中耳炎
 −細菌に対する免疫−


 肺炎球菌や、インフルエンザ菌に対する、血清中の抗体(菌株共通抗原に対する抗体)は、生後6カ月〜2歳までの間は、低い。

 1.鼻咽腔への細菌の定着
 肺炎球菌は、小児では、1歳までに、30〜40%の乳幼児の鼻咽腔に定着する。従って、鼻咽腔の細菌培養で、肺炎球菌が検出されても、常在していただけで、病原性が少ない肺炎球菌の可能性がある。定着した肺炎球菌の血清型は、60%以上が、6型、14型、19型、及び、23型だという。6型は、ペニシリン耐性のPRSPが多い。なお、重篤な大葉性肺炎は、3型の肺炎球菌が原因の場合が多い。を定着した肺炎球菌は、鼻咽腔に常在菌として潜伏し、ウイルス感染などで、体力が弱まった時などに、増殖する。2歳を過ぎて、体内で、肺炎球菌に対する抗体(IgG抗体)が作られるようになると、鼻咽腔に定着していた肺炎球菌は、消失する。
 インフルエンザ菌は、20%健康小児の気道から検出され、5歳までには、50%以上の小児に定着する。
 モラクセラ・カタラーリスは、いずれの年齢の小児でも、50%以上の小児に定着している。

 2.中耳炎は、鼻咽腔から検出された細菌が原因とは限らない
 中耳炎は、鼻咽腔の細菌が、耳管を介して経耳管感染して、起こる。
 中耳貯留液の細菌培養で検出された細菌は、鼻咽腔からも検出されることが多い。
 しかし、鼻咽腔と中耳貯留液から、同じ細菌が検出される率(鼻咽腔から検出された細菌と同じ細菌が、中耳炎の起炎菌として、中耳貯留液から検出される率)は、インフルエンザ菌では高いが、総体的には、低いと言う。鼻咽腔には、複数の細菌が細菌叢を形成して、定着し、常在的に潜伏感染しており、鼻咽腔から検出された細菌が、中耳炎の原因(起炎菌)とは限らない。
 また、上気道と中耳貯留液から、同じウイルスが検出される率は、RSウイルス(Respiratory syncytial virus)で74%、パラインフルエンザウイルス(parainfluenza virus)で42%、インフルエンザウイルス(influenza virus)で42%だったと言う。なお、インフルエンザウイルスが検出された中耳貯留液は、全例、肺炎球菌も検出されたと言う。 

 3.中耳炎の反復
 生後12カ月以内に急性中耳炎を発症した小児は、その後、中耳炎を頻回に反復することが多いと言う。特に、生後6カ月以内に中耳炎を発症した乳児は、その後、中耳炎を反復しやすいと言う。
 母乳栄養の小児は、1歳までに急性中耳炎に罹る率が、少ない。
 母乳中に含まれる、分泌型の抗P6蛋白抗体は、インフルエンザ菌のコロニー形成を予防し、中耳炎に罹患する回数を減少させる。

 4.病原性細菌に対する免疫応答
 中耳炎を反復したり、難治性の中耳炎になるには、起炎菌の種類のみならず、宿主の、細菌に対する特異的免疫応答の高低が、関連している。

 1).菌株共通抗原
 a).肺炎球菌
 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は、莢膜を有している。
 肺炎球菌の莢膜の多糖体(ポリサッカライド)に対する抗体は、オプソニン効果で、好中球などの貪食を促進させる。しかし、肺炎球菌の表層部に、活性化された補体や、IgG抗体が付着しても、莢膜の多糖体に埋もれてしまい、好中球などの白血球表面に存在する、補体レセプターや、IgGのFcレセプターに結合し難いので、肺炎球菌は、貪食されにくいと言われている。
 また、莢膜多糖体は、血清型により異なる。その為、1つの血清型の肺炎球菌に対する抗体(莢膜多糖体に対する抗体)は、1つの血清型の肺炎球菌にのみ有効で、異なった血清型の肺炎球菌には、無効と考えられている。
 
