に、エネルギー源を依存している。

  インスリンには、Na+,K+-ATPaseを、細胞質から、細胞膜にトランスロケーションさせる作用があるという。Na+,K+-ATPaseは、3ケのNa+を細胞外に汲み出すのに伴い、2ケのK+を細胞内に取り込む。
 インスリンは、Na+,K+-ATPaseを、細胞膜に多く発現させ、その結果、細胞内Na濃度が減少したことが契機となって、Na+/H+交換輸送体(Na+/H+交換ポンプ)が開放され、Na+が細胞内に受動輸送されるものと思われる(注5)。
 また、細胞内Ca2+は、増加し(Ca2+-ATPase活性が上昇)、細胞内pHが、アルカリに傾き、血管が収縮するので、高血圧を来たしやすいという。

 インスリンは、NOを介して、血管を拡張させるという。
  IL-1βは、膵臓のβ細胞からのインスリン分泌を、誘導型のNOS(iNOS)の発現を刺激して、抑制するという。

 インスリンは、膵臓のランゲルハンス島のβ細胞で産生され、肝臓や腎臓で、分解される。

 2.インスリンは、GLUT4を介する細胞内へのグルコース取り込みを、促進させる
 膵臓のラ氏島β細胞は、組織中のブドウ糖濃度に反応し、インスリンを分泌する。

 インスリンが、筋肉細胞や脂肪細胞に存在する、インスリン受容体に結合すると、チロシンキナーゼが活性化されて、IRS-1(insulin receptor substrate-1)などがチロシンリン酸化される。
 IRS-1のリン酸化チロシンに、PI3-キナーゼ(phosphoinositide 3-kinase)、Grb2・Sos複合体、SHP-2が結合する。
 PI3-キナーゼが活性化され、プロテインキナーゼB(PKB、Aktとも呼ばれる)が結合する。
 PKBは、PDK1(phosphatidylinositol-dependent protein kinase 1)によりリン酸化され、活性型PKBになる。
 活性化PKBは、細胞膜を離れ、種々の蛋白質をリン酸化する。
 そのため、筋肉細胞(骨格筋、心筋)、脂肪細胞では、糖輸送担体GLUT4(グルットフォー:glucose transporter 4)含有小胞の細胞膜への移動(トランスロケーション:translocation)が促進され、細胞膜上にGLUT4が発現され、細胞内へのグルコース(ブドウ糖)の取り込みが促進される。
 この時、K+も、細胞内に取り込まれる。

 活性化PKB(Akt)は、インスリンの蛋白質合成の促進作用、グリコーゲン合成酵素の活性化作用にも関与している。
 肝細胞では、グリコーゲン合成酵素が活性化され、グルコースからグリコーゲンが合成される。
 取り込まれたグルコースは、グリコーゲンとして筋肉や肝臓に貯蔵ざれたり、解糖系を経て中性脂肪として脂肪組織に貯蔵される。
 インスリン受容体の数は、インスリン濃度が増加すると減少する(down regulation)。
 
 AMPキナーゼ(AMPK:AMP-activated protein kinase)は、運動により、骨格筋で、ATPが分解されて生じるAMPによって活性化される、蛋白リン酸化酵素(キナーゼ)。
 AMPキナーゼは、運動により、骨格筋のATPが消費され、AMPやAMP/ATP比が上昇すると、活性化され、GLUT4のトランスロケーションを起こすとされる。
 運動は、AMPキナーゼを活性化し、インスリンに依存せず、GLUT4のトランスロケーションを起こし、筋肉の細胞内へのグルコース取り込みを促進するので、糖尿病の治療に有用。
 運動によって、骨格筋のAMPキナーゼが活性化されると、骨格筋は、糖や脂肪を取り込んで、燃やす。
 アディポネクチン(注6)は、運動することなしに、AMPキナーゼを、活性化させ、インスリン抵抗性を、改善する。
 図には示さないが、Grb2・Sos複合体は、Rasの活性化を経て、MAPキナーゼ(MAPK)を活性化させる。
 
