夢想むかし話・バラ太郎

      〜優雅なる上陸!二つの塔(上)〜





さてさて、やってきました鬼が島。実は結構大きな島です。
遠くからも眺められた二つの尖塔は、島の真ん中あたりの山の上にそびえていて、その下には深い森が広がっていました。そしてその森は、海岸から少しいったところから始まっています。
島の上空には常に黒い雲が、時折稲妻をあげながら渦巻いていたり、森からおぞましい生き物の雄叫びが聞こえたり…はしませんでした。
むしろ暖かな陽射しが降り注いで、小鳥がさえずっています。
「や…やっと着いた……」
向こうの海岸から休む間もなくひたすら舟を漕ぎ続けて来たハスティは、砂浜にバタンと仰向けに倒れました。
「それで?あんたが探してるバラは何処にあるわけ?」
マリーがバラ太郎に尋ねます。
「さぁね〜ぇ。僕もここに来るのは初めてだしね〜。しかし遠慮することはないよ!この僕のために全力で探しておくれ〜!」
マリー、何も言わずにバラ太郎の頭をゴツリとやります。
「取り敢えず、この道に沿っていったらいいんじゃない?」
ナナオがそう言って指差す先に、砂浜から森の中へと続いていく道がありました。黄色いレンガの道です。
「そうだね〜。誰かが使うから道があるわけだしね〜!サル君ナ〜イスアイディ〜アだよ〜!」
さりげなくバラ太郎が「ディ〜ア」の部分だけ強調して言ったことには、深く突っ込まないでおきましょう。
兎も角、倒れているハスティを叩き起こして、一行はレンガの道を辿って森の中へと入っていきました。

しばらく道を進んでいくと、一行の前方からハタキのようなホウキのような顔をした犬が近付いてきました。
そして、何と言うことでしょう。その犬は顔を左右に振り、道を消しながら歩いているのでした。やがて犬はあっけに取られて立ち止まっている一行の前までやってくると、その足元で停止。一度道を避けて一行の後ろへ行くと、今度は尻尾も使って道を消してしまいました。
「…今の、何だ?」
「分かんないけど…道がなくなっちゃった…」
力なく言うハスティとナナオに、
「なに言ってんのよ。道があったところだけ木も雑草も生えてないじゃない。これを辿ればいいだけでしょ」
とマリーが普通に言って、ずんずん進んでいきます。
「キジ君、流石だね〜」
バラ太郎がそれに続き、ハスティとナナオも慌てて後を追いました。

マリーについてさらに奥へ歩いていくと、何処からともなく甘い匂いが漂ってきました。やがて、一行の前に一軒の家が現れます。
「うわ〜!凄い!」
それを見てナナオが目を輝かせました。
その家は壁や屋根が固焼きクッキー。そこにチョコレートコーティングがされ、色々なお菓子が貼り付いています。窓には飴でできた綺麗なステンドグラスが填め込まれていました。
建築の基本構造をまるで無視したお菓子の家です。
次の瞬間、
「いただきま〜す!」
ナナオが家に食いつこうとしたのを、
「だーっ!待てっ!」
ハスティが慌てて止めました。
「どうして止めるんだよハスティっ!」
ナナオが振り向いてハスティに抗議しますが、
「こういう家には魔女が住んでて、食われちまうんだって本に書いてあったんだよ!」
ハスティはそう反論しました。ハスティ、意外とおとぎ話を信じる性質なのかも知れません。
その騒ぎを聞いてか、お菓子の家よりさらに奥にあった可愛らしいレンガの家から、ピンクの服を着た女の子が「大変大変!」と声を上げながら飛び出してきました。
「ハスティ!あれが魔女!?」
ナナオが驚いて言います。
「いや…どう見ても違うだろ…」
ハスティが溜め息をついていると、その女の子、リディが抱いていたものをハスティの目の前に突き出して、
「猫っ!」
と叫びました。
「ね…猫がどうかしたのか?」
リディが突き出したのは確かに猫でした。銀色の毛で何故かサングラスをかけています。
「あっちゃんが猫っ!」
またリディが叫びますが、ハスティの頭上にはクエスションマークが乱舞していました。
「キミはこの島の人だね〜?」
そこへ、我が道を行くバラ太郎が会話に割って入ります。
「うん、そうだよ!」
リディはそう素直に答えました。
「僕はこの島にしか咲かない珍し〜いバラを探しに来たんだけど、何処にあるか知らないか〜い?」
バラ太郎、輝きながら聞きます。
その問いにリディは少し眉を顰めて、
「知ってるけど…でもあそこは私の『ヒミツのハナゾノ』だもんっ」
いやいやっ、と持っている猫を振り回しました。
「ひ…っ、秘密の花園〜っ!?なんて素晴らしい響きなんだ〜っ!」
何故かバラ太郎、悩ましげに感動しています。その手は何かを掴むように天に向かって掲げられ、花吹雪の中、スポットライトに当てられて瞳を潤ませています。
「…で、その猫が何なのよ」
感動しているバラ太郎を横にどけて、今度はマリーがリディに尋ねました。
「うん、あのね、この子ね、あっちゃんなの!」
「あ、それはさっき聞いた」
そこにハスティも参加します。
「だからね、この子は本当はあっちゃんなの!」
このあと当分リディの要点を得ない説明が続くので、ダイジェスト版でお送りしましょう。