 PspA(Pneumococcal surface protein A)は、肺炎球菌の表面蛋白抗原の1つ。
 PspAは、全ての血清型の肺炎球菌に共通する抗原(共通抗原:common antigen)で、肺炎球菌に対するワクチン候補として、注目されている。
 動物実験の結果によると、PspAで、経鼻免疫や経口免疫すると、肺炎球菌による敗血症や、肺炎球菌の上咽頭への定着が、阻害されたと言う。
 抗PspA抗体(PspAに対する特異抗体)は、小児では、IgG、IgM、IgAとも、加齢に供なって、上昇する。母親の抗PspA-IgG抗体は、妊娠中に、胎児へ、臍帯を経由して、移行する。乳児の血清中の抗PspA-IgG抗体は、生後6カ月頃までは、低下して、2歳を過ぎないと、上昇しない。抗PspA-IgM抗体は、生後6カ月には、産生されているが、3歳〜6歳の血清濃度の半分以下の濃度に過ぎず、やはり、2歳前は、上昇が悪い。抗PspA-IgA抗体は、2歳過ぎでないと、血清中に有意に検出されない。抗PspA抗体の産生から見ても、2歳前の小児は、肺炎球菌に対する免疫力が、弱い。成人では、抗PspA-IgG抗体は、6歳の血清中濃度(40μg/ml)の、約半分程度の濃度に、低下する。

 b).インフルエンザ菌
 無莢膜型のインフルエンザ菌(注1)に対しては、主に、菌体外膜蛋白の1つである、P2蛋白に対して、抗体が産生される。
 P2蛋白は、菌株特異的抗原である(非共通抗原)。その為、菌株によりP2蛋白の抗原性が異なるので、1つの菌株の菌に感染して、抗P2蛋白抗体(菌株特異的抗体)が産生されても、異なる菌株の菌に感染した際には、以前、産生された抗P2蛋白抗体が、有効とは、限らない。
 しかし、菌体外膜蛋白のP6蛋白(分子量16,000Da)は、菌株共通抗原であり、インフルエンザ菌(有莢膜型のb型=Hib、及び、無莢膜型のNTHi)や、パラインフルエンザ菌にも、共通して存在する。従って、P6蛋白に対する抗体は、異なった菌株のインフルエンザ菌に感染した場合も、有効と考えられている。なお、P4蛋白(分子量28,000Da)も、菌株共通抗原。
 抗P6蛋白抗体(P6蛋白に対する特異抗体)は、健康人では、IgG抗体が主体を占めている。臍帯血中には、母親由来の抗P6蛋白IgG抗体が、高濃度に存在する。そして、新生児血液中には、比較的高い濃度の抗P6蛋白IgG抗体(IgGクラスの抗P6蛋白抗体)が存在する(約5μg/ml)。しかし、母親由来の抗P6蛋白IgG抗体は、生後6カ月頃までに、低下する。生後6カ月〜2歳までは、抗P6蛋白IgG抗体の産生が弱い。抗P6蛋白IgM抗体、抗P6蛋白IgA抗体も、1歳前は、産生が弱い。なお、血清中の抗P6蛋白IgG抗体は、10歳頃まで上昇する(約7μg/ml)が、それ以降は低下して、成人では、臍帯血のレベルまで、低下する。

 インフルエンザ菌に対する免疫では、補体結合性のある、IgG抗体とIgM抗体が、重要な役割を果す。特に、補体結合性IgG抗体により、殺菌することが、インフルエンザ菌の排除に、重要。
 1度、インフルエンザ菌に感染すると、菌株特異的抗原に対して、殺菌抗体(補体結合性IgG抗体)が産生されるが、他の菌株のインフルエンザ菌に感染に対して、殺菌効果は、期待出来ない。

 c).モラクセラ・カタラーリス
 モラクセラ・カタラーリスでは、高分子量のUspAが、共通抗原として、重要と考えられている。

 5.IgG2抗体
 反復性中耳炎の患児は、血清の免疫グロブリン値(IgG、IgM、及び、IgA)は、正常であり、健常児と、差がない。

 IgG2抗体は、殺菌抗体として作用する。

 肺炎球菌に関しては、莢膜多糖体(PCP:Pneumovax 23、注2)を用いて、肺炎球菌の莢膜多糖体に対する、IgG2抗体を測定した結果では、2歳までは、IgG2抗体の上昇が、緩徐であり、3歳頃から、急に、IgG2抗体の上昇が、認められた。
 反復性中耳炎の患児では、肺炎球菌の莢膜多糖体に対する、IgG2抗体の産生が、約半数の症例で、低下していた。
 また、肺炎球菌の共通抗原PspAに対する抗体の産生も、約58%の症例で、健常児より、低下していた。

