聖ヴェルファウスト女学院高等部−都心からわずか1時間の郊外にあるこの学校は新設
校ながら、ハイテク最先端の機器導入がされた近代的な施設設備と小等部から大学院まで
の一貫教育の質の高さから政財界の子女が多く通うことで有名となっていた。この郊外の
丘陵地に高等部・大学部を置き全寮制、新都心臨海エリアに小等部・中等部があった。
窓辺から春の優しいそよ風が吹き込んで、保健室の単調なクリーム色のカーテンを揺ら
す。小春日和ののどかなひとときがゆっくりと過ぎていた。保健室には診療室とは別に校
医用のプライベートな休息室が設けられていた。その部屋にある全身がすっぽりと入る大
きな安楽椅子に包み込まれるように2年生の樋川ゆかりは、まるで木陰で昼寝をしてしま
ったあどけない少女のような穏やかな表情で寝ていた。ゆかりの目はわずかにうつろで、
薄い唇が半ばけだるげに開かれている。彼女の傍らに、白衣姿のまだ学生っぽさがぬけき
らない若い校医、西ノ宮麗佳が立っていた。彼女は手元の時計に目をやりながら、安楽椅
子の上に身を乗り出すようにゆかりに顔を近づけた。
「さあ、もう一度聞かせてちょうだい。あなたは誰?」
「わ・・わたしは、ゆかり・・・樋川ゆかり・・・麗佳先生のペットです・・・」
ゆかりは無表情のまま言葉を口にする。
「続けて、ゆかり」
「わたしは・・・麗佳先生の言いつけや、麗佳先生の望むことには、わたしの・・すべて
・・をかけて・・従います・・」
「うれしいわ、ゆかり。あなたは私の言いつけを守る忠実なペットよ」
麗佳の言葉にうなづきながら、ゆかりはうつろな表情のまま、だらしなく微笑んだ。麗佳
の言葉に悦びを感じているかのようだった。麗佳は左手でゆかりの髪をやさしくなでなが
ら、右手は腰から太腿を愛撫していく。その手をやがてゆっくりとチェック柄のスカート
の奥へと忍ばせていく。麗佳の指がゆかりの体に触れる。
「あぅっ・・・・」
ゆかりは、びくっと体を震わせると目を閉じて悦びの表情を浮かべる。
「ゆかり、我慢しなくていいのよ。あなたはあなたの思うままに感じて声を出すわ」
「あふぅん・・いい、気持ちいいのぉ・・・・・」
先ほどの無表情とは一転して喜悦にあふれる「女」の表情をゆかりは表していた。ゆかり
の腰が麗佳の手を中心に悩ましげに動き出す。口元からは甘い吐息がもれる。
「さあ、あなたはもう自分で自分をコントロールすることが出来ない。あなたはすべてを
私に委ねるのよ。何の不安もない、まるで空に浮いた雲のようね。今まで以上に感じてく
るわ、体中何処をさわられても今までよりもっともっと気持ちよくなる・・」
ゆかりは麗佳に攻められながら、自分でも両手で制服の上からふくよかな胸を揉みしだく。
淡いブルーのシャツにブラの模様が浮かぶ。
「あぁ〜ん、もっと、もっとぉ・・・」
ゆかりの声はだんだん大きくなり、喜悦の声は部屋中に響く。麗佳はゆかりの性感への刺
激を続けながら耳元でつぶやく。
「聞きなさい、ゆかり。私があなたを満足させてあげられる唯一の存在、あなたは私の望
むことには、あなたのすべてをかけて行動するのよ。それがあなたの喜びであり、あなた
のペットとしての生きがいなの。わかるわね・・・」
「・・あぅ・・あ・・はい・・」
「いい子ね、ほぉら、もっと感じてくるわ。もう耐え切れないくらい。周りのことは全然
気にならない、ここはあなただけの世界よ。さあ、全身で楽しみなさい、あなただけの世
界を・・さあ!」
冷静にして鋭い眼差しの麗佳からは、さっきまでの女子大生のような初々しさは消え失せ
て、妖しげな艶ぽっさ感じさせる女の表情がにじみでていた。麗佳の手がより一層激しく
動き始める。