「あのね、この島に七体並んでるお地蔵様があるの!そのお地蔵様のうち六体は笠と蓑をつけてるんだけど、一体だけ何もつけてないお地蔵様が汚れていたから、綺麗にしてあげようと思って、精霊の泉に持っていったんだよ!それで泉の中に入れたら沈んじゃって、代わりに精霊さんが出てきて、『貴女が落としたのは、このとても便利なフライパンですか?それともこの使い勝手のいい圧力鍋ですか?それともこの心持ち綺麗になったお地蔵様ですか?』って訊いてきたの!」

「…それで、地蔵じゃなくてこれをもらったんだな…?」
説明がてらにリディが家から持ってきたフライパンを手にしてハスティが言います。
「だって…っ!これすっごい便利なの!取っ手を取ればそのまま食卓に出せるんだよ!」
呆れ顔のハスティに、リディは拳を握って熱く語ります。
「それとこの猫と、どう関係があるのよ」
ちゃっかり猫を抱かせてもらっているマリーがそう尋ねました。
「うん、それでね、そのフライパンで作った料理をね、あっちゃんに食べてもらったら…、あ、あっちゃんていうのはね、アイルザッハ・トルティアっていうの。私のお兄ちゃんみたいな人でねっ、小さいときから一緒なんだよ!優しいし、いろいろ知ってるし、なんでもできるのっ!サングラスはいつもしてるんだっ。朝とか…寝る前とか以外はしてるかなっ?もちろん、サングラスをとってもすっごくかっこいいんだよっ! あ、お日様にあたると銀髪がきらきらしてとってもきれいなのっ!私あっちゃんの髪の毛、とっても好きなんだよ!あっちゃんは黒とか落ち着いた色のお洋服が好きなのっ。髪の毛と合ってとってもすてきでしょっ?去年のあっちゃんのお誕生日には黒のセーターを編んだんだっ。あ、あっちゃんは秋生まれなの!あっちゃんのお誕生日は冬のお洋服の準備しなきゃいけないころだから、だからセーター!あ、あとね、あっちゃんは食べ物の好き嫌いとかないんだよ!いつも「おいしい」って言って私がつくったご飯やお菓子を食べてくれるのっ。あ。食べると言えば、あっちゃん、少し身体が弱いみたい。小食だしっ、ご飯食べると、調子が悪いって言って寝ちゃうことが多いのっ。ちょっと心配なんだけど…。あっちゃんは寝れば治るっていつも言うんだけど、しょっちゅうだし心配だよねっ?今度あっちゃんがご飯作るって言ってくれたんだけど、大丈夫かなっ?また調子が悪くなると大変だからやっぱり私が作ろうかと思ってるの!あ、そうそう。あっちゃんね、すごい特技があるの!ダウジング…???じゃなくてね、えーっと?ジョギングじゃなくて…ジャグリングっ!あれができるんだよ〜。すごいよねっ!!私3個あるともうできないの。前ナイフでやってたときはビックリしたけどっ、あっちゃん絶対失敗しないんだもんっ!最初は怖かったけど今は平気っ。今度見せてもらうといいよっ。あ、そういば昨日ね…」
「リディ…話が進まないからアイルの説明はそのくらいにしてくれ…」
「えーっ、好きなだけあっちゃんの話していいって言われたのに…」
何だか裏の事情が入りましたが、ハスティの言葉にリディはしぶしぶアイルザッハの説明を止め、話を続けました。
「だからね、あっちゃんに料理を食べてもらったら、あっちゃんが猫になっちゃったの!いつもはすぐに元気になるのに…。これってやっぱりお地蔵様の呪いかなぁ!?猫のあっちゃんもこれはこれで可愛いんだけどっ、でもやっぱりいつものあっちゃんがいいかなって思うの!そう思うでしょっ?ねっ?ねっ??だから、元の姿に戻ってほしいんだけど、それにはどうしたらいいか知らない!?」
「いや…そう言われてもなぁ…」
「あたしも知らないわよ、そんなこと」
ハスティとマリーは顔を見合わせました。
ナナオは先程から一心不乱にお菓子の家を見つめていて、バラ太郎は自分の世界に飛んだままです。
けれど、
「うーーん、あっちゃん元に戻してくれたら、ヒミツのハナゾノの場所を教えてあげてもいいんだけどなぁ…」
リディがポツリと呟いた瞬間、
「ふっ、ふふふふ………っ!」
自分の世界から帰ってきたバラ太郎が、不敵な笑い声を発しました。
「呪いを解くくらい、僕にとってはわけないよ〜!」
そしてきらめきます。
「え〜っ!本当っ!?」
それを聞いてリディは嬉しそうな顔をしますが、猫のアイルザッハは何となく嫌な予感がして低く唸っていました。
「そうさ〜!呪いなんてこの僕の熱〜いヴェーゼで…っ」
バラ太郎がそこまで言った途端、猫のアイルザッハは全身の毛を逆立てて飛び上がるとバラ太郎の顔を十字に引っかき、同時にバラ太郎の背後ではハスティの手にしていた『とても便利なフライパン』が唸りを上げ、彼の後頭部にクリーンヒットしました。
バラ太郎、崩れ落ちます。
何故か地面にはバラの花びらの絨毯ができています。そして、そこへ倒れた次の瞬間にはバラ太郎の上にもバラの花びらがり振り撒かれていました。顔についた引っかき傷は、既に跡形もなく完治しています。
息を荒らげている猫アイルザッハとハスティ、呆れているマリーの様子を見て、
「何?どうしたの?」
リディはその一連の出来事の意味が分からずきょとんとしています。
「説明するのも疲れるから、省略」
マリーがしゃがんでバラ太郎の頭をぽかぽか叩きながら言い、
「うん!分かったよ!」
猫アイルザッハを抱き上げながらリディはかなり素直に了解しました。

