料理



 ・フェルナンディの場合
「できましたよー」
 フェルナンディの声に、待ち構えていたハスティはがばりと体を起こした。
「おせぇよ。」
 フェルナンディの料理はおいしいのだ。おいしいのだが、煮込み料理の性か、時間がかかる。
「すみませんね〜」
 フェルナンディがそう言っているうちに、他のメンバーも集まってくる。
「ロールキャベツだー」
 といつも幸せそうなリディが歓声を上げる。
 そして、
「あ、そうだ。風邪予防のためにこれも飲んで下さいね!」
 フェルナンディがそう言って差し出したのは、いかにもまずそうな色をした何かの汁。
「………………………」
「なんだい、それは?」
 薬屋の息子、ラッセンが恐る恐る訊くと、
「分かりません?」
 笑顔でフェルナンディはそう言った。
「どれどれ」
 九個のコップのうちの一つをラッセンは取り、匂いをかいだ。
 それから、少しなめてみる。
「………………モルサの茎の汁、かな?」
 その味に思いっきり顔をしかめながらラッセンは言った。
「その通りです!」
「そんな物を作ったのか――」
 うんざりした顔でルグイが言った。
「ねーねー、あっちゃん、ぼーちゃん、モルサって何?」
「モルサって言うのは、黄色い花を咲かせる植物の事。全体に毛が生えてて白っぽく見えるんだよ。」
「根は毒を含み、使い方によっては一日相手を動けなくする事も可能。」
 ボクとアイルザッハが順番に説明する。
「後、味がやたらとえぐい。」
 汁を取り出した小さな袋の中に入れながらルグイが付け加えた。
「何やってんの?」
 その様子を思わず観察してしまってから、ナナオが聞く。
 因みに、彼の後ろではボクとリディがお供に汁をあげている。
「ミックスしてる」
「何と?」
「言って分かるのか?」
「――えっと、じゃぁ、何のために?」
 ぱた、とルグイは動きを止めた。
「知りたいか?」
「………いいや」


・ナナオの場合
 ナナオは見張りをしながら、彼の隣に居たロバに話し掛けた。
「ねぇ、みみよん、ぼく、料理できないんだけど」
 王様の耳は4号――略して『みみよん』――は、鼻をならした。

 ――そして翌朝。
「むむっ? これは――!」
 ラッセンが何かに衝撃を受けたらしく立ち尽くす。
「まずそ」
 マリーが眉をしかめる
「ナナちゃん、これは?」
 その隣でリディがナナオに訊いた。
「え? 茹で野菜のサラダ。」
「野菜か、これ?」
 ハスティが訊くと、
「え? ちがうの?」
「この辺に生えてる草ですね。」
 ナナオが皿に盛った物を丹念に調べてボクが言った。
「明らかに野菜とは違うだろう」
「食べられる植物は野菜でしょう?」
「『野菜――生食または調理して、主に副食用とする草本作物の総称。』」
 どこからともなく取り出した辞書を片手にフェルナンディがそういった。
「……つまり?」
 ハスティ、ナナオ、リディが首を傾げる。
「それは野菜とは違う――と言うことですよ。」
「そっかぁ」
「食べられるの?」
 などと会話している五人の横では、
「ふっふっふっふっふ」
 ラッセンが料理にバラを飾り、その出来栄えに悦に入り、
「……………」
 アイルザッハとルグイが、自分の皿の中の――変な草を使ったのか――妙に癖のある『料理』を黙々と食べていた。
 ――とりあえず、食事を食べ終えたルグイがその辺の石をラッセンの頭にぶつけるまで――あと十秒。


・ボクの場合
「今日はトン汁だよ。」
 上機嫌でお供に話し掛けながら、ボクは鍋をかき混ぜた。
「そろそろ最後の材料かな」
 そう呟いて立ち去るボクを見送ってから、お供は鍋に視線を戻した。
 火にかけられた鍋からはいい匂いが立ち上っている。
 火は――、知っている。近付きすぎると熱くて危険な物だ。
 ――しかし、お供は火にかけられた鍋の危険性は知らなかった!
 よって、彼が火にさえ触れなければ大丈夫だと、判断したのは無理もない事だったといえよう。
 お供は近くの木に一気に駆け上った。
 丁度良い場所を探し出し、自分の皮を、んにっと掴む。
 風向・風力、共によし。
 お供は、鳥になった。