「やん・・あぁ、あぁぁ、気持ちいいい、気持ちいいのぉ、せんせぇ、れいかせんせぇ、
あぁ、あぁぁぁぁぁ・・・・」
ゆかりの体が安楽椅子の中で激しく反り返った後、ビクッ、ビクッと何度も断続的に震え
た。ゆかりの眉間に汗がにじむ。やがてゆかりは安楽椅子の中で力尽きた。
「ふふ、ゆかり、あなたって本当に感じやすい子ね。まぁ、私が手をつけるまであなたの躰は何も知らずにいたんだもんね。魅力的な・・・開拓しがいのある躰だわ」
麗佳はゆかりのスカートの中から引き抜いた濡れそぼった指を楽しげにぺロッと舐めた。
ゆかりの耳元に顔を近づけると、ゆかりの髪を手で押し上げて、耳の穴の周りをゆっくり
と舐めまわす。
「は、はぁぁぁん」
ゆかりから喜悦の声が漏れ、体が小刻みに震える。麗佳は舐めるのを止めるとゆかりの左
頬に自分の右頬を押し当てて優しくこすり合わせた後、耳元にそのまま口を近づけた。
「ゆかり、あなたは私があなたの肩を2回叩くと自分で椅子から起き上がり服装を直した
後、保健室を出て行くの。保健室の扉が閉まるとあなたはいつもの樋川ゆかりに戻る。あ
なたは私に用事があって保健室来たのだけれど、保健室には私はいなかった、わかるわね
、今までのことは忘れてしまいなさい」
「・・はい、保健室に麗佳先生はいませんでした・・・」
「あなたは、いつでも何処でも『紅く咲く白い薔薇』という言葉を聞くとまた私の従順な
ペットに戻るのよ。そしてとても幸せな気分になれる」
「・・・はい」
「ゆかり、ペットでいるときのあなたはとてもかわいいわ。あなたは私の大切なペット。
ペットでいることをあなた自身も心から望んでいる」
ゆかりは目がうつろなまま、呆けた表情で微笑んだ。
「そう、うれしいのね。さあ、まもなくチャイムが鳴るわ、保健室を出たあなたはとても
体が軽くさわやかな気分になっている。大好きな唄を歌いながら教室へ戻りなさい」
ゆかりは黙ってうなづいた。
麗佳は安楽椅子の脇から上体を起こし、ゆかりの肩に手をかけてポンポンと2回叩いた。
ゆかりは自分から立ち上がるとはだけたシャツを直し、校医の個室をふらふらと出ていく。
「ふふ、またいらっしゃい、かわいがってあげる。ゆかり、いづれあなたにも働いてもら
う時がくるから・・・」
麗佳は笑いながらゆかりの背中を見送った。ゆかりは保健室から廊下へと出た。保健室の
ドアがパタンと閉められた。
はっとゆかりは我に返った。
「なあんだ、いっつも昼休み、麗佳先生いないんだもんなぁ」
生気のもどった表情でゆかりは一人つぶやいた。保健室での記憶はすっかり欠落している。
「あれ、ゆかり、何処いってたのよ。次は蓮見先生の体育だからすぐ着替えないとまた怒
られちゃうよ」
ジャージ姿で通りかかったクラスメートの深瀬規子がすれ違いざまゆかりに声をかける。
「あっ、そうだっけ!ごめーん、すぐ行くから先生には適当に言っといて・・」
「OK、じゃあ早くね」
廊下にチャイムが響き渡る。規子は足早に体育館へと去っていった。
「さてと、着替え、着替え」
ゆかりは教室に小走りに戻りながら大好きなモーニング娘を口ずさむ。体は軽く、やけに気分が晴れやかだった。
「ふふ、完璧じゃな〜い。完全に堕ちたわね」
保健室から半身を出して、ゆかりの行動を観察して麗佳は呟いた。
「なにが落ちたって?」
背後からの声に思わずびっくりして全身を固くした。
「きゃあ!・・・もぉ、びっくりさせないでよ、先輩ったらぁ」
振り向いた麗佳の傍らに佇んでいたのは大学部助教授で麗佳の大学時代の先輩助川だった。
段積みのダンボールを抱えたその脇から顔をのぞかせて麗佳に話しかけていた。
「随分な言い方じゃないか、消毒薬が足りないって言うからもってきてやったのに・・・」
