昔々あるところに、カボチャの王国がありました。
その国にやってきた旅人カボチャは、ある日偶然に、その国の姫君の姿を目にし、その姫に一目惚れしてしまいました。
しかし、その国の国王は「姫の相手にはこの国でもっとも美味しいカボチャ以外認めない」と常々言っていました。
かぼちゃの美味しさは、「美しさ」で決まります。
食べて、美味しさを決めてしまっては、命がけですからね。
国王の言葉を聞いて、旅人カボチャはがっくりと肩を落としました。
何故なら、旅人カボチャは大きさ競技用のカボチャだったからです。
大きな体はこの国のどのカボチャよりも立派でしたが、味のほうにはからきし自信がありませんでした。
けれど、姫君のことをあきらめきれない旅人カボチャは、どうにか味をよくする手段、美しくなる手段を探すことにしたのです!








「カボチャとカボチャ〜恋はパンプキンドロップキックの味〜」








1
旅人カボチャは美しくなるために、「エステ」へ行くことにしました。
美しくなるにはエステが一番だと聞いたからです。
旅人カボチャは、さっそく「エステ・バラの薫」へ行きました。
カランカラン・・。
ドアを開けるとそこには、たくさんのバラと一人の青年がいました。
「いらっしゃいませ〜!おぅ!カボチャのお客さまだねぇ!カボチャ君には、ピーナッツオイルが肌に合うよぅ!
このオイルでエステをすれば、美しくなること間違いなしさ★」
「美しくなる」という言葉に嬉しくなったカボチャはエステをうけることにしました。
旅人カボチャのエステを担当してくれたのは、その青年でした。
エステの最中に青年はカボチャに聞きました。
「どうして、エステを受けようと思ったんだ〜い?」
旅人カボチャは、答えました。
「美しくなって愛する人と一緒になりたいんだ」
この言葉を聞いた青年は涙を流しました。
「おお〜!なんて美しい〜話なんだ〜い!エステのお代は結構だよ!」
旅人カボチャは戸惑い、「お代は払う」と、言いましたが、青年は聞いてくれません。
結局、旅人カボチャはお代を払うことなく、エステを終えました。
「姫と一緒なれたら、また来よう。うまくいったって聞いたらあのエステ屋さんもお金を受け取ってくれるだろう。」
旅人カボチャは城へ行き、国王に会いました。
しかし、国王は納得しません。
旅人カボチャの肌は玉子のようにプリプリしていてとても美しいのにです。
旅人カボチャは理由を尋ねました。すると王さまは言いました。
「旅人カボチャよ、お前の肌は確かに美しい。だが、美しさとはそのようなものなのか?
その程度の美しさでは、姫との結婚は認められん。」
旅人カボチャはがっかりしてお城から出てきました。
「王さまが納得するような美しさってどういうものだろう?よくわからないな・・。
そうだ!偉い学者さんのところへ行って聞いてみよう!」
旅人かぼちゃは、学者の家をめざしました。








2
旅人カボチャは偉い学者のところへ行きました。
ギィ・・。
扉は不気味な音をたてました。
「おや、どなたですか?」
旅人カボチャを迎えたのは眼鏡をかけた青年です。白衣がとても似合ってます。この青年が学者でしょう。
「あの、僕、学者さんに聞きたいことがあって来たんです!」
旅人カボチャは、学者に国王が認める美しさはどんなものか聞きました。
学者は黙って旅人カボチャの話を聞いてくれました。
そして、旅人カボチャの話を聞き終えた学者は、言いました。
「国王が認める美しさはどんなものなのか、残念ながら、私にはわかりません。」
学者の言葉を聞いた旅人カボチャはがっかりしました。
でも、学者はほほ笑みながら、言葉を続けました。
「でも、あなたに美しさについてお話することはできます。
美しさにはいろんな種類があります。
見かけの美しさ、力強い美しさ、健康的な美しさ、繊細な美しさ、
そして、目に見えない美しさなどです。
色々な美しさを求めてみてはいかがですか?その中に国王が求めている美しさがあるかもしれません。」
旅人カボチャは、学者の顔を見上げました。
学者は、優しくほほえんでいます。
旅人カボチャは、心がほっこりしてきました。
「学者さん!ありがとうございました。僕、がんばります!
あの、アドバイスしていただいたのでお礼をしたいのですが・・」
しかし、学者はゆっくり首を横に振りました。
「お礼は結構ですよ。私は、アドバイスをしただけなのですから。
さ、美しさを探しに行かないと。時間がもったいないですよ。」
あれよあれよという間に、旅人カボチャは学者の家の外にだされてしまいました。
「・・すべてがうまくいったら、お礼に来よう。学者さんの邪魔しちゃいけないもんね。」
すべてがうまくいったら、学者さんはまた優しくほほえんでくれることでしょう。
それを考えたら、旅人カボチャは元気が出てきました。
「よーし!学者さんが教えてくれた美しさを探しにいくぞ!
見かけの美しさ・・は、エステで見つけたから・・よし!力強い美しさを探しに行くぞ!」
旅人カボチャは、走りだしました。