 戻ってきたボクが見たものは、今にもお供汁になろうとしている鍋と、その中で今までで一番活発に動いている(暴れている)お供の姿だった。


・アイルザッハの場合
 アイルザッハは、ボクから『新鮮なうちに使ってくださいね』と肉を手渡された。
 彼は少し考え込んでから、おもむろに刃物を手にとった。

 そして朝食。
「わーいっ! アッちゃんの手料理だー!」
「すっげー! バーベキューだ!」
「嬉しそうですねハスティ君」
「おう!」
「あ、ちゃんと美味しそうね。」
「わーっバーベキューだーっ」
 顔を輝かせるナナオを見、ルグイはふとナナオのロバを見た。
「何? ルグイ、今何考えたの?」
「別に、お前のロバが美味そうだ――とかそういう事を思ったわけじゃない」
「そう」
 ほっとした顔をするナナオ。
「――じゃぁ、何考えてたんです?」
 と訊いたのは好奇心の強いフェルナンディで、
「いや、血も滴るような生肉をやったら、食うかな――と」
「………………………」
 今度はフェルナンディとルグイの二人が、ロバをじっと見た。
 ロバは異様な空気を感じたのか、逃げ出した。
「あ、待って!」
 慌てて腰を上げるナナオに、ハスティ、ボク、マリーが
「どうせ後でナナオが呼べば戻ってくるだろ」
「いざとなったら、僕が捕まえてあげますから」
「あたしもロバ居ないと嫌だから手伝うし」
「………うん」
 三人の言葉に、ナナオは座りなおした。
「――じゃ、いっただっきまーす!」
 肉を取ろうとしたハスティの横を、ダガーが掠めた。
「………………………………………」
 いきなりの事に固まるハスティ。
「それはまだだ。」
 そう言ってアイルザッハは別の肉を取った。
「食うならこっちだ。」
「…………どうも……」

 その後もアイルザッハは、まめまめしくリディに焼けた物を取り分け、他のメンバーがまだちゃんと焼けていない物を取ろうとすると、それをハスティの時と同様に止めた。
「……結構面倒見の良い父親になりそうだな。――いや、むしろ過保護か?」
 とルグイ。
「ですね」
 リディとアイルザッハの方を見もせずボクは頷いた。
 慣れているらしい。
「止めるにしたって一言言や良いじゃねぇか、ナイフは無いだろ、ナイフは」
「うん」
 ハスティと自分の間に刺さったダガーを気にしながらナナオが頷く。
「まぁまぁ、ハスティ君」
「ナイフじゃなくて、ダガーだ。」
 宥めるフェルナンディ、訂正を入れるアイルザッハ。
「どっちも似たような物だ!」
「アッちゃんの料理おいしいな」
「そうね。」
 こうしてごちゃごちゃと朝食の時間は過ぎた。


・ルグイの場合。
(肉の方は準備は終わったし――)
 薄切りにされ、つけ汁の中に浸された肉の前でルグイは記憶をさらった。
(後は、鍋を火にかけておいて、野菜を切って――)
 ルグイは空を見上げ、ふう、と溜息を洩らした。

「おや?」
 予定よりかなり早く用意された朝食を見て、フェルナンディは首を傾げた。
「今朝はポテトサラダとか作るんじゃなかったんですか?」
「いや、作ってる途中で面倒になった。」
「――で、たった二品…………………」
 皿の上には、先程つけ汁の中に浸されていた肉がそこから一歩も手を加えられずに盛ってあり、その隣にはまるでつけあわせのようにリンゴが置いてある。
「肉だけじゃなかっただけありがたいと思え。しかも、リンゴの方はちゃんと切っておいた。」
「――わぁ、生肉だ。」
 料理を見て、ナナオが素直に歓声をあげた。
「ルグイさん」
 ボクが何かに気付いて、ルグイに話し掛けた。
「何だ?」
「いえ、お肉ってここ最近、手に入れる機会は無かったと思うんですけど、どうやって手に入れたんですか?」
「昨日のモンスターだ。」
「え?」
 『昨日のモンスター』――植物とタコを混ぜたような外見で、粘液でぬるぬるしていて、液体を吐き出す。
 はっきり言って気色悪い。
 そして強い。
 普通は、あれを食べようとは思わないだろう。
「ほー、あれ食べられるんですね」
「おいしいね」
 動じないフェルナンディ、ナナオ。
 一斉に料理から引いたその他のメンバーに、ルグイは言った。
「毒は無いぞ。」
「そういう問題ではないんだが――」
 アイルザッハの言葉にルグイは首を傾げた。
「……ああ言うのは、食べた事が無いのか?」
「当たり前じゃん」
 マリーが信じられないものを見る目で言った。
「村ではあんな感じの物をよく食べていたんだが――。」
 ぼそっとルグイが爆弾発言を落とした。
「ちょっと待て、一体どういう村で暮らしてたんだ?」
 突っ込むハスティ。
「普通のエルフの村で」
「何で普通の村であんな変な物を食べるんだよっ!?」
「一番手頃だったから。」
「は?」
「見てくれは悪いが、毒はないから処理は簡単。どちらかと言うと単純馬鹿だから狩りやすい。強さも、まぁ、それほど強くはない。それに何より、村の近くに生息していたから。」
 ――と、ルグイは淡々と語った。
「………………………………………」
 ――結局、三人以外の何人が肉を口にしたのかは、永遠の謎である。


