十分に食餌を摂取している時の代謝
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1.三大栄養素の代謝
十分に食餌を摂取している時は、食餌で摂取された三大栄養素は、トリグリセリド(主として脂肪組織)、グリコーゲン(肝臓、筋肉、注1)、あるいは、コラーゲンとして、体内に貯蔵されます。
また、コレステロールやトリグリセリドは、食餌で摂取しなくても、体内では、糖質や蛋白質からも、変換(転換)により、合成されます。
1).グルコース
食餌で摂取されたグルコース(ブドウ糖)は、肝臓ではグルコキナーゼ(glucokinase)により、筋肉ではヘキソキナーゼ(hexokinase)により、リン酸化されて、グルコース 6-リン酸に変換されます。
グルコース 6-リン酸は、筋肉や肝臓では、グルコース 1-リン酸を経て、グリコーゲン合成酵素(glycogen synthase)により、グリコーゲンに合成され、貯蔵されます(注2)。
細胞内へのグルコース取り込みは、筋肉では、インスリンに依存しますが、脳、肝臓、赤血球では、インスリンに依存していません。
グルコースは、脂肪組織では、インスリンによって、脂肪細胞内への取り込みが促進され、アセチル-CoAからマロニルCoA経路により、脂肪酸に合成され、中性脂肪(トリグリセリド)として、貯蔵されます(
注3)。
解糖(Embden-Myerhof経路)で、グルコースは、ヘキソキナーゼ(又は、グルコキナーゼ)でグルコース 6-リン酸にされ、ホスホフルクトキナーゼ(phosphofructokinase)、ピルビン酸キナーゼにより、ピルビン酸(pyruvate)にまで分解します。この3つの酵素による反応は、不可逆で、解糖系の律速段階です。
解糖は、細胞質ゾルで行われます。
解糖で生成されたピルビン酸からは、ミトコンドリア内で、ピルビン酸脱水素酵素により、アセチル-CoAが生成されます。CoA(コエンザイムA)は、補酵素Aのことで、ビタミンであるパントテン酸が、その一部を形成しています。
アセチル-CoAは、TCA回路(クエン酸回路)で代謝され、生成されるNADH2+から電子が、ミトコンドリア内膜に伝達され(電子伝達系)、ATPが生成されます。また、ミトコンドリア内のアセチル-CoAは、カルニチンと結合して、細胞質ゾルに輸送され、脂質(脂肪酸)が合成されます。
このように、解糖系を経て生成されるアセチル-CoAは、ATPが不足している時は、ミトコンドリア内のTCA回路で代謝されてATP生成に利用され、ATPが十分に存在している時は、ミトコンドリア外で、脂肪酸の合成に利用されます。
a.pyruvate kinase:ホスホエノールピルビン酸がピルビン酸に変換される
ピルビン酸キナーゼ(pyruvate kinase)は、ホスホエノールピルビン酸をピルビン酸に変換する酵素です。この変換の際に、ADPからATPが生成されます。
Pyruvate kinaseの活性は、フルクトース 1,6-ビスリン酸により、活性が促進されます。
Pyruvate kinaseの活性は、ATP、cAMP、アドレナリン、グルカゴンにより、活性が抑制され、インスリンにより 活性化されます。
Pyruvate kinaseが先天的に欠損すると、溶血性貧血を来たします。
b.pyruvate dehydrogenase:ピルビン酸がアセチル-CoAに変換される
ピルビン酸(pyruvate)は、TCA回路(クエン酸回路)で代謝される際には、ピルビン酸脱水素酵素複合体(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体:pyruvate dehydrogenase complex)により、アセチル-CoAに変換されます。
Pyruvate dehydrogenaseは、ミトコンドリア内膜に存在し、TCA回路を制御します。
ビタミンB1(注4)は、pyruvate dehydrogenaseの補酵素として必要です。
哺乳類では、ピルビン酸を、アセチル-CoAに変換する酵素は、pyruvate dehydrogenaseの他にはありません。
ビタミンB1が欠乏すると、脚気になります。
ビタミンB1が欠乏すると、ピルビン酸が、TCA回路に入って代謝されず、蓄積して、乳酸となる:乳酸が増加するので、代謝性アシドーシスになる。
