がんばれ!スノーホワイト


昔むかしある王国に、アイルザッハという青年がいました。
彼は、王に仕える従者の一人として、お城で暮らしていました。
彼の髪はとてもきれいな銀色で、一面、雪に覆われた野山のように美しかったため、
周りの人々から『スノーホワイト』、と呼ばれていました。
何故、直訳するともれなく『姫』という字が付いて来るのか、ということに疑問を抱いてはいましたが、
命に別状はなさそうなので、彼はそう呼ばれても特に気にはしていませんでした。


その国には、もちろん王国なわけですから、王様がいました。
まだ若い王様です。
王様は、この近隣の国の人まで知っているほどの、有名なバラマニアで、
ラッセンという名でした。
彼はいつも、自分で育て上げたバラのことを自慢していました。
そして彼にはもう一つ、自慢のものがありました。
それは、精霊が宿った鏡、世に言う『魔法の鏡』を持っていることでした。
魔法の鏡に、王様は毎日、あることを尋ねます。
「鏡よ鏡、この国で一番バラが似合うのは誰か〜い?」
その日の朝も、王様はそう、鏡の精に問いかけました。
けれど、おやおや?鏡の精のほうはうんざりしています。
その鏡の精は、ルグイという名前でした。
早く事を終わらせようと、いつも「あんただ。」の一言で済ましていたルグイでしたが
それを聞くと必ず、感激しながら自らを讃える歌を延々と歌う王様に耐えられなくなってきました。
そしてふと、人畜無害そうな人物の名が頭を過ぎります。
「スノーホワイトとか言ってみたら、どうなるだろう」
それは独り言でした。
けれど、あまりに大きな独り言でした。
「なっ・・・なんということだ・・・」
王様は大いにショックを受け、バラが大量に、ええ、それはもう、
バラが光合成を止めたら部屋の酸素が少なくなって倒れるぞ、
と突っ込みたくなるほどに飾り付けられているベッドに倒れ込んでしまいました。
けれど、彼のバラを愛する心は、そんなことでは挫けません。
すぐに、チリリンと部屋のベルを鳴らすと、現れた執事にこう告げました。
「スノーホワイト以外で、誰か森に詳しそうな従者をここに呼んでおくれ〜」
そして間も無く、王様の部屋に一人の従者がやってきました。
その従者はハスティといいました。
なるほど、彼に生えている耳と尻尾は、いかにも森に詳しそうです。
「んだよ、朝っぱらから!」
朝早くたたき起こされたハスティは、従者に有るまじき口の聞き方をしましたがbr> そんな細かいことを気にする王様ではありません。
花瓶に挿してあったバラを一本手に取り、優雅に話しかけます。
「やぁ、ハスティくん。君は黄色いバラの花言葉を知っているか〜い?」
それを聞いて、ハスティは眉を顰めました。
「はあ?オイラはバラマニアじゃないんだ。知るわけないだろ」
「残念だね〜ぇ。じゃあ覚えておきたまえ。ふふふ、それは、『ジェラシー』さ」
そして可憐に、持っていた黄色い花を、ハスティに投げます。
憑いている物の怪のせいで、条件反射的にハスティはそれをキャッチしました。
だからそれが何だっつーんだ!と叫びたいのを堪えながら、今度はハスティが尋ねます。
「で、何の用だよ」
王様は髪を掻き上げながら、答えます。
「この城に、スノーホワイトと呼ばれている人物がいるねぇ〜?彼を西の森に連れていって、
二度とこの国に帰れないようにしてもらいたいのさ〜」
「面倒くさい。他の奴に頼んでくれ」
即座にハスティは断りましたが、
「ふっ、ふっ、ふっ。駄目だよ。君はもう、僕の愛のバラを受け取ってしまったのだからね〜」
王様に向けられた視線に、ハスティは全身鳥肌が立ちました。
なんかヤバいぞ。さっさとここから立ち去らねぇと!そう思い、
「分かった。やればいいんだろ、やればっ!」
言うや否や、猛ダッシュで王様の部屋から逃げ出しました。
庭で稽古をしていたアイルザッハの所へ、血相を変えてハスティが走ってきました。
何かを言おうとしているのですが、息があがっていてよく聞き取れません。
漸く落ち着いてくると、ハスティは正直にこう言いました。
「何か知らないけど、例のバラマニアが、あんたを森に連れて行けって五月蠅いから、一緒に来てくれよ」
突然のことに、多少驚きはしましたが、別に王様に忠誠を誓って従者をやっていたわけではないので、
また新しい仕事を見つければいいと思い、アイルザッハは頷きました。
専用の個室が与えられているとは言え、アイルザッハの持ち物はそれほど多くはありませんでしたから、
背負い袋に纏めて、部屋を掃除しても、昼前には出発することが出来ました。


「こっからもう森だよな。んじゃ、オイラは帰るから。後はてきとーに何とかしてくれ。あんたなら大丈夫だろ」
森の奥へと続く道で、ハスティはそう言って、お城へ帰っていきました。
その後ろ姿を見送った後で、アイルザッハは森の奥から何かが聞こえてくることに気が付きました。
その音の方へ歩いていくと、一人の小人が木を切っているのが見えました。
恐らく、小耳にはさんだことがある、森の木こりの小人なのでしょう。
森を抜けるのに一番早い道を聞いてみよう。と、アイルザッハがその小人に近づくと、
「せーのっ!」
ちょうどその時、小人が大きく斧を振りかぶりました。
その斧の大きいこと!
予想外の大きさに、間合いが測れず、アイルザッハは避けることが出来ません。
斧の柄がアイルザッハの頭にクリーンヒットします。
「わぁっ!大丈夫!?ねえ、しっかりして!」
ぱたり、と倒れたアイルザッハに気付いた小人が、大声を上げながら、
首が取れそうな勢いで彼の肩をぐらんぐらん揺すりますが、ますますアイルザッハの意識は遠のいていきました。