 インフルエンザ菌に関しては、反復性中耳炎の患児の約45%で、抗P6蛋白IgG抗体が、低下していた。 
 こうした抗体産生の低下は、多くの場合、8〜10歳頃までに、改善する。

 注1インフルエンザ菌(ヘモフィルス-インフルエンザ菌:Haemophilus influenzae)には、有莢膜型のHib(Haemophilus influenzae type b)が多いが、無莢膜型のNTHi(nontypable Haemophilus influenzae、Hinとも呼ばれている)も、存在する。
 有莢膜型のHibは、組織侵襲性が強いので、病原性も高く、小児の髄膜炎、敗血症、重症肺炎の原因となる。無莢膜型のNTHi(Hin)は、組織侵襲性はないが、気道粘膜への親和性が高い為、小児や高齢者の、気道炎や肺炎の原因菌となる。
 中耳炎では、ほとんどの症例で、エピソード毎に、起炎菌として検出されるインフルエンザ菌の株が、異なると言う。
 急性中耳炎を含めた、上気道感染症の起炎菌となるインフルエンザ菌は、95%以上が、無莢膜型のNTHiである。Hibワクチンは、中耳炎に対する予防効果は、期待出来ない。
 また、インフルエンザ菌は、インフルエンザ桿菌とも呼ばれる。インフルエンザ菌(インフルエンザ桿菌)を、インフルエンザウイルスと、混同しないこと。インフルエンザ菌は、インフルエンザが、ウイルス性疾患であることが知られていない時代に、インフルエンザの原因と考えられたようだ。

 注2:肺炎球菌に対する予防接種用のワクチンには、23価莢膜多糖体抗原多価コンポーネントワクチン(Pneumovax 23:ニューモバックス)と、7価莢膜多糖体抗原蛋白結合型ワクチンとが、販売されている。23価莢膜多糖体抗原多価コンポーネントワクチンは、PPV23(pneumococcal polysaccharide vaccine 23)、7価莢膜多糖体抗原蛋白結合型ワクチンは、PCV7(pneumococcal conjugate vaccine 7)と、略称される。

 ・23価莢膜多糖体抗原多価コンポーネントワクチン(PPV23):血清型(デンマーク式命名法の肺炎球菌莢膜型)が、1、2、3、4、5、6B、7F、8、9N、9V、10A、11A、12F、14、15B、17F、18C、19A、19F、20、22F、23F、33Fの、23つの型の莢膜多糖体抗原(莢膜型抗原)を、含有している。6B、9V、14、19F、23Fは、薬剤耐性肺炎球菌の主な血清型であり、PCV7にも、含まれている。PPV23は、血中に肺炎球菌の莢膜多糖体に対するIgG抗体を産生させ、肺炎球菌による敗血症を予防する。肺炎球菌による、成人の肺炎、髄膜炎、敗血症の予防効果があると言う。しかし、PPV23によって作られる抗体は、IgG抗体で、血中に存在して、特に上気道の粘膜からは、分泌されにくい(肺炎などでは、血中のIgG抗体が、移行する)。PPV23は、肺炎球菌の鼻咽腔粘膜への定着(付着)は、阻害出来ないので、上気道炎、中耳炎、副鼻腔炎などには、予防効果は少ない。
 2歳未満の小児は、含有されている莢膜型抗原の一部に対して、十分応答しないことが知られている。また、2歳未満の小児は、本剤(23価莢膜多糖体抗原多価コンポーネントワクチン)の安全性も確立していない。従って、2歳未満の小児には、PPV23は、投与出来ない
 2歳以上で、肺炎球菌による重篤疾患に罹患する危険が高い、脾摘患者などに、肺炎球菌による感染症の予防の為に、適用がある。1回0.5mLを、筋肉内、又は、皮下に注射する。1回の接種効果は、接種後5〜10年以降、消えて行く(半年しか接種効果が続かないと言う説もあるが、PPV23は、再接種出来ない)。また、莢膜多糖体は、T細胞非依存性の抗原であり、直接、B細胞を刺激して抗体を産生させるので、ヘルパーT細胞による、メモリー効果がないと言う。
 保険給付は、「2歳以上の脾摘患者における肺炎球菌による感染症の発症予防」の目的で、使用した場合にのみ、認められる。
 フィンランドで、1977年〜1979年にかけて、行われた第一次大規模臨床試験では、ワクチンの効果は、生後6カ月以下では認められず、それ以上の年齢でも、ワクチンの効果は、接種後6カ月しか認められなかった。1979年〜1981年にかけて、行われた第ニ次大規模臨床試験では、6〜11カ月の乳児3,340人に、ワクチンを皮下接種したが、急性中耳炎の罹患回数は、減少しなかったという。