Pyruvate dehydrogenaseの活性は、アセチル-CoA、ATP、NADH2+で抑制されます。飢餓の時などに、脂肪酸のβ-酸化で供給されるアセチル-CoAは、pyruvate dehydrogenaseの活性を抑制するので、解糖が抑制され、糖新生が促進されます。
Pyruvate dehydrogenaseの活性は、インスリンにより、活性化され、解糖が促進されます。
c.pyruvate carboxylase:ピリビン酸がオキサロ酢酸に変換される
ピルビン酸カルボキシラーゼ(pyruvate carboxylase)は、糖新生時に活性化され、ピルビン酸を、糖新生に必要なオキサロ酢酸に変換する酵素です。pyruvate carboxylaseは、また、運動時に活性化され、オキサロ酢酸を生成し、このオキサロ酢酸と、脂肪酸のβ-酸化で生成されるアセチル-CoAとが結合し、クエン酸が生成され、TCA回路で代謝されて、NADH2+が生成されます。
ピルビン酸は、糖新生(注5)の際には、ミトコンドリア内で、ビオチン(Biotin)、ATP、CO2の存在下に、ピルビン酸カルボキシラーゼにより、オキサロ酢酸(オキザロ酢酸)に変換されます。この反応では、ATPが消費され、ADPになります。pyruvate carboxylaseにより変換されたオキサロ酢酸は、TCA回路でも利用され得ます(注6)。
細胞内のADP濃度やAMP濃度が、ATP濃度に比し、上昇すると、pyruvate carboxylaseの活性が抑制され、糖新生が抑制されます(AMP濃度が高いと、糖新生に必要な、fructose-1,6-bisphosphatase(fructose-1,6-diphosphatase)の活性も抑制されます)。
アセチル-CoAは、pyruvate carboxylaseの活性を、活性化させ、糖新生を促進します。
ビオチン(Biotin)は、水溶性ビタミンで、pyruvate carboxylaseの補酵素として、必要です。ビオチンは、ビタミンHとも呼ばれました。
Pyruvate carboxylaseが先天的に欠損すると、血液中の乳酸やピルビン酸やアラニンが高濃度になり、嘔吐や精神運動発達の遅延と言った症状が起こります(注7)。
Pyruvate carboxylaseの活性は、脂肪酸のβ-酸化で生じるアセチル-CoAにより促進されます(注8)。
d.citrate synthase:アセチル-CoAとオキサロ酢酸から、クエン酸が合成される
アセチル-CoAとオキサロ酢酸は、TCA回路(クエン酸回路)で、クエン酸シンターゼ(citrate synthase)により、クエン酸(citrate、注9)が合成されます。
クエン酸は、TCA回路で分解を受け、NADH2+が生成されます。
NADH2+は、ミトコンドリア内の電子伝達系に電子を伝達し、エネルギー(ATP)が産生されます。
クエン酸シンターゼの活性は、ATPで抑制されます。
d.isocitrate dehydrogenase
イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(isocitrate dehydrogenase:イソクエン酸脱水素酵素)は、ミトコンドリア内に存在し、イソクエン酸をオキサロコハク酸に変換します。
イソクエン酸デヒドロゲナーゼの酵素活性は、ADPによって活性化され、ATPによって阻害されます。
十分な栄養が摂取され、十分にATPが生成されると、イソクエン酸デヒドロゲナーゼの酵素活性は、抑制されます。
ATPにより、イソクエン酸デヒドロゲナーゼの酵素活性が抑制されると、TCA回路での代謝が抑制され、クエン酸が蓄積します。蓄積したクエン酸は、ミトコンドリアのマトリックスから細胞質ゾルに輸送され、アセチル-CoAカルボキシラーゼが活性化され、脂肪酸合成が促進されます。
このように、十分な栄養が摂取されている時は、クエン酸が蓄積し、脂肪酸が合成され、中性脂肪として、貯蔵されます。
e.HMG-CoA reductase:アセチル-CoAからコレステロールが合成される