3
旅人カボチャは、力強い美しさを求めて町を走り回りました。
でも、中々見つかりません。
力持ちの人のところに行ってみましたが、力強いだけで、旅人カボチャは「美しい」とは思えませんでした。
走るのに疲れた旅人カボチャは、町外れの森で休むことにしました。
「どこにあるのかなぁ・・」
頬杖をついて、旅人カボチャはため息をつきました。
旅人カボチャがうなだれていると、どこからかキィィィン・・キィィィンという音が聞こえてきます。
なんの音だろう?不思議に思った旅人カボチャは、音のする方へ行ってみました。
そこには、犬のような耳が頭に生えている少年と、サングラスをかけた青年がいました。
二人は、戦いの稽古をしているようです。
「でやぁぁぁ!」
少年は、手にもった剣を大きく振り上げ、青年に切り掛かっていきましたが、青年は短剣で容易く受け流します。
「まだ、遅いぞ。」
二人の稽古は、それはそれは綺麗なものでした。
流れるような身のこなし、時には激しく躍動する体!
旅人カボチャは、二人の稽古に魅入ってしまいました。
そして、旅人カボチャは思いました。
力強い美しさは、これだ、と。
ダンスを踊っているような身のこなしは美しく、相手に立ち向かっていく姿は力強かったからです。
旅人カボチャは、二人のそばに行きました。
「稽古中ごめんなさい!あの、僕に戦い方を教えてください!」
旅人カボチャは二人に言いました。少年は突然の申し出にキョトンとしています。
青年は、旅人カボチャに言いました。
「お前は、どうして戦い方を学びたいんだ?」
旅人カボチャは、青年に今までのことを話しました。
「いろんな美しさを探しているのか・・。」
青年は、静かに言いました。
「あなた達の戦い方はとっても素敵でした。だから、お願いです!僕に戦い方を教えてください」
旅人カボチャは真っすぐ青年をみて言いました。
一呼吸おいてから、青年は言いました。
「わかった、戦い方を教えよう。」
旅人かぼちゃはうれしくなり、飛び上がって喜びました。
「ああ、ありがとうございます!僕、がんばります!よよよ、よろしくお願いします。」
旅人カボチャは喜びのあまり、早口になってしまい、舌を何回かかんでしまいました。
「はは!お前、おもしろい奴だな!よろしくな!」
青年の後ろにいた少年が旅人カボチャに言いました。
「よし、それじゃ、始めよう。お前、武器は何を使うんだ?」
青年の言葉に、旅人カボチャは考えました。
旅人カボチャは今まで戦い方を学んだことがないので、武器の扱い方を知らなかったからです。
「・・僕、武器を使ったことがないので、よくわかりません」
旅人カボチャの言葉に、今度は青年が考え込んでしまいました。
その時、少年の方が言いました。
「お前、でかいカボチャ頭だなぁ〜。重い頭なのに、全然よろついていないってーのはすげぇな!」
そして、旅人カボチャの頭をぽんぼんたたきました。
確かに、旅人カボチャは競技用の大きなカボチャなので、ずっしりと重いのです。
少年の言葉をきいた青年は、旅人カボチャにぴったりの武器を思い付きました。
「お前に、ぴったりの武器があるぞ」
青年の言葉をきいた旅人カボチャは目をきらきらさせました。
「どんな武器ですか!?」
旅人カボチャは青年に詰め寄りました。青年は動揺せずに言います。
「足だ」
静かに、簡潔に言う青年。
そして、言葉を続けます。
「お前の足は、頭を支えるために筋肉がついていてしっかりしている。足がお前にあった武器だ。」
青年の言葉をきいた少年は、旅人カボチャの足を触りました。
どれだけ筋肉がついているのか確かめたかったからです。
「うわ!すげぇ!きっちりかっちり、筋肉がついてる!お前、すげぇな!」
少年に誉められ、旅人カボチャは恥ずかしくなりました。
カボチャの大きさ以外で誉められたことがなかったからです。
「足にしっかり筋肉がついていれば、所作、かわし方を身につけるのはすぐだ。
よし、さっそく始めるぞ。お前、俺と同じように構えてみろ。」
旅人カボチャは青年のように構えてみました。
「オイラもオイラも!」
そこへ、少年もまざりました。そして、三人は一緒に稽古を始めました。