 運動は、ブラジキニンを筋肉から産生させ、GLUT4のトランスロケーションを起こし、細胞内へのグルコース取り込みを促進する
 有酸素運動を行うと、GLUT4の発現量が増加し、ミトコンドリア数も増加する。

 糖尿病では、インスリン抵抗性やインスリン分泌不足のため、筋肉や脂肪組織で、GLUT4を介する、細胞内へのグルコース取り込みが低下して、高血糖になる。

 GLUT1は、脳に存在する糖輸送担体で、インスリン非依存性にグルコース取り込みをする。
 脳神経細胞は、グルコースを主なエネルギー源にしているが、細胞内へのグルコース取り込みは、インスリンに依存しない。

 3.インスリン抵抗性
 糖尿病の多くは、NIDDM(インスリン非依存型糖尿病、2型糖尿病)。
 NIDDMは、インスリン抵抗性(インスリン感受性の低下)と、インスリン分泌不全が、要因となっている。

 インスリン抵抗性は、脂肪細胞に脂質(中性脂肪)が蓄積した際に、それ以上、脂質が蓄積しないように、インスリン感受性を低下させ、細胞内へのグルコース取り込みを抑制する、生理的な防御反応と考えられる。
 糖尿病の治療として、イ
ンスリン抵抗性を改善するためには、脂質摂取を控え、摂取カロリーを制限するのが、正道と思われる。

 インスリン抵抗性になると、インスリンが過剰に分泌され、
高インスリン血症になる
 高インスリン血症は、交感神経を活性化させたり、腎臓(近位尿細管、遠位尿細管、集合管)
Na+の再吸収を促進させて、高血圧の要因となる。高血圧になると、細胞内にNa+が流入しやすくなり、Na+,K+-ATPaseが働き過ぎて、十分働かなくなり、血管の中膜筋肉細胞などの細胞内に、Na+が蓄積する。Na+が蓄積すると、血管壁に水分が引き寄せられ、血管が肥厚し、血管内腔が狭くなり、血圧がさらに上昇する。

 血中のアディポネクチン濃度の低下は、インスリン抵抗性と、非常に相関する。血中のアディポネクチン濃度の低下は、糖尿病の原因になるインスリン抵抗性の、良い指標となる。

 高インスリン血症は、インスリン受容体を減少させる(down regulation)。

 アンジオテンシンIIAII)は、インスリン抵抗性の一因。

 TNF-αは、骨格筋に作用して、インスリンによる、IRS-1のチロシンリン酸化やPI3-キナーゼの活性化を抑制し、GLUT4を介する、細胞内へのグルコース取り込みを抑制し、インスリンによるグリコーゲン合成を抑制する。
 TNF-αは、脂肪細胞からも分泌されるので、肥満者では、TNF-αの分泌が増加し、インスリン抵抗性が出現し易いと考えられている。
 遊離脂肪酸(FFA)も、脂肪細胞から産生される。血漿遊離脂肪酸(FFA)が上昇すると、筋肉細胞では、PI3-キナーゼが低下し、グルコースの取り込みが低下する(Randle効果)。
 肥満を解消すると、インスリン抵抗性が改善される。

 各種降圧剤でも、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗剤)、ACE阻害剤、長時間作用型Ca拮抗剤、α1ブロッカーは、インスリン抵抗性を改善する。しかし、利尿剤、βブロッカーは、インスリン抵抗性を、増悪させるという。

 アミノ酸の、アルギニンやリジンは、インスリン分泌を刺激すると言う。


 4.ACE阻害剤によるインスリン抵抗性の改善

 ACE阻害剤は、下記の機序により、インスリン抵抗性を改善する。

 1).レニン・アンジオテンシン系(RA系)の阻害
 アンジオテンシンII(AII)は、インスリンのインスリン受容体への結合による、IRS-1のチロシンリン酸化を抑制し、グルコースの骨格筋内への取り込みを抑制する。
 ACE阻害剤は、AIIの産生を抑制し、インスリン抵抗性を改善する。
 なお、AIIの受容体には、AT1とAT2が知られている。AT1受容体拮抗剤は、AIIのグルコースの骨格筋内への取り込み抑制作用を解除し、骨格筋へのグルコースの取り込みを促進し、インスリン抵抗性を改善する。しかし、AT1受容体拮抗剤は、下記のブラジキニンを介するインスリン抵抗性の改善効果は、期待出来ない。

