あるナルシストの華麗なる大抒情詩
第一幕 待つ者、待たせる者
問い 誰かを待たせていますか?
------はい
それはいつまでですか?
------わからないけど、いつか必ず……
問い 誰かを待っていますか?
------はい
それはいつまでですか?
------わからないけど、いつか必ず……
そこだけ違う世界が広がっていた。
森の中の少し開けた所に、その世界はあった。
薔薇模様の白いテーブルが置かれ、その上にはティーセットにクッキー、バスケットに赤薔薇のさされた花瓶……。
そしてどこにでもいそうな庶民のような服装をしていながら、何故か完全に肌から日差しをシャットアウト!してくれそうなほど長いつばに、中央はかぼちゃのような形をした緑色の帽子をかぶった青年が、一人でまさに薔薇の如くそのテーブルに咲いていた。
------一人で?友達もなく?
------いやいや、ほら、彼の友達がやってきましたよ
ピィピィという音がしたので、ゆっくりと青年が音の方へ振り向くと、肩に小鳥がとまった。
「おやおや、エリザベス。どうしたんだ〜い?もしかしてユーもミーとお茶会したいのかな???ふふふ。さあ、そこへ座りたまえ〜。」
そうして、彼は小鳥(エリザベス)を促した。
「本当に今日はとてもいい天気で、ミーも気分がいいよ〜。ミーの輝きも増すってとこだね〜。」
横ではエリザベスがクッキーにがっついて、食べ散らかしまくりだが、一人自分の世界に入っている青年は気づくはずもない。
そんな優雅な午前のひと時に、遠くから少年の叫ぶ声がし、だんだんと近づいてきた。
「おやおや〜?また誰かがミーとお茶会しにやってきたのかな???……なんでかって?ふふっ。それはやっぱりミーがすばら」
一人問答が始まったところで、木の間から少年が飛び出してきた。
「そこのあんた、助けてくれー!」
するとざんっと青年は立ち上がり、両手を広げた。
「さあ、誰だい、ミーとお茶会したいのは???」
半泣きでやってきた少年の後ろには巨大な熊が追ってきていた。しかし少年は近くにしげみを見つけると、すぐにその陰に隠れた。
「ピエールかい!?フランソワかい!?」
「兄ちゃん、危なーい!」
そして今にも熱き抱擁を交わさんとしていた青年は、真正面からもろに熊を受け止めそうになったが、直前で現実にかえり、お茶会セットが無残に壊れる音と共にふらっと倒れた。
気が付くと見知らぬ森の中にいた。
「ここはどこだ〜い?誰かあ〜。」
すると突然、辺りにコボルトがたくさん現れた。しかしコボルト達は攻撃してこない。
「おお〜う。君達はもしかして僕を助けに来てくれたのか〜い???」
そう言うと、コボルト達は笑顔でこくこくとうなずく。
「な、なんて嬉しいんだ!感激だよ〜!ささっ、一緒に帰ろうじゃないか〜!」
そして青年が笑顔のコボルト達に導かれて、満足げに歩いていこうとした時だった。
「必殺!トゲトゲフラーッシュッ!!ズシズシズシィィッッ!!!」
どこからか聞こえてきた声と共に、コボルト達はバラバラと倒れていった。
「ああっ!コボルト君達!」
青年は慌てて駆け寄るが、誰一人として起き上がらない。
するとまたしても、先程と同じ謎の声が響いた。
「ふっはっはっはっは!」
「こんなひどいことをするのは誰だいっ!?」
可愛いコボルト達を殺されて怒りに満ちた青年が、声の方をきっと睨みつけた。
「正義の味方、バラ仮面、参上!」
するとそこにスポットライトが当たり、仁王立ちの人物が現れた。
「バラ仮面だとおっ!?」
その姿は上に大きな襟のついた派手な赤を着て、下には緑のかぼちゃパンツとタイツ、そして赤いマントに仮面をつけている。
青年はその姿を見ながら、声を震わせて言った。
「なぜ…なぜ可愛いコボルト君達を殺したんだいっ!?」
「あのコボルトは君を悪いところに連れて行こうとしていたのさっ!」
