子猫の〈あいる〉は捨て猫でした。ご主人様はごめんねと言いながら、あいるを置いてけぼりにして、何処かへ行ってしまいました。でも小さいあいるには、何があったのか分かりませんでした。街の空き地の片隅の、「拾って下さい」と書かれたダンボールの中で、あいるはにゃーにゃー鳴いていました。
夜になると鳴き疲れて眠り、朝が来るとまたにゃーにゃー鳴きました。でも誰もあいるのところに来てはくれませんでした。
そのうちあまりにお腹が空いて、とうとう鳴くのをやめてしまいました。それからはほとんど一日中、ダンボールの中でぎゅっと丸まっていました。
ある日のことです。その日は朝から雲が厚く、あいるは何故だかヒゲがぴりぴりして、ずっと落ち着かないでいました。
夕方頃になってぽつぽつ雨が降り出しました。あいるは雨を見るのが初めてでした。時々ぽつりと体に落ちる雨粒にびくっとしながら雨に攻撃しますが、もちろん当たるわけがなく、こてんと転んでしまいます。
けれどそんなふうにしている間に雨はどんどん強くなり、ダンボールは水浸しになってしまいました。
くしゅんとくしゃみをしたあと、ぶるぶると体をふるわせて毛にこびり付いた水滴を飛ばしますが、次から次から降ってくる雨と、ダンボールに溜まった水で体の熱が奪われていってしまいます。あいるはなんとかここから出ようと、必死でダンボールの縁に飛びつこうとします。その時でした。
2人の小学生が空き地の前を通りかかりました。1人はピンクの傘をさしたピンクのランドセルの〈りでぃちゃん〉、もう1人は蒼い傘に蒼いランドセルの〈ぼーちゃん〉でした。
ぼーちゃんが、かたかたと揺れているダンボールの箱に気付いて言います。
「りでぃ、あの箱が動いてるよ。中に何かいるのかも」
ぼーちゃんはそのダンボールに近付いていきます。虫だったらいやだな…と呟きながら、りでぃちゃんも後に続きました。
そして、その中にいたあいるの姿を確認して、
「わぁ、りでぃ、子猫だよ」
とりでぃちゃんに声をかけます。
「濡れちゃって可哀想だね。でもうちじゃあ飼えないから、食べ物あげて何処か雨に濡れないところに連れて行ってあげようよ」
そう言って、あいるの頭を撫でていたぼーちゃんは、自分の後ろでりでぃちゃんの瞳に小宇宙が輝き、頭上にハートが乱舞している事に気が付きませんでした。
言った事を実行しようと、ぼーちゃんが立ち上がろうとした次の瞬間、りでぃちゃんの目がキラーンと光り、がばっ!と傘を投げ捨ててあいるを抱き締めました。
「ぼーちゃんっ、この子うちで飼うっ!」
ついさっきのぼーちゃんの提案一切無視のりでぃちゃんの発言にぼーちゃんはびっくりして、
「でもまたるぐいお母さんが許してくれないよ?」
とたしなめようとしますが、
「大丈夫っ!きっとふぇるちゃんパパなら許してくれるよ!!ねっ、善は急げ!」
そう言うとりでぃちゃんは、あまりにきつく抱き締められた為に目を回しているあいるを抱いたまま、家に向かって走り出しました。
「えっ!?ちょっと待ってりでぃ!」
ぼーちゃんが慌てて声を上げ、
「傘忘れてるよーっ」
その後を追いかけていきました。
こうして、あいるはりでぃちゃんにさらわ…拾われて、2人のお家へ行くことになったのでした。



「ね、るーちゃんママ、この子、飼ってもいーい?」

「だめだ」

即答でした。しかし、スキル「人の話を聞かない」を発動させているりでぃちゃんには、るぐいお母さんの言葉は届いていませんでした。
「名前はどうしようか?何がいいかなー」
るぐいお母さんは眉根を寄せて、深いため息をつきました。「人の話をまったく聞いていないな…。一体誰に似たんだ」と、口の中で呟きましたが、実はるぐいお母さんも人の話を無視することが時々あります。
「だいたい、そんなびしょ濡れで入ってくるな。床が水浸しだ」
るぐいお母さんに言われて、りでぃちゃんはきょとんとしました。
りでぃちゃんはあいるを抱いて走ってきたときに傘を差していなかったので、びしょ濡れだったのです。ちなみに、肝心の子猫のあいるは、あんまりきつく抱かれたので、りでぃちゃんの腕の中で伸びていました。子猫は優しく抱いてくださいね。
「はい、りでぃ」