「…ちょっと思ったんだけどさぁ、その泉に何を入れても精霊は他のものを持ってくるのか?」
しばらくあれこれ考え込んでいたハスティが不意にリディに聞きます。
「うん!そうだよ!」
リディはそれに元気よく答えました。
「…ということは、この変態を投げ込んで、何かに変えてもらうことも…!」
それを聞いてハスティが呟き、
「えっ?何か言った?」
と無邪気に尋ねてくるリディに、
「あ、いや、このフライパンを泉に返して、地蔵を元に戻せば呪いも解けるんじゃないかと思ったんだよ!うん!きっとそうだって!」
慌てて取り繕いました。
それを聞いたリディは、
「うーん、このフライパン、結構気に入ってるんだけどなぁ…」
とポツリと言って、しかし一秒後には、
「でもやっぱり、あっちゃんを元に戻してもらう!」
そう言って猫アイルザッハをぎゅーっと抱きしめました。

「あ、でも…」
けれど、何かを思い出したようにリディが言い出し、
「ん?」
とハスティが首を傾げると、
「その精霊の泉はあの塔の上にあるんだけどね、ぼーちゃんがいないと道が分からないの」
リディはそう続けました。
実はアイルザッハも道を知っているのですが、リディ、完全に抱っこをして行くつもりです。
「その『ぼーちゃん』ってのは何処にいるのよ」
マリーが訊くと、
「多分、塔の中だよ!」
リディはやっぱり元気よく答えます。
「それじゃあどうするんだよ…」
と、ハスティが溜め息をついたそのとき、塔の方向から森の中を凄まじい勢いで何かが走り下りて来ました。
それはなんと、リヤカーのようなかなり古い時代の和風の乳母車で、中には白くて羽のような耳を動物が乗っています。乳母車の左右には『お供たんく』と書かれ、実は猟銃などの様々な火器が仕込まれていたりします。
その『お供たんく』は、一切失速しないままナナオが見つめていたお菓子の家に激突しました。乗っていた白い生物、お供はぶつかる直前で乳母車から飛び上がり、押して部分に渡された棒に掴まってぐるんぐるんと回ると、膝を抱えてくるくると着地、そして決めポーズ。決まりました!屈伸の新月面です!10点満点です!
そして次の瞬間、お供は無残に崩れ落ちたお菓子の家の壁のクッキーの破片にかじりつき、ぺたんと座り込むと、ボリボリとそれを食べ始めました。
「わぁ…いいなぁ」
その様子を見て羨ましそうにナナオが呟くと、お供は手にしていた破片の一つをナナオに放り、ぽんぽんと自分の横の地面を叩きます。ナナオは嬉しそうにそこへ座ると、お供と一緒に凄い勢いでお菓子の家を片付けだしました。
「い、いいのか…?」
家を破壊していく様子にハスティが呆然と言うと、
「うん!夜の間に精霊のブラウニーちゃん達が作り直してくれるよ!」
リディは全く問題ないといった風に答えます。

