吾輩は影である。名前はまだ無い。現在素敵な名前を大募集中だ。
影とは言っても、いわゆるゴースト系モンスターなのだが、そんじょそこらの魔物と一緒にしちゃいけない。とある鏡に封印されて数千年、なぜか数時間前に復活を果たしたのだ。しかし、同族の気配を感じない辺り、もしや『古のモンスターの生き残り』なんてカッコ良さげな肩書きゲットだぜ!?
ああ、興奮したら腹が減ってしまった。ようやく待ちに待った、人間が寝静まる時間、つまり、吾輩の活動時間である!
吾輩は寝ている人間に取り憑いて、そいつの夢を操り意識を夢の中に留めさせ、死ぬまで精力を吸い続けるのだ。悪夢なんかは特に美味い。ついでに、特別に吾輩のやり方を特別に教えてやろう。吾輩はよくそいつの大切なものをなくす夢を見せてやる。この方法は良いぞ。
さて、なぜか復活した時なぜか宿屋にいたので、この宿屋の客でも襲うとしよう…。
吾輩は隠れていた天井から壁をすり抜け、下の四人部屋へ行くと、吾輩の真下で眠っている銀髪のエルフの男に目をつけた。
よし、とりあえずこいつにしよう。お邪魔しまーす。
壁も何も無い、ただただ真っ白で殺風景な空間に、サングラスをかけ、青いマフラーを巻いた銀髪のエルフが立っていた。
「アッちゃーん!」
声がして振り向くと、ピンクのワンピースを着た金髪のエルフの少女が笑顔で駆け寄り、体当たりするように抱きついてくる。
「リディ…」
男はいとおしそうに微笑み、妹のような存在である少女の頭を撫でようとする。が、少女はその前にぱっと顔を上げた。驚いたように目を見開いて、その大きな瞳からは次第に涙が溢れ出し、可愛らしい顔は苦しそうに歪んでいく。
その表情の変化をいぶかしみ、男は声をかけようとしたが、少女がよろけるように後ろへ下がったその姿を見て驚愕した。
「アッちゃん…どう、して…?どうして、こんな……?」
辛そうに身体を曲げ、押さえる胸からは赤いものが広がっていた。
「!リ……っ!?」
男が彼女に伸ばした手には、血で染まった彼愛用の短剣が握られていた。その紅く濡れたダガーを、呆然と見つめ、呟く。
「…俺、が…やったのか……?」
その問いに答える者は無く、少女は崩れ落ちるようにその場に倒れた。そこを中心として、白い空間に赤がどんどん広がっていく。まるで、少女の血液を吸い取っているかのように。
「…ひど、よ……アッちゃ………」
少女は青白くなった顔を涙で濡らしながら、必死に彼に手を伸ばす。男は完全に真っ赤に染まってしまった空間の中立ち尽くし、儚くなっていく少女をただ見つめていた。男の名を呼び続ける少女の喉も、やがて音を出さなくなり 伸ばされていた手が、力無く落ちた
ガバァッ!
わっ!?なんだ!?夢から追い出されてしまったぞ!?
ってゆーかなんでこいつ、吾輩の支配から抜け出して目覚めたんだ?むぅ、長年の封印でまだ力が戻ってないのかな…。腹減ってるし。
吾輩は影であり、にっくき神官以外には姿も気配も気づかれないので、こいつの様子を近くで観察してみる。この男は上半身を起こし、大きくため息を吐いている。そして髪をかきあげて、低く呟いた。
「…あの夢か…久しぶりに見たな…」
え?久しぶり?
「ふぅ…いけないな……」
こいつは何かを悟ったような、どこか疲れたような笑みを浮かべ、遠い目をしている。
一体どういう事なんだ?あの子どもの事が大切なんじゃなかったのか…?おかしいなぁ。
「ヤバイ…少し風に当たろう…」
そのエルフの男は音も無く部屋から出て行った。
何だったんだろう…?はっ!あいつもしや、『殺したくなっちゃうくらい好きv』とかいう危ない系の人種か!?そーなのか!?