 2).ブラジキニン(BK)の分解抑制(ブラジキニンの増加)
 ACE阻害剤は、ブラジキニンの分解を抑制する。
 ブラジキニンは、PI3-キナーゼを介さずに、GLUT4の細胞膜上への移行(トランスロケーション)を促進させ、細胞内へのグルコース取り込みを促進させ、インスリン抵抗性を改善するとされる。
 運動は、筋肉から、ブラジキニンの産生を増加させ、インスリン抵抗性を改善すると考えられる。

 3).局所の血流増加
 ACE阻害剤により、血管が拡張すると、血流が増加し、グルコース取り込みの機会が増える。

 その他、ACE阻害剤は、IRS-1のチロシンリン酸化を抑制する、遊離脂肪酸やTNF-αの産生を抑制し、インスリン抵抗性を改善するという。


 5.リポ蛋白リパーゼ(LPL)
 インスリンは、脂肪組織のリポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性を上昇させる:インスリンは、筋肉(特に心筋)のLPL活性をは、低下させる(注7)。
 糖尿病では、血液中のLPL活性が低下し、中性脂肪の分解が遅延して、高中性脂肪(トリグリセリド)血症になる。
 
糖尿病では、VLDLカイロミクロンレムナント、VLDLレムナント(IDL)が増加する。また、LDLの異化で生成されるHDL(特に、HDL2)が、低下する。NIDDMでは、門脈における高インスリン血症が、肝臓での脂肪酸合成を増加させ、VLDL合成を促進させ、LDLが増加する。
 血糖の上昇により、LDLのアポB蛋白のリジン残基が糖化され、LDL受容体(LDLレセプター)
への親和性が低下し、LDLが血中に増加し、動脈硬化の原因となる、酸化LDLも増加する。
 糖尿病では、小腸上皮細胞で、コレステロールの吸収を促進させるアシル-CoA:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(ACAT:acyl-CoA cholesterol acyltransferase)の活性が増加していて、コレステロールを含んだカイロミクロンレムナントが増加しやすい。

 6.糖尿病性昏睡
 糖尿病では、尿糖が増加するための浸透圧利尿と、インスリン作用不足により、水・電解質異常が生じ、糖尿病性昏睡の陥る危険がる。
 糖尿病昏睡では、浸透圧利尿により、体内の水が喪失し、血漿中Na濃度が上昇し得るが、尿中にNaが喪失することと、血漿浸透圧注8)が上昇して、細胞内から循環血液中に、水が移動し希釈される為、血漿中Na濃度は、必ずしも上昇しない。
 インスリンは、Na+,K+-ATPaseを、細胞質から、細胞膜にトランスロケーションさせる作用がある。従って、インスリン作用不足は、Na+,K+-ATPaseによる、細胞内から細胞外へのNa汲み出しを、減少させる。また、腎臓でのNa再吸収が減少し、K+の排泄が増加する。その為、糖尿病性昏睡では、必ずしも、血漿中のNa濃度は、上昇しない。しかし、Kは、インスリン作用不足により、細胞内への取り込みが減少して、高K血症(高カリウム血症)を来たすことが多い。なお、インスリンの作用が不足すると、Na+,K+-ATPaseの活性が低下し、細胞内Kは、減少しているので、インスリン治療を開始すると、低K血症を来たし易いので、注意が必要。
 アシドーシスでは、H+が、血液中から、細胞内に入り、K+が交換に、細胞外に出る。
 このように、糖尿病性昏睡では、細胞内NaとHは増加し、細胞内Kは減少していることが多い。

 糖尿病性昏睡には、高血糖高浸透圧性昏睡と、ケトアシドーシス昏睡と、乳酸アシドーシスによる昏睡がある。
 高血糖高浸透圧性昏睡は、2型糖尿病の高齢者に、感冒などを契機に発症することが多く、血糖値が上昇して、血漿浸透圧は、350mOsm/L以上になり、極度に脱水する。
 ケトアシドーシス昏睡は、1型糖尿病の若年者に、感染症などのストレスがかかることが誘因で、発症することが多く、血中pHは、7.3以下になる。高血糖を、治療で、急激に250mg/dl以下に下げると、脳浮腫が起こることがある。

