夢想むかし話・バラ太郎

       〜美麗なる友情!旅の仲間編〜





延々と続く田舎道は人通りも少なく、道の一方の脇には人の手が入っていないため雑草だらけの野っ原、もう一方には自然林が続いていました。
その林の中から、ひょっこり顔を出した人物がいます。それは、水干姿の狼少年、ハスティでした。
彼は、遠いご先祖様が「狼が来た!」と嘘をつきまくって村人を困らせた罰として、代々狼の物の怪に憑かれた子供が生まれてしまうという一族の末裔です。しかし、ハスティはそれが不幸というわけでもなく、むしろ物の怪の「らっしー」と日々楽しく暮らしていました。
そんな彼は今、旅の途中で仲良くなった友達の行方不明中の相棒を、一緒に捜しているところでした。
けれど林の中はあらかた探し終わってしまったし、予め決めておいた集合の時間まではまだ結構あります。どうしたものかと考えていると、道の向こうからやってくる人の姿を認めました。
ハスティは、ちょうどいいからその友達の相棒のことと、あとこの近くに村がないか訊いてみよう、と思って道に出ます。やがて、近付くにつれてその人物の様子がよく見えてきました。
その人は白ロバに乗って純白のタキシードを着込み、水色のリボンの付いたシルクハットを被って、バラを手にして輝いていました。
何故その人物の服装が先程と変わっているのかというと、いわゆる一つのメイクミラクルなのですが、これが昔話であることを完全に忘れています。

ハスティは一瞬、話しかけるか否か迷いますが、その人物がノリノリで、
「わ〜た〜しはぁ〜 バ〜ラ〜のぉ〜 さ〜だ〜めにぃ〜 うまれたぁ〜〜〜」
と歌っているのが聞こえた瞬間、
「よし、やめとこう」
踵を返して脱兎の如く逃げだ………そうとしたのですが、左腕を何かにがっしりと掴まれてしまいました。
何となく嫌な予感がして振り返りたくないと思いつつ、どうしようか悩むこと3秒、
「たぁっ!」
ハスティは意を決して、腰の剣を引き抜きながら振り向きます。
「……あれ?」
しかし背後には誰もいません。
怪しい人物も、さっきよりは近付いているものの、まだ離れたところにいます。
ハスティが、まだ掴まれている感触のある左腕のほうに目を遣ると、そこにいたのは………バラ、でした。
何故か根が二又に分かれて足のようになり、茎から左右に腕のような蔓が伸びています。その蔓の一方が、ハスティの左腕にくるんと巻きついているのでした。
そして恐らく顔にあたるのであろう花には、二つの目が付いています。
その目が非常に危険です。くりくりと大きな目、潤んだ瞳でハスティをじっと見つめています。何処からともなく切なげなメロディまで流れてきて、もう何かのコマーシャルのような状態です。
流石のハスティも、このバラを斬るのは忍びなく思い、剣を納めました。

と、次の瞬間。
バラの目が凶悪にギラリと光り、植物の構造を大幅に無視した蔓が茎から大量に飛び出して、
「う゛わ゛ぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!」
ハスティの体に巻き付いて、動きを完全に封じ込めました。
そこへさっきの怪しい人…、もとい白ロバに乗った人物が悠々と近付いてくると、
「ふふ…っ、よくやったね、マイ・スウィート・ハニー」
と、流し目でバラに語りかけます。
それを聞いた途端、ハスティは全身に鳥肌が立つような感覚に襲われました。細胞の一つ一つが、口を揃えて「逃げろ!」と警告を発しています。
けれど、バラの棘は痛くはないものの、いい具合に着物に食い込んで、振りほどくことができません。
そんな、必死でもがいているハスティの目の前で、白ロバに乗った人物が光の粒を撒き散らしながら、優雅にロバから降りました。
ハスティは、「来るな〜来るな〜っ」と念じますが、残念ながら今、目の前の人物を背後から吹き矢で昏倒させてくれるハスティの助っ人は、家でのんびりとお茶を飲んでいます。


