それはある日の食事の風景

日も沈み、街の家々には明かりが灯り始めた。
どの家も夕食の仕度をし始め、おいしそうな匂いが街路を漂う。

ぐうう〜〜きゅるる〜〜〜

「おや?」
音のする方を見ると、ナナオとハスティが力なく歩いている。
「お腹すいたなあ・・・。」
お腹に手を当てて、ナナオがため息混じりに言った。
「俺も腹へったぞー。そろそろ夕食にしようぜ。」
普段は元気なハスティも、魂がぬけたように言う。
そんな二人を見て、フェルナンディはくすっと笑った。
「そうですね、そろそろそんな時間ですね。今晩はどうしましょうか。」
と、そこへ間髪いれずにリディが目を輝かせながら言った。
「私!私が作る!」
顔が引きつる者数名。
「あのね、新作があるの!とびっきりすごいの!結構自信あるんだ!今晩はご馳走だよ♪」
「あーあのーその、えーと・・・」
引きつった顔のハスティが、一生懸命心を静めようとしている。
(とびっきりって・・・)
「今晩は、その・・・やめといたら?」
「えー、なんで?」
「いや、その、今日はたくさん歩いただろ。リディ疲れてると思うし・・・。」
「でも、疲れてるのはみんな同じよ。そんなみんなに、私の料理で元気つけてあげようと思って♪」
「でも・・・。」
と、二人が言い合っていると、突然、ラッセンの声が聞こえた。
「おおっ!ここは、この店はっっ!!!」
何だ何だと皆がラッセンの方を向くと、ラッセンはくるーりと華麗にターンして、皆の方を向いた。
「ふっふっふ・・・。みんな聞いてくれたまえ。僕にはお勧めしたいお店があるのさ。今夜は是非そこでディナーをと思うんだけどね。」
「それは一体、どこの店なんです?」
フェルナンディがそう言うと、ラッセンの怪しげな笑みがさらに加速していった。
「それは、今僕たちが目の前にしている、この店さっ!」
ラッセンが勢いよく差し出した薔薇の先には、豪華なつる薔薇模様が彫られた看板だった。
「レストラン 恋人は薔薇・・・」
ルグイはぼそっと看板の文字を読むと、向きを変えて歩き出した。
「私は別のところに行く。」
「ま、待ってくれたまえルグイ!この店は本当に素晴らしいのだよ!」
「素晴らしいって、ラッセン君はこの店に来たことがあるのですか?」
フェルナンディが尋ねた。
「もちろんだとも!以前心の友に誘われてね。ほら、窓から中を覗いてごらん。」
ラッセンに言われるまま、皆で中を覗いてみると、ピンクのテーブルクロスがひかれた席に、華やかな衣装を身にまとった人たちが優雅に食事をしている。
輝くシャンデリアのもと、上品な音楽が流れ、いかにも高級そうなレストランだった。
「で、でも、こんな高そうなお店じゃお金が・・・。」
心配そうにボクが言う。
しかしラッセンは、そんなボクをよそにまた笑みを浮かべている。
「そんな心配は無用さ!みんな、行くよ!」
その言葉にお腹をすかせていた二人は、勢いよく飛びついていった。
それを見て微笑ましく思いながらフェルはついていく。
リディも高級レストランと聞いてはしゃぎ、アイルザッハを引き連れて入っていってしまった。
「え、ちょっと、みなさん!」
慌ててラッセンを引きとめようとするボクの肩に、ルグイがポンと手を置いた。
「何があっても、あいつのせいだ。気にするな。」
そう告げるとルグイもラッセン達の後についていった。
「ルグイさ・・・。」
ボクは一つため息をついたが、気を取り直してルグイのあとに続いた。
(まあ、なんとかなるかな・・・)