「そんなの嘘だ!それに何なんだ、あの技は!トゲトゲフラッシュって!「トゲ」フラッシュならまだしも、「トゲトゲ」と二回繰り返すところがダサさを増しているよ!」
「何―!」
「しかも自ら効果音をつけるとは、なんて奴!許せないよっ!」
「ふっ、面白い。そこまで言われてしまっては、私も黙っていられん。では私と勝負するかね。」
「もちろんだとも!」
そう言って青年は立ち上がり、愛用のレイピアを抜こうと腰に手をかけたが、そこにレイピアはなかった。
「あ、あれえ…おかしいな???」
「ふっはっはっはっは!そんなことで私とやりあえるのかね、ええ!?」
バラ仮面はじりじりと寄ってくる。
「くっ……。」
「さあ、今度は君が受ける番だ!必殺!トゲトゲフラーッシュ!ズシズシズシィィッッッ!!」
その音と共に、青年めがけて無数の薔薇のトゲがやってきた。
「い、嫌だ〜!こんなダサい技で死にたくな〜い!」
「……!」
がばっと身を起こすと、青年はベッドの上にいた。辺りをボーっと眺めると、たんすに椅子に……。
「……全く、変な夢だったよ〜もう〜。」
どうやら現実らしいことがわかると、青年はがっくり首を垂れた。そしてもう一度頭を上げて辺りを見渡すが、その風景に見覚えはなかった。
「ここは一体どこなんだ〜い???」
少し前まで、お茶会をしていたら突然目の前に巨大な熊が現れたところまでは覚えているのだが…。
そうして記憶をめぐらせていると、部屋の外からまだ少年の声色で一生懸命に掛け声するのが聞こえてきた。
それを確かめに行くように、青年はゆっくりベッドからおり、少しふらふらする頭でドアへ向かった。
はじめ少しだけドアを開け、そっと外を覗くと先程の威勢のいい少年の掛け声が聞こえ、ゆっくりドアを押して視界を広げると、少年が勢いよく剣を振るっている姿があった。
青年がどうしたものか困っていると、剣を振っていた少年がそれに気づいた。
「なんだ。あんた、目が覚めたんだ。」
そして剣を下ろした。少年、といってもまだほんの小さな子供で、頭には少し錆びついた鉄のかぶとをかぶっているが、彼には少し大きいようで斜めになっている。手にしている剣も大きめで、その大きさと彼の身長の対比から彼が本当にまだ子供であることがよくわかった。そして少し荒く息をしながら、気の強い眼差しで青年を見つめていた。その視線に青年は少々たじろぎながらも、恐る恐る聞いた。
「君が助けてくれたのかい?」
「…オレのこと覚えてない?」
質問に質問で返された青年は、ちょっと驚いてから一生懸命少年のことを思い出そうとしばらく頭をひねっていた。が、答を期待できない様子を見て、少年は軽くため息をついた。
「だろうね。あんた最初っから自分の世界にぶっ飛んでたみたいだし。それに熊が現れた途端に気絶しちゃうしね。ただ死んだふりしただけかと思ったら、本当に気絶しちゃってるからびっくりしちゃったよ。ま、でもそのおかげで命びろいしたんだね。」
青年にとってはあまり覚えていないことだったけれど、よく分からないのでとりあえず薔薇の微笑みをうかべておいた。
「よくわからないけど助けてくれてありがと〜う。礼を言わせてもらうよ〜。」
そんな青年の口調に少年は顔をしかめた。
「……あんた剣士なの?」
「う〜ん、まあ大した腕じゃないけど、でも」
「だろうな〜。熊見て気絶してるぐらいだもんね〜。」
少年はそう言うと、けらけらと笑った。
そこへ中年の女性がやってきた。
「こらっ、アシュレー!大事なお客さんに、何言ってんだい!」
アシュレーはぎくっとして一瞬首をすくめた。
「まったく!…すみませんねえ、うちの息子ったら。さあ、こちらへどうぞ。軽いお食事用意してますから。」
なんとか怒りを静めると、その女性はにこやかに青年を案内した。
「そういえば、まだ名前聞いてなかったわね。何ていうの?」
先程の女性がお茶を入れながら言った。
「ラッセン=ディーアさ〜。」