「ああ、オキシフルですね。それはそれはご丁寧に。ささ、先輩入って入って」
麗佳は芝居がかったようなおどけた口調で助川を保健室へ招き入れた。さっきまでの冷や
やかで妖しげな一面は微塵も感じられない。助川は消毒薬を部屋の薬品棚の脇に置いた。
「麗佳ちゃん、君とは大学時代から一緒だけれどまだまだ僕の知らない一面があるようだ
なあ・・。時々ゾクゾクっとくるような冷たい表情を見るたびにそう思うよ」
「あら、先輩それって女の魅力って言うんですよぅ。はい、コーヒー」
麗佳はサーバーからコーヒーを注ぎいれてテーブルに置いた。
コーヒーを受け取るときに助川は麗佳の周りをクンクンと音を立てて嗅いだ。
「麗佳ちゃんはいっつもいい匂いがするね。シャネル?」
「へへぇ、今流行のオリジナル調合で作ってもらってるんですよ。世界に2つとない麗佳
オリジナル!コンセプトは『安らぎと夢への誘い』ローズとラベンダーをベースにしてる
んです。どうです、いい香りでしょ!」
「俺、鼻がわるいからなあ。どれどれ?おほぉ〜いい匂い、いい匂い」
あろう事か助川は鼻が悪いからと麗佳に歩み寄り、麗佳を後ろから羽交い締めにするよう
に抱きかかえると、両手で胸を揉みしだいた。麗佳の耳元でクンクンと鼻をならす。
「先輩、私がおとなしく言ってるうちにやめた方がいいですよ。それとも破滅覚悟で続け
ますぅ?好きな方を選ばせてあげるわ」
麗佳は助川の突然のセクハラにも極めて冷静だった。冷静どころか麗佳の表情は一変し、
あの冷ややかで妖しげな麗佳に戻っていた。バッと助川は一瞬のうちに後方へ飛びのいた。
背後から抱きついたとはいえ、麗佳の態度の豹変ぶりが助川にも悪寒のような恐怖感とな
って伝わったのだった。
「じょ、冗談だよ、冗談。ちょっとからかってみたくなっただけじゃないか。本気で怒る
なよ。親しみを込めたスキンシップだよう、麗佳ちゃんは何たっておれの大事な後輩なん
だから・・・じゃ、じゃあね〜」
助川は逃げるように保健室を出ていった。
「フン、セクハラ男、いつか必ず破滅させてやるわ。あなた自身の意思でネ」
閉められた保健室のドアの向こうに麗佳は冷たい視線を注ぐ。彼女の口調に、憎悪が顕わ
になっていた。
「あら?」
携帯電話が鳴っている。机に置かれたかわいいストラップのついた携帯の着信コールナン
バーを見て冷ややかな微笑みを浮かべる。
「はい・・・」
「私よ、メデゥーサよ」
「もうやめたら、その符牒。聞いてるこっちが赤面しちゃうわ」
苦笑しながら頭をポリポリと掻いて麗佳は薄ら笑った。
「何度同じ事言わせるの?ちゃんと答えなさい。でなければ電話を切るわ・・・」
電話の主は強い口調で言った。
「もう、しょうがないなぁ。はぁーい私です、ア・ル・テ・ミ・スでぇす。これでいい?」
「・・・あなたって本当に憎らしいコね。でも我々はあなたの能力をいつも高く評価して
いるわ」
「それはどうも・・・」
椅子に腰掛けて背もたれにどっぷりともたれかかって麗佳はコーヒーをわざと音をたてて
ズズズーと飲んだ。
「嫌味なコ・・・・・それはそうと、依頼よ。子猫をよこしてちょうだい、bSのコ」
相手の言葉を受けて、麗佳は机上の端末を叩く。職員専用のオンライン上には全校生徒の
今日を含めた過去1週間分の出欠状況が現れる。麗佳が照会した3年生クラスEの桐生優
紀は一限目から出席の表示が出ていた。
「セッティングはこちらで指定するわよ。JR丘陵都市駅の前のロータリーに5時、ロー
タリーの前のベンチに一つだけ赤いベンチがあるわ。そこに座らせておくから・・」
「子猫へのキーワードは?」
「『優紀は素直なペット』、OK?」
「結構よ。報酬はいつもどおりの方法で・・、200」
麗佳はふふんと鼻を鳴らす。
