鍔つきの帽子にロングのカツラ、サングラスに付け髭…異様な格好だとリディは言っていた。
だが、顔を曝さずに町を歩くには、この格好しかない。それに、この格好はこれでかっこいいのではないだろうか?
…そういったら、リディは困ったような顔をしていたが…。
変装をしたかぼちゃマンは、リディに借りた町の地図を広げた。
大きな町ではないが、初めて歩く町だから地図をしっかり見て歩いていかなければすぐに迷ってしまう。
かぼちゃマンは、今住宅街の中を歩いていた。住宅街を抜けると森に出る。反対側へ抜ければ、町の中心街だ。
どちらに行こうか…。
だが、迷う必要はなかった。
自分は、無性に森に行きたがっている。森で誰かが呼んでいるような気がするのだ。
よし、森に行こう。かぼちゃマンが、森の方へ足を進めたとき。
トンッ…
かぼちゃマンは、子どもとぶつかった。
「あ…ごめんなさい…。」
急いでいたのか、角から子どもが飛び出してきたのだ。その子どもは、左右の瞳の色が違う…ボクだった。
「いや、僕は大丈夫だよ。君、怪我してな…」
そこまで言って、かぼちゃマンは息を呑んだ。子どもの瞳に見覚えがあったのだ。
左右、色が違う瞳…昨日、思い出した長身の男と似た瞳…。
「あの…僕とどこかで会ったことありませんか?」
「え?」
突然のかぼちゃマンの問いかけにボクは戸惑った。
ボクは、変装をしているかぼちゃマンの顔をよく見てみたが、思い出せない。
第一、こんなにひょろりとした男性の知り合いは、自分にはいない。
「いいえ、ありませんけど…。」
ボクは、かぼちゃマンと目を合わせずに言った。
「そっか…ごめんね。変なこと聞いて…。」
記憶がしっかりとない自分の手がかりがほしかったかぼちゃマンは肩を落とした。
「いえ、お役に立てなくてごめんなさい。…あの、僕からも一つ質問していいですか?」
手をもじもじと動かしてボクは言った。
「うん?なにかな」
低いが優しいかぼちゃマンの声に、ボクは安心したのか思っていることを言った。
「どうして、あなたのそばにいると暖かいんですか?」
そう、かぼちゃマンの近くにいると周りの温度が変わる。
今は、冬だというのに彼がそばにいるだけで春のように暖かくなる。
ボクに言われるまで気がつかなかったことに、かぼちゃマンはどう答えていいかわからなかった。
「うーん…どうしてだろう…。君に言われるまで気がつかなかったからわからないや。」
最後に、かぼちゃマンは「気味が悪いかな?」と苦笑してボクに言った。
その言葉にボクは、きょとんとした顔になり、そのあと首を横に振った。
「いいえ。気味悪くなんかないです。僕こそ、変なこと聞いてごめんなさい。それじゃ、僕、行きますね。さよなら。」
そう言うと、ボクは森のほうへ駆けていった。
「元気のいい子だな…。」
かぼちゃマンは、駆けていくボクの背中を見つめた。
…ふと、ボクの隣に女の子の姿が見えた。
ボクと同じスピードで駆けていく…年のころは15歳くらいだろうか?
冬だというのに、白い夏物のワンピースを着た水色の髪の女の子だ。
そして、両手が他の肌よりも赤い…焼け爛れているのではないか?
瞬きをしたら、その女の子は消えてしまったが、その子の身体的特徴は自分が探している女の子と一致する。
(『あの子』だ!!)
かぼちゃマンは確信した。
ボクの隣で駆けていた幻覚の女の子こそ、自分が捜している「あの子」だ。
どうして、幻になっているのかわからないが、かぼちゃマンはボクを追いかけて森の方へ駆けていった。
住宅街を抜けた森の奥にラッセンはいた。
鼻歌交じりに紋様が描かれた紙の上に何かの種を置き、それに水をかけている。
すると、種はみるみる大きくなり、大人の頭くらいのサイズになった。
「大きくなったら〜♪芽を出しましょう〜♪」
歌詞は、安直なものだったが、ラッセンが歌う旋律は美しかった。
そして、ラッセンの歌に応えるように、種は芽を出し、成長してく。
ラッセンは成長を促すように謳う。
すると、それは、種から植物に変わり、もう二階建ての家と同じくらいのサイズになった。
いくつもあるしなやかな蔓、はさみで縁を切ったような葉、そして、巨大な青いバラが特徴的な不思議な植物だ。
適当な大きさになったので、ラッセンは歌うのをやめた。
「…うん、これだけの大きさなら大丈夫だね。…それじゃ、『ノーザンローズ』、あとは頼んだよ?」
成長した植物にラッセンは話しかけた。その言葉に反応するように、「ノーザンローズ」は風もないのに揺れた。
「じゃあ、僕も三人のところに行こうかな。」
そう言うと、ラッセンは「ノーザンローズ」をその場に残し、森の中へ入っていった。
かぼちゃマンは、自身の脚力のなさを嘆いた。
(子どもの走りについていけないなんて…!!)
