プロローグ



気が付くと、辺りは夕日の色で染まっていた。あんなに強かった太陽が西の空へと沈んでいくと、どこか物寂しくなる。
「チャーリー兄ちゃん!そっちは、村の出口だよ?」
少年は人懐っこい笑顔を青年に向けた。少年の名前はペリー。この村きってのわんぱく坊主にしてガキ大将だった。わんぱく小僧の証である「擦り傷」は、両膝にしっかりとある。今日も木登りの最中に出来た傷が一つ増えていた。
「ああ・・そうだったね。」
チャーリーという名前の青年は、苦笑して答えた。痩せていて、どこか頼りないように見える青年である。彼の胸には戦の神・マイリーの神官である証のペンダントが沈みゆく太陽の光を受けて、輝いていた。
「まったく、チャーリー兄ちゃんは方向音痴だよな!そんなんじゃ、先が思いやられるぜ!」」
ペリーは、弟分に向かって言うような口調で言う。年上のチャーリーに向かって、だ。
チャーリーは相変わらず苦笑している。だが、先程よりもどこか哀愁を感じさせる表情だ。
「・・そうだね。こんなんじゃ、先が思いやられる・・。」
チャーリーは、肩をすくめ、静かに・・だが、重々しく息を吐く。
「・・・?チャーリー兄ちゃん?どうしたんだよ・・元気ないよ?」
眉間にしわを寄せているチャーリーの顔をのぞき込むようにして、ペリーは言う。ペリーの心配そうな顔を見てチャーリーは、口元を緩めた。
「何でもないよ。ああ、そうだ。ペリーに預けたい物があるんだが・・。」
「なになになに???!!!あ!わかった!その銀のブロードソードでしょ?」
チャーリーのこの言葉にペリーは、両目を大きく見開き、きらきらと輝かせた。
ペリーの言う銀のブロードソードとは、チャーリーがいつも身につけているものだ。
使い込んでいるので柄も柄頭はボロボロになっている。にも関わらず刀身には一点の曇りもない・・。手入れが行き届いている。
・・・何故、ひょろひょろの彼がこのような立派な剣を所持しているのか?
しかし、ペリーにはそんなことは些細なことでしかない。いや、気にする必要のないことだ。
男の子は、いつだって「自分の武器」というものにあこがれの念を抱く。わんぱく坊主の第一条「男は自分を守る武器を持って一人前」を心に刻んでいるペリーとしては、魅力溢れる代物である。
興奮しきった声を弾ませて言うペリーを見てチャーリーは声を出して笑った。細身の割に響く声。先程、重々しく息を吐き、苦笑していた人物とは思えない。
「これは、駄目だよ。それに、ペリーはパチンコっていう武器があるじゃないか。」
微笑みながらチャーリーは言ったが、ペリーはこの言葉に顔を膨らませた。
「パチンコは、遠距離用だよ!おいらは近距離用の武器が欲しいんだ!」
駄々っ子のように手足をばたばたさせてチャーリーにねだるペリー。だが、チャーリーは聞き入れない。
「駄目な物は駄目。」
「ただ、構えるだけだから・・。」
「怪我したらどうする?重いんだぞ?」
「鞘に収めたまま構えるだけでも・・」
「そう言って、鞘から剣を抜こうとしたのはどこの誰だった?」
「触るだけでも・・。」
「駄目だ。」
ペリーのねだり言葉はチャーリーに軽くあしらわれていく。いや、切り捨てられていくといった方が妥当だろう。
「ふん!兄ちゃんのけち!」
とうとう、ねだる言葉が底をついたペリーは、子供最大の武器(アルテマ・ウェポン)「ふてくされる」を発動させた。だが、この武器はやりすぎると効果を無くしてしまうという副作用がある。
ちなみに、ペリーがチャーリーに「武器を触らせて」とねだったのは通算で50回目である。そして、ペリーはいつもこの最大の武器(アルテマ・ウェポン)を発動させてしまっていた・・・。チャーリーにこの攻撃は通用しない。
「男だったら、自分の武器は他人に気軽に触らせちゃ駄目だろ?」
ふてくされて、チャーリーに背を向けているペリー。その彼のツンツン頭を軽くたたきながらチャーリーは言う。チャーリーの言うことは、ペリーのわんぱく小僧の第二条に明記されている。チャーリーの言うことがもっともなのでこの言葉にペリーは唸るしかできない。
「・・・そして、男だったら約束を守れるよな?」
チャーリーの声の調子が一段下がった。張りつめた・・そう、何かを「決心」したという調子だった。
「・・・・兄ちゃん?」
不思議に思いペリーはチャーリーの方を向いた。沈みゆく夕日のせいか?チャーリーの顔にはひどく濃い影があった。
片膝をつき、チャーリーはペリーと同じ視線になった。そして、革袋から小さな「寄せ木細工の小箱」を取りだした。その小箱はどこから見ても変哲のない小箱だった。
「ペリー。俺は、お前を男と見込んでこれを託す。信用できる冒険者が現れるまで、誰にも見せちゃいけない。しゃべってもいけない。もちろん、お母さんにも友達にも、だ・・守れるな?」
ペリーはしばらく「寄せ木細工の小箱」を見つめていた。
いくぶんかして、ペリーは、チャーリーに向かって頷き、「男の目」を向けた。
「・・・わかった。おいらも男だ!まかせといてよ、絶対にこの箱を守る!」
チャーリーは、一言「任せたよ」と言って、小箱をペリーに渡した。








それから一週間後のことだった・・。チャーリーが、この国の首都「神水都市アルトバイエルン」へ旅立ったのは。
そして、物語は始まる。



チャーリー:「風笛亭」の書庫か・・・戻ってみよう。