「点字図書館」

 学生時代、高田馬場にある盲人のための図書館「日本点字図書館」の
朗読奉仕者養成講座を一年間受講した。目のご不自由な方のために
対面朗読やテープ録音による朗読者を養成するためのもので、簡単な
音声テストを経て受講が許可された。当時養成講座があったのはここ
だけだったが、現在は全国に広がり、私がよく利用するC市の中央図書
館の福祉提供サービスの中にも朗読者養成講座が併設されている。
C市の概要は分からないが、日本点字図書館の研修は大変厳しいもので、
ここで朗読の基礎とその奥深さを教わったと思っています。

 担当講師は中川貞子先生といって、確かNHK放送劇団のご出身だった
と記憶している。もちろん中川先生も無給での奉仕活動で、自分の出来る
ことを通じて、何か社会に返したいと考えていらっしゃる方だった。
真夏の暑い中でも凛とした時間は続き、教室にはいつも緊張感が満ちて
いた。後年、最近お亡くなりになった同劇団出身の山内雅人さんのご指導
を受ける機会があったが、お二人とも、さすがにラジオ時代を生きた放送
劇団出身の俳優で、その「物言う術」は確かなものでした。

 図書館のテキストは短編小説が用いられることが多かったが、志賀直哉
の「小僧の神様」が素材の時、後にも先にも一度だけ誉められたことがあり、
登場人物にその色が出ているというものだった。すし屋のおかみさんが何か
小僧さんに尋ねる場面だったと思うが、「男性が表現できるのに、どうして?」
と女性陣に指導が振られました。男性は私一人、あとの七〜八人の受講生
は全て女性だったので、誉められて嬉しいのと何か悪いことをしたような気持
ちが交錯していたのを覚えている。出番の日、時々夕食に立寄る小田急線・
U駅近くの洋食店「N」のご夫婦が、私にとってこのすし屋さん夫婦のイメージ
に近く、次回の「雲の糸」更新時にその点に触れてみたいと思っている。

 ともあれ、今は宅配が精一杯ですが、個人タクシーに移行できて少し時間の
ゆとりが出来たら、C市の関係者などにお願いをして、また朗読の方のお手伝
いもさせていただけたらと思っている。