ぼーちゃんが気を利かせて、直ぐにタオルを持ってきてくれました。
「ありがと、ぼーちゃん」
りでぃちゃんはぼーちゃんからタオルを受け取ると、直ぐにあいるの身体を拭いてあげました。りでぃちゃん自身は、ぼーちゃんに拭いてもらっています。
しっかりと身体が拭かれたころ、ようやくあいるも目を覚ましました。
りでぃちゃんはあいるをるぐいお母さんに近づけて、必死に飼う許可を貰おうとしています。もちろん、その後ろでぼーちゃんが子猫が苦しそうにしていることを心配しているのには気づいていません。

と、その時、玄関のドアが開きました。
「ただいま………って、どうしました?何かあったんですか?」

玄関から現れたのは、白衣姿のふぇるお父さんでした。
「ふぇるちゃんパパ!!」
りでぃちゃんは嬉しそうにふぇるお父さんに跳びつきました。
一方、るぐいお母さんは、子供たちに甘いふぇるお父さんが下すであろう決断を思って独りため息をついていました。
「ね、ふぇるちゃんパパ、この子猫飼ってもいーい?」
りでぃちゃんは満面の笑みで尋ねました。ぼーちゃんもりでぃちゃんと一緒にお願いします。ふぇるお父さんはりでぃちゃんとぼーちゃんの頭を撫でてもちろんいいですよ、と言い、るぐいお母さんに向き直りました。
「私はさっきからだめだと言っている」
るぐいお母さんのはっきりとした物言いに、流石にふぇるお父さんも驚き、困ったような顔をしました。
「どうして…」
「世話が面倒だ。家具で爪を研ぐ。」
「りでぃがちゃんとお世話するから!」
「僕も手伝います」
りでぃちゃんととぼーちゃんが子猫のあいるを腕に、必死に言うと、ふぇるお父さんも「そうですねぇ…」と呟きました。

「では、お兄さんたちみんなが飼ってもいいといったらよしとしましょう。ねぇ、るぐい君?」

奥さんを君付けするのは何かおかしい。などということは措いておきましょう。
るぐいお母さんは、あれだけ反対しておいて、そろそろこの話題に飽きているようで「ああ、そうだな」と、適当に答えるだけでした。
「では、がんばってくださいね」
ふぇるお父さんに頭を撫でられて、りでぃちゃんとぼーちゃんは勢いよく飛び出していきました。子猫のあいるだけは今の状況がわからずきょとんとして目を瞬かせていました。
二人はまず、リビングから一番近いお部屋に行きました。
ネームプレートには『はすてぃ』と書かれています。
「はっちゃんお兄ちゃん!」
「失礼します」
ぼーちゃんは礼儀正しくお部屋に入ってきますが、りでぃちゃんには礼儀などという言葉は頭にないようでした。
「なんだよ、二人して」
はすてぃお兄ちゃんは少し驚いて二人を振り返りました。はすてぃお兄ちゃんは今ちょうどやっていた、P○のジャス○ィス学園という格ゲーをとめました。りでぃちゃんは腕のあいるをはすてぃお兄ちゃんに差し出しました。
「あのね、猫!」
「は?」
あまりに成り立たない文章に、お兄ちゃんは首をかしげました。
「猫、飼いたいんです。お父さんが、みんなに承諾を貰ったら飼っていいって」
しっかり者のぼーちゃんがわかり易く説明しました。
するとはすてぃお兄ちゃんはにっこり笑って、
「いいぜ。おいら、動物好きなんだ」
そう言ってあいるの頭を撫でました。