 ・7価莢膜多糖体抗原蛋白結合型ワクチン(PCV7):肺炎球菌の多糖体を、担体としての蛋白(CRM197:ジフテリア毒素の変異蛋白)に結合させ、T細胞依存性抗原とした、蛋白結合型ワクチン。上記の23価のワクチンの低免疫原性、T細胞非依存性を改良するために、開発された。血清型が、4、6B、9V、14、18C、19F、23Fの、7つの型の莢膜多糖体抗原を、含有している。この7つの型は、6歳以下の肺炎球菌感染症患児(敗血症、中耳炎など)から分離された肺炎球菌株の65%をカバーする。また、6B、9V、14、19F、23Fは、薬剤耐性肺炎球菌の主な血清型である(莢膜は薄い)。
 PCV7は、血清型が一致すれば、重症肺炎球菌感染症(髄膜炎、敗血症など)を、高率(95%以上)、予防する。
 PCV7は、肺炎球菌の鼻咽腔粘膜への定着(付着)を、阻害するので、上気道炎、中耳炎、副鼻腔炎などにも、予防効果が期待される。ただし、ワクチンに含まれていない血清型の肺炎球菌の、鼻咽腔粘膜への定着(付着)が、増加することもある。PCV7には、肺炎球菌による、急性中耳炎の罹患回数を、減少させる効果がある。しかし、PCV7に含まれていない血清型の肺炎球菌による、急性中耳炎に罹患する回数を、増加させると言う。

 2002年の米国の乳幼児の推奨予防接種スケジュールでは、PCVとして、計4回(生後2、4、6カ月、12〜15カ月)、予防接種することになっている。

 PspA、PspC(Pneumococcal surface protein C)、PsaA(Pneumococcal surface adhesion A)、Pneumolysin、Neuraminidaseなどが、肺炎球菌のワクチン抗原として、検討されている。
 PspAワクチンにより抗PspA-IgG抗体が血中に産生されれば、肺炎球菌による敗血症や肺炎などの重症全身感染症を予防する効果が期待されるが、抗PspA-IgG抗体は、粘膜から分泌されにくいので、鼻咽腔への肺炎球菌の定着(付着)を予防する効果は、低いと考えられている。他方、PspCワクチンや、PsaAワクチンで産生される抗体は、敗血症、肺炎などの重症全身感染症を予防する効果よりも、鼻咽腔への肺炎球菌の定着(付着)を予防する効果の方が期待されている。

 参考文献
 ・永武毅:呼吸器感染症の診断−喀痰のグラム染色法− 日医雑誌 第132巻・第9号/平成16(2004)年11月1日 KM-93〜KM-96.
 ・山中昇:小児の発育と耳鼻咽喉科疾患−小児はなぜ中耳炎を起こしやすいのか− 日児誌108巻11号 1348〜1357(2004年).  

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