昼を過ぎた暖かい陽射しの中、とある宿の庭は勝手に薔薇の庭園と化していた。

薔薇の彫られたテーブルに、青と茶色を基調とした服装には似合わない帽子を被った茶髪の男が座っている。パラソルがその顔に影を作っているのにも関わらず、その顔は   その姿は輝いているかのように見えた。

テーブルの上にはティーセットと何も乗っていない大きな白い皿と白い箱。

男は怪しげな笑みを浮かべながらその箱に手を伸ばした。

「ふふっ……この町で有名なお菓子屋さんのパンプキンパイ……今回のお茶会はいつもよりGorgeousなのさ〜。……ああ、これで一緒に語らう心の友がいれば完璧なんだけどねぇ〜……」

薔薇のため息を吐き、箱から出したパンプキンパイ1ホールを宿から借りた大きな白い皿へ移す。

と、

「あーーーーっ!!」

大声が聞こえ、一陣の風が駆け抜けた。マリーである。

行き過ぎたのを慌てて止まって、

「ちょっとラッセン何それ!おいしそう!ちょーだいっ!」

「オ〜ゥ、マリア〜ンじゃないか〜。一緒にお茶会でもどうだ〜い?」

「イヤ(即答)。それちょーだいっ」

テーブルに手を掛けてぴょこぴょこ跳ねる。その仕草は幼い子どものようでかわいいのだが。

ラッセンは薔薇を弄びながら悩ましげに息を吐くと、

「…………一緒にお茶会をしてくれたらあげるよ〜」

「い・や。」

「そんなつれない事言わないでおくれよ〜」

ラッセンも何とかお茶会仲間を作ろうと必死である。マリーは少し考えるように黙ると、

「……わかった、ちょっと待ってなさいよ!食べたら承知しないんだからね!」

そしてまた風となっていなくなった。次に彼女が現れた時には、ナナオとハスティを連れていた。

「食べ物〜♪」

「ホントにあんのかよ……ってゲッ!?」

ハスティがラッセンの存在に気づいた時には遅かった。

「ハスハ〜〜ゥスっ!」

ラッセンが歓喜の雄叫びを上げ、薔薇の花びらを撒き散らしながらスローモーションでハスティ目指して駆け出す。

「マリーッ!?」

彼の存在にすぐに気づかなかった自分を激しく呪いながら、ハスティが恐怖と怒りを混ぜたような顔で叫ぶ。が、マリーは全く気にも止めず突き放す。

「私があのテーブルのを無事食べるまで我慢して!」

「え、話が違うよ!僕達も食べれるんじゃなかったの!?」

「ハスハァ〜スっ!」

「ぅわぁぁぁぁっ!!」

「わっ、ちょっと……」

ナナオを間に挟んでぐるぐる追いかけっこを始めるラッセンとハスティ。

「よ〜し、今のうちに……」

テーブルの中央に手が届かないので、ラッセンの座っていた椅子に飛び乗りパイの乗った皿を手にする。

「あ、マリー僕にも〜!」

「てめーマリー!卑怯だぞ!」

「へへーっベェーだ」

椅子から降りながら振り返って舌を出し、走り出そうとするとぼすっと何かにぶつかった。

「ひゃっ!?」

「何をしているんです?」

ふいに頭上から声が降ってきて、マリーがめいっぱい見上げるとフェルナンディが不思議そうな顔で見ていた。その後ろにはアイルザッハもいる。

マリーが呆然としていると、

「フェルナ〜ンディ、マリア〜ンからミーのパイを取り戻しておくれ〜」

「はい?」

と言いつつ、フェルナンディはラッセンの頼みに条件反射的に彼女からパイの乗った皿を取り上げた。

「あっ!」

不意を突かれたマリーは必死に取り返そうと跳ねるが、パーティー一身長が低いマリーにパーティー一身長のあるフェルナンディはあまりにも高すぎた。

「ありがとうフェルナ〜ンディ、ミーに返しておくれ〜」