「そう、ラッセンさんというの。私はレノア。さっきの子は私の息子でアシュレーよ。」
そういってレノアは注いだお茶をラッセンに手渡した。
ラッセンの通された部屋は質素だった。キッチンやテーブルはあるが、必要最低限の物しかなく、装飾品などは見当たらない。置いてある物もかなり使い古している物が多い。
「さあ、大した物じゃないけれど、よかったら食べて。」
テーブルの上の食べ物はレノアの言う通りだった。スープとマッシュポテトが少し、それだけだった。
「すまないね〜。助けてもらった上に食事まで出してもらって。」
そう言ってラッセンはスープを口にするが、かなり薄い味だ。
「それにしても、どこの誰ともわからない僕を助けたりして、怖くないのか〜い???」
ラッセンがそう言うと、レノアは一瞬驚いたがすぐにクスクスと笑い出した。
「だってアシュレーの話じゃ、あなたに助けを求めたのに、なんだか自分の世界に飛んでいたみたいで、熊にしばらく気づかなかったって言うじゃない。気づいた途端、剣で戦うと思いきや、すぐに気絶しちゃったって言うし。それだけぬけてる人だから大丈夫だと思って♪」
「そうなのか〜い!ははは!」
レノアの言う意味がよく分からなかったラッセンは、またもとりあえず薔薇の微笑みを浮かべておいた。
そんな中、またアシュレーの掛け声が遠くから聞こえてきた。
「アシュレー君は熱心に剣を振っているね〜。」
「そうなんです。最近あの子はあればっかりで…。」
レノアは少し視線を落とし、お茶の入ったカップを両手で握り締めた。
「父ちゃんや兄ちゃんを助けに行くってきかないんですよ…。」
「助けに?」
ラッセンがそう言うと、レノアはため息混じりにうなずいた。
「この辺りは小さな村がいくつかあるんだけど、ある日突然トーダストールの連中が軍隊を引き連れてやってきてね、自分達の配下においちまったのさ。このキューカンバー村もその一つってわけ。奴らときたら、村中の男を一人残らず連れて戦争に連れてっちまったのさ。トーダストールの敵国の一つトレビスは、こことトーダストールの間にあるだろう?だからトレビスを挟み撃ちにするつもりだったのさ。」
「それにアシュレー君のお父さんとお兄さんも参戦したということか〜い?」
それに返事するかのようにレノアは一口お茶を飲んだ。
「結局トーダストールは降伏して戦争は終わったけれど、村の男達で帰ってきた者はまだいないんだ。だからきっと何かあったんだと思って、アシュレーは助けに行きたがってるのよ。でもあんな小さな子供にできるはずなくて…。」
そしてレノアはラッセンから顔をそむけ、しばらく振り返らなかった。そんなレノアにラッセンは声をかけることができず、しばし沈黙が広がった。
食事を終えてラッセンが部屋へ戻ろうとすると、庭からアシュレーの歌声が聞こえてきた。廊下に座って足をぶらぶらさせながら歌っている。
今日は母さんと木の実を採りに
かごいっぱいに採って帰ろう
今日は父さんと魚を釣りに
まだかなまだかな 何釣れるかな
今日は兄さんとじゃが芋掘りに
気づけば体が泥だらけ
今日は姉さんと…
と、そこまで歌って、アシュレーは自分を眺めているラッセンに気づいた。思いもかけないところを見られて、少し恥ずかしかったのかそれを隠すように強気で言った。
「何見てんだよ。何か用か。」
そしてとんっと地面に下りると、また剣を振るい始めた。
小さな体が一生懸命動いている。大きめのかぶとがずり落ちてくるので時々直しては、また剣を振るう。それも全ては父と兄の為に。
そんなアシュレーの様子をラッセンはしばらくの間、薔薇を片手に眺めていた。
ようやく一段落すると、アシュレーはラッセンの方を向いた。
「何見てんだよ。そうしていられると、やりづらいんだよ。」
「いや〜熱心だな〜とおもってね。ふふふ。でもまだまだだねえ。もっと稽古に励みたまえ〜。」