「わかってると思うけど、私のペットの体には絶対傷をつけないこと。それと・・」
「10時までには学院寮に返すことよね、承知しているわ」
「よろしく・・」
麗佳は電話を切った。
午後の最終授業が終わるのを待って麗佳は3年生の校舎に足を運んだ。この学園は学年ご
とに校舎三つならびに別れ、校舎と校舎の間を特別教室や職員室などがつなぐ構造になっ
ている。上から見ると『王』の字に配されており、クラスEは4階にあった。
「あれ、麗佳先生。なんか用ですか?」
教室をのぞく麗佳をみうけた生徒が声をかける。
「あ、桐生さんいるかしら?」
「彼女、さっき保健体育の授業の時に居眠りしてるところを蓮見先生にきつく叱られて、
教室飛び出してっちゃたんです」
「あ〜あぁ、なにやってんだか・・・」
麗佳は苦笑しながら頭をポリポリと掻いた。
「先生、まだ彼女の世話やいてるんですか。彼女の奔放ぶりにはクラスのみんなも呆れ返
ってるんですよ。先生もいい加減に・・・あれ?いない」
ドア越しに立っていた麗佳の姿はちょっと目を離した隙に消え去っていた。
麗佳は屋上に出て周囲を見渡した。すでに放課後になり、公園のように整備された屋上には生徒の姿はなかった。空のベンチが点在している。
「ここにもいないかぁ。おいおい、契約違反になっちゃうじゃんかぁ・・・」
困惑する麗佳、ふとペントハウスの上から白い煙が立ち込めているのを見つけてほっと胸
をなで下ろした。
「こらぁ!桐生優紀、いるのわかってんだからぁ。下りてきなさい!」
全身から絞り出すような大声で怒鳴る麗佳だが声がハスキーで子供っぽいのでは迫力に欠
ける。
「なんだぁ、麗佳ちゃんか。おどかさないでよ」
寝そべっていた優紀がくわえ煙草のまま上体を起こした。面倒くさげにペントハウスの梯
子を下りてきた。
「たばこやめなさいって言ったでショ!体に悪いわ」
「いいじゃん、私の勝手でしょぉ〜、麗佳ちゃんこの頃おせっかいだよね。生徒指導の蓮
見じゃあるまいし、そんなにイヤなら蓮見にいいつけなよ。喫煙は退学だもんね、私もこ
んな監獄みたいな自由のないお嬢様学校ガラじゃないし・・・」
「黙っていてあげる。そのかわりこれをうちの大学病院の心療内科にもってって」
大学病院はここから5キロ離れた市街地にある。電車で15分足らずの道のりだった。麗
佳はうぐいす色の封筒を白衣のポケットから取り出した。
「なにそれ、また?なんで私ばかりに頼むのよ。や〜だよ、めんどいのは」
「ギブアンドテイクよ。たばこの事、黙っていてあげるし、ほら桐生さんの外出許可も私
がとってるし、街に遊びに行きたいんじゃないのかなぁ?10時まで遊べるよぉ」
優紀はたびたびキャンパスを抜け出しては夜遊びを繰り返して、生活指導担当の職員から
見咎められていた。
「『お使い』が終ったら、おおっぴらに遊んできなよ。楽しいよぉ、きっと」
優紀の心を見透かすように麗佳がおどけてヒラヒラと外出許可のIDカードを見せびらかす。それがあれば夜に戻っても寮の入り口のセキュリティを堂々と通して帰って来れた。子供じみた麗佳を苦々しく思いながらも優紀はニヤリと笑っって右手を差し出した。
「行ってあげる、だから1万円!」
「教師にたかる気?あなたのトコ、会社興してるくらいお金持ちじゃない」
優紀の目つきが鋭く麗佳を睨む。家のことは触れられたくなかったのだろう。
「なら、2万円。乗るの?乗らないの?」
「5千円、私だって今月ピンチなんだからネ」
麗佳は財布から5千円札を一枚取り出してピラピラと振ってみせた。
「よし!じゃあ行ってやるか。麗佳ちゃんの頼みだもんね」
くわえ煙草を投げ捨てて優紀は麗佳のもとに歩み寄る、5千円を取るために。
優紀が札に手を伸ばしたとき、麗佳が冷ややかに呟いた。