ま、まあ、次行こう。食事もままならなかったしな。
吾輩は隣のベッドで寝ている茶髪の男の中に潜り込んだ。
青空の下、数多の薔薇が美しく咲き乱れ、草木が自ら光を放っているかのごとく輝く庭園の中で、パラソルのある白い丸テーブルに着き、優雅にお茶を楽しむ茶髪の青年がいる。彼の周りには、彼の『心の友』たちが同じようにお茶会をしていた。
「ああ…こんなに大勢の心の友と美しい薔薇に囲まれてお茶会が出来るとは、なんて素晴らしいんだ…!」
その状況に、と言うより、自分に酔った様子で語る。
「さあっ、心の友たちよ!大いに語り合おう!」
と、優雅な仕草で両手を開く。が 『心の友』たちは、次々と消えていくではないか。
「み、みんな???一体どうしたんだい???」
男は驚いて引き留めようとするが、どういうわけか身体が動かなかった。そのうちに、全員が庭園から消えてしまった。
「みんな……」
手を前に伸ばした体勢のまま、寂しそうに呟く。その手を引き寄せると、彼は目を閉じた。
「………フフ……たとえみんな僕の前からいなくなっても、君達は永遠に僕の心の友だよ…。寂しくなんかないさ。僕にはまだ、薔薇たちがいるからね!」
そう言ってキラキラと輝く瞳を開くと、当たりは真っ暗闇で、何も無かった。薔薇の庭園も、テーブルも、青空も何も無く、ただ独り、黒い空間にぽつんと佇んでいる。
「…何も、無くなっている………ああ、何と言うことだ……」
絶望的に呟き、歌劇のヒロインさながらにその場に崩れ落ちる。
と、ずっとそうしているのかと思いきや、彼は肩を振るわせ始めた。
「………ふ…フフフ……そうだよね。この世界に何も無いのなら、この世界に薔薇が無いのなら、この僕がっ!暗闇に咲く一輪の可憐な薔薇になろう!!」
彼はより一層輝きを増した顔を上げると、彼の身体は光に包まれ、本当に一輪の薔薇に――可憐どころか、ばかでかい大輪の薔薇へとメタモルフォーゼした。その、男だった暗闇に咲き誇る薔薇は、なぜかとても幸せそうに笑っているように見えた。
《フフ…もう寂しくなんかないよ……》
fin.
だぁぁぁっ!!
何だっ!何なんだ今のはっ!!てか何だfin.って!はー、はー……お、思わず耐えかねて出てきてしまったぞ…。
茶髪の男は、激しく幸せそうな顔で寝ている。
世の中にこんな人間がいようとは……。こいつはもう二度と入らん。絶対に。誓って。
さて、気を取り直して次は っとぉ!?
ちゃ、茶髪の男の隣にいる男は、もももしや、吾輩を唯一消滅させる事が出来るにっくき神官!?
こやつらは犬のように鼻が利くのだ。これはとっととこの場から退散せねば…。
「……ん…」
わー!気づく!!
吾輩は急いで壁をすり抜け、隣の部屋に逃げ込んだ。ふー、何でこんな所に神官がいるのだ…。くそっ、やり辛い…。
この部屋には三人が眠ってるな。おっ、子どものエルフがいる。さて、では…っと、ちょっと待てよ?さっきから悪い夢を見させようとして失敗しているのだよな…。想像以上に力が弱っているのかも知れん。ここは無難に良い夢見させて、とりあえず食事と行こう。腹減った。
金髪のエルフの少女が、家の窓辺に座って外を眺めていた。朝陽が射し込み、鳥の鳴き声に耳を澄ましている。
ふと後ろを振り返ると、そこには彼女の大好きな人が立っていた。
「アッちゃん!」
彼に駆け寄り、抱きつく。そこで彼はいつものように自分の頭を撫でる と思ったのだが、驚いた事にきゅっと抱きしめられた。
「…アッちゃん…?」
いつもなら絶対にしない事をされて、彼女はドキドキしながらも困惑して銀髪のエルフを見上げる。普段、戦闘時以外はサングラスに隠されている彼の青い目を、今は遮る物も無く、しかしいつもとは少し違う気がする優しい微笑みを見せていた。それはまるで輝きを放っているかのようにすら見える。
少女はうっとりとそれを眺めていると、彼は囁くように彼女に言った。
「愛してるよ、リディ…」
「きゃあもう何言ってんのアッちゃんったらぁっ!」
バシィッ!
少女はめちゃめちゃ嬉しそうな顔で力の限り男の肩をはたいた。少女は両手で赤く染まった自分の顔を包んで、
「私も大好きvなーんて言っちゃったりしてきゃーきゃーきゃーもー言っちゃった言っちゃったぁっ!あーもー幸せ!」
独りでどんどん盛り上がっていく。
「うん、でもこれは夢ね!夢だわ!あーゆーストレートなアッちゃんもかなりいいけどぉ、んーやっぱ本物だよね!口では好きだとか愛してるとか言ってくれないけど、態度で示してくれるあの奥ゆかしさというかシャイでさりげない所がまたそそるんだよね〜!」
目をキラキラと輝かせながら夢見心地で彼方を見つめる。
「あの…」
「 と、ゆーわけで、また夢見なおそーっと。さあ、このアッちゃんは退場退場!」
「え、ちょ 」
「はーい、リセット!」
ギャー!何だ!?ホントにリセットされてしまったぞ!?こんなエルフのクソガキなんぞに!しかも一丁前に男性論持ってやがってナマイキなナマイキなナマイキなぁっ!!
あー…しかし、まさかまた追い出されるとは…本当に力が落ちてしまったようだ…。クソ!次こそは!!