4
夕暮れ時になりました。
鳥たちが自分達の家にむかって飛んでいきます。
旅人カボチャは、稽古をつけてくれた二人の家にお邪魔していました。
旅人カボチャは、この国のカボチャじゃないので家がありません。
それを聞いた青年が、「家がないなら、来るといい」と言ってくれたので、お邪魔しているのです。
家は広く、部屋がたくさんあります。
台所からは、トントン、グツグツ、お料理の音がしています。
「あの、急に僕がお邪魔してもよかったのでしょうか?」
居間に通された旅人カボチャは言いました。
居間には青年と少年しかいません。
台所には左右の瞳の色が違う子どもと、ピンクの服を着た少女がいます。
旅人カボチャは料理を手伝おうとしましたが、
「お客さまは座ってて★」と少女に言われ、現在に至のです。
「気にすることはない。一人増えてもあまり、変わらないからな。」
青年が静かに言いました。そして、少年も言います。
「お前、結構強いよな〜!あの蹴り、すごかったぜ!」
少年は、旅人カボチャの背中をバシバシ叩きました。
「ありがとうございます!でも、体の運び方とかまだまだわからないことがたくさんあります。
また、よろしくお願いします!」
カチャ。
そこに、帽子をかぶった一人の少年がロバに乗って家のなかに入ってきました。
誰だ!?この人は!
驚いた旅人カボチャは、座っていた椅子から立ち上がりました。
でも、少年と青年はロバと帽子の少年を迎えます。
どうやら、この家の住人のようです。
「ただいま〜!もう、お腹ぺこぺこだよ〜」
帽子の少年がお腹を押さえてロバの上でくったりとしてしまいました。
すると、台所から料理を手に子どもと少女が姿を現しました。
「じゃ〜ん!お待たせ!ご飯できたよ!さ、座って座って!」
少女は、にこにこしてみんなをテーブルへ促します。
帽子の少年は嬉々としてテーブルに着きます。
でも、少年と青年は足取り重くテーブルにむかいます。
「旅人さんの席、こっち・・です。」
小さな声で子どもが旅人カボチャに言います。
人見知りが激しいのか、子どもは旅人カボチャの目をみて話そうとしません。
「あ、ありがとう。」
旅人カボチャは子どもに促されて席につきました。
「みんな席についたね!今日は旅人カボチャさんがいらっしゃったから一品おおくしたんだよ♪さ、みんな食べてね!」
少女の言葉を聞いて、帽子の少年は喜び、ご飯をもりもり食べ始めました。
そのたべっぷりと言ったら!見ていて気持ちのいいものです。
「すごいたべっぷりですね。何か運動してきたんですか?」
旅人カボチャは帽子の少年に尋ねました。
「運動はしていないけど、キコリの仕事をしてきたんだ。
へとへとだよ〜。ご飯がおいしいんだ〜。」
帽子の少年は、幸せな顔でお肉を口に運びます。
そんな帽子の少年の様子をみて、旅人カボチャは思いました。
学者さんが教えてくれた健康的な美しさってこういうことかな?と。
たくさん体を動かして、たくさんご飯を食べる!とっても健康的ではないですか。
そう思った旅人カボチャは、帽子少年に見習ってご飯をかきこみ始めました。
僕も、今日はたくさん稽古して体を動かしたんだ!
力強い美しさはまだ、手に入れられないけど、いっぱい食べて健康的な美しさを手にいれるぞー!
・・そう思い、ご飯をモリモリ食べていた旅人カボチャですが、
フッ・・と意識が途切れました。
遠くから「やっぱり・・今日の料理もダメだったか・・」と言う青年の声が聞こえたような気がしました。








