1.研究内容

1-1.テーマ 人工知能の可能性

1-2発表者 新井 一成 会員

1-3.内容

「人工知能」という言葉は連日のようにメディアに取り上げられブームとなっている。しかし、人工知能技術は数十年前から何回もブームになっては消えるということを繰り返してきている。過去に人工知能と呼ばれていた技術は、実用化されると、別の名前で呼ばれるようになり、その後また新たな「人工知能技術」が生まれてきた。現在の人工知能ブームの本質は何なのか、今後どのようなビジネスの可能性があるのかについて整理したので報告する。

1.   人工知能の歴史(人工知能の3つのアプローチ)

 1956年に米国のダートマス会議において人工知能という言葉が使われて以来、人工知能の研究は大きく分けて次の3つのアプローチで進められてきた。

 ①人間の脳を参考にして人工知能を実現する(ニューラルネットワークなど)

 ②記号処理・ルールを使って実現する(エキスパートシステム、チェス・将棋・囲碁など)

 ③統計・確率的手法(ベイズ定理+機械学習)により実現する(音声認識、自動運転、ワトソンなど)

 現在実用となっている人工知能は③のアプローチが中心であるが、ブームとなっている最新の技術「ディープ・ラーニング」は③のアプローチに加えて、最新の脳科学の成果を取り込んだ①の延長上の技術である。

 ①のアプローチは、当初非常に簡単な問題にしか適用できないことがわかり、研究が下火になったものの、最新の研究成果によって復活した。②のアプローチであるエキスパートシステムは、知識を取り込むことの難しさと、コストから実用事例は限られていた。③のアプローチは現在広く実用化されており、インターネットの検索エンジンや自動翻訳システム、音声認識や自動運転の物体認識などが実用化されている。IBMのワトソンもこの技術を中心としており、クイズ番組での活躍は、インターネット上に存在する膨大なデータを利用して、最も正解確率の高い回答を選び出すという方法で実現された。

 人工知能の研究の中で最も解決が困難な問題は「フレーム問題」と「シンボル・グラウンディング問題」である。フレーム問題とは、あるタスクを実行するために、関係のある知識だけを抽出して利用することの難しさであり、人間でも時に解決困難な問題である。シンボル・グラウンディング問題は、実世界の「概念」とそれを表すシンボルである「言葉」を結びつけて人工知能に理解させることの難しさである。「概念」を適切に定義することが困難なことに起因する。

 

2.   ディープ・ラーニング

 コンピュータの性能向上により、当初簡単な問題にしか適用できないとされていた、ニューラルネットワークを多層化して、より人間の脳の構造に近いものが実現可能となってきた。この技術に、インターネット上に存在する膨大なデータを機械学習させる技術が結びついて、「ディープ・ラーニング(ディープ・ニューラルネットワークによる機械学習)」の技術が発達しつつある。

 Googleの猫の画像認識に代表される、ディープ・ラーニングによる画像認識は、大量の画像データをディープ・ニューラルネットワークに学習させると、特定のノードが「猫」の画像に対して反応するようになる、という技術である。「猫」という「概念」を機械が自動的に獲得することが、従来の技術と異なる点であり、シンボル・グラウンディング問題の解決につながると期待されている。

 人工知能の今後の技術課題としては、時間軸を含む様々なデータを抽象化すること、自己の行動結果の抽象化、試行錯誤による抽象化、言語と概念のグラウンディング、言語を通じての知識獲得、などが挙げられており、これらの解決によって高度な機能が実現されると期待される。

 

3.   ビジネスへの応用

 IBMのワトソンは、クラウドプラットフォームによるサービスとして提供されており、すでに多くの企業が様々な分野で利用を始めている。

 人工知能が使われるビジネスモデルとしては、ワトソンのようなプラットフォーム型のビジネス以外に、①要素技術として利用される(組込みAI)、②専門サービスとして提供される、などが考えられる。

 組込みAIでは、学習済みの人工知能が、様々な製品の要素技術として利用されることになる。このケースでは、学習済みの人工知能に含まれるモデル(ニューラルネットワークの重み係数の集まり)の知財権の保護が課題になる。

 専門サービスとして提供される人工知能では、大量の専門知識(データ)を所有(収集)する事業者によって、専門サービスが提供されることになるのではないか。

 ものづくりの製造現場でも人工知能が活用されつつある。従来の工作機械や産業用ロボットは、人間が設計したプログラムやルールに従って動作している。今後は、自らルールを学習して自律的に動作したり、人が気づかない変化を検出したり、機械同士が協調動作を行ったりするようになる。シミュレーター内などで学習済みの人工知能を複数のマシンにコピーすることで、量産化できる。ファナックの事例紹介。

 

4.   空想の世界

 2045年に人工知能の能力が人間を超える「シンギュラリティ」が訪れると予想されている。しかし、現時点でも特定の分野・機能に限れば人間の能力を超える人工知能は実用化されている。今後、人間に代わるような汎用的な人工知能技術が生み出されるかどうかである。

 人工知能により人間の職業が奪われる、という議論があるが、過去にも新しい技術が生まれると、一部の人間の職業が無くなった(電話交換手と自動電話交換機、馬車の御者と自動車など)。一方で、新しい職業が次々と生まれてきており、30年前にはなかった職業も多く存在している(Webデザイナー、ISP、データアナリストなど)。

 

5.   まとめ

 ビジネスの世界での人工知能: コンピュータの新たな設計手法。論理や手順をプログラムする代わりに、膨大なデータを学習させることで機能を実現する。

 学術的な意味での人工知能: 人間の精神の働きを解明し、人間の実在を科学的に証明する研究である。

 

6.   おまけ

 DARPA Robotics Challengeのビデオ紹介

 

Q&A、コメント

  Q. 人工知能の今後の技術課題として、翻訳や自動運転が挙げられているが、すでに実用化されているのではないか?

   A. 「社会的影響」の欄にある応用例は、技術課題が解決された場合に影響を与える分野の意味。現在すでに実用化
     されている分野もあるが、技術課題解決により、性能・精度が向上する。

                               

                                                                以上

報告者:小山L

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