そう、かぼちゃマンはボクを追いかけていたのだが、まったく追いつけていなかったのだ。
付かず離れずの距離を保ったまま、二人は住宅街を走っている。
ボクに声をかければ止まってくれるかもしれないが、
大声を出して走ったりしたら、自身が呼吸困難に陥るのは間違いがないため、できなかった…。
かぼちゃマンは、息を切らせてボクをひたすら追いかけた。
「マリーさーん!ハスティ君―!!ナナオ君―!!」
森に着いたボクは、肩で息をしながら大きな声で三人を呼んだ。だが、返事はない。
(まだ、来ていないのかな…?)
中心街の方が森から距離があるため、三人はまだ来ていないのだろうとボクは考えた。
幸い、まだ午後になったばかりだ。時間はたっぷりある。
今日は、何をしてあそぼうかな…と、ボクが考えていた…そのときだった!!
シュルルルルルッ…
ヘビが地面を這うような音が、ボクの背後からした。
その音を耳にしたボクは、振り向いたが、遅かった。ボクの体は蔓―「ノーザンローズ」の蔓だ…に捕まってしまった。
「な…!?」
突然の出来事にボクは体を強張らせる。
見たこともない大きな植物を見ただけでもびっくりなのに、それが動いているのだから驚きは二倍だ。
自分はどうなってしまうのだろう?もしかして、この植物に食べられてしまうのだろうか?
嫌なことしか頭をよぎっていかない。
「助けて…!」
乾いていく喉から搾り出すように、ボクは言ったが、人気のない森に響き渡るだけだった…。
そして、「ノーザンローズ」は、ボクを蔓に捕らえたまま森の奥へと移動した。
「あれ〜?さっきの子…どこへ行ったんだろう?」
森についたかぼちゃマンは辺りを見回した。だが、人影はなく鳥の鳴き声が森に響くだけだ。
見失ってしまった…。自分が探している少女の手がかりをつかめると思ったのに…。
イライラしてきたかぼちゃマンは、右手人差し指をかみ締めた。
「…イライラすると、指を噛む癖は、相変わらずですね。」
かぼちゃマンの背後から、声がした。突然の声に、かぼちゃマンは振り向いた。
そこには、珍しい不思議な瞳…左右の目の色が違う長身の男…フェルナンディが立っていた。
(僕は、この男を知っている…!!)
そう、フェルナンディのことを自分は知っている。
そして、自分の癖をこの男は知っている…ということは、相手も自分のことを知っているのだ。
自分のことを知っている人物に会えた…。謎だらけの自分について知るチャンスだ。
そして、なぜ、自分はブラウという少女を探しているのか、ということも思い出せるかもしれない。
かぼちゃマンは、フェルナンディに言う。
「…あなたは、誰ですか…?どうして、僕のことを知っているんですか?」
その言葉に、フェルナンディは目を見開いて驚いた。
「…自分の意識を持っているのですか?」
「?言っていることがよく分からないんですが…。」
意味不明なことを言うフェルナンディの言葉を理解できず、かぼちゃマンは眉間にしわを寄せた。
…かぼちゃマンが表情を作ったことを見て、フェルナンディは唇をかみ締めた。
――また、辛い思いをさせなければならないのだろうか…。
しばらく、フェルナンディは俯いていた。
突然、現れた男が何かショックを受けている…かぼちゃマンは、フェルナンディに再度言葉をかけた。
「あの…僕の質問に答えてくださいませんか…?」
遠慮がちにかぼちゃマンは言う。その声を聞き、フェルナンディは苦しそうに微笑むと言葉を返した。
「まず一つ目の質問の答え、私は、フェルナンディですよ。
次に二つ目の質問の答え、私とあなたは仲間でしたからね。
それに、私があなたをそんな体にしてしまったのですから、知っているのは当然です。」
フェルナンディ…その名前に聞き覚えがあった。そして…自分の体を作り変えたという彼の言葉…妙に引っかかるのに、
大事なところが思い出せない。その代わり、かぼちゃマンの目に様々な景色が現れたり消えたりした。
まるで、押しては返す漣のようだ。
かぼちゃマンは、その場にひざをついた。目がちかちかする。様々な映像が目まぐるしく流れていく。
紅茶を飲む青年…ラッセンが映った。いつも、おどけた調子でいるのに本当はまじめな青年だった気がする。
犬耳の少年…ハスティと目の下に深い傷をもつ男の子…ナナオが映った。このふたりはあそぼうといつも言ってきた。
元気いっぱいの子達だった気がする。
浅黒い肌の女の子…マリーが映った。いつも、自分の服装にケチをつけてきた…そう、この子は現実的な考えをもっていた…。
左右の目の色が違う青年…フェルナンディが映った。真面目な性格で、いつもみんなのことを気にかけていた気がする…。
そして、芋づる式に大事なことを思い出した。一番、忘れてはならなかったことを思い出した…。
後編2・第二話