「美味しいお茶ですねぇ、ルグイ君」
「ああ。そうだな。ボクが送ってきたものだからな」
「まだ登場していない人の名前を出さないでくださいって、さっき注意されてませんでした?」
「ああ。そうだな」
「…今頃、バラ太郎君は何をしているでしょうねぇ」
「考えるまでもない。半径数百メートルにバラと迷惑を撒き散らしているに決まっている」
「なるほど、その可能性はかなり高いですね」
「そしてハスティがお前に助けを求めているだろう」
「その可能性も高いですが、設定上知らないはずの人の名前も出さないほうがいいんじゃないですか?」
「ああ。そうだな」
「それにしても、美味しいお茶ですねぇ」
「ああ。そうだな」


ハスティの心の中での抵抗も空しく、あっという間に間合いは詰められ、その人物、というかもう正体がバレバレなのでバラ太郎は、ハスティの姿をまじまじと見つめました。
その後でおもむろに背景にバラを背負い、目映い光に包まれながら、
「素晴らしいよ〜!君こそ美の狩人であるこの僕が、ずっと求めていた人さ〜!」
と叫びます。
何故か背後で天使がラッパを吹いています。相変わらずこれが昔話であることを無視しまくりです。
そして、全身あぶら汗でびっしょりのハスティにバラを一輪差し出し、
「君は僕の従者になるために、ここまで来たんだね!もちろんオゥケィさ!さぁこの僕と共に鬼が島へ行こうじゃないか〜!」
キラリ〜ンと前髪をかき上げながら言いました。
「イヤだ」
ハスティ、即答。
けれど、バラ太郎は再びハスティにバラを差し出して、
「君は僕の従者になるために、ここまで来たんだね!もちろんオゥケィさ!さぁこの僕と共に鬼が島へ行こうじゃないか〜!」
キラリ〜ンと前髪をかき上げながら言いました。
「だからイヤだって」
ハスティ、再び即答。
けれど、バラ太郎はさらにハスティにバラを差し出して、
「君は僕の従者になるために、ここまで来たんだね!もちろんオゥケィさ!さぁこの僕と共に鬼が島へ行こうじゃないか〜!」
キラリ〜ンと前髪をかき上げながら言いました。
「イヤだって言ってるのが聞こえないのか?」
ハスティ、さらに即答。
けれど、バラ太郎はまたもやハスティにバラを差し出して、
「君は僕の従者になるために、ここまで来たんだね!もちろんオゥケィさ!さぁこの僕と共に鬼が島へ行こうじゃないか〜!」
キラリ〜ンと前髪をかき上げながら言いました。
「だーっ!いつまで同じことやってりゃ気が済むんだーっ!」
ハスティ、遂に我慢の限界を超えました。

「つまりそれは、僕と一緒に行ってくれるって意味だね〜!」
そんなハスティに対して、バラ太郎はかなり自分に都合のいい解釈をします。
「それじゃあ、僕の心の友になった記念にこのバラをあげよう!」
そして反論の余地を与えず、身動きの取れないハスティの帽子の耳元に、大きなバラを一輪挿しました。
「素晴らし〜い!とてもよく似合うよ!犬君!」
真っ青になっているハスティを尻目に、バラ太郎は一人で感動し、
「でも、僕には敵わないけどね〜!」
と、付け加えます。
「別に似合いたくねぇよ!大体、誰が犬だ誰がっ!」
バラ太郎の勢いで聞き逃してしまいそうな一言まで、ハスティは見事に聞き取って突っ込みました。
「何を言っているんだ〜い?僕の従者第一号といったら、犬に決まっているじゃないか〜」
けれど、バラ太郎は我が道を行きます。
「どういう決まりだよっ!」
ハスティが言ってもお構いなしです。

