とある町の宿屋の一室。ルグイが部屋の中心の机を陣取って本を読んでいた。マリーは窓から身を乗り出して、両腕を外にぶらぶらさせながら、
「暇ね〜〜」
と窓枠にもたれていた。
そのまましばらくすると、一匹の虫が窓の方にやってきた。マリーがその虫を目で追っていると、虫はマリーの頭上を飛んで、部屋の中へ入っていく。
さらにマリーが振り向いて目で追うと、その虫は部屋をぐるりと巡って…ルグイの頭に止まった。
しかし、ルグイは本に集中しているらしく、全く気付いた様子はない。
「ルグイ、頭に虫がとまったわよ」
マリーが声をかけても、
「…………………」
無反応。
全く…と思いつつも暇だったので、マリーは虫を掃ってやろうと左からルグイに近付いていき、頭に左手を伸ばす。
と、妙な浮遊感がしたと同時に、マリーは目の前に床があることに気が付いた。条件反射でマリーは床に手をつき、その手でポンと跳ね上がって綺麗に足から着地。そして、後からじんわりと伝わってきた左腕の掴まれた感触で、何が起こったのかを理解した。
どうやらルグイは、マリーの行為を無意識に自分への攻撃と判断したらしい。他の部分は微動だにせず、左手だけを使って、目にも留まらぬ早業でマリーの腕を掴んで放り出したのだった。
「ちょっとっ、いきなりなにするのよ!」
「…………………」
マリーの抗議にもルグイは反応しない。
「もーーーっ」
怒りながらも、ここで諦めてはルグイに負けたような気がして悔しいので、マリーは再び虫を掃おうとルグイに近付き、今度は後頭部で死角になるように右手を伸ばした。
すると、ルグイの左手の裏拳が飛んできた。マリーはそれをバック転でかわし、
「なかなかやるじゃないっ」
着地した際の反動を脚のバネで自分の飛び出す勢いに変えて、ルグイに飛び掛る。
今度はルグイの左肩に左手をついて軽々と倒立、空いている右の手で虫を掃おうとする。
しかし、ルグイの右手が体を支えている左手を掴もうとするのを察知して、それより先に左手をバネに上へと跳ね上がった。
そのまま、天井についた両足を思い切り蹴りだして、ルグイの頭上を目掛けて突進。
虫の方に手を伸ばし、しめた!と思ったそのとき、突然ルグイが机の上の読み終えた本を一冊、こちらに向かって投げ上げた。
体勢を崩したマリーは、かろうじて空中で回転して両足で着地。すぐさま脚のバネでバック宙をして虫を狙う。
――――――――――――。
「ただいまぁっ!」
バタン!と激しくドアが開き、リディが部屋に入ってきた。それが騒々しかったのか、ルグイがリディに目を遣った瞬間、
「取ったーーーーーーーっ!」
ルグイに飛び掛ったマリーが、10点満点の着地を決めて、高々と右手を頭上に掲げた。
その手に摘まれていたのは一匹の虫。
「…何が…あったの?」
マリーの持っているものに、若干後ずさりしながらリディがルグイに尋ねる。
「さぁな」
四方の壁や天井にやたらと付いているマリーの靴の裏の跡を見ながら、ルグイはそれだけ言った。
by 暗光鼠
かなり久しぶりにアクションシーンを書いた気がする…。アクションは書いてて疲れるから嫌なんだよなぁ…。
つうか、ここでのポイントはリディが入ってくるまで虫が逃げないくらいじっとしていたルグイさんと、虫が逃げないくらい素早く飛び回っていたマリーだったんです。多分そうでした。
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