肝臓では、アセチル-CoAから、HMG-CoA(3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA:-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzyme
A)を経て、HMG-CoA還元酵素(HMG-CoA reductase)、注10)により、メバロン酸(mevalonate)が合成されます。
メバロン酸からは、内因性コレステロールが合成され、VLDLとして、血中に放出されます。
ほとんど全ての細胞でコレステロールの合成が行われますが、コレステロール合成の約50%は、肝臓で行われます。
コレステロールを多く含む食餌を摂取すると、肝臓で行われるコレステロール合成は抑制され、内因性コレステロール量は減少しますが、完全に抑制されることはありません。
2).脂肪酸
脂肪酸のβ酸化により、ミトコンドリア内では、アセチル-CoAが生成されます。また、糖質(グルコース)や蛋白質(アミノ酸)からも、最終的に、ミトコンドリア内で、アセチル-CoAが生成されます。
脂肪酸のβ酸化により、アセチル-CoAが多量に生成されると、アセチル-CoAは、カルニチンと結合して、アセチルカルニチンとなり、ミトコンドリア外の細胞質ゾルに、汲み出されます。アセチルカルニチンは、細胞質ゾルで、カルニチンとアセチル-CoAに分解されます。
ミトコンドリア内のアセチル-CoAは、クエン酸シンターゼ(Citrate synthase)により、クエン酸に変換され、ミトコンドリアから、細胞質ゾルに輸送されます。ATP-citrate lyase(クエン酸リアーゼ)により、アセチル-CoAに戻されます。細胞質に輸送されたアセチル-CoAは、マロニル-CoA経路で、アセチル-CoAカルボキシラーゼ(acetyl-CoA carboxylase:ACC)により、マロニル-CoA(malonyl-CoA)となり、アシル-CoA(Acyl-CoA)を経て、パルミチン酸(palmitate)などの脂肪酸に合成されます。
食餌で摂取された脂肪酸や、グルコースから変換された脂肪酸は、脂肪組織や肝臓で、グリセロール3-リン酸(α-グリセロリン酸)とエステル結合した中性脂肪(トリグリセリド)として、貯蔵ざれ、蓄積します。
脂肪酸の合成(マロニルCoA経路)は細胞質ゾル(cytosol)で行われ、脂肪酸の分解(β-酸化)はミトコンドリア内で行われます。
3).アミノ酸
食餌で摂取された蛋白質のアミノ酸も、アセチル-CoAに変換され、脂肪酸を経て中性脂肪(トリグリセリド)に変換されたり、コレステロールに変換されます。
また、摂取されたアミノ酸は、コラーゲンとしても、貯蔵されます。
2.組織の主なエネルギー源
・脳:グルコース、(絶食時はケトン体が代替エネルギー源になる)
・肝臓:グルコース、脂肪酸、アミノ酸(ケトン体は使えない)
・骨格筋:脂肪酸、グルコース(注11)、アミノ酸(BCAAなど)、
・心筋:遊離脂肪酸(注12)、(グルコース)、
・赤血球、白血球:グルコース、
注1:スタミナをつける為に、筋肉グリコーゲンの貯蔵を増やすには、高炭水化物食が良いです。
注2:図には示しませんが、ホスホグルコン酸回路では、グルコース-6-リン酸から、NADPH2+(コレステロールや脂肪酸の合成に必須の補酵素)や、リボース(核酸の原料)が合成されます。ホスホグルコン酸回路は、、ヘキソースリン酸側路(HMS:hexose monophosphate shunt)、ペントースリン酸経路、Warburg-Dickens経路とも呼ばれる。
注3: 脂肪細胞に貯蔵される中性脂肪は、血液中から取り込んだ中性脂肪と、血液中のグルコース(ブドウ糖)を取り込んで合成した中性脂肪の、2つの起源があります。
血液中の中性脂肪は、食事から吸収された中性脂肪(カイロミクロンに含まれる)と、肝臓で合成された中性脂肪(VLDLやLDLに含まれる)の、2つの起源があります。
注4:ビタミンB1(ビタミンB1)は、チアミンで、ピロリン酸が結合した、チアミンニリン酸(TPP)が、pyruvate dehydrogenaseの補酵素となります。
注5:糖新生の経路は、解糖の逆経路ではありません。
注6:オキサロ酢酸は、“活性化された”ピルビン酸と考えられます:ピルビン酸が、Pyruvate carboxylaseにより、ATPを使用して、CO2とビオチンで、活性化されたのが、オキサロ酢酸と言えます。