「だから〜っ、らっしーは狼だし、お前についていく気はないっつーの!」
額にいくつも青筋を浮かべながら、それでも頑張るハスティの耳に、
「おーい、ハスティ〜!」
天の助けとも思える声が聞こえました。
ハスティが振り向くと、一緒に旅をしているナナオとマリーの駆け寄ってくる姿が目に映ります。
ハスティはここぞとばかりに、
「二人共ーっ、助けてくれ〜っ!」
と声をあげますが、バラ太郎が輝きながら、
「おぉっ!キミ達も僕と旅がしたいんだね〜!さぁ!僕の胸に飛び込んでおいで〜っ!」
と、走ってくる二人とハスティの間に躍り出ると、両手を広げて優雅に仁王立ちをしました。
そんなバラ太郎に、マリーはすれ違い際にアッパーを食らわせ、ナナオはするりと腕の下を潜り抜けたものの、肩に担いでいた斧があまりに大きすぎたため、それがバラ太郎の顔面に直撃しました。
バラ太郎、散ります。何処からともなく悲しい曲が流れてきて、何故か倒れる先にはバラに包まれた棺が用意されていて、バラ太郎をふわりと受け止めました。
バラ太郎が棺に納まった瞬間、これまた何処から出てきたのか分からないバラのブーケが、胸の上で組んだバラ太郎の手に握られてます。

「今のうちに頼むっ!」
バラ太郎が倒れたのをチャンスだと思い、ハスティが言った声に、
「うん!まかせてよ!」
とナナオが応え、バラ太郎にトドメを刺した巨大斧を振り上げます。
「おいっ、ちょっ、待ってくれっ!」
ナナオの姿を見たハスティは血相を変えて止めますが、
「せーのっ!」
ナナオは、ぶんっ、と斧を振り下ろしました。
「う゛わ゛ぁぁぁぁぁっ!」
ハスティの叫びがこだまして、ハスティは咄嗟にぎゅっと目を瞑ります。
ずしゃっ、と斧が地面にめり込む音がして、ハスティは恐る恐る目を開けました。
すると、なんとナナオは、ハスティ及びハスティの着物は全くの無傷で、バラの蔓だけを見事に断ち切っていました。
ハスティはへなへなと座り込み、
「と、兎に角、ありがとな…」
と、それだけを何とか言いました。

「ところで、こいつ一体何なの?」
マリーが棺をげしげし蹴りながらハスティに尋ねます。
「分かんねぇけど、どう考えても変態だってことは断言できる…っ」
ハスティは、その問いに拳を握り締めて答えました。
「言われなくても、それはあたしにも分かるわ。それで?どうする?今のうちに、二度と出てこられないように埋めとく?」
なおも棺をぼこぼこ蹴り飛ばしながらマリーが提案した案に、
「そうだな…!人類の平和のためにもそうするべきだ…っ!」
ハスティはさらに硬く拳を握って賛成しました。どうやら、バラ太郎を除けば自分以外に人類がいないことを忘れているようですが、ここは大目に見ておきましょう。
「みんながやるなら僕もやるよ!」
と、ナナオもそれに加わり、道の脇に三人揃ってザクザクと穴を掘って、あっという間に棺の入る大きさにしました。
「よし!埋めよう!」
おおハリキリでハスティが棺を振り返った瞬間、
「みんな僕のために汗をかいてくれるなんて、流石は僕の従者達だね…!みんなの愛がある限り、僕は何度でも甦って帰ってくるよ…っ!」
棺からゾンビの如く不自然な動きでバラ太郎が起き上がり、激しくバラの花びらを吹き荒らして輝きます。
「………おとなしく、逝ってろーっ!」
直後、バラ太郎はハスティに殴り飛ばされ、遙か上空でキラリーンと星になりました。

それからバラ太郎は、流れ星という名の隕石のように大気圏を再突入。突入角度よし。
炎ではなく深紅のバラの花を纏って地上へ一直線に突っ込み、爆煙を上げました。
風が吹いてその煙が晴れると、バラ太郎が悲劇のヒロインの如くに崩れ落ち、スポットライトに照らされて、バラで埋め尽くされたクレーターの中心で、
「殴ったね〜っ!?パパンにも打たれたことないのに〜っ!」
と叫びました。愛は叫びませんでした。
兎に角、右頬を押さえ、涙目でハスティに訴えています。
が、
「うそつけーっ!明らかに腫れてるの左頬の下だろうがっ!」
ハスティ、なおも突っ込みます。頑張ります。
「細かいことを気にしてはいけないよ犬く〜ん。折角、猿君と雉君も来たんだから、仲良く旅をしようじゃないか〜」
けれどバラ太郎はハスティの苦労を微塵も気にしていない様子です。
ハスティは肩をがっくり落として大きく溜め息を吐き、
「何で今度は猿と雉……」
と、バラ太郎に聞かれないように小声で言って、何気なく振り向いて、
「…って、どうしてこうなってるんだよ……」
後ろの二人の姿を見て脱力しました。