そう言ってラッセンが立ち去ろうとした次の瞬間、手にしていた薔薇がさっと切り落とされた。
「!」
驚いたラッセンはすぐさまアシュレーを振り返る。
「熊見て気絶してる奴なんかに言われたくないね。」
少年はラッセンを小ばかにするように笑った。
翌朝。
ラッセンが起きるとレノアが朝食を用意してくれていた。戦乱の影響で貧しい様子なだけに、ラッセンも断ったのだが、レノアが是非と言うのでありがたく頂くことにした。レノアは森へ食材を採りにいったアシュレーの帰りが遅いので、探しにいって来ると言う。
ラッセンに出された食事は、昨日食べたのと同じ物だったが、ゆっくりと味わって食べ、レノアに感謝した。
食べ終わると部屋へ戻って身支度をすることにした。昨日頭がふらふらしたのは、もうすっかり治っていた。
そろそろ発とうと思うラッセンだったが、アシュレーもレノアもまだ戻ってこない。彼らの厚意に礼を述べてから発つつもりだったが、これでは発とうにも発てない。
どうしたものかと思っていると、突然レノアが血相変えて帰ってきた。
「ラッセンさん!」
「おや〜。どうしたんだ〜い?そんなに慌てて。」
「あの子が……あの子の姿がどこにも見当たらないのよ!その代わりに木の実の入ったバスケットが落ちてて…。」
「何だって!」
驚くラッセンに話を続けたいレノアだが、あまりに急いで走って来た為か、呼吸を整えるのがやっとである。
「…今、村のみんなにも手分けして探してもらってる。…でもバスケットが落ちてたのは、森が少し深くなる手前だったのよ。その先はモンスターが出るから行っちゃ駄目っていつも言ってるけど、もしその先に行ってたら…私…私…!」
レノアは落ち着かない様子で、パニックになりそうだった。
「落ち着くんだよ、レノア!とにかく、その場所まで案内しておくれ!」
レノアに案内された先は、確かに森が深くなっていくようだったが、おそらくこの先だと考えたラッセンはレノアを連れて奥へと進んだ。
するとアシュレーの叫び声が響いた。
その瞬間、レノアは息子の名を叫ぼうとしたが、ラッセンは彼女の口を手で抑えて近くのしげみに身を潜めた。茂みから声のした方をうかがうと、縄で縛られたアシュレーと、それを取り囲む三人の男の姿があった。それを見て、またもやレノアは叫びそうになったが、ラッセンが何とか制し、二人は様子を伺うことにした。
「おい。とっととガキを黙らせろ。」
「へい。」
リーダー格らしき一人の男が命令すると、あとの二人はそれに従った。
「まあ体格はそれ程よくないが、元気はいいからまあまあの値はつくだろう。」
「思わぬところでいいもん見つけやしたね、お頭。」
「全くだ。とにかく早いとここいつを運んじまうぞ。」
「へい!」
そしてアシュレーが運ばれようとした時、ラッセンが立ち上がった。
「待ちたまえ!」
「ん?」
お頭が振り返ると、やけに輝いた青年が薔薇を片手にし微笑んで、頭に葉をつけたまま登場した。
「…行くぞ、お前ら。」
お頭はラッセンを無視して、すたすた立ち去ろうとした。
「お、おうっ!待ちたまえ、そこの君!その子を放さないとこの僕が許さないよっ!」
「誰だてめーは。」
「ふふっ。よくぞきいてくれた。僕は薔薇の旅人、ラッセン=ディーアさ!」
更に輝きを増したラッセンを見て、お頭は無言で立ち去ろうとした。
「な!待てと言っているだろうが!くっ、一度ならず二度までも僕を無視するなんて!食らえ!」
そう言ってラッセンが手に持っていた薔薇をお頭に向かって投げると、彼の頬に血が走り、ぴたっと歩みを止めた。
「ふっ、なめた真似しやがって。お前ら、やっちまえ!」
お頭の言葉と同時に、手下二人がラッセンめがけて走り出した。一人は曲線を描いた大ぶりの剣、もう一人は小ぶりの剣を握り締め、声を荒げる。
「ふふっ、来たね。でも君達はここで終わりさ。受けてみよ!」
ゴゴゴゴゴオオォォォォォォ!!!
