前に立つと同時に自動ドアが静かに左右に開き、彼を歓迎する。
辺りは壁も床も天井も、清潔感とある意味で病的な雰囲気を醸し出す白さで埋め尽くされ、独特な匂いが鼻を小突く。
そんな彼の正面、平坦な白の世界を一部だけ切り抜いたような空間に、2人のハーフエルフが立っていた。
1人は背の高い銀髪で、羽織っている白衣がよく似合う。もう1人は紫の髪で、白衣ではなく歯科医師やマッサージ師がなど着ているような白い上着とズボン姿。そして2人とも左右で目の色が違っていた。
「こんにちは。こちらは初めてですよねぇ?ではこれに記入をお願いします。あと保険証も出していただけますか」
銀髪のハーフエルフが声をかけ、クリップボードにはさまれた簡単な質問用紙とボールペンを指し出す。
それを受け取り保険証を手渡すと、彼はざっと質問に目を通す。名前、年齢、性別、種族、職業、器用度、敏捷度、知力、筋力、生命力、精神力、冒険者レベル、各種技能レベル…。
「…あのぅ」
「あ、答えられないものは飛ばしてもいいですよ?出来る限り答えていただけると有りがたいですけど」
彼が質問するより先に、紫髪のハーフエルフが答える。
特にアレルギー体質でもない彼は、殆どの質問にいいえで答え、渡された3点を返した。すると、
「これから看ていただく医師を指定していただきましょう。もれなく助手もセットで付いてきますから安心してください」
と言って銀髪のハーフエルフが一枚のラミネートされたシートを取り出した。
そこには3枚の写真がはさんであり、左のものには金髪のエルフの女性2人が写っていて、1人は髪をおだんごに纏めナース服を着ている。その子が椅子に座って足を組んでいるもう1人のエルフに抱きついていて、座っているエルフの方は長い髪を後ろで一つに纏めていた。白衣の膝丈のスカートを穿いていなかったら女医だとは分からなかっただろう。
真ん中の写真にはバラを片手に持ってウインクをしている男性と、彼の隣で迷惑顔の銀髪のエルフの男性が立ち姿で写っていて、共にYシャツにネクタイに白衣姿。銀髪のエルフの方はサングラスをかけている。
右のものには3人、獣耳の生えた少年と浅黒い肌が印象的なグラスランナーと何故かロバを従えたドワーフの少年が、揃って長い白衣を捲り上げて着て、写真から溢れんばかりのアップでピースをしていた。
「で、これは一体……」
彼は眉を顰めて尋ねる。
彼が指差した先、写真の下の欄には、左から「本命」「対抗」「大穴」と赤ペンで書かれていた。
「一体…と言われましても、勝敗の予想ですよ」
「勝敗?」
何を今更、といった口調で返す銀髪のハーフエルフに再び疑問符を頭上に浮かべて言うと、
「あ、分かりました。あなたはお馬さんやらない方なんですね?」
手をぽんっと打ち鳴らして紫髪のハーフエルフがなにやら勝手に納得をし、
「ああ、なるほどそうでしたか」
銀髪のハーフエルフまで賛同してしまった。
「いや、やったことなくてもこれくらいは分かりますって。…つまりこの選択に自分の命を賭けろと?」
「まあそういうことですね。どういう結果になっても当方は一切責任は取りませんから」
「当たるも八卦、当たらぬも八卦ですねっ」
2人は屈託のない笑顔のまま言ってのける。
彼は再び写真を見つめた。
しかしこの写真に写っている人物達は言っちゃ悪いがどうもまともな医者に見えない。
左の写真の女医は血も涙もないような雰囲気を纏っているし、真ん中のサングラスのエルフは悪徳医師の様にも見えるし、右の3人に至っては医師免許を持っているのかでさえ疑わしい。むしろ今目の前にいる2人の方が医者とその助手らしく思える。
「えっと…、お二人を選ぶって事は出来ないんですよ…ね?」
最後の「…」に思い切り含みを持たせて彼が尋ねてみるが、
「ええ。無理ですね」
笑顔のままあっさりと斬り捨ててくれた。
「僕達は受付係兼薬剤師ですから」
「とてもいいですよ、この仕事は。なにせ夜勤がありませんし」
「ナースセンターが代わりにやってくれますからね。夜中に急患が来ても呼び出されませんし」
「お給料はいいですし…」
「休み時間にサイコロ特訓ができますしね…」
「サイコロ特訓?」
世間話モードに入りつつある2人に対して気になった単語を復唱すると、
「おや、サイコロ特訓を知らないんですかぁ?」
「そんな、自分の命に関わる大事なことですよ?」
2人は驚いた様な声を上げ、
「特訓のお陰で私達は今こんな楽な役に付けたんですよ?」
「そうですよね。僕、前の役は大変でした…」
よく分からない会話を続ける。
「と言うわけですけど、選んでもらえましたか?」
それが約10分ほど続いた後、おもむろに銀髪のハーフエルフが尋ねてきた。
「えぇっと…、じゃあ…」
彼は覚悟を決めておずおずと一枚の写真を指差した。
《どの写真を選びますか?》
左の写真 真ん中の写真 右の写真
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