「猫を飼いたいですって?」
今までの経緯を聞いて、まりーお姉ちゃんが振り返りました。
二人ははすてぃお兄ちゃんから承諾を貰うと、直ぐに向かい部屋のまりーお姉ちゃんのお部屋を訪ねたのです。
まりーお姉ちゃんは、がっこうの宿題なのか、彫刻刀でなにか、木のようなものを削っている真っ最中でした。
「うん、そうだよ」
「まりー姉さん…、だめですか?」
りでぃちゃんとぼーちゃんは心配そうにまりーお姉ちゃんを見つめています。
まりーお姉ちゃんは子猫のあいるをじっと見つめました。
「ねぇ、抱かせてくれる?」
「あ、うん!」
りでぃちゃんの手からあいるを受け取りました。ちっちゃくて、まりーお姉ちゃんの手にすっぽりと入ってしまいます。銀色の毛並みが可愛くて、まりーお姉ちゃんは嬉しそうに笑いました。気恥ずかしいから誰にも言っていませんが、実はまりーお姉ちゃんも猫などの小動物は大好きなのです。
「あたしは賛成よ!」
その言葉を聴いて、りでぃちゃんとぼーちゃんは嬉しそうに次のターゲット(笑)のもとに向かいました。
「ななちゃんお兄ちゃん」
「ななお兄さん」
りでぃちゃんとぼーちゃんは元気良くななおお兄ちゃんのお部屋に入りました。前の二人が快く猫を飼うのに賛成してくれたため、勢いづいているのです。
「ふぁれ?どうしたの、二人とも」
ななおお兄ちゃんはもごもごと口を動かしながら尋ねました。ななおお兄ちゃんの周りには、マク○ナルドのハンバーガが山のようにありました。毎日恒例の「おやつ」の時間です。
「ね、猫飼ってもいい?」
「兄さんたち全員の了承がいるんです」
りでぃちゃんはあいるをななおお兄ちゃんに見せながらいいます。
「……ちょっとお肉が少ないなぁ」
「え?」
ななおお兄ちゃんの言葉に、あいるの毛がぴっと逆立ち、りでぃちゃんの腕の中でもがきました。
「ううん。僕は飼ってもいいと思うよ」
ななおお兄ちゃんが言うと、りでぃちゃんとぼーちゃんは嬉しそうに笑いました。……ただあいるだけは僅かに震えていましたが。


さぁ、最後の難関(?)です。
りでぃちゃんとぼーちゃんは顔を見合わせながら頷きあいました。この人の承諾を貰えば、あいるを飼えるのです。
ぼーちゃんがドアをノックしました。
「どうぞ〜」
中に入ると、噎せ返るような薔薇の匂いがしました。赤に黄色、白に黒と、さまざまな薔薇が部屋中で咲き誇っていました。
なんとなく不穏な空気を呼んだのか、あいるがふー!と唸りました。……ただ単に薔薇の匂いが嫌だったのかもしれませんが。
「らっちゃんお兄ちゃん」
「僕たち、猫を飼いたいんです。らっせん兄さんにも、許可をいただきたくて」
らっせんお兄ちゃんは、薔薇に囲まれた部屋の中央で優雅にティータイムを楽しんでいました。
「猫、か。いいねぇ。僕はふわふわしたものが大好きだよ〜。まぁ、猫よりも犬のほうが好きだけれどねぇ〜。ポメラニアンなんか最高さぁ〜」
話題が猫から犬に移っています。ここが、このお兄ちゃんが難関である所以です。
らっせんお兄ちゃんが自分の世界に入っている間に、りでぃちゃんとぼーちゃんはそこらへんにある薔薇であいるを飾りました。
「「この子、飼ってもいい(ですか)?」」
突然目の前に現れた、薔薇で飾られたあいるを見て、らっせんお兄ちゃんは目を見開きました。
「素晴らしい…。Excellent!!これこそ僕の部屋に相応しい猫だね〜!僕はこの子を飼うのに大賛成さ〜」
「やったぁ!」

かくして、子猫のあいるはこのお家で飼われることになりました。
毎日りでぃちゃんお手製の餌をもらい。
トイレを薔薇で飾られ。
髭をひっぱられたり、抱かれたり。
ふぇるお父さんお手製の薬品で身体を洗われたり。
おいしそうと言われたり。
とっても幸せに暮らしたのでした。




これは交換日記において恒例の強制ネタ振りに使用された話であるため、あいるとりでぃ達の出会いの部分のみ暗光鼠、残り全ては水霞碧の作となっております。
しかし合作と言えど、それを行った二人が「ラッセンを可憐に散らすか、アイルを不幸にすれば夢想の話はオチが付く」「むしろ不幸でなくちゃアイルじゃない(?)」同盟を結んでいる人間なせいで、その時点で結末は決定したようなものでした。
…負けるなアイル!頑張れアイル!




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