5
旅人カボチャは、少女手作りの食事を食べて倒れてしまいました。
でも、幸いにも、旅人カボチャのお腹は丈夫だったので次の日には元気になっていました。
あとで犬耳の少年から聞いた話なのですが、
少女が作る食事は独特の味と風味があるため、食べた者の大半は気を失ってしまうそうです。
旅人カボチャが目覚めると、青年は
「迷惑をかけてすまなかった。お詫びに、お前が足のさばき方、技を覚えるまで、
稽古をつけてやる。この家にも好きにいていい。」
と、静かに言い、旅人カボチャの頭をポンッとやさしく叩きました。
言葉はちょっときつかったけど、旅人カボチャは気にしませんでした。
だって、旅人カボチャの頭を叩いた青年の手はとても温かくて優しかったのですから。
こうして、旅人カボチャは青年からいろんな足の技やさばき方を習いました。
そして、何日かが経ちました。旅人カボチャはついに、まだまだ研く必要のある強さですが、
力強い強さを身につけました。
毎日欠かさずに稽古をすれば力強い美しさはもっと身についていくことでしょう。
そして、たくさん稽古をしてたくさんご飯を食べれば健康的な美しさも手に入れられることでしょう。
旅人カボチャはホクホク顔です。
でも、問題があります。
学者に教えてもらった美しさのうち、
繊細な美しさと目に見えない美しさはどうやったら見つけられるのかわかりません。
一通り、美しさを探さないと国王が求める美しさがわかりません。
旅人カボチャはため息をつきました。
「う〜ん、あと二つ・・どこにあるんだろ?まず、繊細な美しさを探したいなぁ」
旅人カボチャは頭を抱えました。
繊細という言葉には、触っただけで壊れてしまいそう、というイメージがあります。
大きく頑丈なカボチャをもつ自分には似合わない言葉です。
そんな自分が繊細な美しさを手に入れられるのでしょうか?
旅人カボチャが悩んでいると、
トテトテカンテン、シュッシュッシュ、
と、リズミカルな音が聞こえてきました。
なんだろう?と思った旅人カボチャは音のする方へ行きました。
そこには、ロバと帽子の少年がいました。
「何をしているんですか?」
旅人カボチャが尋ねると帽子の少年がにこにこ顔で答えます。
「ペンダントを作ってるんだ。ほら。」
そういって、帽子の少年は作りかけのペンダントを見せてくれました。
それは、木彫りのペンダントでした。
細かく、繊細な細工が施されています。
「とても、きれいなペンダントですね。」
旅人カボチャはかがみこんで、帽子の少年に言いました。
「ありがとう!もうすぐ、あの子の誕生日だからね。作ってるんだ!」
あの子、というのは左右の瞳の色が違う子どものことです。
ピンクの服を着た少女は青年と一緒に楽しげにメニューを考えていました。
青年は当日の料理が無事に出来上がるように目を光らせていますが、
その裏で何かプレゼントを作っているようです。
犬耳の少年はブーメランを作っています。
みんな、あの子のために何かしらプレゼントを作っています。
左右の瞳の色が違う子どもはいつも表情を変えません。
喜んで笑った顔はきっとかわいいことでしょう。
「僕も、何かプレゼントをあげたいな・・」
ぽつり、と旅人カボチャが言うと帽子の少年が言いました。
「じゃあ、僕と一緒に木彫りのアクセサリーを作ろうよ!」
突然のことに旅人カボチャはびっくりしてしまいました。
「でも、僕、細工したことないからうまくできるかな?」
不安そうな旅人カボチャとは反対に帽子の少年はにこにこしています。
「大丈夫だよ!旅人カボチャさんは手先が器用な手をしているし、ね、一緒に作ろうよ!」
帽子の少年は旅人カボチャの手をひっぱって言います。
旅人カボチャは少し考えましたがこれといって得意なことがなかったので
帽子の少年と一緒に木彫りのアクセサリーを作ることにしました。
「あの、じゃあ、一緒に作らせてください!でも、やり方、教えてくださいね」
帽子の少年はにっこり笑うと旅人カボチャに作り方を教えました。