・ハスティの場合
 調理道具を片手に、ハスティは悩んでいた。
「どうしようかなぁ」
 実はハスティが料理できなかった。
「何か皆、結構こったもの作るしなぁ。オイラもこった方がいいかなぁ?」
 そこにフェルナンディが通りかかった。
「あ、フェルー」
「? 何ですか?」
「料理のレシピ教えてくれ!!」
「良いですよ。材料は何があります?」
「えっと――あれ。」
 ハスティは真っ直ぐ材料の置いてある方を指差した。
「――成る程」
 そう言ってフェルナンディは白衣の内側に手を入れた。
「――あれ?」
 がさがさがさ
「ちょっと待ってて下さいね。」
 白衣の内側を探った後、フェルナンディは本格的に自分の白衣の内側を漁りだした。
 すると――白衣の内側から出て来る出て来る――分厚い本三冊。謎の小袋四袋。保存食一袋。
(一体あれのどこにあんなに入ってるんだ……)

「あ、ありました!」
 さらにリンゴ二個、香辛料の小ビン三ビンばかりを取り出したところで、フェルナンディはそう言った。
「はい!」
「おう、サンキュ」
「それじゃあ、頑張って下さいね。」
 フェルナンディが去った後、ハスティはレシピを開いた。

   246c/mg ×30M
          ↓
K+N  →   KCN(+KC)

3H+4B+5R=Y

   6mΣS

 レシピは数式や化学式のようなもので書かれていた。
「…………………………………何の暗号だよ……」

 ――数分後。
「っだーっ。もういいっ!」
 しばらくフェルナンディの暗号を解読しようと努力した後、ハスティはそれを放棄した。
「料理なんて、生じゃなきゃいいんだ!」
 そしていきなり、いささか極端な結論を出す。

 そして昼食。
「わー、これなんていう料理? 真っ黒だ〜。」
 私こんなの見た事無い、と目を輝かせるリディ。
「………………………」
 穏便なコメントを探すボク。
「これはきっと、僕のお茶を皆で優雅に楽しめ、という天啓だよ!!!」
 ラッセンは早速お茶会の準備に入っている。
「外は炭だが中は生だな。」
 自分が齧った断面を見てアイルザッハ。
「もっとまともな物作れないの?」
 マリーが言った。
「火が強すぎたんですね。この感じだと火力は――」
 と、いきなりハスティが料理した時の火の、一秒間における熱量計算をはじめるフェルナンディ。
「わーい、いっただっきまーす。」
 常に動じないナナオがそう言い、
「不味い。」
 さっさと一人先に食べ終わったルグイが、遠慮容赦の無いコメントを述べた。
「って言いつつ全部食べるんだな。」
 思わずハスティが突っ込むと、
「食べものを無駄にしたらバチがあたる。」
「これマズくないと思うよ。」
 ナナオが首を傾げた。
「お前味覚変だよ。」
 先に味見をしていたハスティ(作った本人)がきっぱりと断言した。
「ナナオ、お前は、不味いと思う物はあるのか?」
「え? ………………………あるんじゃないかな」
 アイルザッハの問いにしばらく考え込んだ後、特に該当する食品が無かったらしく、ナナオはそう答えた。
「でもほら、良薬口に苦しっていいますし、これはこれでなかなか――」
 味覚音痴第二号(アイルザッハ・ハスティ心の命名)がそうコメントした。
「――リディ、これ、この間の残りなんだけど、一緒に食べようか」
「うん!」
 ボクはリディと一緒に回避行動を取った。
「あ、うまいのがあるんだったら、オイラもそれ食べる!」
 と言ったハスティの体を、二人分の手が押さえつけた。
「調理人は責任を持って食事を残さず食べる事」
 さり気無く首に手を掛けるルグイ。
「作った奴が回避してどうする。」
 微かに殺気立つアイルザッハ。
「い、いや、えっと・・・・・・」
 綺麗な顔のエルフに上の方から詰め寄られると、なんともいえない迫力があった。
「……………………食べます。」