ハスティの目に映ったのは、巨大斧の柄に実の沢山付いたバナナの一房を括って吊るし、それを一本、また一本と次々もいでむしゃむしゃほお張っているナナオと、背中から生えた鳥の羽根を、邪魔そうにばたばたさせているマリーの姿でした。
そして、ハスティの呟きを聞き取った二人は、
「ハスティが気付かなかっただけだよ」
「ハスティが気付かなかっただけでしょ」
と唱和しました。
ここで、二人がどうしてこういうことになっているのか、インタビューをしてみましょう。

「僕が旅を始めた頃、すっごくお腹が空いていたときに、何の植物か分からない種を拾ったんだ。それから少ししたらカニさんに会って、カニさんが焼き飯をくれるって言うから、お礼にその種をあげたんだよ。そしたらさっき偶然そのカニさんに会って、僕のあげた種がバナナだったことを教えてくれて、そのバナナを売ったら、珍しい果物だって評判になって大儲けできたって喜んでて、このバナナをもらったんだ!」

「あたしがちょっと前にチビって見下してきた下衆共に、いつか背が高くなったらあたしが見下し返してやるって言ったら、そこに通りかかった金髪のおばあさんが、それなら見下せるようにしてやろうって言うから、そいつについていったのよ。そしたら、空を飛べるようになれば見下ろせるとか言って勝手に邪魔なもん付けられて、しかもついでに恩返ししていけって機織り部屋に閉じ込められかけたから、ふざけないでよって怒鳴りつけて逃げたんだけど、でもやられっぱなしじゃムカつくから、復讐してやろうと思ってあいつの居場所を捜して旅してんの。何か文句あるわけ!?」

以上、両名による理由説明でした。
「でもバナナもいいけど、生肉がお腹いっぱい食べたいなぁ」
「絶対に仕返ししてやるんだからっ。首洗って待ってなさいよルグイっ!」
何だか自分の世界に入りつつある二人に、
「お、おい二人共…」
ハスティは声をかけますが、
「ふっふっふ〜っ!二人共っ、この僕と一緒に来れば、その望みが叶ってしまうよ〜!」
ハスティを押しのけてバラ太郎が躍り出ると、
「えっ!?生肉があるのっ?」
それを聞いたナナオの目が輝きました。


「そういえばルグイ君…」
「何だ」
「確か、バラ太郎君はきび団子の代わりに生肉を持っていく予定じゃありませんでしたっけ?」
「ああ。物置きに山のようにある。言われなかったから出さなかった」
「そうですか〜。でもそのお肉、どうしましょうかねぇ」
「今夜は豪華な晩飯を頼む」
「そうですね。では牛肉はビーフシチュー、鶏肉はホワイトシチューに入れて…、豚肉は野菜と一緒にポトフにしましょうかね」
「煮込み料理ばかりで時間がかかりそうだな」
「それならルグイ君はどんなものがいいんですか?」
「フェルナンディが作るのであれば時間がかかっても文句はない。私が作るとしたら、ローストビーフ、ローストチキンとローストポークだな。イフリートでも喚びだせば一瞬でできあがる」
「おや?朱雀とかを喚ぶんじゃないんですか?」
「今は本筋と離れているから、和風でなくとも問題ないだろう。既に洋食の献立を並べ立ててしまっているしな」
「言われてみればそうですね。それにしても、どれがメインディッシュか分かりませんねぇ」


