「さて…と。今日のお昼はどうしようか、お供」
宿でくつろいでいたボクが買い出しの準備を始める。
まだ昼には早いのだが、人込みが苦手なので早めに市場へ行くつもりだった。
「…何?それ。美味しいの?ううん食べた事ないよ。…ふ〜ん、そうなの?じゃあ作ってみようかな…」
こういう時間のある時には、お供が知っている珍しい料理を試作してみていたので、ボクは言われた通りの材料を買い集めていく。
昼、ボクの昼食ができましたの声に皆が集まり、大皿に山盛りのスパゲッティを見て固まった。
「…黒いぞ」
「…黒いな」
「黒いね」
席につきつつも手を付けかねている面々を前に、
「うわぁおいしそう!」
とナナオが真っ先に取り皿に溢れんばかりに取って、いただきますと食べ始める。
おいしいよ!と言うナナオに
「ナナオ君、そんなに欲張っちゃだめですよ」
と注意しつつ、フェルナンディも一口食べて同様の感想を述べた。
「なぁ、これ食っても平気だと思うか?」
信用できない味覚の二人が黙々と食べているのを横目に見ながらハスティがアイルザッハに意見を請い、
「大丈夫だと思うが…多分…」
と頼りなさげな声が返って来る目の前で、
「なかなかうまい」
とルグイが聞こえるように呟いたので、二人揃って手をつけ、味は普通だったので胸を撫で下ろす。
ラッセンはしきりに自分の皿に薔薇の花びらを散らし、黒薔薇とよく合うとうっとりしながら食べ始めた。
「ボーちゃん、私ちょっと苦手かなぁ」
一口食べたリディがそう言うと、
「じゃあまだ材料残ってるから別のを作るね」
とボクが返す。
やったーと喜ぶリディの声に、
「リディの分は食べてあげるね!」
とナナオがまだたっぷり15人前は残っている大皿を見てにんまりした。
ボクのリディへの提案にマリーも便乗しようとしたが、
「これが大人の味ってやつだよな」
とハスティが言ったのが聞こえ、むぅっと軽く頬を膨らませつつちびちび食べ続けていると、目の前にオムレツスパゲッティの皿がトンと置かれた。
ご丁寧にケチャップでマリーの名前が書かれている。
「作りすぎちゃったんだけど、食べてくれない…かな」
ボクが言うと、
「仕方ないから食べてあげる」
とマリーはぱくぱく食べだし、リディと、作りすぎたのでボクも同じもの(リディのは更に旗が立っている)を食べ始めた。
数十分後。
「ごめんなさいっ。まさかこんな事になるとは思ってなくて…っ」
ボクが必死で謝る前で、ラッセンは手鏡を見て可憐に卒倒し、アイルザッハは渋い顔で口許を押さえ、ハスティも難しい顔をしていた。
「別にいいよ!おいしかったし!」
「それにきっと時間が経てば直りますよ」
三人をしり目にナナオとフェルナンディは笑顔で返す。が、その笑顔が何か…怖い。
二人の口からは、綺麗に真っ黒に染まった歯が顔を出していた。
「何を入れたんだ?」
と尋ねるルグイに、
「クラーケンの墨です。お店で探すの大変だったんですけど…」
とボクが返すと、
「クラーケン!?」
と驚きの声が上がるのを気にもせず、「やはりそうか」と納得したように頷く。
「ちょっと待て!大体、同じもん食ってたのにどうしてルグイだけ黒くなってないんだ!?」
ハスティの問いを
「単なる役得だ。気にするな」
とはぐらかし、
「それから、その墨は半日経たないと歯を磨いても落ちないぞ」
と楽しそうにルグイが言った。
その後、夕飯作りを辞退したボクの代わりに、リディが腕を振るったらしい。







戻る