先程と同じ家の中、エルフの少女は今度はリビングにいた。
「リディ」
呼びかける声に少女が振り返ると、見慣れた銀髪のエルフが立っていた。
「アッちゃん!」
当然のように抱きつくと、男は優しく頭を撫でる。少女は満足そうに笑うと、
「あのねアッちゃん、私、ババロア作ったのー!」
と、どこからともなく『ババロア』を取り出す。それは、ババロアと言うのもおこがましい代物だった。微妙なくぐもった音が微かに聞こえてくる、ケーキのスポンジの出来損ないのような緑色のものから、なぜかバイオレットピンクの丸い物体が生えている。その匂いもまた強烈で、なぜか硫黄に似た臭いがした。
「食べてーっ」
少女が天使のような微笑みでそれを突き出す。
「いや、あのちょっと 」
「はい、あーん」
ギャーーッ!!
なっなっ何だ今のは!?あのおぞましい物体は何だ!?ってかこの娘何者だ!?
もーヤダ。もー関わりたくない。ああ恐ろしい。この悪魔め!…あ、成る程、だからあのエルフの男…。
はい次。今度は…そうだな、あのエルフの…女?にしよう。よし、今度こそ!
《…ん?何だこれは?夢に入れない…と言うか、何だこの黒い混沌は!すごく恐ろしい力を感じる…。早くここから出ねば って出られない!っつーか吸い込まれてる!?ヤバイこのままじゃ逆に取り込まれる!!何なんだこいつは!そんなのいやだ …》
「アッちゃーん!アッちゃんどこー?」
「しい庭園で心の友たちに囲まれてお茶会を楽しんでいたのだよ、ナナオ!」
「うん?」
「う〜ん、おかしいですねぇ…。確かに昨日悪霊の気配を感じたんですけどねぇ…?」
「え、悪霊?ボク昨日王様の耳は四号と一緒に小屋にいたから気づかなかったよ」
「そうですか」
「のだよ!そして世界が闇に包まれたんだ!聞いてるかいナナオ!」
「うん」
「もう少し探してみましょうか…」
「ルーちゃん、アッちゃん見なかったー?」
「知らん」
「そう。…あれ?その手鏡どーしたの?随分古そうだけど」
「面白そうだったから拾った」
「…ただいま」
「あ!アッちゃんおかえりなさーい!どこ行ってたの?あのね、ババロア作ったのー!食べて!」
「!……落ち着け、落ち着くんだ俺。あれは夢の中だから許される…いや違う、夢でも許されない事じゃないか。くそっ、あの夢のせいで自制が…」
「何ブツブツ言ってんの?さ、早く食べて!」
「……っ!すまない、リディ…!」
「あ!アッちゃんどこ行くのー!?もう…まだ用があったのかなー?謝らなくても別に怒んないのに。帰って来るまで冷やしとこっと」
「んな一輪の薔薇と化したのだよ!そう!それはまさに現世にあ」
「おはようございますハスティさん」
「あ、ボクおはよー。朝からどこ行ってたんだ?」
「ええ、お供とお散歩に。あ、ルグイさん、おはようございます」
「おはよう」
「…なんだか元気そうですね、今朝のルグイさんは」
「はぁ?どこが?」
「え、見てわかるでしょう?」
「ん〜…オイラにはわかんねーけど…」
「う〜ん…、例えるなら、自分に取り憑こうとしたモンスターを逆に吸収して魔王パワーがアップしたって、そんな感じしません?」
「なんだそりゃ?」
「iful!Excellent!!ああ、どんな言葉を用いても到底言い表す事が出来ないよ!仕方ないね、その時の事を特別に歌って聞かせてあげ」
完。
ポイントはメタモルフォーゼと吸収合併。変身は夢ですから何でも有りです(笑)ルグイさん、実際には吸収はしないと思うんですけど…?パラレルパラレル(笑)
タイトル意味なしです。日々と言っても一日だけだ!「猫」は、始まりを見てくれればわかりますよね?
最初はアイルザッハと他の人との関わり合ってるのを書こうと思ったんです。
で、誰を主人公にするか。皆のキャラだといろいろ不都合。よし、第三者だ…という感じでやっていたら、手段の為に目的を忘れていました。結局リディとしか喋ってません。
最後の部分のセリフ喋ってる人の順番。リ→ラ→ナ→フェ→ナ→フェ→ラ→ナ→フェ→リ→ル→リ→ル→ア→リ→ア→リ→ア→リ→ラ→ボ→ハ→ボ→ル→ボ→ハ→ボ→ハ→ボ→ハ→ラ。です。
ラッセンの最後の方のセリフ、中途半端に始まって中途半端に終わっているのはわざとです。彼は延々と喋り続けているので、その感じを出したかったので。打ちミスじゃないですよ〜。
夢にちょっとこだわりがあります。影くんはその人が見ている夢をベースにして夢を操っているので、最初の場面とか状況は本人がその時見ていた夢のままです。アイルザッハの夢は真っ白な空間です。彼は心が豊かではないので、きっとリディやラッセンのように賑やかな夢は見ないでしょう。細かな事ですが(笑)確か夢の風景って心が関わりあったような気がしたので。勘違いかもですが…。まあ、そーゆーことに…。
アイルは殺したいほど好きなのではありませんので。99%の愛情と1%の殺意です(笑)
影くんは「力が弱っている」と言ってましたが、違います。ただ相手が悪かったんです。
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