6
「誕生日おめでとう!」
今日は、誕生日パーティ。この家に住む人たちだけで子どもの誕生日を祝っています。
「はい!誕生日プレゼントだぜ!」
犬耳の少年は、子どもにプレゼントをあげました。
お花の絵が描かれている小さい、可愛らしいブーメランです。
「・・ありがとう、ございます」
子どもは、静かに言って受け取りました。その表情は、いつもとかわりません。
次々に、みんなは子どもにプレゼントを渡していきます。
「・・おめでとう」
青年は、柔らかい布と毛糸で作られた人形をあげました。
「おめでとう♪」
ピンクの服の少女は青年が作った人形に似合う服をあげました。
「おめでとー!」
帽子の少年は木彫り細工のペンダントをあげました。
どのプレゼントも、可愛く、また、繊細なものでした。
子どもはプレゼントを受けとるときちんとお礼を言いましたが、やっぱり表情は変わりません。
そして、旅人カボチャも子どもにプレゼントを渡しました。
「あ・・あの、おめでとう」
旅人かぼちゃがあげたのは、木彫りのブローチでした。
旅人カボチャのプレゼントはきれいなものでしたが、
みんなのプレゼントほどきれいではありませんでした。
だからでしょうか?
子どもは、ブローチを見つめるだけで旅人カボチャにお礼を言いはしませんでした。
旅人カボチャは淋しく思いましたが、しょうがないよね。と、自分に言い聞かせました。








7
誕生日パーティがおわり、片付けも終わった夜遅く、旅人カボチャは公園にいました。
ベンチに座り、ため息をついて考え事をしています。
「そこで、何をしている?」
誰かに呼び掛けられた旅人カボチャは、声のする方をみてみました。
そこには、真っ白な服を着た大人が立っています。
男なのか女なのかわかりません。
その誰かは、真っすぐ旅人カボチャをみます。
「あ・・あの・・」
見つめられて恥ずかしくなった旅人カボチャは、下をむいてモショモショとつぶやきます。
その誰かは、再度口を開きます。
「・・もう一度だけ聞くぞ。そこで、何を、している?」
その誰かはゆっくりと、もう一度言いましたが、
旅人カボチャは下をうつむいたままで何も言いません。
その誰かは旅人カボチャのそんな態度にイライラしているようです。
スパコーン!
イライラが絶頂に達した誰かは旅人カボチャの頭をたたきました。
いい音が公園に響きます。
いきなりのことにびっくりした旅人カボチャは目をパチクリさせて叩いた張本人をみます。
「・・質問には答えろ。貴様のでかいため息のせいで、集中して本が読めん。
貴様がため息をついているのは、私の読書を邪魔するためか?
だから、お前は私の質問に答えないのか?」
静かに淡々と、旅人カボチャを叩いた誰かは言いました。
「ち、違いますよ!ただ、どうしたら、あの子は喜んでくれるのかな・・って考えてて・・」
旅人カボチャはポツポツと独り言を言うようにいろんなことをつぶやきはじめました。
いろんな美しさを探していること、
見つからない美しさのこと、
・・誕生日パーティで子どもが喜んでくれなかったこと・・です。
旅人カボチャのつぶやきが終わると、黙って聞いていた誰かは、言いました。
「貴様は、馬鹿か?」
誰かは、重々しいため息もついています。
あまりの言葉に、旅人カボチャはポカーンとしています。
「子どもが喜んでいるかどうかはわからんのなら、聞けばいいだろう。
美しさが見つからないのならもっと探せばいいだろう。
それだけのことで、私の読書を邪魔するな。」
そう言うと、その誰かは自分の家へ帰ろうとします。
「で・・でも!あの子にプレゼントを見た感想を聞いたら、
もっと傷つくかもしれないし、
それに、美しさは見つからないかもしれない・・ですよ?
そうしたら、僕はどうすればいいですか?」
知らない誰かに、旅人カボチャは自分の悩みをぶつけました。
でも、その誰かの答えは淡泊なものでした。
「そんなこと、私の知ったことではない。」
旅人カボチャはがっくりと肩を落としました。
「・・貴様は、自分が傷つく答えを見ることを、恐れているだけだ。
恐れ続けたままなら、貴様はそのまま腐るだけだ。
まぁ、貴様が腐るか腐らないかは私には関係ないが、
私の読書を邪魔するのだけはやめろ。・・次はないと思え。」
そう言うと、その誰かは自分の家に帰っていきました。
公園で一人になった旅人カボチャは、しばらく考えていましたが、
パァン!と自分の頬を叩くとベンチから立ち上がりました。
「クジクジしてても、しょうがないよね。わからないなら、聞けばいい。
見つからないなら、もっと探せばいい!よーし!がんばるぞ!」
旅人カボチャは、みんなが暮らしている家に走って帰りました。








