低酸素性虚血性脳症と脳室周囲白質軟化症

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 かつては、脳性麻痺の三大原因は、仮死、低出生体重児、核黄疸であった。
 核黄疸は、希な疾患となったが、仮死に供なう、低酸素性虚血性脳症や、低出生体重児、早産児の虚血性脳障害(脳室周囲白質軟化症)が、脳性麻痺の原因として重要であることが、知られて来た。

 1.低酸素性虚血性脳症:成熟児
 分娩期、新生児の仮死は、低酸素性虚血性脳症(HIE:hypoxic-ischemic encephalopathy)を起こし、脳性麻痺の原因となる。
 低酸素性虚血性脳症は、成熟児に見られる。
 低酸素性虚血性脳症は、出生間近の時期(分娩期)に、脳血流と酸素供給が減少して、脳虚血に陥ったことが原因で起こる。

 米国産婦人科医会と米国小児科学会の共同報告書によると、低酸素性虚血性脳症(分娩期の仮死が原因)は、脳性麻痺の原因の、10%前後を占めるに過ぎないという:脳性麻痺になるのは、新生児仮死で、低酸素性虚血性脳症を来すことが、主な原因でない注1)。脳性麻痺の原因は、新生児仮死以外の原因が多い。

 仮死では、生命維持に重要な、脳、心筋、副腎などへの血流維持が優先されるので、肺、肝、腎、消化管などへの血流は、減少する。
 さらに、脳虚血に陥ると、大脳の血管の自動調節機能も消失し、脳循環血流量も減少する。脳虚血による傷害期から、再灌流期には、嫌気性代謝により、脳内の乳酸が増加し、ATPがゆっくり低下する。ATPの低下により、Na+,K+-ATPaseの機能が低下して、細胞内にNa+、Cl-、Ca+が流入し、細胞外にK+が流出する。その結果、グルタミン酸などの興奮性アミノ酸の濃度が、細胞外で上昇し、細胞障害を惹起するという。
 
 低酸素性虚血性脳症を起こすと、出生24時間以内に、大脳皮質機能障害、脳幹障害、筋緊張低下などの症状が、現れる。
 頭部MRIで検査すると、急性の脳虚血(仮死など)では、代謝活性が盛んで、興奮性神経伝達物質が豊富な、基底核、視床、脳幹、海馬、皮質錐体路(中心溝)に、病変を認める。
 なお、慢性の脳虚血(胎盤機能障害など)では、大脳白質部に、病変を認める。
 基底核、視床に軽度の病変が認められる症例は、アテトーゼ型脳性麻痺になる(知能障害を合併しない)。基底核、視床に中等度の病変を認める症例は、知能障害を伴った痙性四肢麻痺になる。基底核、視床に高度の病変を認める症例は、痙性四肢麻痺に加えて、癲癇(てんかん)や嚥下障害も、高頻度に合併する。大脳白質部に病変を認める症例は、基底核、視床に病変を認めない場合は、神経学的後遺症は、軽度とされる。

 2.脳室周囲白質軟化症:早産児
 脳室周囲白質軟化症(periventricular leukomalacia:PVL)は、在胎32週以下の早産児の脳障害パターンとして、多い。
 脳室周囲白質軟化症は、低出生体重児、早産児が、脳性麻痺となる、大きな原因である。

 早産児では、脳血管と、グリア形成が未熟であるため、脳の血流(灌流)が低下すると、脳室周囲白質軟化症を起こす。

 脳室周囲白質軟化症は、側脳室の三角部から後角(上部と外側部)の脳室周囲白質に、好発する。
 脳室周囲白質軟化症の好発部位には、大脳皮質から脊髄に下行する運動神経(錐体路)が含まれているため、脳室周囲白質軟化症(PVL)は、下肢の痙性脳性麻痺の原因となることが多い。脳室周囲白質軟化症が原因の脳性麻痺は、痙性両麻痺(下肢の痙性が強く、上肢では軽い麻痺を示す)が、最も多い。脳室周囲白質軟化症が原因の脳性麻痺は、精神発達の遅れは、他の脳性麻痺例(成熟児の低酸素性虚血性脳症が原因の脳性麻痺例など)に比して、軽度である。特に、痙性両麻痺例は、全く知能傷害を認めないことも、珍しくない。しかし、四肢麻痺例は、中等度から重度の知能障害を認めることが、多い。そして、四肢麻痺例の一部は、West症候群などの、てんかん(癲癇)、視空間認知の傷害、学習傷害を、合併する。