・マリーの場合
「今日の料理当番はマリーだったのか」
 ハスティは頭を抱えた。
 ボクの隣で、ヒッという息を呑む音が聞こえた。
「リディ?」
 リディが蒼白な顔色で震えている。
「昔を思い出す…」
 遠い目になるアイルザッハ。
「何よ、何か文句でもあるの?」
 腰に手をあて喧嘩腰で言うマリー。
「リディ、大丈夫?」
 ボクが心配して訊くがリディの耳には入っていない。
「う〜ん、ボクの美学にはちょっと沿わないなぁ」
「薔薇でも摘んできて飾ったら?」
「お〜!!! それはナイスアイディアだ!!!」
 マリーの言葉にすかさず薔薇を取り出すラッセン。
「どこから出したんだ…」
「気にするな、それがラッセンだ。」
 ハスティが呟くと、そんなことに頭を使うのがもったいない、と言いたげな口調でルグイが言いきった。
「大丈夫ですか、リディ君は?」
「…さぁ……取りあえず、アイル兄さんに任せてみましょう」
「そうですね。」
「リディ、リディ!」
 大好きなアイルザッハの言葉にもリディはまったく反応しなかった。
「ここに居るといろんな物が食べられるね〜」
 ニコニコとナナオは手を伸ばした。
 その瞬間、リディの金縛りが解けた。
「いやあぁぁぁぁぁぁ―――――――――っ!!!!!!!!!!!」
 くるりと向きを変えると光の速さすら超えそうな勢いで逃げ出した。
「リディ!」
「あ、リディ!」
 慌ててその後を追うボクとアイルザッハ。
「あの二人が行ったのなら、大丈夫ですかね」
 リディ達を見送ってフェルナンディはそう言い、そして――
「そうですねぇ。――地域によっては、虫は非常に健康にいいとされているんですよ」
 咀嚼して、嚥下してからそう説明する。
「美味いか?」
 普通に無表情で食べてるルグイにハスティが訊くと、
「普通じゃないか?」
「………へぇ…」

 ――本日のメニュー。バッタの仲間の昆虫数種類の佃煮とご飯。

 因みにリディは、ボクとアイルザッハに回収され、ボクの手料理を三人で食べたという。
 それを知ったハスティが不公平だと文句を言ったとか何とか…


・ラッセンの場合
「うーん、どうしても優雅にならないなぁ」
 彼の目の前には、味はともかく、いかにも不細工な外見の料理が置いてある。
「よし!」
 ラッセンは何かを思いついた。

「……………………………」アイルザッハ
「何、これ」リディ
「薔薇だな。」ルグイ
「――薔薇ですね。」フェルナンディ
「しかも、薔薇の下に皿が――」ボク
「皿っていうか――皿もあるけど――何か、薔薇のすぐ下に、料理っぽい物が無いか?」ハスティ
「ここってまともな料理作る奴殆ど居ないわね」マリー
「……………………ラッセン、薔薇を食べるの?」ナナオ
 数分後、集まってきたパーティは――いつもラッセンが持ち歩いている――テーブルの上に飾られた薔薇を見て、今日の昼食当番を探した。
「いやぁ、はっはっはっはっ。どうやっても見目良くならなかったから、薔薇で優雅に飾り付けてみたよ。みんな、この薔薇を愛でながらお茶会と行こうじゃないか!」
 無論ラッセンは、この後ほぼ全員から突っ込まれた。


・リディの場合
「今日は腕によりをかけて作るから、楽しみにしててね!」
 そう言ってリディは、足取りも軽く去っていった。
「……………………ボク」
「何です? アイル兄さん」
「昼の食事当番はリディか?」
「ええ」
「………このパーティとは短い付き合いだったな。」
 そう言ってアイルザッハはボクに背を向けた。
「俺はまた旅に出る。」
「もう出てるでしょう。それに、どうせまた捕まりますよ。」
「…………………………………」