「いらっしゃいませ。」
先頭のラッセンがドアを開けると、礼儀正しそうなウェイターが頭を下げた。
「何名様でいらっしゃいますか?」
「9人さ。」
「かしこまりました。ではこちらに・・・。」
「おおっと、待ってくれたまえ。実を言うと僕は、あの「薔薇の聖人」の紹介できたのだけれどねえ。」
するとウェイターの表情がはっとなった。
「あの「薔薇の聖人」様でいらっしゃいますか!」
「薔薇の聖人」と言われても、ラッセン以外は何のことだかわからない様子だ。
「なんなの、「薔薇の聖人」って?」
マリーがルグイを見上げて言うが、ルグイは無関心な様子で知らんと言う。
「それではこちらのVIP席へご案内します。」
「ビ、VIP――――!!???」
ハスティとマリーが叫んでしまった。
「VIPって・・・。」
アイルザッハも驚いてボクと顔を見合わせている。
そんなことも気にせず、ラッセンはさっさとウェイターについて行ってしまった。
慌ててハスティが追いかけていく。
「ちょちょちょ、ちょっとラッセン!一体どういうことだよ、VIP席って!そんな席座れるような身分じゃないだろ、お前!」
追いかけてきたハスティに、歩きながらちらりとハスティの方を向く。
「僕の心の友に「薔薇の聖人」という人がいてね。彼はこの世界ではとても有名なんだ。」
(この世界ってどんな世界だ・・・)
まあおそらくは、ハスティにとって好ましい世界ではないだろう。
「それで彼と初めて会った時、この店で食事をしてね。今後この店に来た時は彼の名前を言えば、いつでもVIP席で食事ができると言われたのさ!さあ、みんな早くついてきておくれ〜。」
そういうとラッセンはまた歩いていってしまった。
とりあえず他のメンバーもついていくことにした。
「それにしても、あいつにVIP席って、似合うんだか似合わないんだか・・・。」
ぶつぶつ言いながらマリーはついていった。

席につくと、ウェイターからメニューが渡された。
「ご注文はどう致しましょう?因みにVIP席特別のフルコースもございます。」
全員メニューに見入って、あれこれと悩んでいるようだ。
しかし普段聞き慣れない食材や料理の用語ばかりである。
「その・・・メニューがよくわからないのだが、ラッセンは以前来た時、どれを頼んだんだ?」
アイルザッハが尋ねた。
「ふっふっふ、それがねえ、実は覚えてないのさあっ!」
何故か微笑んで輝いている。
(いや、そんなに明るく言われても・・・)
「というわけで、僕はそのVIP席特別のフルコースをお願いするよ〜。それが一番手っ取りばやそうだしね。」
「結局あんたもよくわかんないのね。」
マリーがあきれて言う。
「でも、俺もよくわかんないからそれでいいや。」
「僕も・・・。」
「俺も。」
続々とVIP特別フルコースを申し出ていく。
「かしこまりました。あと、こちらのお二人はお子様ランチでよろしいでしょうか?」
と、ウェイターが指した二人とは、マリーとナナオだった。
「な、なんですって!この私がお子様ランチぃ〜!?あんなちゃちいもん、誰が食べるって言うのよ!私もそのフルコースにするにきまってるでしょ!?」
マリーが憤激して言う。
「僕もお子様ランチだとお肉少なそうだから、そのフルコースにして。」
ナナオもちょっと不満そうな顔をして言う。
「し、失礼致しました。それでは、メインディッシュとなるお肉の焼き加減ですが、どうなさいましょう?皆様ミディアムでよろしいですか?」
と、ウェイターが言うと、すかさずナナオが言った。
「僕はレアで!」
「レ☆アですね?」
「・・・?レ☆ア?」
ウェイターの意味不明の言葉に、ナナオは困惑してしまった。
「はい、当店ではレアではなく、レ☆アです。」
「・・・・・・???よくわかんないけど、一番生に近いやつで!」
「はい、かしこまりました。ではあとの方は皆様ミディアムということで。それではしばらくお待ちください。」
そうしてウェイターは厨房の方へ行った。
「全く、いいかげんにしてよね。誰がお子様よ!」
マリーの怒りはまだ収まらないようだった。

・スープ
ウェイターとウェイトレスが一人づつ、料理を載せたワゴンを押してやってきた。
「かぼちゃのスープになります。」
柔らかなクリーム色をしたスープの真中には、緑が添えられ、ほのかな湯気がたっている。
「そいじゃ、いただきまーす!」
お腹をすかせていた先程の二人をはじめとして、皆料理に手をつけ始めた。
「ん〜!うまいぜ!」
「ホント、おいしいね!」
二人とも満足そうに、どんどんスープを飲む。
「本当にとってもおいしい、このスープ!ね、ボーちゃん!」
「そうだね、リディ。」
ボクはリディと話しながらも、料理の味をかみしめていた。
(とってもコクがある・・・さすが高級料理店だな)