 脳室周囲白質軟化症では、傷害(脳血流の低下)発生3時間後から、虚血性凝固壊死が、生じる。そして、傷害発生3時間後〜1日後には、ミクログリアが活性化され、2日目から、壊死巣の周囲に軸索変性が生じ、3〜5日目には脂肪顆粒細胞が出現し、次いで、反応性アストログリアや、血管新生が、出現し、傷害発生13〜14日頃に、空洞形成が見られる。

 3.脳血流の自動調節と、脳虚血

 脳動脈は、正常な状態では、血圧が、ある範囲で、変動しても、脳血流量を自動調節して、一定に保つ:血圧が低下すると、動脈が拡張して、血流量を増加させ、血圧が、上昇すると、動脈が収縮して、血流量を、減少させる。しかし、血圧が低下し過ぎると、脳血流を一定に維持出来ず、脳乏血や、さらには、脳虚血に陥ってしまう(注2)。
 高血圧の人では、この脳血流の自動調節域が変化して、脳血流量が、正常血圧の人より、低下している。また、正常血圧の人が、脳血流を維持出来ている低い血圧では、脳血流が低下してしまう。
 降圧薬の種類  脳血流  自動調節下限域
 ACE阻害薬  不変  減少
 Ca拮抗薬  増加  不変
 降圧利尿薬  不変〜減少  不変
 α遮断薬  増加  減少
 β遮断薬  減少  不変〜増加
 注1:結果が悪かった時、患者は、被害を被ったと認識し、その責任を医師に帰そうとする。
 脳性麻痺は、統計によると、現在でも、分娩500に1の割合で、発生しているが、医療提供者(産科医師など)の責任による脳性麻痺は、少ない。
 出産は、決して安全なものでなく、医療の進歩(帝王切開など)により、リスクが軽減されたとは言え、依然として、リスクを伴うことは、変わりない。

 注2:脳血管は、筋原性因子により調節される:血管内圧が低下すると、自動的に血管は拡張し、反対に、血管内圧が上昇すると、自動的に血管は収縮する。なお、血管径が50μm以上の太さの血管は、神経性因子により調節され、ノルアドレナリン、セロトニン、ペプチド(NPY、VP)により収縮し、反対に、コリン、ペプチド(VIP、SPCGRP)により拡張する。また、血管径が50μm以下の細い血管は、二酸化炭素(CO2)、酸素(O2)、水素イオン(H+)、カルシムイオン(Ca2+:収縮)、アデノシン(拡張)などの化学因子によっても調節を受ける。
 正常血圧の人では、平均血圧(脳の灌流圧)が、60〜150mmHgの範囲では、脳血流量は、変化しない。
 平均血圧(脳の灌流圧)が、低下すると、脳の動脈は、自動的に拡張して、血流量を増加させるが、平均血圧(脳の灌流圧)が、下限域の60mmHg以下まで低下すると、脳の動脈は、虚脱して細くなり、脳血流が低下して、脳実質は、虚血状態に陥ってしまう。
 また、平均血圧(脳の灌流圧)が、上昇すると、脳の動脈は、自動的に収縮して、血流量を減少させるが、平均血圧(脳の灌流圧)が、上限域の150mmHg以上に上昇すると、脳の動脈が、突破してしまうおそれがある。
 高血圧の患者では、正常血圧の人より脳の動脈が硬い(拡張しにくい)為、安静時の脳血流量が低下し、自動調節の下限域や上限域は、高くなる(例えば、高血圧が著しい患者では、平均血圧が、100mmHgに低下しても、脳の動脈が虚脱し、脳血流が、著しく低下してしまう)。

 参考文献
 ・藤本伸治:低酸素性虚血性脳症 日医雑誌 第132巻・第5号/平成16(2004)年9月1日 659-662頁.

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