薔薇の笑みを浮かべながらフェルナンディに歩み寄る。

「何の騒ぎかと思ったら、パイの取り合いか……」

やれやれ、とアイルザッハは息を吐いた。

フェルナンディは微笑んでラッセンに答えると、身を屈めてマリーの目線になり、優しく語り掛ける。

「マリー君、人の物を取ってはいけませんよ?」

「…………………」

ぷくっと頬を膨らませて眼鏡越しのフェルナンディの目をにらみ返すと、近くなったフェルナンディの手元から皿を奪い取った。

「あっ」

「だってこいつがくれないんだもんっ!」

フェルナンディと近づいてきたラッセンから離れて叫ぶ。

「だからお茶会に参加してくれたならあげると言ってるじゃないか〜」

「やなの!」

地団駄を踏んでいると、今度はナナオが皿を奪った。

「あ!」

「僕も食べたい。一人占めは良くないよね」

「あんたに言われたくないわよ!」

マリーが乱暴に奪い返す。

ハスティがじりじりと距離を詰めながら、

「オイラだってお茶会はいやだ。だけど、久しぶりにまともなお菓子が食いたいっ!」

「ミーだってそうさ〜」

「………俺も……」

いろいろ熱い思いのこもった一言にラッセンとアイルザッハも頷く。すると、マリーの表情が変わった。

「お菓子!?お菓子なのこれ?甘いの?」

「そうだとも〜」

「じゃ、いらない。」

ぽいっと皿を放り投げる。

「「「あーっ!」」」

ラッセン・ハスティ・ナナオが駆け寄り、滑り込みでハスティがナイスキャッチ。

今度はそれを3人で奪い合い始めた。気にも止めずに立ち去るマリー。甘い物が嫌いな彼女は、先程までとは打って変わって完全にどうでも良くなったのだった。

「み、皆さん落ち着いてください」

慌てたフェルナンディも取り合いの中に加わり、団子状態に。

アイルザッハが飽きれたようにそれを眺めていると、そこにリディとボクとその頭に乗ったお供とルグイが現れた。リディの手には   白い皿に乗った、パイ。

「出来たよー♪」

近くに寄ったリディが皆に見えるように前に差し出すと、それは一瞬で手元から消え去った。

アイルザッハが表情を硬くして行方を追おうとしたが   フェルナンディの大きな背中で視界を遮られた。

「え……?みんな!?」

リディが驚いて叫ぶと、塊の動きが止まった。フェルナンディとナナオの手の中に、見た目も皿も同じパイが2つ。仲間の塊の中で、完全にシャッフルされた2つのパイ。

「……………………」

暴れていた人達は、この状況を理解できなかった。

「あれ、私のパイ2つに増えた?」

小首をかしげたリディの一言に、約3名に緊張が走る。来るべき結末を恐れて……。

「………り、リディ、何を作ったんだ〜い?」

ラッセンが恐る恐る問い掛けると、天使のような笑顔で、

「えっとね、パンプキンパイ!」

ラッセンは脱帽した。

「あのね、ボーちゃんと買い物行ったらね、途中で頭がカボチャなカボチャさんに会ったの!それでボーちゃんに聞いたとおりに『頭のカボチャちょうだい』って言ったら、頭くれなかったけど代わりに他のカボチャくれたんだ。それで作ったんだよ♪」

「顔が食べ物で出来ている人は頼めば『僕の顔をお食べ』って言って分けてくれるって本で読んだんだけどなぁ……」

大量の小皿を持ったボクが小さく呟く。

「……で、ルグイが作るのを手伝ったんだな……?」

出所の怪しいカボチャで、と心の中で補足しながら、アイルザッハは頭を抱えて尋ねる   というよりも、確認する。リディが見た目はまともなお菓子を作る時は、間違いなくルグイが関わっている。