 ――そして、運命の時が来た。
「みんなー、お待たせー!」
 皿にのせられていたのは、ありえないほど鮮やかな緑と青のクッキー。
「…………………………………」
 全員思わず沈黙する。
「ほー、クッキーですか」
 ただ一人動じないフェルナンディが、それを平然と口に運び、
「なかなかユニークな味で、美味しいですよ。」
 そう言って更に二枚目に手を出す。
「何故倒れないんだっ!」
 思わず詰め寄るアイルザッハ。
「…………………おいしいのかな?」
「……まぁ、色は綺麗っちゃぁ綺麗だし――」
 続いてハスティとナナオが手を出した。
 アイルザッハが息を飲んで見守る中、
「あ、本当だ! すっごくおいしい!」
 ナナオが目をうるうるさせて歓声を上げた。
 ――しかし、
 どさっ
「わっハスティ! どうしたの?」
「ハスティ君っ!」
 慌ててフェルナンディが診察する。
「…………………………気絶してるだけのようですね。」
「わぁ、そんなにおいしいかった!?」
「よかったね、リディ」
 根本的なところで何か認識の違うボクとリディ。
「良かった」
 ぼそっとアイルザッハが呟いた。
(リディの料理がいきなりましになったという、いや、むしろ美味しくなったという、世界が滅びる前触れのような事態ではなかったんだな!)
 呟いた後で、彼がそう思ったのはリディには内緒である。
「――そんなにまずいのか?」
 ルグイが訊ねる。
「ああ。――フェルとナナオは何故平気なんだ?」
 その横で、リディが新たな犠牲者を生み出さんとしていた。
「ラッちゃんも――」
「ふむ。なかなか綺麗な色だね。――では、一つ」
 ―――――。
「……何故、あいつは食ったんだ?」
「どうせハスティが倒れる所を見てなかったんだろ。自分の世界に飛んでて」
 心底不思議そうに言ったアイルザッハに、心底からどうでも良さそうにルグイが言った。
「はい、アッちゃんも!」
 はっと気付くと、無邪気な笑みを浮かべた死神が目の前に居た。
 現実から逃避していて、気付けなかったらしい。
「はい、あーん」
 アイルザッハは、口にクッキーを突っ込まれた。
 ―――――。
「墓でも掘ってやるか」
 極めて冷淡にルグイが言った。
「はい、マリーちゃんとルーちゃんも!」
「あ、あたし甘い物駄目だから」
 マリーは回避した。
 まぁ、彼女が言ったことは嘘ではないが。
「そうなの…? じゃぁ、ルーちゃん、はい!」
 手渡されたクッキーをじっとルグイは見下ろした。
(どんな味なんだ?)
 振り返れば力尽きた戦士たち。目の前にはにこやかな表情でそれを食べる二人の神官戦士。
 少し思案した後、手についた粉のように小さなクッキーの欠片をなめてみる。
(――っ!)
 脳を激しくシェイクされた後内臓を抉られるような衝撃が舌から広がった。
 味は――記憶に残っていない。
 ――というよりむしろ、思い出そうとすると激しい頭痛がする。
「? どうしました、ルグイ君」
 ルグイの様子に気付いたフェルナンディが心配そうな顔をする。
 その肩にぽん、と手を置き、
「私はこれからお前達をハーフエルフやドワーフとして認めない」
「えぇっ?」
「何でーっ?」
「気にするな」
「――じゃぁ、リディ、僕達も食べようか。」
「うん!」
 隣から聞えてきた二人の声に、ルグイがそちらを振り返ると、
「…………何故お前等だけまともな物を食ってるんだ?」
「え? だって手作り料理は大切な人たちに食べさせる物だもの」
 どうやら、自分の料理がまともではない、といわれたことには気付いてないらしいリディ。
「僕は、リディに作ってあげるついでに自分の分も作ってるんです。」
「そこまでやるなら、他の人間の分も作ってやれ。」
 自分だったら、気が向かない限りやらない事をルグイは言って、溜息をついた。
 リディの料理の味を知らないボクは、ルグイの言った事の意味がよくわからず、首を傾げ、
「――ところで、ルグイさん?」
「何だ?」
「さっきからしきりに袋に詰めてるクッキー、」
 そう言うボクの隣で、お供がお供用の皿に盛られたリディのクッキーを、凄い勢いで食べている。
「どうするんですか?」
「いや――特に考えては居ないが、色々な事に使えるかな、と」
 ――皆が復活したのは、それから約一時間後の事である。


 この後、パーティでは、料理当番は一日につき三人一組でする事となった。




後書き
 皆の日常料理編ってとこですね。
 取りあえず、料理に関してはナナオとフェルナンディは無敵。
 自分で自分の首をしめる馬鹿としてラッセン。
 ま、あそこまで自分のポリシーを貫ければある意味立派。
 ボク、何故リディの料理の味を知らないんだ!
 絶対にリディの料理は美味しいという先入観が目に鱗を貼り付けまくっているのでしょうね。
 リディは言うまでも無く。
 ハスティは物の怪のらっしーのおかげで胃は丈夫らしいですから
 フェルナンディ――彼以外で彼のレシピを解読できるのはルグイだけ。
 マリーとルグイはいったいどう言う食生活をしていたのか実に気になります。

フェ「ご馳走様でした」