水痘
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水痘(みずぼうそう)は、varicella-zoster virus(VZV:水痘帯状疱疹ウイルス)によって、発疹(水疱)を形成する。VZVは、終生、体内の神経節(dorsal root ganglia cells)に潜伏感染し、免疫力が低下した時に再燃して、帯状疱疹(herpes zoster)として発症する。
ウイルス(VZV)は、寒さと乾燥に強く、熱に弱い:水痘は、冬期〜春期に流行する。
水痘は、小児では、軽症に経過することが多いが、成人になって、発症すると、重症な経過を取ることもある。
1.感染経路
1).経気道的飛沫感染
水痘患者の飛沫には、ウイルス(VZV)が含まれる。
空気感染で、飛沫を吸い込むと、ウイルスが、鼻咽頭の気道粘膜から侵入し、所属リンパ節で増殖する。その後、ウイルス感染後4〜6日で、一次ウイルス血症を起こし、ウイルスは、肝臓、脾臓などに散布される。ウイルスは、そこで増殖した後、二次ウイルス血症を起こし、皮膚に水疱を形成する。
ウイルスは、発疹出現1〜2日前から、痂皮(かさぶた)が形成されるまで、感染力がある(注1)。感染率は、家庭内(household transmission)では、80〜90%、学校内(school classroom)では、30%以下とされる。水痘の伝染力は、麻疹に次いで、強い。家庭内(家族内)感染では、発疹の数が、多い傾向がある(家庭内感染では、感染されるウイルス量が、学校内などでの感染より、多い)。生後6カ月以内の乳児は、母親が、水痘の既往があれば、移行抗体により、感染が防御され発症しないが、母親の抗体価が低い場合には、発症する。その場合、水疱の数は少ないが、水疱が痂皮化するまで、期間を要する傾向がある。
水痘は、一般に、小児期に、水痘ウイルスに感染して、発症することが多いが、家庭内感染を逃れて、免疫がないまま成人になってから、水痘ウイルスに感染して、水痘を発症することもあり、その場合、発熱、発疹(水疱)などの症状が、重く出ることが多い。
水痘は、希に、不顕性感染がある:ウイルスが、感染しても、水痘を発症しない。抗体は、出来るが、ウイルスは、終生、体内に潜伏感染する。
2).接触感染
水痘や帯状疱疹の、水疱内のウイルスと直接に接触して、感染する。
2.発熱
発疹出現1〜2日前から、発熱することがある。熱型は、稽留熱。
成人が、水痘を発症すると、高熱が続したり、発疹(水疱)の数が、多く、重症になる傾向がある。
3.潜伏期
潜伏期は、14日間(10〜21日)。
6カ月未満の乳児では、潜伏期が、短く、丘疹が出現した後、水疱になるまで、時間がかかる傾向がある。
水痘の発疹(水疱)は、病初期には、蚊などの虫刺されと鑑別が困難な場合もあるが、頚部や、髪の毛の生え際に、発疹がある場合は、水痘である可能性が高い。水痘は、髪の毛の生え際や、頚部に、最初の水疱が、出現することがある。水痘では、口腔内に粘膜疹(アフタ様の潰瘍)が見られる場合もあるが、手足口病、ヘルパンギーナなどとの鑑別を要する。また、水痘は、掌(手の平)、足底(足の裏)には、病変が出現しにくいが、これらの部位に病原が認められれば、水痘である可能性の方が、虫さされである可能性より、高い:水痘の発疹は、足底に出来ないと言われて来たが、特に、水疱の数が多い重症例では、足底にも、発疹が形成される場合もある。
潜伏期間中に、インフルエンザに罹ると、発症するまでの潜伏期間は、長くなるが、症状は、軽くなる傾向がある。
ウイルス(VZV)に感染してから、発症するまでの、潜伏期間中の発熱は、症状を軽くする。しかし、ウイルス(VZV)に感染する前に、肺炎など、他の感染症に罹っていると、発症時に、水痘の症状が、重症遷延化しやすい。また、水痘発症後、他の感染症を発症すると、重症遷延化しやすい。
4.予防投与
水痘の潜伏期は、14日:水痘患者に接触した後、14日後が、発病予定日。
ACVを0.05g/Kg/day(常用量の4分の1)を、発病予定日の2日前(兄弟は、3日前)から服用させると、症状を軽く出来る(保険制度では、予防投与は、認められていない)。
なお、ACVは、水痘の治療には、発症後、3日以内に内服させる。皮膚には、痒み(掻痒)を軽減する為に、フェノール亜鉛華軟膏(カチリ)を塗布する。
5.水痘と妊娠
・母親(妊婦)が、水痘を発症した場合:母親(妊婦)が、水痘を発症後、4日以内に産まれた新生児、あるいは、水痘を発症する2日前に産まれた新生児は、重症水痘になりやすい(妊婦が、出産前5日〜出産後2日=48時間以内に、水痘を発症した場合、産まれた新生児は、重症水痘になりやすい)。これは、胎盤を介して、ウイルス(VZV)が、感染していて、母親から抗VZV抗体が移行していないためで、肺炎、脳炎など、重症水痘になりやすい(死亡率は、30%)。
母親(妊婦)が、水痘が治癒してから生まれた新生児には、先天感染の恐れはない。
・妊娠20週以前に、水痘ウイルス(VZV)に初感染すると、産まれて来る子供は、先天奇形(注2)のおそれがある(8〜20週で、0〜9.1%)。妊娠20週以降に、水痘ウイルス(VZV)に初感染しても、先天奇形の恐れはない。
・妊娠16週以降、分娩前2週の間に、水痘ウイルス(VZV)に初感染すると、産まれて来る子供は、乳幼児時期に帯状疱疹を発症することがある。