「優紀、聞きなさい。あなたは『紅く咲く白い薔薇』よ・・・」
「えっ・・・・」
優紀の瞳が一瞬虚空をさまよう。やがて遠くを見つめるような虚ろな表情に変わるまで大
して時間はかからなかった。覇気のない表情は先程までの小悪魔的な愛くるしさが失せた
無表情そのままだった。優紀の変化を楽しみながら呆然と立つ優紀に近寄る。優紀が投げ
捨てた火が点いたままのたばこを右足でひねりつぶす。
「優紀、教えてちょうだい。私は誰かしら?」
「西ノ宮麗佳先せぇ・・・です」
「あなたにとって私はなんなの?」
「わたしの大切なご主人様・・・・麗佳お姉さま・・・」
「なら、あなたは、だぁれ?」
「麗佳お姉さまの言いつけを守るペット・・・優紀です」
「そうね。なら優紀、私の望むことは?」
「麗佳お姉さまの望むこと・・・は、わたしの望むこと・・です。お姉さまの望みをかな
えることが優紀の喜び・・です。わたしはお姉さまのために一生懸命尽くします・・」
優紀の周りをゆっくりと回りながら麗佳は質問を投げかけていた。優紀はすでに麗佳に完
全に飼い慣らされたペットとなっていた、本人にはその自覚が全くないままに。優紀は麗
佳の歩みに気をとられることなく真っ直ぐ一点をみつめたまま身じろぎもしなかったが、
麗佳の体から薫るあのローズとラベンダーの匂いが鼻につくと内腿をキュっと閉じたり、
体を小刻みに震わせた。
「そう、あなたはこの匂いを嗅ぐと体中が敏感になって我慢できなくなるのよね。あなた
は私の大切なペット。さあ、いらっしゃい優紀、かわいがってあげるわ」
麗佳のお許しが出て、優紀は吸い寄せられるように麗佳に抱きつくと麗佳の胸に顔をうず
めてすりよせた。麗佳も優紀をやさしく包み込むように抱き寄せる。
「あぁぁん、お姉さまぁ、優紀の大事なお姉さまぁ・・・」
「ふふ、優紀、いい香りでしょう。あなたの大好きな香りよ」
「・・はい・・」
「この香りに包まれるとあなたはとても幸せな気持ちになれる。すべてが満たされていく
のよ。もう何にも考えなくていいの。私の言葉だけが心に染み込むように入ってくるわ。
さあ、もう一度深く息を吸って深く深く下りていく、心の奥底の安らぎの海まで下りてい
く。すごくリラックスしてるわ、海面を漂ってる、気持ちいいわね。優紀、安心して私に
身を委ねるのよ。」
優紀の体から徐々に力が抜いけていく、優紀をベンチへとつれていって座らせる。優紀は
まるで子供のように麗佳のひざを枕代わりに眠るように横たわった。前かがみになるよう
に麗佳は優気の耳元に口を近づける。
「優紀、あなたはとても素直な子なの。いつもクラスでは隠しているけれど私と一緒にい
るときは我慢しなくていいのよ・・・」
優紀は親に諭された子供のように頷いた。
「優紀、あなたはとてもHな子なのよね」
「・・・はい、優紀はとってもHなコです・・・」
「ほら、あなたの躰が悦んでいるのがわかる?あなたはあなた自身の手で自分を愛してあ
げなさい。どこをどう愛してあげれば悦ぶのか、あなたの手が覚えているわ。だから、自
然と手が動く、自然と声がでてしまう・・・」
「あぁ、気持ちいいのぉ・・・優紀とっても・・・」
麗佳の言葉が終らないうちから優紀はベンチに横たわり麗佳にもたれながら妖しく腰をく
ねらせて愛撫を始めた。左手が右の胸を、右手が最も敏感な下半身の部分を優しく、時に
は激しく動いていく。甘い吐息がもれる。スカートがめくれあがって、手は下着の中に入
っていた。だらしなく着くずしていた制服を自分から剥いでいく。
「躰をさわってもらいたい。優しく舐めてもらいたい。激しく貫いてもらいたい。頭の中
であなたの考えることは、ただそれだけ」
