女神の食卓





その1 〜poorman's dinner〜


―大いなる災いの年、8人の賢者従えし1人の女神、この地に巡り来て…―

「うわ、随分とひび割れた畑だな」
ハスティが、目の前に広がる光景に思わずそうもらした。
「川の水かさも、相当減っているようですね」
乾燥して表面に亀裂が走っている畑の近くを流れる小川に目をやり、フェルナンディがその様子を口にする。
「にしても、暑いねぇ…」
そう言いながらも重厚な鎧をまとったままのナナオが、手で日光を遮りながら空を見上げる。
雲一つない空は、ぎらぎらと燃え上がる太陽の独壇場だった。あまりの熱気に、空気がゆがんで見えるほどだ。
「ちょっとっ、次の村にはまだ着かないわけっ?」
ちゃっかり、冷暖房完備(?)のフェルナンディの白衣に潜りこみながら、マリーが不服そうに口を尖らせる。
「そろそろ見えてくるはずだが…」
そう答えるアイルザッハの背中には、既に暑さにバテてしまったリディが背負われ、ぐったりとしながら、
「…スイカが食べたいな…」
などと呟いている。
その横ではボクが、何故かバラの花をいじっていた。
一行は日傘など持ち歩いていないので、日差し避けにラッセンがどこかに隠し持っている大型パラソルを使えばいいという話になったのだが、
「あれはお茶会用だから、だ・め・だ・よ・☆」
とその持ち主に却下されたため、
「この日差しだ。そのパラソルにバラをくくりつけて差して歩けば、いいドライフラワーができるぞ」
と機転を利かせたルグイが言って、
「おぉう!それはすばらし〜いね!!」
案の定、すぐにラッセンはノリノリでパラソルを出したわけだが、如何せん、あまりの日差しの強さにバラはすぐ萎れてしまう。
そのため、ラッセンがパラソルを差して歩き続けるようルグイに言われて、ボクはせっせとバラを取り替えては、萎れてしまったものがラッセンに発見される前にお供の胃袋へと隠す作業をしているのだった。

空気のゆがみによって、数回蜃気楼が映し出す幻の村にだまされたりもしたが、やがて、一行の前に目指していた村が姿を現した。
それを認めると、元気のなかったリディも自分で歩くと言い出して、アイルザッハの背から降りた。
昼間だというのに、村の様子は閑散としていた。日照り続きで作物はほぼ全滅なため、農作業をやる必要がない、あるいはすぐに作業が終わってしまうため、みな早くから家に篭っているようだ。
しかし、それも一人の村人が姿を現すまでのことであった。
村の中心にある井戸で水を汲もうと家から出てきた村人を呼び止め、宿屋はないかとフェルナンディが尋ねたところ、その村人は一行を見て目を丸くし、
「…女神様……っ!」
と呟くが早いか、
「おーい!!女神様が!女神様がいらっしゃったぞー!!」
そう叫びながら村中を走り回った。
どうやらフェルナンディの質問など全く耳に入っていなかったらしい。
やがて、村中の人が一行を取り囲んだ。みな口々に女神様女神様、と言っている。
「何の話だ。」
その人だかりに非常に不愉快そうにルグイが言うと、再び代表としてフェルナンディが、
「それはどういうことですか?」
と先程の村人に尋ねる。
聞けば、この地方に古くから伝わる民話に、災厄が多発して困っている村人を救ってくれる女神の話があるらしい。
その女神は人々に天界の糧をもたらし、救いの道を開いてくれると言う。そして女神は、8人の従者と共に訪れ、金髪のエルフの女性の姿をしているという。
「…と、いうわけで女神様、我々に料理を作っていただけませんでしょうか」
説明のあと、村人の一人がリディに歩み寄って言った突然の一言に、
……………。
一同は唖然とする。
が、言われた本人、リディだけは、目をきらきらと輝かせ、
「うん!わかったよ!!」
促す村人に、笑顔でついていこうとした。
「ちょっ、待っ…!」
それを慌てて止めるアイルザッハ。
「金髪のエルフならこのルグイだって金髪のエルフの女だぞっ!」
間髪いれず、ハスティもそう付け足すが、
「女神は慈愛の象徴である桃色の服を着ていた気がします」
「女神は少女のような外見だったように思います」
など口々に、根拠のない理由を並べられ、
「私、一生懸命作るからねっ!みんなも食べてね!!」
張り切るリディを連れて何処かの厨房へとぞろぞろ移動してしまった。
「…大丈夫なのか?あれ…」
その後ろ姿を見て、誰にともなくハスティが尋ね、
「さあな…」
ぼそりとアイルザッハが答えた。

その晩、村の酒場の長テーブルに村人達が一堂に会していた。
「できたよ〜!」
満面の笑みでリディが次々と卓上に並べていったのは、いつもと変わらぬ個性的な料理の山。

―そして、リディの料理を口にした村人達は、みな揃って天国を見た。
その後、ここの村人は、どんなに質素でわずかな食料でも感謝をして食べるようになり、意地と根性と、こんなことで死ねるかという気合だけでこの飢饉を乗り越え、飢饉に陥る以前よりも増して豊かな土地になったと言う。

旅人達が去ったあと、村人達はぽつりと彼等のことを口にした。
「あの味は、二度と忘れられないな」
「あそこまで色々なものを大量に混ぜ込んだ料理は、この村では決して作れませんね」
「きっと彼女は、ああいう食べ物を作る余地があるくらい、裕福な場所で育ったんだろう」
「まったく、『いいもの』が食べられましたよ」





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