するとラッセンの前に壁の如く、薔薇が薔薇とは思えないような音を出しながら急増した。
「なんだこれは!……っ!」
途端に手下二人はむせかえる程の薔薇の香りに包まれた。
「う……げほっげほっ!」
「ふふふ。かかったね〜。これは僕が開発した新種の薔薇さ。この香りを嗅いだ者は皆眠ってしまうよ〜。」
「うっ、う〜……。」
手下二人はばったりと倒れた。
「くそ…!」
遠くで見ていたお頭は、苦い顔をした。どうやら彼に戦闘能力はないらしい。
「ここまでか…。」
お頭は膝をついた。
「アシュレー!」
しげみからレノアが飛び出して、息子に駆け寄り、縄を解いてやった。ラッセンは男たちを縄で縛る。話によると彼らは人身売買の仲介人だと言う。吐かせるだけ吐かせると、ラッセンもアシュレーの元へ行った。
「大丈夫か〜い???」
アシュレーは大泣してレノアと抱き合っている。
「あいつにね、道を訊かれてね、ちゃんと教えたんだ。でね、どこから来たの?って僕ちょっと訊いてみたんだ、そしたらね、トレビスからって言ったんだ。だからね、もしかして父ちゃんや兄ちゃんの話知ってるかと思って訊いてみたらね、知ってるって言ったんだ。それにもしよかったらトレビスに連れてってくれるとも言ったんだよ。それで詳しい話をしてあげるからこっちにおいでって言われて、ついていったら急に手を縛られてね、それでね、それでね……。」
そしてまた、アシュレーは泣き喚いた。レノアはそれをなだめるように、息子の髪をそっと撫でてやる。
「お前がね、父ちゃんや兄ちゃんを探しに行きたい気持ちはよくわかるよ。でもお前一人で行くのは無理なんだよ…。」
「じゃあ、母ちゃんも行こうよー!」
「…それもできないよ…。」
「どうして!どうしてなんだよ!」
レノアは泣き叫ぶ息子の方に両手を置いて、下を向いたまましゃがむしかなかった。
「……それだけの旅費がないんだよ…。」
レノアは息子に聞こえないように言うと、ぎゅっと唇を噛み締めた。
アシュレーの叫びが森中に響く。
「じゃあどうすればいいんだよ!待ってるしかないのかよ!?」
アシュレーの心からの叫びに、レノアは堪えきれず、きつく息子を抱きしめ、何もできない自分と哀れな息子に涙を流した。
そんな光景を見て、ラッセンはどうにかして二人を慰めたいと言葉を探した。そしてふと、昨日のアシュレーの姿を思い出した。
「今は待ってるしかないね〜…。けどただ待ってるだけじゃないだろう???君は昨日、熱心に剣を振っていたじゃないか!もし父さんと兄さんがいない間にこの村が襲われたらどうするんだい?誰がこの家を守るんだい?誰が母さんを守るんだい?……そのためにも君がここにいなくちゃ駄目さ〜。」
アシュレーが少し泣き止んだ。ラッセンの言葉が子供だましだということは、ラッセンだけでなくレノアにも分かっていた。けれどこの哀れな少年をどうしてもなだめてやりたかった。それが例えどんな言葉でも、少し泣き止んだ息子を見て、母親はこの機会を利用することにした。
「アシュレー、父ちゃんも兄ちゃんも今必死でこっちに向かってるはずだよ。それに、お前まで行ってしまったら、母さん生きていけないわ。お願いだからもう二度と一人で探しに行こうとしないで、お願いよ、アシュレー……。」
母の嘆願に息子は鼻をすすってこくりとうなずいた。
「さあ、帰ろうじゃないかあ〜!アシュレー、もし僕でよければ少しだけ剣の稽古をしてあげるよ〜。」
ラッセンの言葉にアシュレーは、少しひいたものの泣きはらした様子を残しながら、疑わしそうな顔で答えた。
「…あんたが?」
「そうだとも!」
「本当に大丈夫なの?だってオレ、あんたが剣使ってるの見たことないし。さっきだってそうじゃないか。」
「はっはー!そんなことはノープロブレムさ!ささっ、帰るとしようじゃないか〜!」
そして三人は家へと帰っていった。
帰ってからアシュレーはラッセンに稽古をしてもらったが、アシュレーにとってラッセンは少しは役に立ったようだ。また、真剣な眼差しで挑んでくる少年をラッセンはたのもしく思った。
誰かを待っている人も、待たせている人も、きっといつかと信じて……
君たちにはそんな人がいるんだね
終曲
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