もの欲しげな潤んだ瞳で優紀は麗佳に訴えかけている。明らかに麗佳に触ってもらいたく
て懇願するような眼差しに見える。
「優紀、いまあなたはとても言葉には言い表わせないくらい感じているの。よくお聞きな
さい。『優紀は素直なペット』、この言葉を聞くとあなたが今感じている快感がまた波の
ように一気に押し寄せてくるわ。さわってもらいたい、優しく激しく貫いてもらいたい。
『優紀は素直なペット』・・・この言葉を口にした人は、その時あなたを救ってくれる唯
一の人、あなたにとって私の次に大事なご主人さまよ」
「はい・・・・はい・・・・」
優紀はまだ切なげに身をよじり、しきりに手を動かしている。大きな瞳が遠くを凝らして
見るように細く開きもの憂げな表情だった。麗佳の暗示は快感とともに優紀の心に刻まれ
ていく。
「ご主人さまの命令は私の命令、あなたは喜んでその言葉に従いなさい。ただし、あなた
が少しでも乱暴に傷つけられるようなことがあれば、そのとたん、あなたの体は石になる。
硬い硬い石になる。卵のように体がまるまってピクリとも動かなくなる。何をされても感じない、痛みも快感も熱さも冷たさも感じない石になる。いい?」
「はい・・・」
「いい子ね。さあ、ご主人さまがあなたに声をかけてくれるまで、いまのそののぼりつめ
た狂おしい快感を大事に優紀はしまうことができる。さあ、体がゆっくりともとに戻り始
めた。あなたの大切な「熱い想い」はご主人さまに会うまでしまっておきましょう。あな
たのご主人さまがあなたの大切な「想い」を解き放ってくれる言葉はあなたの頭の中にし
っかりと刻み込まれた。言ってごらんなさい、優紀。その言葉はなに?」
「『優紀は素直なペット』・・・・」
「そう。さあ、その言葉も優紀は胸の奥にしまい込んだら、今ここで私と話したことは忘
れてしまうのよ。私はあなたに『お使い』をお願いした。それ以外のことは忘れておしま
いなさい。あなたは、お使いの途中、駅のロータリーの赤いベンチを見るとどうしてもそ
こに座りたくなります。5時15分まで座っていなさい。ご主人さまが来てくれるわ」
優紀はうなづいた。
「あなたの携帯を私に預けなさい。今から渡す携帯があなたの携帯よ。あなたはずっと前
からこの携帯だった。そうよね」
優紀の携帯を取り上げたあと、ペットと依頼主のホットライン用のプリペイド式の携帯電
話を優紀が以前から使っていた携帯だと思い込ませた麗佳は、優紀に制服の乱れを直させ
た。ふと優紀が横を向いたとき、右の頬が赤くなっているのに気づいた。
「優紀、その頬はどうしたの。答えなさい」
「・・・蓮見先生ぇに・・叩かれました・・・わたしが不真面目だって・・・」
ふうっと麗佳はため息をついた。
おそらくは居眠りをしていた優紀を注意したときに、彼女が口答えしたか悪態をついたと
きに教師としての立場に踏みとどまることができずに感情の赴くままに手を出したのだと
容易に推測できた。
「それにしたって加減ってもんがあるわよね。跡が残ってるじゃない・・・」
優紀の顎を手にとって顔を横に向けまじまじと赤くなった頬をみる。
「蓮見先生には一言注意しなくちゃね・・・・。優紀は蓮見先生嫌い?」
「いいえ、好きです・・・・でもわたしにいつも辛くあたる・・」
「そう、目をつけられてんのかな・・・」
その時、優紀のBaby−Gのアラームが鳴った。麗佳は慌てて時計を見る、4時だった。
そろそろ催眠を解かなくては時間に遅れる。麗佳は優紀の肩に手を置く、覚醒の準備だ。
「優紀、最後に一つだけあなたに・・・。私はたばこを吸うあなたが嫌いよ。あなたも私
に嫌われるのはイヤよね。私に嫌われたペットはひとりで生きていくことはできない。私
に嫌われることはあなたのすべてを失うことなのよ。ほら、真っ暗な闇の中、我慢できな