「世間話に花を咲かせるのもい〜いけどね〜、早く呪いを解いて秘密の花園に行こうじゃないか〜」
いつの間にかテーブルと椅子を出して優雅にそれに腰かけていたバラ太郎が、自分に酔いながらそうリディに話しかけると、
「あ、そうだぁ!お供ちゃんに訊けば道が分かるかも!」
リディは先程の問題の解決策を思いついて笑顔になりました。
しかし、
「でも…お供ちゃんて、何て言ってるかぼーちゃんじゃないとよく分からないんだよね…」
と、しゅんとしてしまいます。
「なら、おいらが訊いてみるよ。らっしーに通訳してもらえばいいしさ」
ハスティが自分の頭から出ている獣耳を撫でながら前に出ました。
そして、
「やあ、おいらはハスティって言うんだ」
と軽く挨拶をして、道を教えてほしい旨を伝えます。
すると、お供は首だけをハスティに向け、
「………………(二つの塔って胸キュン?)」
と言ったのを、らっしーが訳してハスティに教えました。
「………………………???」
ハスティ、混乱しています。しかしお供は返事を待たずにのそっと立ち上がりました。
そして、何人が行くのか確認するように、周りのみんなを指差していきます。なかなか珍しい、能動的なお供の描写です。
そのお供に指差されるとナナオは、
「僕…お腹いっぱいになるまでここにいていいかな?」
と家の欠片を頬張りながら言い、お供はそれにのっそりと頷きました。
それを聞いて、「ぐぅぅ…」と小さくマリーのお腹が主張して、当の本人は慌ててお腹を押さえます。
お供はぐりんとマリーの方を向くと、家の欠片を差し出しますが、
「あたしは甘いものなんか食べないわよっ!」
とマリーがそっぽを向いたので、おもむろに背後から『お供のえさ』と書かれた巾着を取り出すと、その中に手を突っ込んで何かを引きずり出しました。
「あっ!」
出されたものを見たマリーの目の色が変わります。
「そ…それ、なぁに?」
リディが後ずさりしながら訊くとマリーは、
「この虫、すっごいレ☆アなのよ!とっても美味しいんだから!」
と言うが早いか、お供からそれを受け取るとむしゃむしゃと食べてしまいました。
(注:リディに配慮して虫の描写はカットしてあります)
それをごくりと飲み込んでから、マリーがお供に、
「この虫、まだこの森にいるわけ?」
と尋ねると、お供はやる気なく首が外れたかのようにガクっと頷きました。
すると満面の笑顔になったマリーは、
「私が虫探してる間に、さっさと塔に行ってきなさい!」
と命令し、あっという間に風のように森の奥へと走っていきます。
一瞬で見えなくなったマリーを呆然と(していたのはハスティだけでしたが)見送った一行をお供が、リディ、猫アイルザッハ、バラ太郎、ハスティ、と指差し確認すると、満足気に頷いて家に激突したままの状態だった『お供たんく』を引っ張り出しました。
すぐさま、先程お供が乗っていたところにリディがアイルを抱えたままポンと乗り込み、お供は着地のときに鉄棒代わりにしていた押し手部分の棒に器用に座り、『じぇっとえんじん』と書かれたボタンをぷちっと押します。
次の瞬間、『お供たんく』は凄まじい勢いでスルスルと森の危機を避けつつ、塔への坂道を駆け登っていったのでした。




「夢想むかし話・バラ太郎 〜優雅なる上陸!二つの塔(下)〜」へ続く…つもり




後書き〜二つの塔(上)編

あーなんとか上がった…(汗ふきふき)
確か、二つの塔長すぎるからという理由で半分にしたはずなんですが…すいません実は後半ほとんどできてないんです…(汗)。しかし後半の完成を待つと更新がかなり先になってしまい某氏が楽器で殴ってきそうなオーラを発していたので兎に角出そうと思ってこういう状態と相成りました(滝汗)
なんか前2編と比べると壊れ率低めっぽい感じだなと思ってるのですが……恐らくボケの中心がバラ太郎じゃないからだ……おじいさんおばあさん出てきてないし……。
後半は多分おじいさんおばあさん再来するはずだからもうちょっとテンション上がってるハズ…!(ぇ)
でも多分ボケの中心はあの二人だろうな…(遠い目)
ええと、今回のリディ、アイルについて語るの部分は水霞姫に頼んで書いてもらいました。恐らく自分で書いたらアイル限りなく三枚目に近い二枚目半になるだろうと思ったので…。
あとアイルの呪いを解くための方法としてバラ太郎が口にした爆弾発言ですが、あれ、本人は何にも考えてませんので。呪いを解くといったらあれだろとしか思考が回ってませんので。
それでは続きはいつになるか分かりませんが、まあ忘れた頃に出てくると思って待たないでおいてください(殴)
なにせ9人フル出場だとねーーー話が纏まらないのねーーー(壊)

………………お、今何気なく見てみたら、今回のって旅立ち編と大して長さ変わらないじゃん。よかったよかった(よくない)






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