夢想むかし話・バラ太郎

         〜可憐なる誕生!旅立ち編〜





わんす あぽん あ た〜いむ、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんの名前はフェルナンディ、おばあさんの名前はルグイといい、二人には子供がいませんでしたし、裕福でもありませんでしたが、まあ、可もなく不可もなくといった感じで、結構幸せに暮らしていたりしました。

「はっはっは、ルグイ君、私達ではあまりおじいさんとおばあさんに見えませんねぇ」
「しかし実年齢で言ったら、私は既に人間の生存限界年数を超えている」
「そうですねぇ、ルグイ君は324才ですからね。けれど私はまだ56才ですよ。人間で言ってもようやく立派な親父さんになったくらいですよ」
「仕方ないだろう。アイルザッハには他の役が割り当てられているんだ。年齢順で言えば、次に回ってくるのはお前だ」
「それはそうですねぇ」
「安心しろ。お前は十分に日向の縁側と座布団と緑茶と丸まって寝ている猫が似合っている」
フェルおじいさんとルグイおばあさんは世間話に花を咲かせた後、フェルおじいさんは山へ芝刈りに、ルグイおばあさんは川へ洗濯に行きました。
フェルおじいさんは次の出番まで結構ありますので、残念ながらしばしのお別れです。


ルグイおばあさんは川へやってきました。山からの澄んだ水の流れが穏やかに日の光を反射しています。
ルグイおばあさんは、役割分担の都合上、洗濯をしに来ましたが、面倒くさいので、
「出でよ、ミズチ」
自分では洗いません。
普段ならウンディーネを喚び出すところ、ミズチにしておいたのは、ルグイおばあさんなりにこの話が昔話であることを考えていてくれていたからかもしれません。
そして川には、透き通った龍が現れて、ごしごしとルグイおばあさんが持ってきた衣服を洗い始めます。どうやって洗っているのかは企業秘密。もちろん昔話なので、石鹸の類は使用禁止です。
ルグイおばあさんがミズチの様子を見ていると、川の上流からどんぶらこ、どんぶらこ、と巨大なバラのつぼみが流れてきました。ルグイおばあさんはその姿を認め、黙って目で追います。
そしてバラのつぼみはルグイおばあさんの前を―――、通過。
たった今、通過しました!ルグイおばあさんスルーです!流石です!
しかしバラの方は必死。ここで拾ってもらえなければ、海に流されて亀に龍宮城に連れて行かれて300年拉致られて、おじいさんになってしまいます。
バラは慌てて川の流れに逆らい始めました。
頑張れ!ルグイおばあさんのいる川岸まであと5m!よし!いいぞ!あと3m!まだ諦めちゃだめだ!あと1m!ここが粘りどきだ!あと80cm!もう川岸は目前だ!あと50cm!さぁ最後のひと踏ん張り!あと30cm!…20cm!…10cm!………ゴーーーーーール!!
やりました!バラのつぼみ、新記録達成です!自己ベストを大幅に更新してのゴールです!

…と喜んでいる場合ではありません。
既に洗濯をさせ終えたルグイおばあさんは、さっさと衣服を桶に入れて、帰路についていました。
これは大変です。ちゃんとおばあさんに拾ってもらわなくては、この話は『おじいさんとおばあさんは今日も変わらず、仲良く過ごしていました。めでたしめでたし』で終わってしまいます。
バラ、追います。全力でルグイおばあさんを追います。
この際、つぼみの額の下から人間の生足がニョキっと生えていることなんて気にしてはいけません。全力疾走で追いかけます。
バラのつぼみのミもフタもない追い方は、どうやら功を奏したようです。このままいけば、ルグイおばあさんが家に辿り着く前に追い付けそうです。
バラのつぼみ猛ダーッシュ!そしてそのままルグイおばあさんにターックル!