いくらい寒い。あなたはたったひとりぼっち。寒い、恐い、とても不安・・・」
優紀の表情が苦悶の表情を浮かべ、全身が硬くなる。喪失感をおびた暗示から全身が震え
だした。恐怖感からか麗佳の腕にがっちりとしがみついている。
「たばこ・・・もうしないわね」
涙をポロポロこぼしながら優紀は幼い子供が許しを乞うように何度も頷いた。
「そう、落ち着きなさい。大丈夫、吸わないと決めたら体の震えもおさまった。ほら、恐
くなんかないわ。大丈夫、私はあなたを捨てたりしない。あなたが私の言いつけを守り続ける忠実なペットでいつづける限り、あなたは大切な私の優紀よ」
麗佳が優紀の背中をやさしく撫でてやると、優紀の表情に安らぎが戻った。
(せっかくの素材がヤニ臭くちゃね。自発的にやめてもらうわ。自分のためよ、優紀)
麗佳は優紀の肩をポンと叩くと、すぐに優紀に語りかけた。覚醒の合図だった。
「ちょっとぉ、疲れるんだから早く取ってよぅ」
我に返った優紀の目の前に5千円札と外出許可IDカードが揺れる。
「へへぇ、まいど」
(あなたの体を張った奉仕に対する報酬よ・・・うふふ)
得意気に優紀はそれを受け取るとそそくさと階段へと歩き出す。
「待ちなさいよ、大事な「お使い」を忘れるつもり?」
「あらら、ごめんごめん。麗佳ちゃんがあんまり急かすもんだから・・・」
「急かしてなんかないわよ」
優紀が再び戻ってうぐいす色の封筒を麗佳から受け取り、あらためてペントハウスへと歩
き出した。その背中を見つめながら「桐生さん・・」と麗佳は声をかけた。振り返った優
紀は「今度はなに?」と言いたげな不機嫌な表情を顕わにしていた。
「・・せっかく屋上に来たんだもん。たばこ1本ちょうだいな」
ポーンとライターと、たばこが箱ごと麗佳に投げられる。
「麗佳ちゃんに全部あげるわ。わたし、もうやめたから・・・」
「あら、さっきまでそこのペントハウスの屋根の上で隠れてふかしてた子がよく言うわよ」
「もう麗佳ちゃんに弱み握られるのやだもん、それに匂いつくし、歯黄ばむし・・・」
(なんか自分に都合のいいように理由づけするものね・・・)
「じゃ、ありがたくいただくわ。そうだ、桐生さん、蓮見先生って好き?」
「大っ嫌い、あんなやつ。今日だって私の事殴るしぃ、いつか思い知らせてやるんだ」
優紀は表情を強張らせて言い放つと階下へと消えていった。麗佳はたばこを1本くわえる
と火をつけて、陽の傾きかけた春の空にふうっと雲をかいた。風になびく髪を左手で押さ
える。
「嫌い嫌いも好きのうちってねえ・・。わかんないわね人間の本心なんて」
咥えたばこのまま屋上の欄干に手をついて寄りかかる。眼下に広がる校庭では生徒達が部
活動の真っ最中、その一角の屋外バスケットコートのゲージの中で声を荒げて部員達を指
導するあの蓮見の姿があった。
「おー、おー、がんばっちゃってぇ・・。あの人確か水泳部の顧問もしてるんだよね・・」
欄干に頬杖をついた麗佳が冷めた表情で蓮見を見ていた。蓮見は有名な体育大学から引き
抜かれたまだ若い教師で、そういった学校の例に漏れず熱血指導教師の手本みたいな体育
会系なノリをそのまま地でいっていた。
そんな蓮見を冷ややかに眺めながら麗佳の脳裏にふっとある考えが浮かんだ。麗佳の肩が
震える。震えはとうとう我慢できず、麗佳はとうとう声をだして笑い始めた。
「あははは、いいこと思いついちゃった。ちょっと商売っ気なしで遊んでみようかな」
いたづらの炎が麗佳の胸をくすぐった。
「優紀、あなたに日頃の仕返しをさせてあげるわ。大好きな蓮見先生にね」
込み上げてくる意味深な笑いが麗佳の口からやむことはなかった。
To be continued