・母親が、妊娠6カ月で水痘を発症し、産まれた子供が、生後1歳6カ月で、帯状疱疹になった症例がある。
6.検査
・水痘帯状ヘルペスIgG抗体(EIA):陽性は、過去に水痘ウイルス(VZV)に感染し(不顕性感染も含む)、体内にウイルスが潜伏感染していることを意味する。水痘発症3〜5日後から検出可能になり、水痘発症2週間後がピークになる。
・水痘帯状ヘルペス抗体(CF):水痘発症2週間後で、×32、帯状疱疹発症1週間後で、×64程度。
7.予防接種
水痘の予防接種をを受けても、20%くらいの子供は、水痘に罹患する。しかし、その際は、予防接種を受けなかった場合より、軽く済むとされる。
水痘の予防接種後、妊娠可能な女性は、2ヶ月、避妊する必要がある。
8.水痘罹患後の予防接種
水痘が、治ってから、4週間は、予防接種(麻しん、三種混合など)を受けられない。
9.ライ症候群
ライ症候群は、B型インフルエンザなどによる上気道炎(90%)や水痘(5〜7%)で、発熱して回復した後(5〜7病日以内)に、長時間、嘔吐し(protracted vomiting)、急激に、昏睡などの意識障害、痙攣(急性脳浮腫)を来たし、最悪、死亡する。
NSAIDsの中でも、古くから解熱や鎮痛を目的に使用されたアスピリンは、ライ症候群の発症に関連するとされる。
インフルエンザ様疾患や水痘に罹った小児が、アスピリンを含有している薬物を摂取すると、ライ症候群を発症する危険性(リスク)が高くなる。
アスピリン投与と、ライ症候群の発症とには、密接な関連があることが、多くの疫学的研究が、示唆しているが、サリチル酸が、ライ症候群発症の、重要な因子であると、考えられている。
アスピリンが、体内で代謝されて生成されるサリチル酸が、ミトコンドリアの機能を抑制し、ライ症候群を発症させるものと考えられる。
サリチル酸は、ミトコンドリアで、PTP(permeability transition pore)という穴構造を開いて、膜電位を低下させてしまい、その結果、ミトコンドリアでのTCA回路での代謝などが、障害されて、ミトコンドリア内のNADH2+が、減少すると考えられる。
PTPが開くと、PTPの穴を、プロトン(水素イオン)が通過して、ミトコンドリア膜の膜電位(the mitochondrial transmembrane potential:)が、低下し、酸化還元電位が変化して、アポトーシスが誘導される(pro-apoptogenic)と、考えられる(注3)。
ライ症候群を予防するために、15歳未満の小児がインフルエンザや水痘に罹った時は、解熱などの目的でアスピリン、サリチルアミド(PL顆粒に含まれる)、エテンザミドを使用してはならない(原則禁忌)。
また、一般用医薬品では、アスピリン類(バッファリンA、エキセドリン、ケロリン)は、15歳未満の小児には、使用してはいけないことになっている。なお、バッファリンAの成分は、アスピリン(アセチルサリチル酸)だが、小児用バッファリンは、成分はアスピリンでなく、アセトアミノフェンが配合されている。アセトアミノフェンは、抗炎症作用は弱く、アスピリンのような血小板凝集阻害作用はない。しかし、アセトアミノフェンは、肝細胞壊死を来すおそれや、水痘の病期を延長させてしまうおそれがある。
NSAIDsは、アスピリンやサリチル酸と同様に、ミトコンドリアの脱共役作用(uncoupling effec)があるので、ミトコンドリアの機能を低下させる(細胞の機能が低下する)おそれがある。
ジクロフェナクナトリウム(医薬品名:ボルタレンなど)などのNSAIDsは、インフルエンザの解熱目的に使用すると、インフルエンザ脳症を発症した場合、死亡率を高めてしまう。
また、ジクロフェナクナトリウム製剤を投与後に、ライ症候群を発症したとの報告がある。
従って、NSAIDsは、原則として、小児のウイルス性疾患の患者に投与してはならない。
注1:水痘患者が伝染力があるのは、発疹出現1〜2日前から出現後4〜5日、あるいは痂皮化するまでの、期間(3〜7日間)。
注2:先天性水痘症候群(Congenital varicella syndrome:CVS)では、産まれて来た新生児に、皮膚瘢痕、発育障害、神経系の異常、眼球の異常、骨格の異常などが見られる。
注3:細胞外のCa2+濃度(カルシウムイオン)濃度が高いと、サリチル酸の、毒性(ミトコンドリア障害作用)が、増強する。
ニフェジピン(nifedipine)などのカルシウム拮抗剤(降圧剤)や、クロルプロマジン(chlorpromazine)のような精神安定剤は、サリチル酸の毒性(PTP開口作用)を弱め、ミトコンドリア障害を軽減するので、ライ症候群やインフルエンザ脳症の治療(アポトーシス抑制)に、有用かも知れない。
なお、ニフェジピンには、活性酸素の産生を抑制する作用もあると言う。
参考文献
・Trost LC, Lemasters JJ.: Role of the mitochondrial permeability transition in salicylate toxicity to cultured rat hepatocytes: implications for the pathogenesis of Reye's syndrome. Toxicol Appl Pharmacol. 1997 Dec;147(2):431-41.