・前菜
「蒸し鶏のサラダでございます。」
前菜はサラダの上に蒸した鶏肉がのったサラダだった。
色とりどりの野菜はとても新鮮で、ソースがいっそう味を引き立てる。
ふとフェルナンディがナナオを見ると、ナナオが手を止めている。
「どうしたんですか、ナナオ君?」
「僕、生野菜はだめなんだよな〜。」
よく見ると、鶏肉はきれいに食べてあるが、野菜はほとんど手をつけてない。
「でも野菜は体にいいから、食べた方がいいですよ。」
「・・・うん・・・・・・。」
フェルナンディに言われて、しぶしぶナナオはフォークを持った。
「お水のおかわり、いかが致しましょう?」
ウェイトレスが顔を赤らめて、アイルザッハに向かって言った。
突然のことに少々戸惑うアイルザッハ。
「あ、いや・・・別にいい。」
「そうですか。」
と言って去ろうとすると、ボクが声をかけたので水を注ぎ、厨房の方へ戻っていった。

・主菜
ふと次の料理の匂いが漂ってきた。
「肉だ!肉だぜナナオ!」
「うん!」
お肉大好きな二人の目が輝き始めた。
ゆっくりと先程の二人のウェイター達が料理を運んできた。
「牛ロースステーキ、シェリービネガー風味のオニオンソース仕上げとパンでございます。」
アツアツの肉にたっぷりとソースがかかっているのを見て、お肉大好きな二人は狂喜して食べはじめた。
と、またもや先程のウェイトレスがアイルザッハのそばにやってきた。
「お水いかがでしょう?」
「あー・・・じゃあいただくとしよう。」
アイルザッハがそう答えると、ウェイトレスは真っ赤になって水を注いだ。その手が少し震えている。
注ぎ終わると去ろうとするので、ルグイが慌てて引き止めた。
「おい、私にも水をくれ。」
「あ、申し訳ありません!只今!」
急いでルグイに水を注ぐと、またそそくさと戻っていった。
「どういうつもりかしらねえ、あれ。」
マリーがニヤついて言う。
「さあな。」
ルグイはあっさりと答え、もくもくと料理を口に運ぶ。
「あのウェイトレス、アイルザッハに気があるのね。」
「そうだよね、やっぱり僕ってかっこいいから・・・。」
「あんたじゃないわよ、ラッセン。」
「ねえねえ、マリーちゃん。それ、どういうこと?あのウェイトレスさんが、アッちゃんを好きってこと?」
「そうかもしれないね。」
くくっとマリーは笑っていった。
「えー!そうなの!?じゃあ、ライバルって事!?ねえねえ、アッちゃんはあの人のことどう思ってるの?」
「なんとも思ってない。大体、面識もない。」
「ほんと!ホントなの、アッちゃん?本当のこと言って、お願い!」
「だから、俺は・・・。」
この繰り返しはしばらく続くのだった。

全員が主菜を食べて、だいぶ時間が経っていた。
「遅いですね、デザート。いつになったら来るんでしょう。」
心配そうな顔をしてボクが言った。
「全くだよ。だから僕、ちょっとあそこで歌ってこようと思うのさ〜。」
「あそこ?」
フェルナンディが首をかしげると、ラッセンが視線を動かした。
その先には、なんとショー用のステージが。今は誰も使っていないようだ。
「やめておけ。」
ルグイが即答した。
「どうしてだ〜い???」
勢いあまっていたラッセンが急に悲しげになって言った。
「あんたが歌うと、私たちだけじゃなく、周りの人にも迷惑がかかるのよ。」
あごを突いたマリーが、もう片方の手でフォークを弄びながら言った。
「そんなことはないさ!この僕の華麗な歌を聞いてもらわないと・・・・・・ん?」
ラッセンが意気込んで説明していると、ルグイが何かしているのに気づいた。
「ルグイ君、それは何をしているんだい???」
ルグイはフォークで、皿に残ったソースを使って何やら書いている。
「お前のために、一つ魔方陣を作ってやろうと思ってな。」
「僕のために、君が!???」
ラッセンの瞳が輝きだし、周りに薔薇がにょきにょき生え始めた。
「ああっ、うれしいよ!君が僕のために素敵な魔法をかけてくれるんだね!なんてロマンチックなんだっ!して、その魔法とはどんなものなんだい???」
「お前を抹殺するもの。」
一瞬にして薔薇が枯れた。
(どこまでも勘違いな奴だ。つーか魔方陣って言った時点で気づけ。)