…しようとして、できませんでした。
バラのつぼみは空中でべしゃっと潰れ、ずるずるとずり落ちていきます。バラのつぼみ悶絶。
その先ではルグイおばあさんが、
「初めて家に張っておいた結界が役に立ったな」
と、ぽつりと言って家に入り、がらがらぴしゃり、と戸を閉めてしまいました。
バラはこの後、フェルおじいさんが帰ってくるまで放っておかれるので、それまでカメラはルグイおばあさんを追うことにしましょう。


やれやれと居間に上がったルグイおばあさん。
ミズチに洗わせた服は、後でフェルおじいさんが干してくれるだろう、と放置して、お茶を淹れています。
ちゃんと沸いた湯を適温まで冷まして、ちょうどいい時間蒸らして、湯飲みに注ぎます。
普段は面倒臭がりのルグイおばあさんですが、同じものを同じ量使うなら、より美味しく頂いた方がお得、の精神を貫いています。
裕福でもないが可もなく不可もない生活というのは、こういった小さな心構えで成り立っているのですね。何だか目に涙が浮かんできてしまいます。
「ボクがいれば、私がこんなことをせずに済むんだがな」
ルグイおばあさん、まだ出てきていない人の名前は出さないでください。これで2人目ですよ。

緑茶を飲んで、ルグイおばあさんがくつろいでいるところに、フェルおじいさんが帰っていました。
それを見たルグイおばあさんは、フェルおじいさん用の湯飲みにお茶を入れますが、茶葉は変えません。出涸らしです。流石です。
フェルおじいさんはそれを気にもせず、
「いやぁルグイ君、家の前でこんなに珍しいものを拾ってしまいましたよ〜」
と、戸につっかえているものを無理矢理家の中に引っ張り込みます。
それは例に違わず、あのバラのつぼみでした。
ルグイおばあさんはそれを見て、折角役に立った結界を通してしまったか、と不服そうな顔をしますが、
「後で、このバラについて研究してみましょう」
というフェルおじいさんの一言で、そうだな、実験台くらいには使えるな、と思い直します。
それからフェルおじいさんは洗濯物を干し、さて調査を始めましょうか、とルグイおばあさんに声をかけたとき、なんとバラのつぼみが光り出しました。
ゆっくりと、一枚一枚花びらが開いていきます。
そして、次の瞬間。
ルグイおばあさんがそのバラをガバッと抱えあげ、戸につっかえるのを強引に蹴り飛ばして外へ放り出し、
「アニヒレーション!」
と、叫びました。
すると、もはや説明のしようがない凄まじい猛火の攻撃が、転がっているバラ付近で炸裂しまくり、目も開けていられないような状態になりました。
その攻撃が終わった後、
「これほど激しく動いたのは何十年ぶりだろうか…」
まだもうもうと立ち込める煙の中で、ルグイおばあさんは呟きました。
その煙が晴れた後、バラは見事に灰になってしまっていました。
けれどルグイおばあさんは、チッと舌打ちしました。本当なら塵も残さないはずだったのです。
そうです。灰が残っただけ相当マシだったのです。

家から出てきたフェルおじいさんは、バラのつぼみの成れの果てを見て、
「おや、ルグイ君。もう燃やしてしまったんですか?」
特に残念そうでもなく言います。
「ああ。多少不満の残る結果だったが」
そんな二人の前で、バラの残骸の灰がサーッと風に舞いました。
そしてその灰が、家の周りに立っている枯れた桜の木にかかると、なんと桜の木々は次々と芽吹いて緑を取り戻し、沢山のつぼみをつけました。
もう一度風が吹くと、つぼみは一斉に開き、
「……………」
沢山の美しいバラの花が咲きました。
その中で特に大きなつぼみがキラキラと輝きながら、けれど急いで開いていきます。
慌てて開いたところで、もし今ルグイおばあさんが呪文を口にすることすら面倒臭いと思わなければ、また灰に逆戻りでしたけれど。
兎に角、花は無事に開いて、何処からともなく優雅な音楽が流れてくると、その中から茶髪の青年が現れました。
どうやら生まれたままの姿では、即刻放送禁止をくらってルグイおばあさんに抹殺されることが分かっていたのか、白い布を纏っています。
そして傍に咲いていたバラを一輪摘んでその香りを楽しんだ後で、無言の二人に流し目を送って、
「会いたかったよ〜。パパン、そしてママン」
と、手にしていたバラを放ります。

