1.研究内容

1-1.発表者 山本 祐一郎 会員

1-2.テーマ 「現下の経済環境と経営者の役割 ~技術で世界をリードするS社のグローバル経営~」

1-2-1.主な内容                    

はじめに

S社会長が200811月に行った講演について意見交換した。

・講演は[金融危機]の真っただ中で、今後の経営環境と経営者の危機への対策について示唆に富む内容であった。

1)現下の経済環境と経営者の役割

・足元のことを1つの軸を持ってみることが重要である。[金融危機]が社会を変えるわけではなく、危機は異常な状況である。ただし、従来の高度成長は今後は起こらないことは認識する必要がある。[地球温暖化]「資源の高騰」の陰の部分があるが、異常な状況は遅からず、正常化するであろう。

・鉄のスクラップは8万円/トンが1万円/トンに値下がりした。現状はパニック状況で、パニックは早く終息させることが必要である。2002年から5年間、5%/年の早すぎる成長が続いたのは異常であり、持続可能な成長に戻る必要がある。経営者は「楽しみながら困難に立ち向かう」ことが大切である。

2)金融危機で明らかになったこと

・今回の危機で「景気変動は必ず起こる」「解はカップリング(結合)とデカップリング(分離)の中間」「バブルは必ず再発する」「額に汗して働くことを忘れた安易な金儲け主義」「資源・エネルギーは実需に見合ったレベルに回帰する」などが明らかになった。インド、中国がクッションになって、経済は安定するかもしれないが、金融危機の教訓は意識しておく必要がある。

3)S社の経営革新

Sしゃは、2002年から2007年の5年間で経営指標は大幅に改善した。この間、関連会社の強化を行った。2002344社を2007326社になった。このうち、122社をなくし、104社を創立した。グループ会社の9割が財政が健全化し、連結収益の1/3を関連会社が貢献した。

S社の収益を振り返ると、1964年から1973年までが年5%成長、1974年から2002年まで年1%成長、2003年から2007年まで年5%から7%の成長であった。この直近5年間は景気に助けられたというが、その前の大きなリストラが大きく貢献している。

1987年の製鉄事業中総合計画で、67千人を1万77百人に削減した。これは「聖域なき合理化」だったが、弊害も多く出た。

・[あすの利益を犠牲にする]「従業員のモラール維持の重要さ」を考えると、[合理化にも聖域がある]ことを認識せねばならない。

4)経営トップのなすべき仕事

200393日の名古屋製鉄所のガスホルダーの爆発事故は、合理化の結果[暗黙知]が共有されていないことが原因であること

が分かった。このような「暗黙知」が継承・共有されていない事例が多く出てきた。

・この教訓として、経営トップは、「本質的な問題に気づくこと」「その問題を従業員と共有すること」「対策を考え実行する

こと」である。

・アルセロール・ミッタルの誕生は、大きな出来事であった。「もしS社がアルセロールであったらどうしたか」をよく考える。

企業は社会への貢献が大きな使命だが、[経営の安定]の上に立つことを常に考えておかねばならない。

・「経営の安定]とは、「説明責任を持った経営方針」「企業価値を本質的な価値に高めておく」「Soft Allianceなどにより、買収に対抗できる安定対抗軸作っておく」ことである。安定対抗軸は、「Win-Winの関係」「経営フィロソフィーの共有」「信頼感」を醸成しておくことである。

5)グローバル企業への転換

・グローバル企業であるためには、「財務構造の強化」「利益成長」を同時に達成しなければならない。

S社が大合理化後に立ち直ったのは、他社にないコア技術をkeepし、「コストダウンと品質の調和」を図ったことである。

・利益成長ができる企業の強さは「経営のリーダーシップ」「鍛えられた現場」「経営と現場の距離の近さ」から生み出される。「経営のリーダーシップ」は、現場実態を踏まえたきっちりした品質の提供であり、「鍛えられた現場」は、環境変化に対応した迅速な解決力、「経営と現場の距離の近さ」は経営者の資質である。

・今後は国のあり様を考えていかねばならず、日本は、もの作り立国として新たな道を模索することになる

従来の規模の効果などのビジネスモデルの危機であり、持続可能な新しいビジネスモデルを構築していく必要がある

6)今後の経営に必要な視点

・「経済の重心がシフト」:従来の経済の主導が「欧米からアジアへ」「先進国から発展途上国へ」シフトしている。この変化を十分把握する必要がある。

・「成長戦略と財務構造のバランス」:従来のように成長戦略のみ、ものを作れば売れる時代は来ない。環境を把握し、ケースバイケースでバランスの取れるように判断していく。

・「不景気こそ、企業の真の実力が問われる」:成長時はだれがやってもうまくいくが、その時期に不景気を想定し、準備しておくことが必要である。今後、数年間は企業再編が頻発する。そのときに、経営の軸をずらさずに進むことが重要である。

 
1-3.テーマ 「F社の歩み ~ 艀回漕業から倉庫業へ ~」

1-3-1.主な内容                    

はじめに

 F社は大正年間横浜港の艀事業から出発し、戦前・戦中・戦後の激動期を経て、倉庫事業に変換し、順調な発展を遂げた。その

会社の歴史は港湾事業の歴史そのものである。今後の発展のために、社の歴史を振り返ってみた。

1)戦前

・大正13年、横浜港湾運送業に目を付け、第1号艀を入手、回漕店を創業した。関東大震災で鋼材・資材の運搬で発展した。

2)戦後

1948年、横浜税関で税関貨物取扱人の免許を取得、外国貨物の取扱を開始。1952年東京全館でも免許取得。原皮の輸入で発展した。1955年輸入冷凍食肉で取り扱い品を拡大した。

3)成長期

1960年代の好景気で、取り扱い量は拡大、大型機帆船を就航させた。この時期は、輸入冷凍畜産物も拡大、冷凍艀も建造した

4)倉庫業への進出

1967年、好景気を背景に倉庫業に進出した。保冷艀の特許を出願、コンテナ化の流れなど事業転換が必要になった。

1972年冷蔵倉庫へ進出、その後の事業の柱になる。

5)成長期から現在まで

F社は順調に社業を伸ばし、安定経営の企業として現在にいたっている。

・この間、いくつかの困難に遭遇したが、「経営者が先見の明を持ち、先手を打った経営を行ってきた」「人脈形成に長けて、困難時を乗り切れる顧客(商社)との信頼関係を維持してきた」「経営者が2代で70年と長期政権で経営の軸がしっかりしていた」

などが困難を乗り切れたキーワードになっている。

・急激な環境変化が予想される今後は、新しい発想を持った[先見の明]が要求される。そのために、社の歴史を振りかえり、今後の方向を考えることは、激動の時代に意義が大きい。


報告者:小山リーダー

2009年度研究会実績に戻る