・デザート
ラッセンが悲しみの歌を小声で口ずさんでいるところへ、ようやくデザートがやってきた。
「大変お待たせして申し訳ありません。ブルーベリータルトでございます。」
一粒一粒がキラキラと輝いたブルーベリーがぎっしりのっている。
「うわ〜!とってもおいしい!ね、アッちゃん!」
「あ、ああ・・・。」
はしゃぐリディの横で、アイルザッハは半分涙ながらにタルトの味を噛みしめていた。
(こんなにおいしいデザート食べたのは久しぶりだ・・・・・・)
突然、隣りではしゃいでいたリディが、フォークをくわえたまま黙り込んだ。
「どうした、リディ?」
「アッちゃんはさあ・・・このタルトと、私のお菓子、どっちがおいしい?」
「え、そ、それは・・・。」
リディの質問にアイルザッハは戸惑ってしまった。
助け舟を出してもらおうと、ちらりとフェルナンディを見るが無言の笑顔。
次にボクを見ると、にっこりと笑った後、
「嘘なんかつかなくていいんです。心の底で思った本当のことを言えばいいんですよ、アイル兄さん。」
(本当の事って・・・)
そしてまたリディを見ると、捨てられた子犬のように潤ませた瞳。
「リ、リディのだ・・・。」
「本当!?」
リディの表情が一瞬にして明るくなった。
「うれしい!アッちゃんだ〜い好き!そうよね、確かにこれもおいしいけど、見た目が全然かわいくないもの。ブルーベリーがただのってるだけじゃない。もっとカラフルじゃなきゃダメよね!」
かくしてリディの自信に拍車がかかっていった。

「いやあ、今日のお料理は本当においしかったですねえ。それというのもラッセン君のおかげですね。」
食後の紅茶を飲みながら、フェルナンディが言った。
「そ〜んなに誉めないでくれたまえ、フェルナンディ!でもそうだよね、やっぱり僕ってすご・・・」
「食うもん食ったし、そろそろ帰るか?」
遮るようにハスティが言った。
「そうだな。」
ルグイの返事で全員席を立ち始めた。
「本当に今日の肉はうまかったぜ。こんなもんが毎日食えたらなー。」
いい気分で帰ろうとするのをウェイターが引きとめた。
「お客様、お会計はこちらでございます。」
「あれえ???これはどういうことだい???」
ラッセンが持っていた薔薇の匂いをかぎながら言った。
「「薔薇の聖人」の紹介だといったはずだが???」
「はい、確かに「薔薇の聖人」様のご紹介でVIP席にお通しすることは出来ますが、ただではございませんので・・・。」
ウェイターの言葉に動きが止まるラッセン。
「ち、因みにいくらなんだ〜い???」
「お一人様、1500ガメルになります。」
「そ、そんなに!?」
思わずボクが声をあげた。
「そんなに払ってしまったら、明日から生活していけませんよお〜!」
「まあ、もとはといえばお前がこの店をすすめたわけだしな。」
ルグイが当たり前のように言う。
「そんなこと言ったって、君だって食べてたじゃないか!おいしかっただろう???」
「私は最初別のところに行くと言ったはずだが。」
「そりゃあそうだけど、でも・・・。」
「とにかく。」
ルグイが凄みをきかせたので、ラッセンはたじろいでしまった。
「お前が体で払って来い。」
「か、体って言われても・・・。確かに僕の肉体は素晴らしいし、誉めてくれるのはありがたいけど、ふふっ、僕もちょっとはずかし・・・。」
「そういう意味じゃない!皿洗いでもなんでもして来いと言っているのだ!」
ルグイがさらに凄みをきかせた。
「じゃあ後は頼んだわよ、ラッセン。」
そう言ってマリーはさっさと店を出て行ってしまった。
「え、ちょ、マリー!」
「がんばれよ、ラッセン。」
続いてハスティが出て行き、ぞろぞろとラッセン以外全員出て行ってしまった。
「そんな!みんな待ってくれたまえ!僕の心の友だろう???」
「さあ、こちらです。」
ウェイターに首根っこをつかまれ、ラッセンは厨房へと引きずられていった。
「頼むよ〜僕が歌を歌ってあげるからさあっ!ラ〜ララ〜♪」
「静かにして下さい。」
「みんな、僕を置いていかないでくれ〜〜〜!!!」
その後、ラッセンはしばらくパーティに戻らなかったという。
しかしこれを幸いと思った者もいるはずなり。



あとがき

すいません、つまんなくって・・・。
しかもオチが最初から予想されやすくて、面白くないし。
一応全員がちゃんと出ることを目指しました。
が、ちょっと偏ってしまいましたね・・・。
精進します。
因みに料理名はサンマルク様とマドレーヌコンフェクショナリー様のを使わせていただきました。
ありがとうございました。


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