ルグイおばあさんは放たれたバラを120%無視して、
「…フェルナンディ、後は任せた」
家の中に入っていこうとしますが、
「はっはっは、いやですねぇルグイ君。あの子の名前を決めなくてはいけない段取りになっているんですから、お願いしますよ」
フェルおじいさんは笑顔で静止します。
「しかし、名前は『バラ太郎』で決定なんだろう?」
「…………。なるほど、いい名前ですねぇ!」
「なかなか白々しい言い方だな」
「いやいやルグイ君には敵いませんよ」
「…というわけで、お前は『バラ太郎』だ。後は好きにしろ」
二人に無視されていたので、バラの花を放ったままの体勢で固まっていた暫定バラ太郎は、声をかけられてようやく我に返りました。
「そうか〜い?…『バラ太郎』ね〜ぇ。バラの使者としては『バラ』の入っている名前は相応しいと思うけど、美の狩人でもあるこの僕の名前としては、イ・マ・イ・チ・かな〜」
新しいバラを手にして、より一層輝くバラ太郎(要相談)に、
「私はもう知らん。気に入らないなら勝手にしろ」
ウンザリといった表情でルグイおばあさんが返します。
「いやいやいや〜、いくらこの僕が、どんなに我がままを言っても許されてしまうくらい罪な美しさであっても、折角パパンとママンが付けてくれた、愛が溢れている名前を捨てるほど親不孝ではないからね〜。どうしたらいいだろうね〜」
そのバラ太郎(検討中)の発言を、ルグイおばあさんは一切無視で、
「あのパパンとママンというのは何とかならないのか?」
フェルおじいさんに尋ねます。
「原作では『おじいさん』『おばあさん』と言っているんですけどねぇ。でも親に向かって使う呼称としては、あちらの方が正しい気がしませんか?」
「正しかろうが、背中に虫唾が走ることに変わりはない」
「それもそうですねぇ」

「よし!決めたよ〜!」
二人に無視されていたことに全く気付かず、バラ太郎(改定前)が輝きながら宣言し、
「今日から僕は『バラ太郎・ハイグレードラッセーヌ』さ!」
無駄話をしていたフェルおじいさんとルグイおばあさん、そしてバラ太郎・ハイグレードラッセーヌ(自称)の間に沈黙が降りること10秒。
「…フェルナンディ」
「何ですか、ルグイ君」
「あのハイグレード云々いうのは何だ」
「さぁ、分かりませんねぇ。本人に訊いてみてくださいよ」
「そこの変人、簡潔に述べよ」
「ふふ…っ、やだなぁママン。僕達のファミリーネームに決まってるじゃないか…!」
さらに沈黙が降りること10秒。
「…フェルナンディ」
「何ですか、ルグイ君」
「あのハイグレード云々いうのは、お前の家系の名字ということにしておくぞ」
「はっはっは、いやですねぇルグイ君。ここは『ハイグレードラッセーヌ』全体に突っ込んでおくべきところですよ」
「そうなのか?」
「そうですよ。私だってそんな名字はいただけませんからねぇ」
「まあいい。兎に角そこの変態、名前は決まったんだ。さっさと鬼退治に行ってこい。そして鬼が島に骨を埋めてこい」
とっととこの面倒な状況を片付けたくなってきたルグイおばあさんは、一刻も早くバラ太郎(以下略)を追い出…旅立たせようとします。
しかし、
「どうしてこの僕が鬼退治なんてしなくちゃいけないんだ〜い?そんな野蛮なことは、この可憐な僕には似合わないしね〜」
バラ太郎はそれを断りました。
「…フェルナンディ」
「何ですか、ルグイ君」
「取り敢えず、あいつを抹殺すればこの話は終わるな?」
「それはそうですけど、なかなかしぶとく生き残りそうな感じがしますよ」
「倒れるまで攻撃し続けるのも面倒だな。…よし。そこの変質者、鬼が島にはそこにしか咲かない幻の虹色に輝くバラがあるらしいぞ」
ルグイおばあさんが機転を利かせて言った一言に、
「何だって〜!?」
バラ太郎は瞳にバラを浮かべて驚きました。
「それは本当ですか?ルグイ君」
「嘘に決まっている」
こんな二人の、いつも通りの声の大きさの会話も耳に入らないくらい、バラ太郎の思考は遙か彼方へ舞い上がり、虹色のバラを手にした自分に思いを馳せて、うっとりとしています。