はっ、と目が覚め、アイルザッハが上体を起こすと、そこは家の中でした。
「あ、気が付きましたか?温かいものを持ってきますね」
その家の中にいた紫色の髪の子、先程とは違う小人が笑顔でアイルザッハに言いました。
その子はボクという言う名前で、頭の上には眠たそうな顔をした、白い生き物が乗っていました。
家の中を見回すと、小さな机と椅子が部屋の真ん中にあり、
向こうに小綺麗な台所があって、そこからいい匂いがしています。
そして、アイルザッハは二つくっつけた小さなベッドに寝ていたのでした。
「気分はどうですか?起きられます?」
お皿にスープをよそって戻ってくると、ボクは椅子を引き、アイルザッハを招きました。
「・・・すまないが、俺はどうしたのか教えてくれないか?」
アイルザッハが尋ねると、
「えっと、スノーホワイトさんは、僕と一緒にここに住んでいるナナオ君に斧で殴られて、
気を失っていたんですよ。」
ボクは笑顔で言います。
「・・・なぜ俺の二つ名を知っている?」
「ああ、お供が言ってたんですよ。『すのーほわいとが来る〜』って」
ボクがアイルザッハの前に置かれたスープを貪り食っている白い生き物を指差しました。
「あ〜あ、もう一度よそってこなくちゃ」
そう言ってボクが席を立つとほぼ同時に、トントンと家の戸が叩かれる音がしました。
けれどボクは奥に行ってしまったので、気が付いていないようです。
なので、アイルザッハは代わりに出ることにしました。
がちゃり、とドアを開けるとそこにはピンクの服を着た金髪の女の子がいました。
名前をリディといいます。
「あれ?ここ、ナナちゃんとボーちゃんのお家だよね?」
リディは不思議そうな顔をしましたが、
「でもここにいるってことは、二人のお友達だよね!それなら、はい、これ食べてみてvv」
と言って、リディは持っていたカゴの中から、とても赤いモノを差し出します。
「こ・・・、これは一体・・・?」
「焼きリンゴだよ。美味しいよ」
いや、焼きリンゴはこんなに赤くないだろ。という突っ込みをする間も無く、
リディはアイルザッハにフォークを握らせます。
意を決して一口・・・。
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アイルザッハは再び倒れてしまいました。
いえ、正確には全身が痺れて体を動かしたり、しゃべったり出来ないだけで、
しっかり意識はありました。
今、ナナオが森の中で偶然会って連れてきた、薬の行商人、フェルナンディがアイルザッハの様子を見ています。
「その焼きリンゴを食べた途端に倒れてしまったそうですが、それには何が入っているんですか?」
他にめぼしい原因が見つからなかったので、フェルナンディがリディに尋ねました。
「えーっと、リンゴはどこも悪くないよ。虫食いもなかったし、もぎたての使ったし」
うんうん。とフェルナンディが頷きます。
「あと、赤みを出すために、トマトと、赤ピーマンと、ラディッシュと、苺と、
無花果と、柘榴と、西瓜と、唐辛子と、体に良いって聞いたから、赤マムシのエキスも入れてみたの。いけなかったかなぁ・・・」
いけないだろっ!とアイルザッハ思いましたが、口をきくことが出来ません。
「でもこれ凄く美味しいよ!薬屋さんも食べてみなよ!」
後ろでナナオが焼きリンゴをパクついていました。
「そうですね。私もいただきましょうか」
そう言ってフェルナンディも一口食べてみます。
「なるほど、これは素晴らしいですね。栄養的にもバッチリですよ。
きっとあまりにもこれが美味しかったから倒れてしまったんでしょう。」
フェルナンディの一言にリディは大喜びでした。
「わーい!今まで私の料理でこんなに喜んでもらえたの初めてっ。
・・・・・・・決めた!私もここに住む!いっぱいお菓子作って、いっぱい食べてもらう!」
勝手に決めるな!とアイルザッハは思いましたが、口をきくことが出来ません。
「でもリディ、この家そんなに大きくないよ。四人で暮らすには狭すぎるんじゃないかなぁ」
いや、まだここで暮らすなんて言っていない!とアイルザッハは思いましたが、口をきくことが出来ません。
「それなら心配しなくてもいいよ。ほら、ナナオ君、4号の小屋を作る予定だったでしょう?
それと一緒に家も建て直しちゃえばいいんじゃないかな?」
「わーい、わーい。やったーっ!」
「それは良いことですね。では私は行商を続けますのでこれで・・・」


アイルザッハが倒れている色々なことを決めてしまったと三人が告げてもアイルザッハは文句一つ言わず、
文句一つ言えず、今でもそこに住んでいます。
あれから数年、アイルザッハにはあの薬屋がまた来たら言ってやりたいことが山ほどありましたが、相手は流浪の行商人。
二度とその森にやってくることはありませんでした。


めでたしめでたし・・・?


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