8
旅人カボチャが家につくと、夜遅くだというのに、子どもは起きていました。
そして、旅人カボチャが帰ってきたことに気が付くと、
ゆっくりと旅人カボチャの方へ近寄っていきました
(二人の間には、人一人分のスペースがありましたが)。
子どもが起きていたこと、
そして、自分の方へ近寄ってきたことの二つに驚いた旅人カボチャは
オロオロしているばかりです。
そんな中、子どもはゆっくり話はじめました。
「・・プレゼント、もらったとき、お礼言わないで、ごめん、なさい・・」
子どもは、やっぱり旅人カボチャの目を見ません。
旅人カボチャは思いました。
・・礼儀正しいこの子どもは、もらったプレゼントがうれしいものではなくても、
お礼をきちんと言うんだね。お礼を言わなかったことを謝るなんて、気を使わせちゃったな・・。
子どもの言葉を聞いた旅人カボチャは言いました。
「お礼なんて、いいよ。
僕のプレゼント、みんなのよりきれいじゃなかったもの。
がっかりしちゃったんだね。」
でも、旅人カボチャの言葉を聞いた子どもは、今にも泣きそうな顔で言います。
「がっかりなんてしてません!
ボク、旅人カボチャさんからプレゼントもらって、すごくうれしかったんです。
・・知らない人からプレゼントをもらうの、初めてで、
すごくうれしかったのに、どんな顔をすればいいのかわからなくて
・・お礼も言わないで・・ごめんなさい・・」
最後の方は、涙混じりの声になっていました。
びっくりした旅人カボチャは、また、オロオロしてしまいます。
「え、えと、僕の方こそ変な誤解をしちゃってごめん!
喜んでもらえて僕、すごくうれしいよ!」
緊張と混乱のせいで、旅人カボチャの声は時々裏返ってしまいました。
また、旅人カボチャはしゃべりながらへっぽこなダンスを踊っているような身振りをしました。
かなり、混乱しているようです。
でも、そんな旅人カボチャの様子をみて子どもは少し口を柔らかく曲げました。
ほほ笑み、よりは固い表情でしたが、
旅人カボチャには子どもが笑ったように見えました。
子どもの笑顔を見れてうれしくなった旅人カボチャは満面の笑みを浮かべました。
そんな、喜んでいる旅人カボチャに子どもはすごい言葉を言いました。
「・・旅人カボチャさんって、とっても繊細で、きれいですね・・」
この言葉に、旅人カボチャは再度、へっぽこ踊りを踊ってしまいました。
「ぼ・・僕が、せせせ繊細でききききれいって!?」
声を裏返しながら、旅人カボチャは言います。
でも、子どもは静かに言葉を続けます。
「はい。とってもきれいです。
お姫さまと結婚するために、美しさをあきらめずに探すし、
・・ボクに手作りのプレゼントをくれたし、人の気持ちを考える・・。
とっても繊細で、きれいです。
・・美しいって、とっても難しい言葉だから、
ボクの言っていることは間違っているかもしれませんが、
旅人カボチャさんは目に見えない、繊細な美しさがあると、ボクは思っています。」
ゆっくりではあるけれど、子どもは話しました。
「・・探していた残り二つが見つかったな。旅人カボチャ?」
そこに、子どもでも、旅人カボチャでもない声が聞こえました。
青年の声です。
青年は、旅人カボチャの後ろに立っていました。
どうやら、夜の散歩から帰ってきたようです。
「この子が、これだけお前を繊細できれいだって言うんなら、
お前は繊細できれいなんじゃないか?
人見知りが激しく、他人には言葉少ななこの子どもが、
ここまでお前をきれいだって言うのだから・・。」
青年の言葉を聞き、旅人カボチャは子どもを見つめました。
子どもは、まっすぐ自分を見つめています。
旅人カボチャは視界が歪んでいくような気がしました。
ぽろぽろ、温かい涙が目から流れてきます。
探していた残りの美しさが、やっと、見つかった・・!
「・・教えてくれて・・ありがとう・・」
旅人カボチャは、子どもと青年にお礼を言いました。