TCA回路が、順調に回り、呼吸鎖でのATP生成に必要な、NADH2+を得る為には、オキサロ酢酸が、必要です。糖新生の際などには、必要な、NADH2+を、オキサロ酢酸からリンゴ酸に変換することで、細胞質ゾルに輸送しますので、ミトコンドリア内には、オキサロ酢酸が欠乏してしまうので、pyruvate
carboxylaseにより、オキサロ酢酸を供給し、TCA回路が、順調に回るようすることが、必要なのだと、考えられます。
注7:Pyruvate caraboxylase欠損症では、亜急性壊死性脳脊髄症(subacute necrotizing
encephalomyelopathy)を来たし、血中の乳酸やピリビン酸が、高値になります。
しかし、低血糖は、主要な特徴ではなく、これは、アラニン以外からの糖新生は、保たれているためとされます。アラニンや、乳酸は、ピリビン酸を経て、糖新生などに利用されますが、Pyruvate
caraboxylase欠損症では、利用されません。その為、アラニンや、乳酸や、ピリビン酸が、血中に、蓄積し、軽度の低血糖が、空腹時に、生じ得ます。
Pyruvate caraboxylaseで生成されるオキサロ酢酸は、糖新生にだけでなく、TCA回路の回転に、必要のようです。
注8:脂肪酸の分解は、糖新生を促進させます:飢餓時などに、脂肪酸がβ-酸化されて、アセチル-CoAが増加すると、pyruvate caraboxylaseが活性化されて、糖新生が促進され、血液中にグルコースが供給され、血糖が維持されます。
なお、アセチル-CoAや脂肪酸は、ピルビン酸に変換出来ないので、脂肪酸からは、糖新生出来ません。
注9:クエン酸は、乳酸の蓄積を防ぎ、グリコーゲンの分解を抑制し、疲労回復を促進すると言わています。
しかし、従来、乳酸は、筋肉の疲労物質と考えられて来ましたが、最近は、乳酸は、アセチル-CoAに変換されることで、TCA回路に入るので、むしろ、疲労を和らげる物質と捉える人もいます。しかし、一般的には、乳酸が筋肉に蓄積すると、筋肉の酸性度が強まり、酵素群の活性が低下し、筋肉運動に必要なエネルギーを、生成出来なくなるので、乳酸は、疲労物質と、考えられます。なお、アンモニアも、運動によって増加します。アンモニアは、筋肉で、乳酸生成を促進させ、また、中枢神経系を介して、筋肉群を硬化させるので、疲労物質と、考えられています。
クエン酸は、TCA回路で代謝されることで、オキサロ酢酸などを、供給する効果もあるのかも知れません。
注10:HMG-CoA還元酵素阻害剤(医薬品名:スタチン)が、日本で、遠藤氏らによって開発されました。
HMG-CoA還元酵素阻害剤は、肝臓で、HMG-CoA還元酵素を阻害し、肝臓でのコレステロールの合成を抑制し、その結果、肝臓のLDL受容体の発現を高め、血液中のコレステロールを低下させます。
スタチン系薬剤は、生体内でのCoQの生合成をも阻害するので、酸化ストレスを、増加させます。
注11:筋肉は、運動強度が低い運動の際には、主に脂肪酸をエネルギー源として利用し、運動強度が高い運動の際には、主にグルコースをエネルギー源として利用します。グルコースをエネルギー源として利用した場合、筋肉から、血液中に、乳酸が放出され、血中乳酸量が増加します。
筋肉は、安静時には、筋肉内のグリコーゲン、中性脂肪、蛋白質のアミノ酸をエネルギー源として利用しています。筋肉は、運動時には、さらに、血液中のグルコース(血糖)や、遊離脂肪酸(FFA)を取り入れて、エネルギー源として利用します。筋肉は、長時間の運動時には、血液中の遊離脂肪酸を主たるエネルギー源として利用します。
なお、骨格筋には、遅筋と、速筋とがあり、遅筋は、脂肪酸を消費し、速筋は、グルコース(血糖)を消費すると言われます。
注12:心臓は、好気代謝が盛んで、ミトコンドリアが、細胞質スペースの40%を占めている。心臓は、脂肪酸、ケトン体、グルコース、ピルビン酸、乳酸を代謝出来るが、休憩中は、脂肪酸をエネルギー源として利用し、重労働中は、貯蔵グリコーゲンを分解して、グルコースをエネルギー源として利用する。
参考文献
・ヴォート基礎生化学(東京化学同人、第1版第4刷、2003年)
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