ナナオの期待に満ちた眼差しに対し、
「ふふ……っ。それが、僕としたことが、パパンとママンから愛の籠もった生肉をもらい忘れてしまったのさ〜」
バラ太郎は悩ましげに首を振り、
「なぁんだ…」
ナナオは肩を落としてがっかりします。
「でも僕のスウィートホームへ行けば、いっぱいあるはずだよ〜。それに…」
バラ太郎は言いながら視線をマリーに移し、
「僕のママンの名前はルグイというのさ〜」
と続けました。
「な、何ですって〜っ!?」
それを聞いて、マリーの目の色が変わります。
ナナオも、
「生肉生肉っ!」
と、目をキラキラさせています。
そして二人は、
「早く行こうよ!」
「さっさと案内しなさい!」
とバラ太郎に言います。
けれど、
「それがだめなのさ〜。僕が一人前のバラの使者、そして美の狩人になるまでは帰らないって、パパンとママンに約束してしまったからね〜」
バラ太郎はそう言って頭を横に振りました。
「えーっ」
「何でそんな約束したのよっ」
二人は眉を顰めますが、
「でも、みんなが鬼が島についてきて、一緒に幻の虹色のバラを探してくれたら、すぐに帰ることができるよ〜」
というバラ太郎の言葉を聞いて、
「それならちゃっちゃと鬼が島に行っちゃおうよ!」
「善は急げよ!覚悟しなさいルグイ!」
二人は一気に乗り気になります。
「そうか〜い?嬉しいよ〜!」
演技がかった台詞も、バラ太郎が言うと違和感がありません。

「ちょっ、ちょっと待ってくれよ二人共っ!」
もはやバラ太郎についていく気満々のナナオとマリーを前に、ハスティは大慌てです。
「大体、ナナオはまだ相棒を見つけてないだろ!?」
と、一番説得力のある反対理由を挙げますが、
「ううん、みみよんならそこにいるよ」
ナナオは平然と、バラ太郎の乗っていた白ロバを指差しました。
「はぁっ?相棒って人じゃないのか!?」
「ううん。みみよんは今はロバの姿をしているけど、本当は人間なんだよ。糸なしで動く操り人形と一緒に夜の遊園地で遊んでいたらロバになっちゃって、売り飛ばされそうになったから慌てて逃げたんだって。その後、犬と猫と鶏と組んで音楽隊を作って、泥棒から奪って住んでた家に僕が偶然立ち寄ったら、意気投合して二人で旅をすることにしたんだ」
ナナオ、何気に爆弾発言です。
「それで、どうして変態と一緒にいるんだよ…」
「うーん、離れ離れになってからのことは分かんないなぁ」
ナナオは少し考えて、
「あ、あの人に訊けば分かるよ!」
笑顔でバラ太郎を指差します。
その提案をハスティは、
「いやいやいやいや無理無理無理無理」
と即刻断りました。
けれど、
「ねえ、そこのバラさん!どうしてみみよんと一緒にいるのか、ハスティが教えてほしいって!」
ナナオは親切に、バラ太郎に声をかけてくれました。
「お〜ぅ、犬く〜ん!何だ〜い?そんなに僕のことが気になるのか〜い!?何でも訊いておくれ〜!おおっと、でも僕のスリーサイズはヒ・ミ・ツ・だ・よっ!」
バラ太郎、喜んでターンをしながらハスティに迫ってきます。
ハスティはガバッとナナオを盾にしながら、
「そのロバ、どうしたんだっ?」
とだけ何とか訊きました。

「おぉ〜う!このハイパーエクセレント・エレガンスローズ号がどうかしたのか〜い?」
一応、ルグイおばあさんが名前を伝えたはずなのですが、バラ太郎はかなり勝手にみみよんを改名してしまったようです。
「そっ、そいつはナナオの相棒なんだっ。ナナオのとこに戻してやってくれっ」
ナナオの陰に隠れてガタガタ震えながらハスティが言い、
「そうだなー。僕もみみよんと一緒にいたいなー」
とナナオが気楽に付け足します。
「そうか〜い?キミ達心の友の頼みなら、聞かないわけにはいかないけどね〜。でもこのハイパーエクセレント・エレガンスローズ号はママンが僕に連れて行けって言ってくれた旅のパートナーだしね〜。ママンに訊いてみないと、戻していいか分からないね〜」
「でも家には帰れないんでしょ?」
バラ太郎の台詞にマリーが突っ込みます。
「だから鬼が島に行くんだよね」
「そうさ〜!みんなで鬼が島へ行けば、一気にみんなの望みが叶ってしまうってことさ〜!」
「だから、さっきからさっさと行こうって言ってんの!」
「そうだね!鬼が島へ行って、それから生肉パーティーだ!」
「さぁ〜!みんな行こうじゃないか〜っ!」
「おーっ!」
ナナオとマリーが片手で拳を上げながら、ハスティの両側に立って、空いた方の手でハスティの腕を掴んで、有無を言わせずそれを一緒に突き上げさせます。
そして、ひらりとみみよんに乗って進み始めたバラ太郎について、元気よく歩き始めました。
「まっ…、負けた……」
ハスティは、もはやがっくりとうなだれて、力なく三人についていくのでした。