と、途端に今の今まで乗っていた巨大バラから可憐に、光の軌跡を残しながら着地すると、
「パパン!ママン!僕はバラの使者として、そして美の狩人として、鬼が島へ行ってくるよ!」
バラ太郎は二人の手をとって、熱く語ります。
そして何処からともなくスポットライトがバラ太郎を照らし、
「さぁパパン!ママン!旅立つ愛おしい息子のために、餞別を用意しておいてくれていたのだろう!?僕はその愛情の籠もった品々を一つ残らず持っていこう!恥ずかしがることはないよ!全て出しておくれ!」
バラ太郎が熱っぽく言いましたが、
「そんなものはない」
ルグイおばあさんに即否定されました。

「しかしルグイ君、彼があの格好のまま旅立ったとしたら、すぐに猥褻物陳列罪で強制送還されてきますよ」
「そうだな。お前の予備の服でもやってくれ」
「はっはっは。ルグイ君、私達は裕福ではない設定なんですよ?予備の服は今、干したばっかりですよ」
「…裕福でないといっても、これほどだったとはな」
「苦労しているんですねぇ、私達は」
「だが、やむを得ん。やつが濡れた服を着た程度で風邪を引くとは到底思えないし、何より、これで厄介払いができる」
「それなら仕方ありませんね。取り敢えずバラを飾っておきましょう」
フェルおじいさんが、物干し竿から生乾きの服を取り、そこらにあったバラを大量に服に飾り付けました。
「バラ太郎君、これを着ていってください」
それをバラ太郎に差し出すと、
「おぉ!パパン!こんなに素晴らしい服を僕のために用意してくれるなんて!あと白馬も用意してくれているんだろ〜う?遠慮することはないよ〜!僕が全部もらっていってあげるからね〜!」
一瞬にしてその服を着て、そう言います。
「…何気に図々しいな」
「どうしましょうかねぇ。白馬なんて我が家にはいませんよ?」
フェルおじいさんが困ったような顔をしますが、
「よし、馬小屋に『みみよん』という白馬がいる。そいつを連れていけ」
ルグイおばあさんは、家の脇の建物を指してそうバラ太郎に告げました。
それを聞いたバラ太郎は、目を輝かせて、軽やかにステップを踏みながら、そちらへ駆けていきます。因みにツーステップです。
「いいんですか?みみよん君は迷子で、飼い主が現れるまで一時的に預かっているだけですし、何より馬じゃなくて白ロバですよ?」
「…フェルナンディ」
「何ですか、ルグイ君」
「馬と鹿の見分けも付かないやつを俗に何と言う?まして、鹿より馬に似ているロバだ。あいつに見分けが付くとは思えん。それにみみよんなら、やつが散った後に自力で主人を探し出せるだろう」
「そうですねぇ」
フェルおじいさんとルグイおばあさんが、どうしてみみよんの名前や性格に詳しいのかは、この際気にしてはいけません。
何だか酷い言われようですが、バラだらけの服を着て、みみよんに乗ったバラ太郎は、
「パパン、ママン、止めないでおくれ!僕は旅立たなくてはいけない運命だったのさ!けれど悲しむことはないよ!僕は必ず、バラと美の世界を極めた一人前のバラの使者、そして美の狩人になって帰ってくるからね…っ!」
と、大量のバラの花びらが舞う道を旅立っていきました。

「…ようやく行ったな」
「結構、時間がかかりましたねぇ」
「茶でも飲みなおすか」
「ええ。今度は私のお茶も、新しいお茶っ葉でお願いしますよ」




「夢想むかし話・バラ太郎 〜美麗なる友情!旅の仲間編〜」へ続く…予定




後書き〜旅立ち編

この話は、去年の秋の作者達の集いにおいて面白半分に語られていたネタを、暗光鼠がかなり勝手にあれこれとオリジナルにしてしまったものです。
思いのほか長い話になってきてます…。取り敢えず今回、ラッセン、フェル、ルグイを一緒に出すと話が延々引っ張られるということを学びました(遅い)。
因みにバラ太郎のファミリーネーム、「ハイグレードラッセーヌ」はB.J.刹那氏のネタで、「超ナルシーの上はハイグレードラッセーヌとか思ってみた」だそうです。随分昔の話題だったので、言った本人も覚えてないと思ったら、はっきり覚えられてました(苦笑)。
もう予告で想像が付くと思いますが、あと3編続く予定…のはずです。何とか書き進め中ですが、またまた無意味に長くなっているので、次の掲載がいつになるのか…本人すら分かりません(殴)。
というわけで気長〜に待っていてください。乞わずご期待。






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