「ああ。形は町中の菓子屋のを参考にさせてもらった。……混ざって見分けがつかないな」

表情は変わらないが、面白がっている雰囲気でルグイが答える。何てタイミングだ、というアイルザッハとハスティとラッセンの胸中の非難を嘲笑うかのように。

「うん……残念だなぁ……」

叱られた子犬のように俯くリディ。それをボクは心配そうに覗き込む。

「リディ、皆に両方のパイを食べてもらえば良いんじゃないかな?」

「でも……」

リディは尚も眉をひそめてボクを見ると、ボクは柔らかく微笑んで、

「大丈夫、アイル兄さんならきっとどっちがリディのかわかるよ」

アイルザッハを地獄へと叩き落とした。

「……うんっ、そうだよね!」

リディは再び明るい笑顔を取り戻すと、フェルナンディとナナオの手からパイを受け取り、ラッセンのテーブルで楽しそうに切り分け始めた。

「……どーするよ、おい」

ハスティがアイルザッハに近寄り小声で尋ねる。

「……俺はもう逃げられない……。後はリディが作ったパイが中身もまともなものである事を祈るだけだ……」

そんな事があればの話だがな、と、ひどく疲れた声で呟く。

その横では、ラッセンが「僕のテーブルがぁ〜」と言って逃げるに逃げられない様子である。

(……悪ィ二人とも、オイラは自分の命が大事なんだ!)

ハスティが作戦『命を大事に』を実行し、踵を返して駆け出そうとすると、いつの間にか近づいていたルグイがハスティの腕を捕らえた。筋力は彼の方が勝っているはずなのに何故かピクリとも動かない。彼の表情が絶望に染まる。

「あれ?」

と、リディが声を上げた。

「……パンプキンパイ、どれがどっちのかわかんなくなっちゃった……」

そう言って彼女が見下ろすラッセンのテーブルの上には、ご丁寧に一切れ一切れ小皿に分けられたパンプキンパイが16個。

「……食べるのは5人、一人当たり3切れで1切れ余り。組み合わせは4通りで、最初に選んだ奴が3切れとも店のパイの確率は83163=1/10、2切れ店のパイの確率は8281163=2/5か」

「5人っておい!?お前は!?」

ご丁寧に計算を口にしてくれたルグイをハスティが振り返る。

「私も制作に参加した。『好きな人に自分が作ったものを食べて貰った時が一番幸せだ』」

「棒読みだなオイ!ズリィぞ!」

「あぁ、お供がいるから5人と1匹だったな。そっちの確率も聞きたいか?」

「いらねー!」

「あっちゃん、みんな、仲良く分けて食べてねv」

「おいしそうですねぇ」

「いっただっきまーす」

早々に手を伸ばすフェルナンディとナナオとお供。アイルザッハは死刑台に上る罪人のようにゆっくりとそちらに向かっていく。ラッセンはリディの発した「みんなでお茶会だね」という言葉に体が反応し、ハスティもルグイに引きずられて行く。

リディのパンプキンパイが真っ当な物である事を祈るか、フェルナンディとナナオとお供にリディのパイが当たっている事を祈るか、せめて最初の一切れは店の物である事を祈るか   







そして、最初に一輪の薔薇が散った。











あとがき

久々の短編はまともなパンプキンプイ争奪戦でした。
去年のハロウィン前に、暗光鼠氏にいきなり「まともなパンプキンパイ争奪戦書いてー」と言われたのがきっかけでしたが、まぁネタ考えてから半年以上のブランクが(爆)
温めていただけにスムーズに書けましたが、一番詰まった所がルグイの確率計算だったという。
何分長い事計算に使用されなかった頭脳なので間違っていたらどうしよう……(ドキドキ)昔は得意だったんですけどねぇ。
この話、一応完結のつもりですけどたぶん続きの話はあるんでしょうね。なんたってカボチャの出所がアレですから。



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