 乳酸アシドーシスによる昏睡は、糖尿病患者が、アルコール注9)を多飲して起こることが多い。乳酸アシドーシスによる昏睡は、ビグアナイド薬(経口血糖降下剤)、サリチル酸なども、原因で起こる。乳酸アシドーシスによる昏睡は、意識障害(傾眠、昏睡)、消化器症状(嘔吐、腹痛)、ならびに過呼吸を呈し、多くの場合、ショック状態に陥る。
 なお、糖尿病では、肝臓での乳酸産生の亢進、骨格筋での乳酸利用の低下、肝臓での糖新生系の亢進(肝臓でのアラニン取り込みの増加)、ミトコンドリア内でのピルビン酸脱水素酵素活性の低下(ピルビン酸や乳酸がアセチル-CoAに変換されない)などのため、乳酸が増加しやすい。

 注1:インスリンは、近位尿細管での、尿酸の再吸収を促進すると言う。
 高インスリン血症がある糖尿病の患者では、高尿酸血症になる。

 注2PEPCK(phosphoenolpyruvate carboxykinase)は、糖新生の際に、オキサロ酢酸をホスホエノールピルビン酸にする際の、重要な律速酵素。
 インスリンは、PEPCKの発現を抑制し、糖新生を抑制する。
 ステロイド受容体ファミリーのPPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor γ)は、PEPCKの転写を促進し、糖新生を促進させる。
 糖尿病改善薬(経口血糖降下薬)のチアゾリジン誘導体(thiazolidine-2,4-dione)は、PPARγと結合する。
 PPARγ欠損マウスは、高脂肪食下でも、インスリン感受性が、保持されている。

 注3:インスリンは、BCAAの骨格筋への取り込みを促進するが、脳内の神経伝達物質の前駆体になる、芳香族アミノ酸(aromatic amino acids:AAA)の取り込みには、あまり影響しない。

 注4:細胞では、グルコース濃度が低下すると、cAMP濃度は、上昇する。

 注5:インスリンが、Na+/H+交換輸送体(Na+/H+チャネル)を活性化させ、Na+が細胞内に受動輸送され(細胞内Naが増加する)、その結果、Na+,K+-ATPaseがトランスロケーションにより、細胞膜に多く発現し、細胞内Na濃度が減少するとする説もあようだ。

 注6アディポネクチンは、レプチンと同様に、脂肪細胞から分泌されるホルモン(アディポカイン)で、インスリン抵抗性を改善する。
 肥満や糖尿病で、アディポネクチンの血中濃度が低下すると、インスリン抵抗性が、増悪する。
 アディポネクチンは、肝臓、骨格筋に、作用し、AMPキナーゼを活性化させる。AMPキナーゼが活性化されると、肝臓では、糖新生が抑制され、骨格筋では、糖(グルコース)の取り込みが増加し、血糖が、低下する。
 PPARγ欠損マウスの小型脂肪細胞は、レプチンや、アディポネクチンが、多く発現され、また、分泌もされている。
 アディポネクチンは、PPARαも、活性化する。AMPキナーゼも、PPARαも、脂肪を燃やす作用があり、β酸化を促進し、筋肉や肝臓に蓄積した脂肪を、燃やし、中性脂肪の蓄積を抑制し、インスリン感受性を、高めるという。
 アディポネクチンは、炎症性の(血管)内膜肥厚を抑制し、動脈硬化を抑制する。
 日本人の約40%は、アディポネクチンを分泌しにくい、遺伝子多型(SNP)を有している。
 食事療法で、体重を2〜3Kg減少させたり、運動療法で、体重を減少させると、血中のアディポネクチンは、上昇する。
 チアゾリジン誘導体は、肥大した大型脂肪細胞を、アディポネクチンを多く分泌する小型脂肪細胞に置換し、アディポネクチンの血中濃度を、2〜3倍程度に、上昇させる。チアゾリジン誘導体は、また、アディポネクチンの遺伝子の転写因子であるPPARγを活性化させ、PPARγは、アディポネクチンの遺伝子に結合し、その転写を促進させ、アディポネクチンの血中濃度を、上昇させる。
 インスリンは、アディポネクチンの分泌を、急性に増加させる。
 肥満のモデル動物では、アディポネクチンの分泌が低下するのみならず、筋肉や脂肪細胞で、アディポネクチン受容体が減少している(ダウンレギュレーション)。
 アディポネクチン受容体は、酵母にも存在する。生命機構の進化の段階で、アディポネクチンは、飢餓の際に、筋肉や肝臓などで、脂肪の燃焼(β酸化)を促進させのに必要なホルモンとして、備えられたホルモンとも、考えられている。