さてさて、さほど歩かないうちに海岸に到着したバラ太郎ご一行。
目指す鬼が島は、海の上にぽっかりと浮かんでいるように見えます。
その、鬼の角のように見える特徴的な高い二本の尖塔が、ここからでも確認できました。
バラ太郎達は潮風を受けながら、真剣な眼差しでその島を見つめています。
「…で?どうやって海を渡るんだ?」
と思ったら、立ち往生しているだけでした。
「船とかはないわけ?」
マリーが訊きますが、バラ太郎は優雅に首を横に振りました。


「そういえばルグイ君」
「何だ」
「確か、バラ太郎君は海を渡るためのゴムボートも持っていくはずじゃありませんでしたっけ?」
「ああ。それも物置きにある。だが恐らくやつは持っていくべきだったことすら覚えていないだろう」
「それにしても、原作ではどうやって舟を調達したんでしたっけ?」
「知らん。従者ができた後は、適当に鬼が島に上陸してしまっている」
「ご都合主義ですねぇ」
「ご都合主義だ」
「お茶、もう一杯いただけますか?」
「茶葉は変えないぞ」


と、どうしようか悩んでいる一行のところに、何処からかぎこぎこという手漕ぎ舟の音が聞こえてきました。その音は徐々に近付いてきます。
そして、手漕ぎ舟が姿を現すと、
「やっほーっ。何をやってるのかーい?」
それに乗っていた唐茄子(カボチャ)さんが、一行に気付いて手を振ってきました。
何故か頭にウサギ耳を付けている唐茄子さんです。
「あそこに渡るための舟を探してるんだよ〜。唐茄子君は何してるんだ〜い?」
岸に舟を寄せる唐茄子さんに、バラ太郎が答え、逆に訊き返します。
すると唐茄子さんは、
「ちょっとそこの山で、冒険者達を罠にかけて泥の舟に乗せてきたんだ」
と、少し自慢気に言いました。
さらに、
「もうこの舟は使わないから、よかったらあげるよ」
と付け足します。
渡りに舟とはまさにこのこと。一行は喜びます。
が、
「でも、この中で誰か操船術を身に付けている人っているのかい?いなかったらサイコロ振って…、そうだなぁ、この手漕ぎ舟はバランス取るのが難しいから、誰か1人でも6ゾロが出なかったら転覆ってことで!」
唐茄子さんは笑顔で付け足します。

「何だよそれっ!」
ハスティが唐茄子さんの発言に憤慨します。
けれど、
「でも、それより手っ取り早い方法は他にないんじゃないかな?誰かが6ゾロ出せるかも知れないし」
「あたしもこれに挑戦するんでいいわ。転覆しそうになったら陸まで飛んで逃げるから」
「ふっふっふ、僕の美しさの前では奇跡さえも僕に逆らえないのさ〜っ!」
ハスティの反論は却下されました。
「だーっ、さっきから勝手にーっ!」
と声を上げながら、ハスティは手渡されたサイコロを思いっきり地面に叩き付けました。
そのサイコロはころころと転がり、
「あ!ハスティが6ゾロ出したー!」
ナナオがその結果をみんなに告げます。
「お〜う!素晴らしいよ犬く〜ん!」
「お陰でもっと命に関わるときの判定の分の運を使わずに済んだわ!」
「そうだね!」