9
次の日、旅人カボチャはお城にむかって走っていきました。
探していた美しさはすべて見つかった!
国王が求めている美しさはどれかわからないけど、
国王に会えば答えがでる!
旅人カボチャの足は次第に速くなっていきます。
と、そこに誰かの声が聞こえました。
「ちょっと〜!誰か、助けなさいよ〜!!」
小さな女の子の声のようです。
旅人カボチャは声のする方へ行ってみました。
そこには、大木の下敷きになっている浅黒い肌の女の子がいました。
「き・・きみ!大丈夫!?」
あまりの光景に旅人カボチャはびっくりしてしまいました。
「大丈夫なわけないでしょ!早く助けなさいよ!」
女の子は、元気よく怒気を含んだ声で言います。
「そ、そうだよね!まってて、僕、今この木をどかすからね。」
そう言うと、旅人カボチャは大木に手をかけました。
でも、大木はびくともしません。
さらに力をこめると、大木はローラーのように回って動きましたが、
「痛い痛い痛い!ちょっと!木がめりこんでくるわよ!」
と、女の子をいたがらせてしまいました。
どうしたものか・・と悩んだ旅人カボチャはあることを思いつきました。
「ちょっと待ってて!」
そういった旅人カボチャはどこかに行き、
大きな丸太とカボチャサイズの岩をひっぱってきました。
そして、その丸太を大木と地面の間に噛ませ、岩を丸太の下に置きました。
「よし!準備完了!」
そこには、シーソーのような装置がありました。
丸太のむこう側には大木があります。
旅人カボチャは、助走をつけて丸太めがけ走り、
高くジャンプしました!
そして、青年から習った足技の一つ、
ドロップキックを丸太のこちら側に放ちます。
ドカピューン!
旅人カボチャのドロップキックが強力だったからでしょうか?
大木は遥かかなたへ飛んでいきました。
「ふ〜、やっとでられたわ。ありがとうね。」
女の子は、柔軟体操をしながら言います。
どこも怪我はしていないようです。
「助けてくれたお礼をしてやってもいいんだけど、
あんた、どこに住んでるの?」
ちょっとタカビーな女の子ですが、小さい分、可愛げもあります。
「僕は、旅人カボチャだからこの国に家はないんだ。
・・この国にずっといたいとは思うけどね。」
旅人カボチャの言葉を聞いた女の子は眉間にしわを寄せ、
旅人カボチャをにらみます。
そして、ポケットから何か紙を取り出すと
それを旅人カボチャに叩きつけるように渡しました。
「えと、あの、これは?」
突然のことで事態を飲み込めていない旅人カボチャ。
「いい?それは私なりのお礼よ!じゃあね!」
そう言うと、女の子は走り去っていきました。
旅人カボチャは、ぽかーんとしていましたがハッと我に帰ると、
女の子にもらった紙をポケットに押し込み、お城にむかってまた、走りました。








