ルグイたちの村では、植物や家畜を育てる十分な平地が確保できないため、自然食料(特に肉類)は森から取ってくることになる。
そして、その役割は森の中に入っても死なない程度の実力がある者達に回ってくる。
「じゃぁ、ヴィオラ、ルグイの世話、ちゃんとしろよ」
そういったのはルグイの父親のカルソ。今日彼は狩に出る。
言われたのは、ルグイの母親のヴィオラ。そしてその横には五歳前後の子供。
「大丈夫よ(多分)、任せといて」
カルソの要求を満たすことは自分はできないだろうと自覚しつつも、必要最低限のルグイの世話は出来ると、自信を持ってヴィオラは頷いた。
「…………」
そのヴィオラに疑わしげな視線が複数突き刺さる。
(うっ)
一番疑わしげな目をしているのが我が子と最愛の夫であるというのは結構きつい。それだけの実績を過去に積んできたという自覚があるだけになおさら。
しばらく、時間が止まる。
「俺達もついてるから――」
流石にこのままでは話が進まないと思った村人の一人がカルソにとりなした。
それでようやくカルソが動いた。
「そうだな。」
頷いて、村人達に視線を転じる。
「ルグイを頼む」
「ラジャ」
それにおどけた調子で別の村人が応じた。
「まぁーったく、カルソも心配性よね、ちょっとやそっと雑に扱ったって、子供はそう簡単に壊れやしないわよ。ねー、ルグイv」
カルソが去った後、腰に手を当ててヴィオラは言い、ルグイに笑いかけた。
「………………」
一瞬何か言いたげな色がルグイの目を走ったが、結局何も言わずにルグイはヴィオラから視線をそらした。
いちいち相手をするのが面倒くさい気分だったようだ。
ヴィオラの相手をしたのは側で見ていた村人だった。
「いや、あんたの雑は育児放棄に等しいから」
「そんなこと無いわよ、現に今だって死んで無いじゃない」
聞いていた人間の何人かがそれは違う! と激しく内心で突っ込んだ。
「そもそも基準に死ぬとか出てる時点で間違ってるって…」
至極まともな突っ込みにヴィオラはむっとしたような顔をした。
「全く、皆失礼しちゃう、わたしだって育児ぐらいできるわよ。」
ぶつぶついいながら、やや乱暴な手つきでヴィオラは実験器具をチェックする。ついでに時計も見る。
今日実験できる時間が終わるまでは――
「あと七時間…うん、実験一つ終わらせられるわね。」
すでに育児を忘れているようであった。
「ルグイー、飯は?」
昼食時、ルグイの様子が気になって見に来た村人が訊いた。
「今食べた。」
淡々と答える五歳児。
しかし、家にヴィオラは見えない。村人はもう一人の村人と顔を見合わせた。
「…ヴィオラは?」
彼女は昼食を食べたのか?
その意は正しく伝わった。
「まだ」
村人二人は顔を見合わせた。過去の例からしてヴィオラは実験だろう。だとしたら――
「おまえ、自分で飯を作ったのか?」
「他に誰がいる?」
「……………」
思わず絶句する二人。
「まぁ、地方によっては子供でも刃物を使うって言うし…」
「そ、そうだよな」
やや引っ掛かりを覚えつつも二人は頷いた。
「それに、ルグイだしな」
「ああ!」
二人は深く納得した。そして頷いた。
やや呆れたような目で二人を見て、ルグイは家の中を指した。
「暇なら、昼飯をヴィオラに持っていってくれ。」
森に行くと、大抵必要なものを出来るだけ一度に集めようとするので、最低でも数日かかる。今回カルソの不在は三週間ほどになる。
そして三週間目。
「そういえばルグイ、今の時間、カルソは大抵何をしてるの?」
カルソが帰ってくる日に突然育児を思い出すヴィオラ。
「絵本の読み聞かせ」
「ふーん」
数分後
「面白くないわ、これ」
あっさりとヴィオラは絵本に飽いた。
それなりに色々と興味深いと思うのだが、とヴィオラが何故飽きたのか理解できずに悩むルグイ。
「あ、これなんか良いわ! 『賢者の考える魔道理論』」
数時間後
カルソはいつもの癖で気配を感じさせずに家に入って、中から聞こえるヴィオラの声に首を傾げた。
(何かを朗読している?)
彼は訝しげな顔をした。
(しかし、ヴィオラが普通の本を五分以上真面目に読めるとは思えないが…)
その判断は非常に正しい。
「『これによってフューズ・リビルドは第七』」
「……もっと子供向けのものにしたらどうだ…」
「面白くないもの」
「…………」
憮然とするカルソに、漸くヴィオラは気付いた。
「あら、カルソお帰り」
水霞さんに触発されて、水霞さんの書き方(?)を真似してみたり。
良く、ルグイ氏は周囲に『ご両親に似ているね(外見も性格も)』と言われます。まぁ、影響は受けるなっていう方が無理なんでしょうね。生まれたときから性格変わってないと言う話もありますが。
いやしかし、影響は受けてるはずです。
そして、どうでもいいですが、とことん無表情な奴の表情の変化を見分けられるのは、特に親しい人のみだったそうです。
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