 注7:砂糖と脂肪を一緒に摂るのは、健康に良くない:砂糖の摂取で、インスリンが分泌され、脂肪組織のLPL活性が上昇する。脂肪摂取で、血液中に中性脂肪(カイロミクロン)が増加し、LPL活性が高まった脂肪組織に、取り込まれる。

 注8: 血糖値が高いと、血漿浸透圧が、上昇する。
 血漿浸透圧(血清浸透圧)は、血漿中のNa濃度、K濃度、血糖値、BUN(尿素窒素)値で決定する。
 血漿浸透圧=(Na+K)×2+血糖(mg/dL)÷18+BUN(mg/dL)÷2.8
 血清K濃度は、Na濃度に比して著しく低値であり、血清Ca濃度、血清P濃度と同様に、血清浸透圧を規定する主な要素ではない。
 そこで、血清浸透圧は、血清中のNa濃度、血糖値、BUN値から、下記の血清浸透圧の概算式を用いて、概算出来る。 
 血清浸透圧≒血清Na(mEq/L)×1.86+血糖値(mg/dL)÷18+BUN(mg/dL)÷2.8

 注9:元来、糖尿病患者では、肝臓の乳酸の取り込みが、亢進していたり、糖新生系が、亢進している。しかし、アラニンからのピルビン酸産生増加や、ピルビン酸脱水素酵素(PDH)の活性の低下などのため、糖尿病患者では、血中乳酸値が、上昇しやすい。    
 糖尿病患者が、アルコールを多飲して、乳酸アシドーシスによる昏睡を、起こすことが多いのは、アルコールにより、肝臓での乳酸利用が、低下し、高乳酸血症を来たすためとされる。
 なお、アルコールは、糖尿病患者では、低血糖を誘発させる。アルコールの代謝は、主に、肝細胞内に局在するアルコール脱水素酵素ADH)によって行われれ、その際、NAD+が、NADH2+に、還元される。参考文献では、「アルコールは、肝臓でのNADH/NAD+を増加させ、phosphoenol pyruvate carboxylaseの活性が低下することで肝糖産生(糖新生)が減少して低血糖を誘発する」と、説明されていた。しかし、アルコールが、ADHによって代謝されて生成されるアセトアルデヒドが、ミトコンドリアを障害し、脂肪酸のβ酸化が障害され、むしろ、肝臓でのNADH/NAD+が、低下して、糖新生が減少し、低血糖が、誘発されるのではないかと、考えられる。
 なお、糖尿病患者が低血糖を起すのは、長時間の空腹、糖尿病患者への抗血糖剤やインスリンの投与が原因のことが多い。低血糖症状には、交感神経症状と交感神経症状の2種類がある。交感神経症状は、血糖が急激に低下した時(急性低血糖:血糖値35mg以下))に発生しやすく、頻脈、血圧上昇、冷汗などが現れる。副交感神経症状は、血糖がゆっくり低下した時(慢性低血糖:血糖値50mg以下)に発生しやすく、眠気、空腹感、異常行動などの症状が現れる。

 参考文献
 ・肝疾患診療マニュアル 日本医師会雑誌特別号 Vol.122、No.8、1999年
 ・期待されるアディポネクチン DITN 第319号 2004年10月5日発行

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