10
旅人カボチャはお城に着き、国王に会いました。
そして、見つけてきた美しさを一つ一つ説明し、
国王の前で披露しました。
美しさの説明が終わると、国王はゆっくりと静かに言いました。
「旅人カボチャよ、お前は、わしが求める以上の美しさを探してきた。
正直、わしはお前がここまで美しさをを探してくるとは考えていなかった。
途中で投げ出すのではないかとも考えた。
だが、お前は姫のことを想い、さまざまな美しさを探してきた。
お前は、最高に美しく、美味いカボチャになったようじゃの。
わしは、満足じゃ。どの美しさがかけても、わしが求めていた美しさにはならん。
お前が見つけてきた全ての美しさがあってこそ、わしが求めていた美しさになる。」
国王の言葉を聞いた旅人カボチャはうれしくなりました。
いろんな人に助けてもらって見つけた美しさが認められたのですから。
「では、僕と姫の結婚を認めてくださいますか!?」
嬉々として旅人カボチャは言いましたが、
反対に国王の表情は曇っています。
「・・・?どうしたのですか?何か、問題があるのですか?」
不安になった旅人カボチャは尋ねました。
「うむ。お前は、旅人カボチャであってこの国のカボチャではない。
わしは、『この国』で一番美味い(美しい)カボチャでなければ姫との結婚は認めたくないのじゃ。
しかし、お前はわしが知る限り、一番美しいカボチャじゃ。
どうしたものか・・・。」
国王は、口をへの字に曲げて考えます。
この国のカボチャになるには、いろんな手続きをしなければなりません。
「カボチャ住民票」、
「カボチャ品質管理票」、
「カボチャ健康診断票」、
「カボチャ畑出身票」、
「カボチャ前科票」、
「カボチャ蔦票」、
「カボチャ土壌票」・・・
あげれば、まだまだあります。全ての手続きを終えるのにどのくらい時間がかかるか、
わかりません。
旅人カボチャは、腰に手を当て、頭をぽこぽこ掻きました。
カサッ・・・
腰に当てた手が、ちょうどポケットの上に当たりました。
ポケットの中にある紙、先ほど大木の下敷きになっていた女の子からもらった紙です。
そういえば、何をもらったのか旅人カボチャは知りません。
旅人カボチャは、ポケットから紙を取り出し、広げてみました。
それは・・・
「永続カボチャ国籍票譲渡紙」でした。
これは、この国から出て行くカボチャが、信頼できるカボチャに渡すものです。
これさえあれば、手続きを踏まなくてもこの国のカボチャになれるのです。
「国王様!僕、もうこの国のカボチャです!これをご覧ください。」
そういって、旅人カボチャは国王に紙を見せました。
それを見た国王は喜び、旅人カボチャと姫の結婚を認めました。
















あれから、すこしの時間が経ちました。
旅人カボチャはこの国の姫と結婚し、幸せに暮らしています。
旅人カボチャは、自分に「見かけの美しさ」をくれたエステの青年に
たくさんのお礼をしました。
旅人カボチャは、自分にいろいろな美しさがあることを教えてくれた
学者に、たくさんの御礼をしました。
旅人カボチャは、自分に「力強い美しさ」を教えてくれた青年と犬耳の少年に、
たくさんのお礼をしました。
旅人カボチャは、自分に「健康的な美しさ」を見せてくれた帽子の少年と、
お料理をたくさん作ってくれた少女に、たくさんのお礼をしました。
旅人カボチャは、「繊細な美しさ」と「目に見えない美しさ」があることを
教えてくれた子どもにたくさんのお礼をしました。
旅人カボチャは、自分を励ましてくれた知らない誰かに、お礼をしました。
その知らない誰かは、この国の偉い魔術師でした。
旅人カボチャは、自分をこの国のカボチャにしてくれた女の子に、お礼をしました。
この国のカボチャであったけど、旅人カボチャになった女の子の居場所を
探すのは大変でしたが、なんとか、お礼が出来ました。








たくさん助けてもらって今の自分がいる。
そう思うと、旅人カボチャは泣きたいくらい、幸せな気持ちになりました。
だから、












僕は、この幸せを大事にしよう。
旅人カボチャはそう、決めました。

おしまい

あとがき
一年ぶりの小説アップです。
日記当番の際、暗光鼠さんから受け取った物語、大好きなテイストだったので
たくさん書けました。でも、ちょっと長かったですね。
で、一つ謝罪が。
暗光鼠さんからこ物語をいただいたのですが、
「美味しい」を「美しい」と読み違えていて、物語を書いていました。
修正をしている最中に気がつきました。
だから、ちょっと加筆してあります。
暗光鼠さん、ごめんなさい。
久しぶりに、物語を書けました。
また、何か書いていこうと思います。
それでは、また。



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