何だか喜び方が間違った方に行きかけてますが、兎に角、これで舟を使って海を渡ることができます。
「それじゃあ、頑張っておくれ!」
唐茄子さんは舟から下りると、その櫂をハスティに手渡します。
「えっ?」
驚くハスティに、
「だって6ゾロ出した人が漕がないと転覆だよ」
唐茄子さんは笑顔で言います。
「…おいら…こんなところで運使っちまった上に…こき使われるのか…?」
絶望的な顔をして、櫂を杖がわりにして脱力するハスティ。
「犬く〜ん、そんなに落ち込まないでおくれ〜!元気が出るように、僕がこの舟を素敵に飾ってあげるよ〜!」
ハスティを慰めようと、バラ太郎はキラキラと光の粒を撒き散らしながらクルクルとターンして踊り、バラの種を舟に振り撒きました。
「……………………」
ハスティ、無言で倒れます。
「何よこれはっ!」
「うわー、すごーい」
ついさっきまで素朴な手漕ぎ舟だった物体は、そこから生えたバラの蔓によって数倍の大きさになり、その蔓は植木の細工切りのように豪華客船の形となっていました。
「でも…結局乗れるのは、さっきの舟の範囲だけだろ…?座れる場所とか逆に狭くなってるし…、視界が最悪だし…」
一度崩れ落ちても、ハスティは起き上がりながら突っ込みキャラを貫きます。
「気分の問題さ〜。美しいバラに囲まれてのクルージングなんて、最高じゃないか〜」
バラ太郎は自分の作品を見て、満足そうに頷いています。
バラ太郎の言葉は聞かなかったことにして、
「もういいから、早いところ行こうぜ…」
活気ゼロの口調で、ハスティはみんなを急かしました。
「おや〜?もうこのロイヤルブルーローズ号の観賞は終わりなのか〜い?」
「って、あんたがこんなにしたせいで、今度は視界が悪くなったから6ゾロ出さないと進路を誤って漂流とかになりかねないんだっ!だから言われる前にさっさと行こうって……」
思わず大声を出してしまったハスティ。ぎしぎしとゆっくり後ろを見ると、唐茄子さんがにんまり微笑んでいます。
「はっ、早くっ!みんな舟に乗ってくれっ!」
ハスティはナナオとマリーを手招きして、蔓の隙間から中に入らせ、名残惜しそうなバラ太郎は、担ぎ上げて上から放り込みました。
「それじゃ、また今度」
慌てて乗り込むハスティに、唐茄子さんは笑って手を振ります。
そんな唐茄子さんに、
「お〜ぅい、そこの唐茄子く〜ん!これの端を持っておくれ〜!」
バラの上に乗っかったバラ太郎が、紙テープを放り投げます。
どうやら、よく映画であるような豪華客船の船出シーンをやりたかったようです。
下でハスティが必死で櫂を漕いでいる舟であることも忘れ、バラ太郎は色とりどりのバラの花びらを、紙ふぶきの如く散らしていきました。


バラ太郎一行の舟が遠ざかるまで、紙テープを持って手を振り続けていた唐茄子さんは、
「大量のバラの花びらと紙テープを散らしていったけど…、これは誰が片付けるんだろう…」
一人でぽつりと呟きました。
そして、
「あ、そうだ!次に来た冒険者にいちゃもんつけて掃除をさせよう!どうやって文句付けようかなっ?」
そう言って楽しそうに去っていくのでした。




「夢想むかし話・バラ太郎 〜優雅なる上陸!二つの塔〜」へ続く…ハズ




後書き〜旅の仲間編

何とか上がりました、旅の仲間編ですハイ…。
多分旅立ち編が一番長くなるだろうと思っていたら…こっちの方が余裕で長くなりましたね(汗)
旅の仲間編だけで、どれくらいネタ使ってるんでしょう。もはや数える気にならないんで、自分では確認していませんですよ。やる気とうちが使ったネタ全て分かる自信がある方は、ぜひ調べてみてくださいませ。
えっと、予告した通りに、しばらく続きは書けませんので、残り二編はもうちっとお待ちください。
調子よく書ければ冬休み頃に一編出せるかも知れませんが、断言はできません…。バラ太郎ですしね…。






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